……カイちゃん!
……ソーナ、無事だったんですね!本当によかった!
ロイを欺けたのね?中々の演技だったじゃん、どうやったの?
……もしあなたを失ったら、どうなるのかと想像しただけです。
へぇ、役に身が入るタイプか……
ほかの人たちは?
……イヴォナは重傷です……今はもう大丈夫そうですが。
……イヴォナ……
(重苦しいピーピーと鳴る音)
彼女は私たちの中で最も戦士らしかった……最後まで戦っていましたよ。
ユスティナと合成樹脂騎士はプラチナの相手をしています……今すぐ加勢しに行きましょう!
……必要ない、プラチナならすでに退いた。
私たちも二人掛かりでヤツに敵わないほど落ちぶれてはいない、ヤツもそこまで強くはなかったしな。
……ユスティナは?
……
今日の試合は必ず通常通り行う必要がある、問題はないな?
メジャーリーグの会場を確認したところまったく問題はありません。
よし。観客たちを落ち着かせた後、必ず今夜の試合を遂行させるんだ。
いいか憶えておけ、観客だけじゃない……以前の騒動を経たあと、常務理事長の数名も今夜の試合にとても注目されている。
しっかりやれば、私たちにボーナスが降りるそうだ、だが失敗すれば……
承知致しました!
はぁ、また苦労をかけるな、モーブ。
いえいえ!今晩の解説も担えて、とても光栄に――
言わなくても分かると思うが、昨晩のことはなかったことにしてくれ。
今晩行われる四試合の中で、間違いなく耀騎士と逐魘騎士の対決が一番注目される。
だが……感染者があのような規模の異常事態を引き起こした以上、耀騎士がこれ以上勝ち続けることを理事会はあまりよく思っていない。
……審判に誤審のホイッスルを吹かせるつもりと?
それについては、試合の状況次第でこちらが判断する。だが、あなたには審判が判定を出した後、観客席にその合理性を“伝えて”もらいたいんだ。
血騎士のほうなら、すでにスカーレットカップ騎士団に思想工作を仕掛けてある、すぐ結果が出るはずだ。
それと……耀騎士と逐魘騎士のことだが心配はいらない……所詮はイカレた連中にすぎないさ。
了解しました!直ちに事前準備にとりかかります!
(ビッグマウスモーブが立ち去る)
……
どうしました?顔色が悪いですよ。
……クロガネたちがあの停電以降姿をくらました。三人ともだ。
まだ口外していないが、連合会の重要人物の何人かが停電していた間に暗殺されていた……
殺害現場は荒れていて、感染者に濡れ衣を着せるような手がかりが蒔かれていた、しかし……感染者にそんなことをする度胸があると思うか?私はそうは思わない。
今、周りではとても恐ろしいことが静かに起っている。
まさか……?
……ああ。
無冑盟が裏切った。
……バトバヤル、お前はいつもそんなに暇しているのか?
それはこっちのセリフじゃろうが!?
……お前さん、メジャー戦まで進んだ騎士なんじゃろ?訓練にも行かず、帰る家もなく、毎日大騎士領でうろちょろして流浪人でもしておるのか!?
……森で方角を見失った時、狩人は自給自足し、木の家を自ら建てる。
そうは言ってもお前はこの大地でも指折りの大都市にいるじゃないか……
――都市となッ!
異様な咆哮で老騎士は口を噤んだ。
まるで二人は森にいる獣のように、周りの目が彼らに向ける。
都市……そんなものは惰弱の象徴だ。
文明と称されたモノが野蛮を征服した後、ヤツらは自ら高いビルを築き上げた。
その高いビルに入るために、もはや民情など顧みなくなった。
……なにを言っておるのじゃ?
……カヴァレルエルキには一戦交えるに相応しい戦士が、この私が、運命に命を預けるに相応しい戦士がいる。
その者たちは、みな今もこの都市に抗っている。従順なる者は衰弱していき、抗う者たちは却って永遠に朽ち果てることはない。
これこそが“文明”がすでに腐りきった象徴なのだ、騎士はあの血と栄誉ある時代に戻らねばならない。
……お前は過去に生きておるんじゃな、若造よ。
……違う、私は光栄に生きているのだ。
今晩、私はそんなほのかに残された時代を感じ取れることを切に願っている。
ならわしから言うことはなにもないな、マーガレットは負けん。
……彼女からは英雄の気配を感じる。
この無能な時代で鋭さが欠けていないことも期待しておこう。
メジャー戦会場へようこそ!ようこそ今夜のカジミエーシュメジャーリーグ戦へ!
試合が進むにつれ、すでに多くの観客たちが今シーズンの観戦へお越し頂いております!
そして今日、またありがたいことに、今シーズンの観戦人数、賞金プールとイベント総金額が、またもやその最大累計数を塗り替えました!
疑いようもなく!時代は発展を遂げ、カジミエーシュの未来は依然燦燦と輝いておりましょう!
本当に試合見に行かなくてよかったの?お姉さんなら関係者チケットとかもらえたはずだったよね……?
バカね、また無冑盟に襲われたいわけ?
うっ……
……私たちはもうすでに無冑盟に完全に狙われてる、これがどういう意味か分かる?
もう堂々と表に出れなくなったってことよ、もし歯向かい続ければ、大騎士領にいれるかどうかすら未知数なんだから。
……正直、なんでこんな事態にまで発展したのかさっぱりだわ……
……
(マルキェヴィッチが近づいてくる)
……おや、これは……
……チャルニーの付添いか。
ご無沙汰しております、タイタス様。
座るがいい。
代弁者になってから随分と顔がよくなったじゃないか、ん?
……そんなことは。
あの状況下で、突如とあんな命の危機に及ぶような命令を受けたんだ、おかしいとは思わないのか?
……あまりにも急すぎたため、チャルニーさんには色々と聞きそびれてしまいました。
聞きたいか?
それは……
連合会には少しコネがあるんだ……お前が構わないのなら、チャルニーの流刑地ぐらい聞いてやってもいいぞ。
……
だが誤解はするな、耀騎士に二度敗れた時に気付かされた、私はもうあの片手で七人の騎士を打ち破ったタイタス・トポラではなくなったんだ、とな。
引退するにしても、その前にはお前たち代弁者に取り入ってもらわねばならん……なんだその表情は?
……正直に申し上げますと、あのブレードヘルム騎士団の主力、トップ4まで登り詰め、あと一歩のところで大騎士称号を手に入れられたあなたが……
ご自分から引退を言い出す日が来るとは思いもしませんでした。
会場にいたあなたは……とても……孤高でした、てっきりタイタス様は……
競技騎士とはとても哀れな者なのだ、マルキェヴィッチ。会場の外に出れば、私たちとて人間だ、自分のために退路を敷かなくてはならない。
五体満足のまま今日まで戦い続けられただけで、ありがたいことなのだ……
理想は終わったのだよ、マルキェヴィッチ。
(大歓声)
本日対決するお二人は、どれもかなりのワケアリでございます!それだけでなく、何シーズン遡っても見ることができなかった、独立騎士同士の対決でもあります!
スポンサーなし!騎士団による訓練も補助もなし!あるのは自分で磨き上げた甲冑と武器だけ!
しかし、それでもお二人はメジャー戦の会場にやってきた。それだけではありません、片方はなんとかつてのチャンピオン、皆さんが大いに注目する復活された王者なのです!
(大歓声)
さあお迎えしましょう、若きレジェンド、ニアール家からやってきたチャンピオン、耀騎士マーガレット・ニアールゥゥ!
……
そしてその片方は、歴史書にしか存在しない希少なるクランタの一族、旧時代に生きた戦神の末裔と謳う者――
長い長い騎士競技の歴史を眺めても、純粋な血統、純粋な恐怖と強さを持つのはこの人だけ!
さあお迎えしましょう――草原の果てからやってきた異端者、最後のケシク、逐魘騎士のトォーラァァ!
……
これは――夢魘の角笛です!一触即発といった雰囲気です!はたしてチャンピオンはこの古の一族に敗れてしまうのでしょうか!?それとも復活のための旅路は耀騎士に断たれてしまうのでしょうか!?
それでは――
耀騎士。
おーっと?逐魘騎士が急に長槍を地面に突き刺し……なにをしてるのでしょうか、お辞儀でしょうかね?
この時を待っていた……待ち続けてきた。
カジミエーシュの騎士にはどれも深く失望した、とてもとても。
……フォーゲルヴァルデ師匠からあなたのことは聞いている、逐魘騎士。
あなたはなにを探し求めているのだ?
……我が天命を、ペガサスよ。
我が古の一族は伝統に則り、成年の際に儀式として未知なる天途へ踏み出すのだが……
……天途の先でなにが待っているかは誰にも知る由はない、だがその旅路を終えてから初めて、人生は始まると言われている。
獣を狩るもよし、異国異聞を見聞きするもよし、天途を終えた夢魘は、誰であれ自分の天途の意味を理解するのだ――
そしてその後、その者たちは恐怖の種となり、各地を渡り歩きながら、征服をまき散らす。
この大地を理解せねば、己の運命を理解できないからだ。
ではあなたはその天途の意味を見つけ出したか?
……まだだ、ペガサス。私が進むべき道は……まるで霧に覆われた森のようだ。
お前が、私の意味になってくれることを、切に願っている。
来い。
……君たちは、合成樹脂の……シェブチックの家族?
……あなたは?
私は……騎士。彼の騎士友だち。
……なにか……ひどい目は……受けていない?
ひどい目?なにを言ってるんですか……
あの日シェブチックが急に倒れてから、真っ白な騎士が来て教えてくれたんです、彼は試合会場の仇敵に陥られたんだって。
それから、彼女は私たちをここに匿ってくれたんです……
……これ、シェブチックから。
……!これは、私が彼に送った木彫り……
彼は今どこにいるんですか?無事なんですか?
……彼のところに連れて行ってあげる。
(回想)
……取引だ。
もうこれから、無冑盟と敵対しないと約束してくれるのなら、奥さんと子供の居場所を教えてあげる。
……なに?
それとオマエ、遠牙、レッドパイン騎士団に伝えな。
無冑盟内部で問題が発生した、私も気付いていたけど。
平然と誰かに利用されることを、無駄骨を折ることを好むヤツはいない、ってね……
……信用できない。
君のそれは無冑盟全体の意志なの?プラチナクラスだからといって――
所詮は中間管理職みたいなものだ、でしょ?
その通りだよ……ほとんどの無冑盟は連合会に雇われてる人たちだ、私はその管理を任されたってだけ……理事会の指示に逆らえるヤツなんていないよ。
けどクラスたちが動かなくなっただけでも、そっちはかなり楽になるんじゃない?
ここ最近理事会は焦ってるせいで、雇って来た新兵はどいつもこいつも中途半端なヤツばっかだし……
……
(回想終了)
……なに?電力施設を破壊したのは無冑盟だと?
……サーバーもあのロイによって破壊されたんだわ、そんでそのことをアタシたちになすり付けようとしていた……
無冑盟……まさか理事会の手綱から逃れるつもりなのかしら?
……クソッ!
じゃあ私たちは最初から、利用されてたってことですか!
私たちの戦いも、私たちの犠牲も、全部あいつらの――!
(重苦しいピーピーと鳴る音)
……すみません。
……ううん、いいの。
燭騎士が私を助けたあと、イオレッタ・ラッセルに会ったわ。
――大騎士長だと!?大騎士長本人に会ったのか?
あはは、新聞とかテレビで見るより若くて和やかな人だったよ……
彼女はアタシたちに……人間らしい身分を約束してくれた、中々いい取引だったわ。
カイちゃん、チップは持ってるよね?
……もちろん。
しかし今……世論はすでに一連の事件はすべて感染者に起因があると結論づけていますよ……
ソーナ、その“人間らしい”身分を得ても、本当にまだ意味があるのですか?
……
(戦闘音)
私の今の心情をどう言葉で表現すればいいかまったくわかりませんが――
耀騎士の強大さはすでに周知の事実でしょう、しかし逐魘騎士は!この古の過去を背負いし戦士も!とてもハイレベルな技を次々と繰り出しております!
なんとも信じがたい光景です!双方とも複雑なアーツなど使用しておりません、単純な技、単純な武器のぶつけ合いだけで我々を魅了しております!
どんな映画よりもド派手な動き、稲妻のような身のこなし、雷のような斬撃!まだ試合が開始されて10分しか経っていませんが!試合会場はすでに満身創痍です!
見ろ、逐魘騎士の動き!間違いない、ありゃチャンピオンレベルの選手だぜきっと!
最初から彼は絶対只者じゃないってことぐらい知ってたわよ!こっちは金貨四百枚彼に賭けてあるんだから!
……本当に見事な試合です。
……あの夢魘が繰り出す技、見たことがないな。
征戦騎士の動きにも似ているが、全部ではないな……ふむ。
どうされましたか?タイタス様?
……どうやら予想外の観客がここに来ているらしい……あの夜の噂は本当だったのだな。
それって――ッッ――!
観客席の一番後ろにある角っこに、銀光が佇んでいた。
比類なき存在感を放っているが、この時ばかりは、観客の歓声と叫び声に埋もれてしまっていた。
……試合をここまで近く見たのは初めてです。
まったく……虫唾が走る。
なにがそんなに反感を覚えさせているの、ライム?
……
なるほど、言わずともわかったわ。
なら、あなたから見て、会場にいる二人の騎士、夢魘とペガサスだけど、あの二人の実力は如何ほどかしら?
……見事ととしか言わざるを得ません。
あの夢魘は戦場を知る戦士ではありませんが、執念が彼を本物の戦士に仕立てているように思えます。
マーガレットに至っては……ふむ……
……どうしたの?
そちらのほうがお詳しいのではないですか、総帥?
彼女はもう……昔とは違います。
――フゥ――
スゥ……
次々と繰り出された技と、嵐のような動きがついに初めて止みました!
あの二人は息を吸う必要がないのでしょうか!?あの常人じゃ出せない動きは一体なんなのでしょう!?
……見事な剣捌きだ、ペガサス。
そちらもな。
……私は今……とても感激している。
知っているか、伝説によれば、若き頃のカガンは黄金の血を流したペガサスに敗れたという。
……好奇心を掻き立てられる話だ、この世には本当に黄金の血を流すクランタが存在するのだろうか?
生憎、私の頬から流れてる血はよく見るような赤色だ。
……ウォーミングアップはここまでにしよう、耀騎士。
お前がその名を冠するのであれば――
空気が固まる。
気が付いた時、自分は呼吸を忘れていたのだと知る。
これは恐怖?
なぜ自分は今恐怖を覚えているのか?
この場にいるどの観客も……はてはどの騎士も、異様な圧迫感を覚えていた。
――私のために道を成して頂こう。
――
(アーツ音)
これはマーガレットが初めて、試合で意識的にアーツを使った瞬間であった。
激しい光はまるで太陽の嗣子のように、果てしない暗闇を照らす。
しかしいくら光が眩しくとも、若き夢魘は、半歩たりとも退かなかった。
騎士競技、それはその名の通り、ただの競技にすぎない。
しかしその刹那の間にマーガレットはなにかを感じ取った、それは彼女がかつて強大な敵と対峙する時に感じたのと同じ気配だった。
天災、感染者の慟哭、怒号、抵抗する者たちの血、必死の足掻き。
若き夢魘はその屍の山々を自らの足で越えたことはない。
しかし彼が持つ血統により、彼は生まれついて恐怖を支配することを知っていた。
純潔なるその血統により。
……
(空洞音のような不気味なアーツ音)
……(古い言語)若き狩人は天途へ踏み出し♪夢より出でて、黄金の彼方へと向かわん♪
(古い言語)親の血に染まりし戟を持ち♪緋色の悲しみに暮れる♪
……
悲壮な歌声。
古いおとぎ話を謡っていた。
(空洞音のような不気味なアーツ音)
……ハァッ!
(複数の斬撃音)
――くっ!
な、なにが起こったのでしょうか?
あれはなにかのアーツなのでしょうか!?あのアーツが放たれたあと、この場にいる全員――その、なんとも言えない感覚に、見舞われたのではないでしょうか!
しかーし!逐魘騎士はその気迫のあまり、一歩踏み出せば衝撃波を生み出し、人工の石畳を叩きつけております!
なんて凄まじい槍の一撃なのでしょう!あの耀騎士がなんと――慌てた様子で後退りました!
チャンピオンすら退ける一撃!光を撃退した一撃!いくら輝かしい光でも、夢魘の侵攻を防ぐことはできないのでしょうか!
……歓声が止んだ。
皆さん……この雰囲気に浸かっているのでしょうか。
……さっきの一撃……
なにかわかりましたか?
……普通の騎士なら……間違いなくさっきの一撃で死んでいただろう。
えっ?
……ヤツは本気のようだな。
……
……あれはホンモノですね。
……道に迷った迷子に過ぎないわ。
可哀そうに。
なにかしら?
(なに!?こんな時にか?本当にそれでいいんだな?ったく……)
緊急事態です!逐魘騎士……彼がさっき放ったアーツですが、審判の判定と観客の安全に影響を及ぼしたとの判定が下されました!
騎士競技規則第三条と第七条を明確に違反してるとのことです!
「競技騎士は如何なる形式においても観客の安全を脅かしてはならない」と「競技騎士は如何なる形式においても審判の主観的判断に影響を及ぼしてはならない」の二項目です!
(クソッ、自分で言っててもさすがにこれは無理があるぜ、もう少しタイミングをチョイスできないのか!)
よってこの試合は中止です――!そのため――
――来い!
……光よ。
ここに集え。
(戦闘音)
ど、どうしたんでしょう!お二人の耳にはアナウンスが届いていないようです!
試合は中止ですよ!お二人とも速やかに手を止め、審判員が判定を下すまで待機してください!
ハァッ!
――!
(戦闘音)
ああ……!なんと美しい一撃か……!
瞬くその刹那でも……刃がお前の頭蓋を斬り開かんとしたその刹那の間でも反撃を繰り出すとは……
お前は生死を、残酷を目にしてきたのだな、それゆえに恐怖に、私に動じないままでいる!
……フゥ……
強大な敵と勝利なき困難はさして恐ろしいものではない。
それらに比べて、この街が露にした盲目と自堕落のほうが、よっぽどあなたよりも恐ろしい。
誰かあの二人を止めてください!試合はもう中止なんですよ!
私も今のカジミエーシュには嫌悪感を覚える――
――さあ来るがいい、ここにいる者たちには恐怖が教えてくれよう、ヤツらは一体、何を目にしているのかを。
そこまでだ。
――なに?
血の影が一本、大地を切り裂いた。
二人の間にあった地面は突如と現れた斧によって真っ二つにされた。
そこまでだと、言ったのだ。
……試合はすでに終わっている。
……
……あなたは……血騎士。
一体誰が予想できたでしょう――あの二人を止めた人は!あの人は――!
“カジミエーシュの赤きステムウェア”と謳われた英雄!ディカイオポリス!覚えやすい名前とは言い難いですが、それでもこの場面を絶対に見逃さないようにしてくださいね――
カジミエーシュのメジャーリーグチャンピオン、今のところ問答無用の一番人気、ミノスからやってきた戦神――血騎士ィィ――!!
(ヒュー、血騎士が出てきて助かったぜ、これで今日の試合効果もかなりのモンなんじゃないのか?おい、誰でもいいからちょっと代弁者の顔色でも窺ってこい。)
……ディカイオポリス、ミノス人の名前だな、彼が三年前に優勝した例の感染者か?
……会場で血騎士が手を出したのは私でも初めて見ました……すごい気迫ですね。
……フン。
……
おお!血騎士が試合会場に飛び降りました!さっきまで戦っていた二人へ向かっていっています!
カジミエーシュで――このようなシーンが現れたのはいつぶりでしょうか!!チャンピオンが二人!同じ試合会場に立っています!なんて熱いシーンなのでしょう!
もちろん、もちろんではありますが、その片方にいる騎士も只者ではありません、さっきまで魅せてくれた実力を見ればお判りでしょう、彼はカジミエーシュにおける最後の夢魘でもありますからね――
このワンシーンだけでも!とんでもない値段がつきそうです!皆さんにおかれましてはどうかこの場面を目に焼き付けて頂きたいと思います、このシーンはきっと歴史に刻まれることでしょう!
……お前も、チャンピオンだったな……
お前の次の相手はこの私だ、夢魘。
……
そして私の次の相手は、お前だ。
……
……フッ……はは……それではまるで、私はお前に敗れるような言い方だな……
当然だ。
……
過去の幻影が、どうやって私に勝とうというのだ?
感染者よ、お前との決闘を待ち望んでいるぞ。
……このまま去るつもりか?
――
(アーツ音と斬撃音)
――うぐっ!
夢魘、よく学んでおけ、人に恐怖を覚えさせられるのは、いつだって“今”だけだ。
(あの角度で、防いだだと……?)
会場でまた会おう。
(血騎士が立ち去る)
……
マーガレットは巨大な斧によって切り裂かれた地面へ振り向いた。
血騎士は彼の斧を取るためにここへ降りてきたのだ。
命を微塵も感じない地面であっても、その裂け目にはまるで血が滲んでいるかのように見えた。