あらローラちゃん、実家に戻ってばっかりなのにすぐお仕事を手伝ってあげるなんて、親孝行ないい子ね。
ううん、当然のことをしてるだけだよ、私も久しぶりにあちこち回りたいし。
はぁ、外へ学びに行った子は違うわね、うちの弟にも見習ってほしいわ。
本当にいい子、勿体ないぐらいだわ。
引っ越したら、あなたみたいないい子を見つけられるのかしらね。
えっ、シャシャ姉さん、ここでちゃんと暮らしていけてたよね、引っ越しちゃうの?
ウチのお父さんの関係でね。昨日三族議会で巫女様に御三家を管理させるって話があったでしょ?
それでお父さんが勢いでね。
あー……ゾール叔父さんってずっとエンシオディス様の開放政策に反対してたもんね……
そうなのよ、当時の私たち一家って弟と私の仕事のために北からこっちに引っ越してきたの。
本当はね、うちのお父さんここ数年はネチネチ言ってたけど、大分慣れていたのよ。
でも昨日の執政権を返還するって公布を聞いたら、えらい嬉しくなっちゃってね。
昨日なんかご飯食べてる間もずっとエンシオディス様がこれまでやってきたことの悪口ばっか言ってたわ、私もイヤになっちゃって、それでケンカしちゃったのよ。
けど拗ねられた年寄りに敵うはずもなく、ペルローチェ家の領地に引っ越すことになったというわけ。
じゃあ弟さんの仕事はどうするの?
さあね、今回の返還後、トゥリカムでまた昔と同じような商売できるかどうかも怪しいからね。
ペルローチェ家が主張するには、巫女様も前回の三族議会でエンシオディス様に窪地と鉱脈区を引き渡せって言ってたらしいのよ。
巫女様にまでイェラグを統治するって言われちゃ、いくらエンシオディス様だって言い返せないでしょ。
……そうだね。
でもまあ、これもいいことよ。
何年も外にいたからあなた知らないと思うけど、御三家って最初の頃はわりと仲が良かったのよ、けど最近はまあ悪くなるばかりで。
前回の議会なんか、もしかしたらいよいよ手が上がるんじゃないかってみんなビクビクしてたほどよ。
……そうだね、でも今回エンシオディス様が譲歩したとは思いもしなかったよ、しかも巫女様に執政権を渡しただなんて。
そうね、でも私に言わせてもらえば、最初からそうしておけばよかったのよ、少なくとも私はエンシオディス様の開放政策は嫌いじゃないわよ、なんせそのおかげでうちもかなり稼げてもらったしね。
でもね、年寄りたちが言ってることが正しい時もあるの、イェラグはもうイェラグじゃなくなってしまったって。
エンシオディス様が譲歩して事態を悪化させなかったんだし、みんなも納得してくれているわ。
いま反対してる人がいるのならあなたのお兄さんぐらいでしょうね。
兄さん……
ただいま。
もう、ローラったら、帰ったら休んでねって言ったでしょ、よりによって仕事の手伝いだなんて。
(穏やかな声)その鉱なんとかって病気に罹ってるんだから、自分で自分の身体を大事にしないと、こっちが心配しちゃうんだからね。
大丈夫だよ、姉さん、これぐらい平気だって。
あれ、兄さんは?
彼なら工場に行くって、さっき慌てて出て行ったわよ、今日は戻ってこれないって。
工場?
(無線音)
ん、隊長から通信?
隊長、どうしたの?
休みは終わりだ、オーロラ。
昨日ドクターが列車駅でペルローチェ家の人に連れていかれた。
えぇ!?
ドクターからついて行ったんだ、言ってることはわかるな、大方なにか企んでるんだろう。
地図をざっと見てみたんだが、駅からペルローチェ家の敷地までそれなりの距離がある。
おそらくすでにペルローチェ家についたはずだ、俺たちもそろそろ動くぞ。
今から適当な口実を作ってお前の家に行く、それから状況次第で合流しろ。
わかった。
(無線が切れる)
……まずは隊長と合流しよう。
なるほど、あなたがあのロドスの人なのね。
・私のこと知らなかったのか。
・私が目当てではないのだな。
そうよ。
あなた変わってるわね、ただなんで変わってるのかは知らないけど。
あの時市場で言ってたことだが、あれはどういう意味だ?
ん?
あれはただの忠告よ。
だってほら、今は知らない人たちに捕らえられて、自由に出歩くこともできなくなったじゃない?
君はなにを知っているんだ?
それを答える前に、まず私に教えてくれないかしら、イェラグに来たのはなにが目的?
・カランド貿易とのビジネス提携に従って来ただけだ。
・三兄妹の関係修復をエンシアに頼まれて来た。
・旅行しに来ただけだ。
つまり、あなたはエンシオディスの知り合いってことね?
それは状況次第だな。
シルバーアッシュ家の関係を修復しに来たですって?
随分と達者なことを言いだしたわね。
なら運がなかったわね、こんな事態に巻き込まれてしまったんだもの。
私すごく気になるんだけど、あなたみたいなよそ者にとって、イェラグはどんな場所に見えてるのかしら。
・穏やかな場所だ。
・とても信仰が篤い場所だ。
・落ちぶれてる。
穏やか……そうね、もう一千年ぐらいは穏やかなままよ。
けど穏やかということは停滞してるとも言えるわ。
イェラグの人々は今の状態にすっかり慣れてしまった、そのせいで外のことにまったく関心を寄せなくなってしまったわ。
いいことのはずなんだけどね、でも最近は……はぁ……
なんせイェラガンドの信仰はこの土地にいる人たちを一つにまとめてる根本みたいなものだからね。
けど、みんなその信仰に頼り過ぎてるって時折そう思っちゃうのよ。
わかるかしら?自分の悩みや不安を神様に預けて、代わりに解決してくれることに期待しちゃったら――
本当は自分の意志で変えなければいけないのに、神様を停滞してる言い訳にしてしまう。
本当は自分の手で得られた収穫なのに、神からの恵みだって神様にしか感謝しなくなる。
決断したのも、努力を費やしたのも、全部自分たちなのにも関わらずにね……
ストレートに言うわね。
けど、あなたみたいな外からやってきた人……法律で言うところの“外国人”からすれば、ほとんどそういう風に見えちゃうのかもね。
外の人たちはとっくにサボられるような、言い方を変えると無駄を省く技術をたくさん発明してきた。
その人たちはそういった日常を当たり前だと思ってるかもしれないけど、イェラグの人たちはまだそれらを触れたことすらない未知なるもの。
もしかしたらイェラグの人たちは享楽の環境から遠ざかりながら不便な生活を送ってるからこそ、勤労と勇敢、そして篤い信仰心と美徳を得られたのかもね。
けどそれを永遠と繰り返すのもどうかと思うわ。
イェラグ人はこの雪山にある浄土を開拓したけど、いつまでも伝統のみを頼りに故郷を維持できるはずもないものね?
・変わるべきだ。
・一概には言えない。
・ここの事情をまだあまり理解していないからよくわからない。
あら、あなたもそう考えるのね。
先見ある人からすれば、エンシオディスがもたらした改革が止まることはないわ。
自分の生活がもっと楽に、もっと便利になることを止めようと考える人なんていないんだもの。
落ちぶれてるところはすべて直さなければならないって、そう言うと思ったわ。
そういう声は今までたくさん聞いてきた。
しかもそれを言う人たちに限って、ほとんどがイェラグで生まれ育った人たちなのよ。
やけに慎重ね。
けど、慎重な人は嫌いじゃないわ。
けど残念ながら、この国の現状を理解するにはもう時間があまり残されていないみたい。
私は……
私には友人がいるの。
その友人はね、ずっと考えているの、どうすればこのイェラグはもっとよくなるのかって。
けどいくら考えても、答えは出ないまま。
それで彼女はだんだんと理解してきたの、みんな自分とは違う考えを抱いてる、そのみんなの考えはどれであろうと、自分を不安にさせてしまう。
自分がなにかをしようとするたびに、誰かが止めに入ってくる。
それに、自分はもうあの人たちがしようとしてることを止めることはできないんだって。
そんな時に、あなたはやってきた。
私がきたことが事態を変える予兆だとでも思っているのか?
予兆?取り得る手段はなんでもやるって解釈したほうがしっくりくるわね。
エンシオディスの招待を受け、異国からやってきた異邦人、あなたが放つそんな異彩と雰囲気で私はすごく異様な馴染みない感覚と好奇心を覚えたわ――
教えてちょうだい、異邦人、あなたの到来は、一体なにを意味してるの?
……
では、一つ手伝ってくれたら教えてやってもいい。
お久しぶりです、エンシア。
イェラグに戻ったと聞いて、お姉ちゃんはとても嬉しいです。
山を下りて会うことはできませんが、無事で健康だと知っただけでも、なによりも嬉しく思っています。
聞く話によると、今回あなたの鉱石病を治して頂いた方も一緒にイェラグへいらしたらしいですね、機会があれば、面と向かって直接お礼を言いたいです。
彼らは私の妹を救ってくれたのですから、イェラガンドの祝福を受けるのは当然ですからね。
ほかの方たちにも、忘れずに挨拶がてらあなたの無事と健康を伝えてやってください。なるべく早寝早起きすること、毎日二回イェラガンドに向かってお祈りすることも忘れないように、それと山登りはダメですからね……
ここまで読んできっとお姉ちゃんは口うるさいと嫌ってるでしょうから、これ以上は言わないでおきましょう。
楽しい帰省であるように願っています、エンシア。
お姉ちゃんがイェラガンドの御前であなたのために祈っておきます。
PS:返事の手紙を貰えるとなおさら嬉しいです。
前回手紙を送ったばっかなのに、お姉ちゃんったら、すごい久しぶりに手紙を貰ったみたいじゃん、相変わらずうるさいこと書いちゃってるなー。
ありがとうね、ヤールお姉ちゃん、毎回お姉ちゃんの手紙を届けてもらって。
いいのよ、巫女様は山を下りられないからね、あの子からも私が代わりに外までひとっ走りして外の情報を届けるようにお願いされているから。
でもごめんね、しばらく手紙は返せそうにないんだ、ちょっとほかの用事ができちゃって。
その傍に置いてるリュック……外出するつもりなの?
うん。
どこに行くの?もしかしてクマリ山を登るつもり?
あっ、そう言えばそうじゃん、アタシまだクマリ山は登頂できていなかったんだった!
でも今回行くのは、山じゃなくて窪地だよ。
窪地?あそこって今曼珠院に譲渡してる場所でしょ、それに工場しかないのに、なにしに行くの?
ドクターがあそこに行くから、会いに行くんだよ。あっ、ヤールお姉ちゃん、まだドクターは知らないんだっけ?
あっ、彼のことならもう聞いてあるわ、ペルローチェ家に連れていかれたお客さんでしょ?
うん。ドクターはアタシの客人だからね、無事なところを見ないと居ても立っても居られないよ。
あら、優しいのね。
でも気を付けるのよ、最近あそこ物騒みたいだから。
わかった。
エンシアお嬢様、そろそろ行きましょう。
ご心配なく、今回の外出した際に起こった責任はすべて私が背負いますので。
ヤーカおじさん、ありがとうね。
珍しく真剣に頼まれたものですから、手伝わない道理などありませんよ。
じゃあヤールお姉ちゃん、戻ってくるの遅くなるかもしれないから、帰ったらお姉ちゃんに伝えておいてね、帰ってから手紙を返すって。
はいはい、帰り待ってるからね。
オーロラ、判断材料がほしい、特に現地人としてのお前の観点が。お前なりのドクターが今置かれてる境遇を教えてくれ。
鉱脈区と窪地の元管理人はノーシスだったから、そのポストは今とても敏感になってる。
そこにエンシオディス様がドクターをあの人のポストに置いたとすれば、必ずアークトスの注目を集める。
鉱脈区と窪地が敏感な原因を詳しく教えてくれ。
うーん……地図があったら分かりやすいかな。
イェラグの地形は割と簡単で、名称もほとんど統一されてるんだ。
一般的に私たち現地の人はその地形ごとに鉱脈区、窪地、森林地帯、湖、山岳、渓谷、平原って直接呼んでるの。
渓谷と平原、それと大半の湖地帯は北にいるペルローチェ家の管轄。
西のブラウンテイル家は森林地帯と、一部分の湖地帯を主な領地にしている。
シルバーアッシュ家は山岳、窪地と鉱脈区を領地に治めている、湖の部分はほとんど含まれていないから無視しちゃっても大丈夫。
ただ窪地と鉱脈区……シルバーアッシュ家の領地のほぼ半分はその地形で占められているんだ。
その中で、鉱脈区がずっとシルバーアッシュ家にとって非常に重要な領地になってる、イェラグ全土で産出される鉱物はほぼあそこから出てるからだよ。
窪地も近年凄まじい発展を遂げているね。
本来なら窪地はとても痩せこけた土地なの、村も数えるほどしかなくて、ずっと利用価値がない土地だって思われていたんだ。
でも、エンシオディス様がカランド貿易を設立したあと、そこを工場地帯に造り替えたの。
カランド貿易のほとんどの製造工場はそこに建てられている、しかも一部はカランド霊山のすごく近くに建てられているんだ。
ほかにも、出発する前にイェラグ商人の何人かと情報交換してみたんだけど――商売してる人たちは全員カランド貿易と関係を持ってるみたい。
一か月前、巫女様の支持を仰いで、ブラウンテイル家とペルローチェ家は工場の安全秘匿問題を調査するチームを編成した。
でもそのチームは調査協力を拒否するノーシスによって裏で襲撃されてしまった。その情報がどうやって漏れ出したのかは知らないけど、全員この一件はノーシスが関わってると思っている。
そのせいでペルローチェ家当主のアークトスが曼珠院の承認を得て窪地まで派兵したりして、ノーシスも今回の過激な行為によって解職に追い込まれたのが今回の事件の全貌かな。
会議してた時、ドクターが言ってたな、エンシオディスが自分を誘った理由について。
カランド貿易と鉱石病を治療する施設の建設提携を結んでるってのは聞いているが、ドクターがそのノーシスの席を代わりに座らせれるとは一言も聞いていない。
つまり、ドクターは自分から陰謀の天秤に足を乗っけたってことだ、実にドクターらしい。
その可能性は十分あるね、でもカランド貿易とロドスの関係は悪くない、ドクターもそういう理由で招待を受けたんだと思う。
それにエンシオディス様がドクターを陥れようとする理由も今のところは見当たらない……
どうする?ケルシー先生に連絡する?
本艦は今ヴィクトリアに向かっている、現地の大型通信施設を利用しない限り、俺たちの携帯端末じゃ本艦と連絡を取ることはできない。
(大きなため息)
隊長……?
しばらくの間観察していたんだが、ドクターが今いる場所の警備はさほど厳重なもんじゃなかった。
ペルローチェ家の邸宅には護衛がおよそ二百人いる、正規軍も外と比べちゃ訓練と武器が足りてない、奇襲すれば突破はできる。
周囲の地形も一通り確認済みだ、別の案として浸透潜入する方法もあるが、それだと事前に数か所にダイナマイトを仕込む必要がある。
侵入と撤退時には爆発で注意を逸らさなきゃならん、ブロック構造をした壁が数か所あればいいんだが……
ちょっと待って!隊長!
なんだ?
たぶんだけど……今のところ隊長が思ってるような事態までは発展しないと思うよ。
なにが起きようが、ドクターの安全確保こそが俺の最優先任務だ。
……それはわかるけど、でも……
祭典も間近なんだし、今ペルローチェ家の領地に武力介入すれば、ロドスはおそらくカランド霊山の敵と見なされちゃうよ。
そうなったらロドスに在籍してるイェラグのオペレーターたちはどうするの?
いつだって最悪の事態は想定しておかなきゃならん、それに汚くても解決できる方法もな。今は楽観視できる事態じゃない、もし俺に選べって言うのなら俺はドクターを選ぶ、お前だってわかるだろ。
誰だってそんな事態は望んじゃいないさ、でもお前も知っての通り、そんなこと俺たちじゃ決めかねん、俺はドクターとロドスの責任を負っているんだ。
エンシオディス様は自分なりに考えがあってそうさせたんだと……私は思う。
相手の策を逆手に取った以上、ドクターもその異変にすでに気付いてるはずだし、それに相応の対応も準備してるはずだよ……
俺は今まで一度もドクターの力を疑ったことはない、彼のことなら信じてるからな。
だが俺にも事前の準備が必要だ、ドクターは俺を待機させた、ってことは彼の計画には俺たちも含まれているってことだ。
じゃあまずドクターに連絡して確認してみないと。
オーロラ。
なに?
エンシオディスを尊敬してるんだな。
……うん。エンシオディス様がいなかったら、私はイェラグから出られなかったし、外の世界に触れることもできなかったからね。
理解はできる。
だがしばらくの間はそれを頭の隅に仕舞っておけ、今から俺たちはあいつを仮想敵に設定するが、できるか?
もしできないのなら、今帰ってもらっても構わない、お前のことを責めたりはしないさ。
……今の私はロドスの一オペレーターだよ。
今言ったことを忘れるんじゃないぞ。
はい。
じゃあ……クリフハートたちも警戒しておかなきゃならないの?
クリフハートは信用できる、信用していないのはエンシオディス・シルバーアッシュだけだ。
そんじゃあこれからはどうやってドクターと会うかを考えよう。
あなたたちがドクターの部下?
……(斬撃)
刹那の間、硬く冷たいサーベルが空気を切り裂き、僅かながら女性の首元にピタリと止まった。
あら、その剣術、見ないものね。
……なにモンだ?
会ったばかりの一般女性にそんな怖い顔をしなくてもいいんじゃないかしら。
ここの位置を特定して、なおかつこんな場面で冗談を言えるヤツのどこが一般女性なんだ?
とにかく刃物を下ろしてちょうだい!私はドクターからあなたたちを探すように言われて来たの。
ドクターから伝言よ。