一人の男が部屋に踏み入る。部屋には車椅子の女がいるが黙ったままだ。
男は机で散乱したノートや紙を整頓する。
花瓶の中で枯れた花を新しい花へ交換する。
女は新しく借りた本を読んでいた、まるで傍に人影が寄ってきてることすら目に入っていないかのように。
沈黙。
もしかすれば話すべきことはすでに話し終えていたのかもしれない。
あるいはまだ話すべき時ではないのかもしれない。
男が忽然と口を開く。

もうじき彼女が戻ってくるぞ。

万国トランスポーターたちが待ちに待った会議が開かれるのだから、当然彼女も帰ってくるわよ。

そういうあなたはいつまで待つつもりなの?

為すべきことを為した時までだ。

なんせ私は、ここでラテラーノ人たちの魂に引導を渡すことしかできないからな。

……

そろそろ行くよ。

もう明日から来ないでちょうだい。
男はしばし佇んだあと、そのまま部屋を出た。
女は車椅子を漕いで窓際に近づく。
窓を開け、外を見やった。
この窓を通して、彼女は幾度となくラテラーノの日々を見渡してきた。
今宵のラテラーノは相も変わらず喧噪だ、ラテラーノ人は未だかつて安寧と疲弊というものを知らないのである。
明日は一体どういう日を迎えるのだろうか?

ママ、はい白湯だよ。

いい子ね、ゴホッゴホッ……ママは平気よ。

じゃあママ……絵本を読んであげるね。

……セシリア、ああ、私の可愛いセシリア。

あなたの傍から離れたくないわ。

どっか行っちゃうの?

いいえ、ゴホッゴホッ……あなたの傍から離れようだなんて……ママは一度たりとも考えたことはないわ……

でもママはもう……

どこかに行っちゃうの?ならわたしも一緒に行く、いい?

ママが行こうとしてる場所はね、セシリアは行っちゃいけないの……あそこはとても冷たくて、寂しくて、なにもない場所だから。

ママと一緒にいる、ママの傍にいるから、寂しくなんかないよ。

……セシリア、ごめんね。

本当ならもっと幸せな時間を過ごせたはずなのに……

ママと一緒にいるから、わたしは幸せだよ。

……セシリア、セシリア、いい子だから、よく聞いて。

うん、聞いてるよママ。

これから、ママはもうあなたの面倒を見てやれなくなるわ……でもあなたを迎える人が来るから。

その人についていって、パパを探すのよ。

パパがママの代わりにあなたの面倒を見てくれるわ、分かった?

ママは一緒にパパに会いに行かないの?パパもきっとママに会いたがってるだろうし……

ママは……大事な仕事があるから……一緒には行けないわ。

パパに会ったら、ママの代わりに伝えてね、ママもパパに会いたかったって。

それと、ごめんなさいって……伝えてくれる?

どうしてママが謝るの?

お願い、約束して、セシリア!

分かったよ、ママ……だから、泣かないで……

セシリア、可哀そうに……あなたが生まれてきてくれたことは私の生涯で一番幸せな出来事だわ。でも、もしそれがあなたの一生の不幸になってしまったら……私のセシリア、愛してるわ……

一体誰なら、あなたに祝福を授けてくれるのかしら?

セシリア、ちゃんと隠れててね、見つかっちゃダメ……

逃げるのよ……ラテラーノから……
母親が娘の手を握りしめる、彼女の瞬きには無数もの情緒がひしめき合っていた。しかし、そんな情緒もついにはやるせなく滴り落ちてしまった。
そしてその両目がゆっくりと閉ざされた。

ママ……?
このサンクタの女の子はなにが起こったのか理解できていない。
彼女は母親の手が冷たくなっていくことに気が付いた、だから手を胸に抱え、少しでも温めてあげようとした。
そんなところにドアをノックする音が伝わってくる。

ラテラーノ公証人役場執行人のフェデリコです、公務執行のため、ドアを開けてください。

迎賓館への宿泊手続きならすべて済まされました。

これより以後の時間はご自由におくつろぎ頂けます、外出も結構おすすめですよ。道端でご興味をそそるものもあるかもしれません。

ふむ――

ラテラーノの建築物は別格だな。

やはりラテラーノにお越しになられて幸いでしたね。

まあそうだな。

して、この後の日程は?

教皇猊下とのご面会ならすでに手配しております、私ならこのあと大聖堂に戻る予定でございますので、明日お迎えに上がります。

以前ご紹介させて頂いた通り、会議期間中は、存分にラテラーノをお楽しみ頂けます、費用のことならご心配なく、ラテラーノは各国の貴賓をお招きできて大変光栄に存じておりますから。

各国の貴賓か……はぁ、そんな大勢の異邦者をここに集めたところで話し合われる話題があるとは思えんがね。

まあ当然、教皇猊下の御誠意ともあれば、私も喜んでそういったお方のお気持ちに応えましょうぞ。

では、私はこれにて失礼させて頂きます。ご自由にラテラーノをご散策くださいませ。

やはりラテラーノの建築様式は趣がある……クルビアでもこういった柱式は用いているが、よく見れば細部はてんで異なるな……?

ふむ、ここに来た以上は……

ん?あっちでなにかやってるようだな?

こっちならできたよ、そっちはどう?

こっちもオッケー。エイゼルさん、周囲の避難はできてますか?

直接被害を受けると思われる公民の避難なら完了しています、二時災害が及ぶ範囲にいる公民たちも確認できています。

じゃあ始めちゃってもいいのかな?

えっと……現時刻は1099年3月15日午前10時22分、では今回行われるこの爆破行動については、この公証人役場執行人候補のエイゼルが見届けます。

よし。それじゃ、3――

(あのサンクタの三人、あの柱の周りでなにをやっているんだ?)

2――
(クルビアの富商が近寄ってくる)

そこの君たち、どうして君たち三人以外ここには誰もいないのかね?

1、起爆!――って、どこから人が来たの!?

!?
(爆発音)

なんだ、急に爆発が起こったぞ!……なにかが崩れてきている!?

た、助けてくれェ!ひぃ――!

!
(アーツ音)

まずはあの方の救助を……え?崩れてくるスピードが、遅くなってる……

助け――

黙ってて。
(???がクルビアの富商を蹴り飛ばす)

ッ――

フー……フー……

し、死ぬかと思った、一体どうなってるんだラテラーノは!……そちらのリーベリよ、助けてくれて感謝する。

名はなんと言うのだね?あとでクルビアの臨時会館まで来てくれ、お礼をしたい。

彼女ならキラキラお通夜人って言うんだよ。

き、キラキラお通夜人……?変な名前をしているんだな、ラテラーノ人は……

いや違うから。

こんにちは……あの、大丈夫ですか!?

ありがとうございますお二方、でないと大惨事でした。

助けて頂いて感謝致します。

気にしないで。

しかし、これは一体何事かね?なぜ白昼堂々と街中で爆発が起こったのだ?まさかラテラーノにテロリストでも紛れ込んだのか?
(回想)

えーっと、それは……

今考えてることがあるの。

なんだい。

この柱がある位置ってすっごく完璧に思わない?

確かにそうだね、ラテラーノの建築美学を体現してると言っても過言じゃない。だから?

だから……こいつを吹っ飛ばしたらどうなるかがどうしようもなく気になっちゃってて。

あぁ――

いいアイデアだね、ぼくもそう思うよ。

でも、例の会議ってもうすぐ始まるんでしょ?色んな各国の貴賓も来てるって聞くし。教皇猊下からは、それまでの間は自重するようにって言われてるからなぁ。

そうだね。

でも、“自重しろ”とは言われたけど、“するな”とは言われてないよな。

猊下が外賓たちにいい印象を残したいってのは解るよ。でもさ――“いい印象を残す”にもまずはある程度の現実に合致してこそだと思うんだよね、君はどう思う?

まさにその通りだね。
(回想終了)

だから、公証人役場に報告して、こちらの執行人さんに確認してもらおうとしてたんです、ちゃんと周りの避難を済ませておいてから……

この美しい柱を、木っ端みじんに吹っ飛ばしてやろうって……

ただ、そこにあなたがおられたとは思いもよらずに。

本当にごめんなさい、別に危害を加えるつもりはなかったんです。

君たちは……この移動都市の街中で爆発を起こそうとしていただと?しかもわざわざ政府機関に報告までして……公務員の目の前で!?ラテラーノ人というのは……こうも……傍若無人で自由奔放なのか?

規律と規則を守るラテラーノ人だっているわよ。

ただ戒律が許す範囲内で、やりたいことがあればやる、それがラテラーノ人。ラテラーノ公民一人一人の権利を尊重し保障するのがラテラーノ。

心配はりません。ただの爆発行為ですから、ここでは日常茶飯事です。

仮に負傷者を出したらどうするんだ……?

こちらもきちんと弁えておりますよ……当然、今回の事故に関してこちらからお詫び致します。

本当にすみませんでした。

多分ですけどまだあまりここをよく理解されてないんじゃないでしょうか。でも信じてください、しばらくここで生活したら、きっとこの都市を好きになりますから。

いや……理解はしなくても結構かな。

これがラテラーノ人さ。

だからようこそ、ラテラーノへ。

やれやれ、さすがはモスティマだ、あいつの能力ってのはやはり人の時間感覚、あるいは時間そのものを遅くしたりするもんなのか?

何回見ても不思議だぜ。

オーロン、向こうでなにか起ったのですか?

いいや何も、いつも日常さ。

まあ、面白い場面は見れたけどよ。

ほかの者たちが私たちを待っています。

分かってるよ、行こう。
万国トランスポーター。
当代の教皇が自ら立ち上げた特殊なトランスポーターの部隊である。
それ以前のラテラーノは、中核国家間で超然的な地位と永世中立の立場にあった。
外交面において、ラテラーノの政府職員が特殊な事件に関する重要な情報を伝達する事例はしばし起こっていた。
万国トランスポーター制度が設立された後、当代の教皇が前述の職分を常態化、組織化し、万国トランスポーターは国家間を行き交うことができる特殊な職分となった。
万国トランスポーターの部隊が掲げる主旨は、ラテラーノの絶対的な中立の立場を堅守するという基礎をもとに、各国間の重要な情報を円滑に流通させることにある。
1098年、万国トランスポーターを経て、教皇からテラ各国に招待状が送られた。
曰く、ラテラーノにて国家間の安全保障に関する会議が開かれるため、諸国使節をご招待するとのこと。
1099年、万国トランスポーター制度が設立して30周年を迎えた。
その同年三月、テラの各地に散在する万国トランスポーターが他国の使節を連れて、ラテラーノへと帰投するのであった。

さきほどのお二人、一人は護衛隊の方のように見えましたけど、もう一人の方は……もしかして万国トランスポーターの方でしょうか?

変な組み合わせですね。

エイゼルさん、確認の業務ならもうこれでおしまいですよね、もう行っちゃうんですか?

この柱のことなら以前の申請書類に則り、元通りに修復しますのでご心配なく。

わかりました、ではよろしくお願いします。ボクはまだ任務があるのでお先に。
(無線音)

そうだ、遺嘱登録した対象を確認しないと……え、亡くなった?

……
典型的な単身女性の住まい、第二人者の生活痕跡は確認できず。
寝室で寝ている女性のご遺容は安静。毒を盛られた痕跡も、暴力を振るわれた痕跡もない。
(無線音)

こちらフェデリコ。

ステファノ区セルヴァンティス街7-265号で女性公民一名のご遺体を発見。

初歩的な判断を見るに死因は自然死、管轄区域の鎮魂教会にご遺体の収容をお願いします。

また初歩的な捜査で遺嘱は確認できておりません。ですので新たに任務の発行を要請します、死者の身分、及び遺嘱の事前登録アーカイブから遺嘱情報の確認をお願いします。

報告完了。

ママ……
外に出ちゃダメ。
ほかの人に見つかっちゃダメ。
ぜったいに制服を着た人には近づかないこと。
ママはそう言ってた。
制服をきた人、もう行ったかな?まだかな?
でも大丈夫、またいつものように、お客さんが来たら、セシリアは自分のソファーでお昼寝する。目がさめたらまたママと一緒にいられる。
だから落ち着いて……セシリア。なにを慌ててるの?
どうして寝つけないの?
大丈夫、大丈夫だよ……あの変な人さえ出ていってくれれば。
またママの傍に戻ればいい。
(サルゴン住民やカジミエーシュ住民、ショルースとユカタンの姿)

サルゴンの様子はだいぶ良さそうだな?結構な数の使者が見受けられる。

それもそのはずです、パーディシャーたちは積極的ですからね、ただみんなして考えがバラバラなのが残念ではありますが。

彼らが遣わした使者たちがここで揉め事を起こさないだけでもありがたいことですよ。

カジミエーシュはどうなんだい、あっちも結構な大所帯だろ。

監察会は我々の招待を断りました、ただ商業連合会はとても興味を示してくれています。

そのうちの代表の一人が向こうから我々を訊ねたほどに。

その代表とは色々と話して頂きました……あの方は国際情勢をとても理解してらっしゃる、万国トランスポーターにも劣らないほどに。

もしご多忙でなければ、おそらくここにおいでになられたでしょうね。

我々の話はともかくして、そちらはどうなんです、オーロン。

今のヴィクトリアの情勢はとてつもなく複雑怪奇だ、お前らも耳には入ってるだろ。

オレとゴドズィン公爵はそれなりに仲がいい、が……イヤというよりかは、今のところ使者を送れないって言ったほうが正しいかな。

どんな微細な動きでも情勢が変化してしまう敏感な時期、そんなところだ。

炎国からも使者はいらしてないですね、ただ、“教皇猊下に感謝の意を表して”たくさんの礼品は頂いております……炎国らしいやり方ですね。

この二年で頭角を現したイェラグからは使者が送られておりますね……ほかの国の使者も揃ってるかと。

正直に言いますと、ここまで揃うとは思いもしませんでした。

今更怖気づいたのか?

少しは。

お前は確か万国トランスポーターをやってまだ数年しか経っていなかったはずだよな?

四年未満ですかね。

だが万国トランスポーターの活動はすでに三十年は続いている。

今日の成果を得られたのは――我々の努力の賜物だよ、諸君、当然のことだ。

だとしても、オレたちが目指してる期待にはまだ遠く及んでいない――オレたちが求めているのは、その名の通りの“万国サミット”だ、違うか?

ラテラーノの大聖堂会議ホールに現れるのは、使者なんかじゃなく、もっと変化をもたらしてくれる有力者じゃなきゃならねぇ。

そういった大物が出てくる時までにその動悸は取っておくんだな。

そんなこと言われたら、その日を期待しておくべきなのか分からなくなってしまいましたよ……

ちょっとオーロン、また先輩風を吹かせて後輩たちを怖がらせているわね。

んなことねーよ。

あんたが言ったその日が来たとしても、緊張することなんてないわよ。

私たちにはそういう資格があるんだから、そうでしょ?

そうかもな。

それで、各地方を担当している万国トランスポーターはみんな集まったのかしら?

あとはモスティマだけです。

モスティマ?そいつならさっき見かけたぞ。

なにしてたの?

故郷の雰囲気を味わっていたよ。

なら彼女のことは放っておきましょう、もとからここに来ることなんて期待してなかったんだし。

いつものように、猊下への報告は彼女を最後に置いておけばいいわ。

教皇猊下のがお見えになられました。
瞬時、大ホールは静寂と化した。
万国トランスポーター全員が一か所に視線を注ぐ。
全ラテラーノ人の導師、導く者、精神的支柱へ――

ご機嫌よう、子らよ、朝ご飯はちゃんと食べたかね?

如何ですか?

外部による危害の痕跡はありません、おそらくは持病によるものかと。

哀れなお方、彼岸に疾病がないことを願うばかりです。

暗闇に帰したサンクタよ、あなたの遺体は鎮魂教会に運ばれることになります、そこでどうか安らかに。

この寝室の壁にかけられてるものも一緒に持って行きましょう、あとで公証人役場の者に渡すように。

どうしてママが連れていかれたの……?

わたし……どうすれば……
セシリアは視線を玄関へ向ける。
外に出てはダメ、見つかってはダメ……さもないとセシリアは危なくなっちゃう。
ママはそう言っていた。
……でもママは連れていかれた、じゃあママはどうなっちゃうの?

フィアメッタ……

なによ急に、私の名前を呼んで?

あれ、イヤだった?やっぱりまだ“キラキラお通夜人”のほうがよかったのかな?それとも新しいのにする?

フィアメッタでいい、お願いだから。それで、なに?

今頃さ、大聖堂で私の同僚たちが私のことでワーギャーあれこれ言ってるはずだよね。

分かってるのなら、顔ぐらい出しなさいよ。

いやいいや、大聖堂の雰囲気なんてこの先ずっと慣れそうにないし。

それに、私が現れたら居心地を悪くするでしょ。動く警告標識を見たがってる人なんていると思う?

他人の居心地を気にするタチ?あなたが?

興を冷ますほど私だって野暮じゃないよ。

どうだか。でも、あなたってば帰ってきてから思ったのより結構ラテラーノを楽しんでるじゃない。

そう?

「ようこそ、ラテラーノへ」って言ってた。

あぁ、あれは多分久しぶりの帰省だから、心が踊ってたのかもしれないね。

そういうことにしておくわ。

あはは、ほらほら、行こ。

行くってどこに?

もちろん彼女を会いに。

……あっ、確か転院したんだっけ?

……前回帰ってきた時から随分と時間が経ったからね。

こっちよ、ついてきて。

ここの区は前まであんまり来たことがないですね、中心街から遠くないとは言え……そろそろ着きそうかな?えっと、セルヴァンティス街7-264号……

あの家の玄関に止まってるのは……鎮魂教会の霊柩車?

あの、こんにちは……シスターさん!

慌てずとも結構ですよ、お若い執行人さん。

お二方はすでに検査を終えたのですか?

ええ、病で亡くなられたサンクタです。

ご遺体を確認してもよろしいですか?

……検証完了、亡くなられた方は家主のフィリア・ラポルタですね。

あの、シスターさん、ボクが請け負った任務では亡くなられた方の付近に遺嘱は発見されていないと説明を受けています、お二方が検査した時に遺嘱に類似したものはありませんでしたか?

見つかってはおりません。ただ、これをお渡ししておきます……公証人役場で回収する物品、でしたよね?

これは……こちらの方の守護銃?分かりました、ボクから公証人役場まで持って行きます。ありがとうございました。

もし身分の確認と守護銃の回収を終えたのでしたら、こちらの方を鎮魂教会まで送らせて頂きます。
(シスター達が立ち去る)

……あっ、はい。ご協力感謝致します、シスター。

身分の確認は完了、公証人役場のシステムから遺嘱の事前登録情報を調べるには……確か端末からリモートで調べられたはず……

……えっと、戸籍情報……家主情報……

……あれ、遺嘱の事前登録がされていない?

この診断記録は……

はぁ、この病なら、入院治療を諦めてしまうのも理解できますね……しかしなぜ遺嘱を残さなかったのか……
(セシリアがエイゼルから離れようとする)

ん……?あれは近所の子供でしょうか、どうしてボクを避けて……
(セシリアが走し出し、たちまち転ぶ)

気を付けて!
(エイゼルが駆け寄る)

え、そんな、すっころんで気絶した?でもただ転んだだけなのに、気絶するほどじゃ……

誰か!この子の両親を知ってる方はいませんか!この近くに住んでる子供でしょうか?

見たことない子供ですね。気絶してるんですか……もしかして転んだ時に頭を打ったとか?

私も見たことはないですね、引っ越してきたばかりでしょうか?よかったら区の役所に聞いてみるといいですよ。

役所じゃなくて!もし本当に頭を打ったのなら、まずは病院でしょうが!

執行人さん、はやくその子を病院まで連れてってあげてください。私たちはこの近くに住んでますんで、もしこの子の両親が来たら、私が病院まで案内しますよ。

わかりました、ではお願いします!
(無線音)

チッ……まさかセシリアが家を出るなんて、しかもよりによって執行人と出くわすとは……

パディア、どうする?

どうもこうもないでしょ。追うのよ、セシリアの安全を確認した上で……公証人役場から連れ戻すのよ!