7:25a.m. 天気/曇り
ロンデニウムから10km離れた荒地の車道

BSWの飛行装置は通信信号が最後に消失したポイントにある、ここから前方100mほどの場所だ。

俺が望遠鏡で具体的な位置を探すから――って待て、なに立ち上がってるんだ!?

煙の匂いだ、匂わねぇのか?

いや……

その手に持ってるガラクタを仕舞いな、飛行装置はすぐこの先にある。

敵の数は確認しなくていいのかよ?

最悪でも三十は超えちゃいねぇよ。

えっ、それも匂いで分かるのか?

なにバカなこと言ってんだ?出発する前に、モーガンから教えてくれたんだよ、アイツらの部隊人数は一般的に30人で編成されているってな。

ああ、そうだった、Miseryから届いた情報でも確かそう言っていたな。なら敵の習慣を見るに、付近にはきっとまだ二つの小隊が配置されてるはずだ、お互いを支援し合っている。

ヘッ、あの野郎ども、マジでここを自分のシマだとでも勘違いしてやがんな。

言っておくが、下手に動くんじゃないぞ。アーミヤからも言われてるんだ、ロンディニウムに入るまでの間は、騒ぎを起こしてはならない、色んな勢力から狙われているんだからな。

なあホワイトホール、お前あの子ウサギの部隊で、俺たちと一緒に動いてから何日経った?

本艦から出た日数も加えると、五日だな。

ならシージがグラスゴーギャングのとこに来て、俺のボスになるまでどれぐらいの時間がかかったのか、知ってるか?

……さあ。

二日だ。アイツは二日だけでボスに成り上がった。

初日、アイツは喧嘩(ゴロ)で俺に勝った。そんで二日目、俺たちは一緒にいけすかねぇリターニア野郎どもに喧嘩を吹っかけて、それで勝った。

その後はもう、一蓮托生の付き合いよ。

……お前との協力期間はまだそんなに長くないが、それでもお前の実力は信頼しているさ、インドラ。

ならいい。さあ行くぞ、ダグダに追いつかねぇと。

ダグダはもう動いているのか!?まさかさっき過ったあの黒い影が……

仲間に入りたてのころのアイツはまだ騎士の誉れだのなんだのを気にしちゃいたが、今じゃ誰よりも真っ先に突っ込むようなヤツになっちまった。

俺たちも急ぐぞ、でないと全部アイツ一人で片付けちまう。

ダグダは狙いが正確だからな、きっと飛行装置の側面から上に登るはずだ。だから俺たちは背後に回って、周りの連中を掃除する、そんで飛行装置内に突入だ。

了解した、援護なら俺に任せてくれ。

この喧嘩(ゴロ)が終わった暁にゃ、お前も俺たちの兄弟だな。

は……ははは。

ロドス風ではなんて言うんだったっけ……ああそうだった。

目標救出、ターゲットはロンディニウム市民一名と、BSW所属のパイロット一名。そして敵は――

――ダブリンだ。

おい、大人しく座っていろ、コソコソと発信機に触れるなんて考えは持つなよ。

こ、殺さないでくださいッ!手が痺れただけなんです、だからちょっと動かそうと……

あんま力みすぎるなよ、万が一この人を死なせてしまったら、帰りにどうやって上に報告するつもりだ?

忘れるな、我々の目標はこの人だ、この飛行装置の奪取はただのおまけに過ぎない。

お前、コイツの動かし方は知ってるか?

知らん。

じゃあなんで入った途端にパイロットを殺したんだ、お前は!私から言わせれば、こんなとこで油を売ってないで、とっととこの人を連れて帰ったほうがいい、飛べもしないこんなガラクタなんぞ放っておけ。

外の道を守ってるのは全員こちらの人間だ、もう少しだけ待っても別にいいじゃないか?市内にはサルカズ、そして公爵の軍も付属の区画に留まっている、こちらにちょっかいを出す連中なんざいないさ。

あ、あの、あなたたちはサルカズじゃないんですか?

お前の目は節穴か?私たちがあんな薄汚い連中なわけあるか!

う、薄汚い連中……ふふっ……あなたの言う通りです……

おい、尋問以外でこのロンデニウム人と会話するのはよせ。こいつはサルカズに歯向かう度胸がある、なら何かしらの素性があるかもしれん。

それもそうだな、少しは冷静になろう。お前もちゃっちゃと動いてくれ、私は外の状況を確認してくる。
(ダブリン兵Aが立ち去り、どこかで殴られ倒れる)

……

なんだ、さっきなんか騒がしくなかったか?

し、心臓があり得ないほどドキドキしていたんで……何も聞こえませんでした。

襲撃されているだと!?飛行装置の上にナニかがいる――M-709、外で確認したか?おい、M-709!?

黒い……かぎ爪?荒地に生息する獣か?

いや、違う!あれは――特殊武装だ!

総員に告ぐ、敵が飛行装置の上に隠れた!今……今頂上部をこじ開けて――
(ダグダが天井から下り、ダブリン兵Bに襲いかかる)

ぐわッ――!

私の一撃を防いだか。

情報は確かなようだ、お前は荒地にいる野盗の類じゃないな。ヴィクトリアはお前を育ててくれた、なのに裏切るのか、兵士?

ゴホッゴホッ……中々やるじゃないか。そういうお前は魔族連中に肩入れしているのか?

貴様ァ……!

その侮辱……こんな場面じゃなければすでに十回も貴様に決闘を申し入れていたぞ。

憶えておけダブリン兵、我々は必ず簒奪者共からロンディニウムを奪い返す。その相手があのサルカズだろうが、貴様ら裏切者だろうがな――

もはや貴様らが好き勝手できる時間などない。
(ダグダがダブリン兵に斬りかかる)

フッ……ははッ……なんだよそのサマになってない恰好は、お前貴族の者だな、まだ……生き残っていやがったのかよ。

どうやらお前も、このサルカズ共から逃げて来た臆病者を、こいつが持ってる情報を欲しがっているようだな――
(ダブリン兵Bがダグダから離れる)

……攻撃する相手を変えただと?

た、助けてくれッ!助けてくれェ!

その人に触れるな!

なっ……フェイントだと?

姑息な真似を!
(ダブリン兵がインドラに殴り飛ばされる)

ぐふッ!

これで何度目だ、ヤる時は相手の動きに気を配れって言ったろ。

……

来るのが遅いぞ。

こっちはお前のために外のゴロツキ連中を片付けてやったんだぞ?おいお前、コイツに教えてやんな、外は何人いたんだ、七人か、それと八人?

お前と競うつもりはない。

顔はそう言ってないようだがな。

あの時、俺たちが一緒に初めての任務に出向いた時だ、お前は一人の傭兵を取り逃がした、そんでその後に三日間も不貞腐れやがって、俺もモーガンもてっきりなんかヤベェ病気にでもかかったんじゃねぇかって心配してたんだぞ。

そん時とまったく同じ顔だ、バーカ。

……あの時取り逃がしたのは私の責任だ、それに、もうとっくに昔のことだろ。

ゲホッゲホッ……貴様ら……一体どこから来やがった?それにその黒い服の、貴族の騎士かと思ってたんだが、やり方がまるで……

町のチンピラ共と大差ない、ってか?ハッ、中々鋭いじゃねぇか。

時間が惜しい。こいつは中々腕がある、お前に倒された外の連中よりもよっぽど骨があるヤツだ。

サルカズと公爵軍の間で自由自在に動ける上、ロンディニウムに入るための部分的な要所も取り押さえている、ダブリンとてただの寄せ集めじゃないことが分かる。

だから急いで目標を救出し、安全地帯に帰るぞ。

わーったよ。“テメェらが好き勝手できる時間はねぇ”、だろ?

だが、まだまだ威勢にかけているな。

お前に教えてやったろ?そういう時はこう言うんだよ――

ベソかいて許しを乞いたいのなら、今のウチだ。

くッ……こちらM-701より支援を要請する……マンドラゴラ長官に……
(ダブリン兵が倒れる)
(無線音)

ダグダ、インドラ、敵が接近してきている、はやく撤退したほうがいい!

了解。

チッ、早ぇな。

偵察の担当はお前だったろ、見つからなかったのか?

かったりぃな、来るだけ来て片付ければいいだけだろ。

……ホワイトホール、すまないがお前は隠れていてくれ。入ってきた敵は、私とインドラが片付ける。

敵は中にいるぞ!

お二方、ど、どうか助けてください!またアイツらに捕まるのはもうゴメンです!

シッ、声出すんじゃねぇ、あっち行って隠れてろ。

おいダグダ、ターゲットを連れ戻すだけ、でいいんだよな?なら、このデカい鉄のガラクタを潰したって構わねぇよな?

そういうのは帰ってからシージに聞け。