血騎士が決勝に進出し、メジャーリーグ史上二番目の連覇を達成する大騎士となる可能性が出てきました。
しかし、血騎士の感染者としての身分は未だ多くの非難を寄せています。連合会の代表者は「感染者という身分で血騎士の待遇を差別することはない」と表明しておりますが――
一部の騎士貴族はこの発言に対して難色を示しており、停電の事件と大遮断の再発で世間にも大きな圧力が与えられております、この件に対して騎士協会の責任者をお招きして――
……ディカイオポリス!血騎士!
はは!やっぱ感染者騎士はああでなくっちゃな!
……もし耀騎士も風騎士に勝ったら……
……二人の感染者騎士。
今回のメジャーリーグは、二人の感染者が優勝を争うことになる……
はは!いいことじゃねぇか!
自分たちが誇りに思ってる都市は綻びだらけだって、あの連中に思い知らせてやるんだ、そんで血騎士と耀騎士がアイツらの正体を暴いてくれたら――
感染者の完全勝利だぜ!
……そう簡単にことが進むといいのですが。
それで、私たちはこれからどうするんですか?
(ソーナが近寄ってくる)
……あはは……もう大騎士領にはいられなくなっちゃったからね。
ただちゃんとした身分を手に入れたら、村とかほかの場所を探して、穏やかな暮らしを過ごすことならできるよ。
……それは私たちの初志とかけ離れています。
この甲冑を脱ぐにはまだ早いぜ、ソーナ!
アタシらは鉱石病に感染した人たちがまともな待遇を受けられるように動いてきたんだ!
商業連合会がゼロ号地でやってきたことを監察会にバラしたのも、より多くの感染者を救うためだったんだろ!?
まだここを離れる時じゃねぇ!
……
……私も同じです、ソーナ。
今ここを離れれば、何もかも中途半端に終わってしまいます。
……
ソーナ?
……どうしてほとんどの感染者は見捨てられるんだろう?
いや、聞き方が悪かったわね、言い換えるとしたら、そうね……なんで感染者って……いっつも疎かにされるんだろう?
一番感染リスクに晒されてる人というのは、危険な環境で働く労働者、天災を避けられなかった農民、都市の外にいる流浪者たちですからね。
……加工された宝石製品。
騎士貴族や上流階級の人からすれば、それが生涯で唯一見たことがある源石なんだろうね。
彼らが鉱石病と無縁なのも当然。
……急にそんなことを聞き出してどうしたんですか?
……なんでもない。
シェブチックはどうするんだろう、アタシたちと一緒に来るのかな?
(シェブチックが近寄ってくる)
……馬鹿なことを聞くな。
あ、いたんだ。
奥さんと子供は元気?
ああ、その礼を言いに来た、あいつらを助け出せるのなら、何だってよかったからな。
だが言っておくが、私は感染者ではない。それにまだ表では、私は合法的な騎士身分を持っている。
だからと言って大騎士領に留まるつもりはない、どこかの都市に移って、そこでこれまで溜めてきた資産を使って土地か家を買うつもりだ。
移動都市以外の場所での暮らしはどう?そっちのほうが人目も避けやすいと思うけど。
……それはもはや“生活”ではなく、“生存”だろ。
ここでお別れだ、メジャーリーグはまだ終わっていない、人の流れもまだまだ大きい今、大騎士領から抜け出すには絶好のチャンスなんだ。
……新しい都市かぁ。
……レッドパイン騎士団、最後に現実的な話をしよう。
監察会に無冑盟と感染者収容治療センターの情報を渡したからと言って、ヤツらがすぐさま連合会を台の上から引きずり下ろしてくれるわけではない――
――いや、もしかしたら、商業連合会はそれすらまったく脅威に感じていないのかもしれないな。
……
お前もわかってきただろ?
血も涙もないと言われる筋合いはないぞ、今の私とはまったく関係がないからな。
短い間だが共に戦ったことに免じて忠告だ……やるのは構わないが加減はしたほうがいい、都市を敵に回すな、焔尾。
(シェブチックが立ち去る)
……んだよ、嫌味を言いに来ただけかよ?
これだから騎士貴族は嫌いなんです。
……都市を敵に回すな、か。
騎士小説に出来てきそうなセリフね……
ドクター様。
護衛にとしてお傍に仕えてからしばらく経ちますが、私のことを……どうお思いですか?
正直、今あなたと同じ部屋にいるだけで、心臓はもうドキドキなんですよ?
・医者を呼ぼうか?
・……
・個人的な問題に関しては遠慮させてもらいます。
もう……いけずなお方。
わざととぼけたフリをしてます?
たまにある沈黙もとても魅了的ですね、でも仕事にのめり込みすぎると、お身体を壊してしまいますよ。
私への評価は重要なことですよ……なんせ監察会とロドスとの提携に関わってくる事項ですので。
(アーミヤが部屋に入ってくる)
ドクター!ニアールさんが無事決勝に進出しました!
「風騎士が試合前に棄権、耀騎士不戦勝」って、今日の新聞にそう書かれていますよ!
……風騎士は引退の一歩手前ですので、こんな時に耀騎士に負けるようなことはしなくなかったんでしょうね。
まったく耀騎士に妬いちゃいます、こんなにもドクター様に気をかけられているんですから。
ぐ、グラベルさん?
ご安心を、他意はありません。
……今のところは、ですけどね。
あ……あはは……
(ど、ドクター、グラベルさん最近機嫌でも悪いのでしょうか?なんだかますます……え?あれが彼女の本当の顔ですって?)
(そ、そうですか、ドクターがそう言うのでしたら……)
……えっ。
……いや……あの……
私に配属される人数は何人と?
小隊三つ分だ。
ロイ様と……モニーク様は?
俺たちは別の任務があるんだ。
……じゃあ……
クロガネたちなら諦めろ。
……あの方たちにもほかの仕事があるんだ。
……じゃあ無冑盟って……
死にたくなかったら、分かっちゃっても分からないフリをしたほうが吉だぞ?
……わかりました。
つまり、三小隊分の無冑盟を連れて、メジャーリーグ決勝戦の警備にあたるってことでいいんですよね?
そうだ。
……耀騎士と血騎士の決闘を?
そうだ。
……銀槍のペガサスとかち合うかもしれないのに?
そうだ。
……なるほど……私に死ねって言いたいんですね……
まあそう言うなよ、そっちが手を上げなければ穏便に済むんだしさ。
……私はあとどのくらい利用してもらえるんですか?
――自覚はあるんだな、嬉しいよ。
カジミエーシュは、塔だ。
メジャーリーグが終わったあと、私はどうなるんですか?
それはお前の成果次第かな……俺から言えることなら、そうだなぁ……
せめて一命ぐらいは残してやりたかったよ。
……!
誰も生きて帰れない塔なんだ。
……
……叔父さん。
……止めても聞かず、一人で好き勝手にここまでことを進めてきた。
お前の幼稚な行いで傷つく人がいることを考えたことはあるか?
マーティンたちが無冑盟に狙われることも考えたことはあるのか?
マリアとゾフィアももう大騎士領にはいられなくなるんだぞ?
お前は理想なんぞを掲げてはいるが、よく覚えておけマーガレット、お前の最大の過ちは、他者に代わってその者たちの暮らしを勝手に決めつけたことだ。
誰にもそんな権利はない。
お前には心底失望したよ。
……
お姉ちゃん……
マリア、本当のことを教えてほしい。
私が、君に夢を諦めさせたのか?
君は参加資格を一族の名義で私に譲った……けど君は……
お姉ちゃん!そんなことないよ!
私はただ……自分に騎士は似合わないなって思っただけだから。
だから……
……全部話してくれ、マリア。
君の本音を……もう随分と聞いていないんだ。
……お姉ちゃんがやってること……よくわからないの。
わからないんだ、今のカジミエーシュで騎士になっても、どんな意味があるの?
私たちが勝った時、なんで観客たちは歓声を上げるの?私たちはなにを勝ち取ったの?
お姉ちゃんはあの人たちが定めたルールの中で、お姉ちゃんに勝ってほしくないヤツらに勝とうとしてるけど……
もしお姉ちゃんの勝利もあの人たちが最初から仕掛けていたものならどうするの?
もしくは最初からルールがどうなってもまったく気にしていないような人たちだったら、どうするの?
……君の言う通りだ。
あの人たちが最初から騎士を眼中に置いていないことは、私も理解している。
……えっ……
チャンピオンになっても意味はないさ。
意味は……私たちを人々に注目させることにあるんだ。
マリア、もしこの都市に、この国に問題が起こったら、その原因はどこにあると思う?
監察会の腐敗か、それとも連合会の際限ない拡張と搾取だろうか?
もしかしたらそのどちらか一方かもしれないし、どちらでもあるのかもしれない。
私たちがカジミエーシュはもう一度栄光を取り戻す必要があると宣言した以上は、その人たちに教えてやるべきなんだ、栄光と正義とはなんなのかを。
……
その栄光を取り戻すべきなのは、騎士だけではない。
勝利とは敵を打ち倒すためにあるものではないのだよマリア、「騎士とはこの大地を照らす崇高なる存在」であるのは間違いない。
だが道を照らしたあと、棘を退けたあと、溝を埋めたあと……
躾けられることをよしとしない人たち一人一人に、苦難を乗り越える方法を教えてやる必要がある、それが一番重要なんだ。
――!
……ようやく目が覚めたか、ずっと起きないものだから、てっきりもう死んでんのかと思ってたよ。
お前は――
お前は……サルカズなのか……?
おや、言葉は通じるんだな、ならあんたの容態はまだだいぶマシというわけか、あんたの片割れと比べて。
……!
……
安心しな、死んじゃいないさ。
甲冑修復用の特殊液を直接服用すれば、あんな作用が生じるのか……
活性化なのか?カジミエーシュの騎士甲冑ってのはなにで出来てんだ?人も甲冑も活性化するなんて聞いたこともないぞ?オリジムシに服用させたらどうなるんだ?
……お前……角を削ったサルカズ……
お前は……無冑盟なのか?
おや、嬉しいことを言ってくれるね、俺より三千倍もの年収を頂いてる無冑盟と同じ扱いにしてくれるとは。
俺はバウンティハンターだ、ちょっと野暮用で大騎士領にな、まあ……サルカズに関することもちょろっと調べてるんだ。
もちろん、組織としての仕事ではない、俺の個人的な野暮用だ。
――とりあえず聞くが、その角を折ったサルカズってのは、俺以外にも見たことがあるのか?
……
あんたらの角を折ったヤツは誰だ?
一体誰が――サルカズを――実験動物と殺人マシン扱いしてるんだ?
……
そうかい。よく調教されてるな。
それよりも俺と一緒に来るかい?
……なに?
そのデカい図体をしてるんだから、さぞ体力もあるはずだろ?俺たちは荒野とかで拠点を築いてんだが、どうしても労働力を欠けていてな――
なにを――
――俺と一緒に来い、サルカズ。
生きたきゃ俺と一緒に来るんだ。
――!
……はぁ。
バトバヤル……?
このクソガキ、病院に送ってみたら、まったく金を持ってないじゃないか。
しかし、丈夫な身体をしていて幸いじゃったな、もしほかのヤツが血騎士とやりあってたら、死ななくても半殺しだったろうよ。
……
独立騎士だとしても、トップ4まで登り詰めたんじゃ、少しは賞金を得ているはずじゃろ?金はどこにやったんじゃ?
……
あまり動くな、傷が開いてしまう。
……どこに行こうとする?
……
おい、待たんか、どこに行くんじゃ?
……放せ。
黄金のペガサス、血の色をしたミノス人……収穫はあった。
……悔しくはないのか?
……ない、過ちを犯しただけだ。
であれば、私はもう過ちなど恐れない。
退くことも。
弱さへの……賛美も。
……それでも私にはまだ欠けてる箇所がある……天途を続けなければ。
天途天途って……お前は一体どこに向かおうとしておるんじゃ?
古代の天途であっても、何年も続けることはなかったはずじゃろ?
北へ向かう。
はるか彼方にある北……先祖たちは消えていった北の大地に向かう。
……そこに辿りついたとして、その後はどうするんじゃ?
戻ってくるつもりはあるのか?
……
お前……てっきりお前は自分が欠けていたものを探しているんだと思っておったわい。
ようするに……死に場所を探してたおったんじゃな?