うわあああ!エレベーターが落ちて――
も、もうちょっとで、お、俺の足が……
(マンドラゴラが石柱を浮かす)
……掴んでなさい。
私にじゃなくて、私の柱に掴んでなさいって言ったのよ!
このグズが……私まで巻き込まないでよね!あんたらを乗せたせいで、こっちは浮くことすらギリギリなんだから!
ちょ、長官……ありがとうございます……
次はもっとキビキビと避けなさいな、面倒をかけるんじゃないわよ。
長官、危ない!
(砲撃音)
これは……砲撃?
いや、一般的な榴弾砲より威力が段違いだわ……
……それに、狙ってるのはここの小さな範囲だけ?
……
マンフレッドぉ……最初からそのつもりだったのね!?
魔族のクソヤロウが、汚い手を使って!
(砲撃音)
全員、今すぐ手を止めなさい!あのサルカズならもう追わなくていい、それにあのドライバーは……
……もう死んだわ。
ツいてないわね、まったく……
……
中尉、あ、あれは一体……
(砲撃音)
…………
どうして都市防衛用の砲台が……
……ロンディニウムの防衛城壁はすでに建てられて七十年は経つ。
初めて見たわ……
壁にある防衛砲台が、市内に……狙いを定めたのは。
悪くない威力だ。
1割程度の火力だけで、こうもあっさりと一般的な構造を融解させられるとは。
……ロンディニウムの都市防衛兵器だからな。
だがこれはまだ副砲にすぎない。
こちらの兵器類のスペシャリストが言うには、仮に主砲であれば、どの高速戦艦の装甲であろうといとも簡単に貫くことができるとのことだ。
兵器類のスペシャリスト……あの都市防衛軍所属の工兵部隊の人か?
お前がヤツとヤツの妻と娘を捕らえてくれたおかげだな。
……彼はまだ生きていたのか?
サルカズの役に立つのであれば、死にはしないさ。
砲手、11号エレベーターを狙え。
(チャージ音と砲撃音)
……外したか。
惜しい、まだまだ精度は改善しなければならないな。
この砲台は本来、外に向けられて作られたものだから仕方がない。
外、か……確かに、我々がロンディニウムに入る前、この砲台は市外にいる大公爵の軍に狙いを定めていた。
我々が公爵同士の諍いを鎮める大義名分を掲げて市内に入った時、砲台は一度たりとも我々に照準を向けることはなかったんだが――
そんなものが外に向けられていると言えるのか?
ガリアは敗れ、イベリアが沈黙した後、ヴィクトリアはもう長い間、外敵と向き合わなくて済むようになったもんだからな。
ああ、そのために殿下は我々にこのチャンスを設けてくれた。
これほど立派に作られた兵器なのだ、ここで門の装飾品として飾られるのではなく、本領を存分に発揮しなくては宝の持ち腐れだ。
砲手、ターゲットの追跡モードを起動しろ。
よろしい、今度は上手くいったな。
(チャージ音と砲撃音)
この砲台たちの向きを揃えるだけでも、我々は一か月もの時間を費やしてしまった……
だがその努力も大方は報われた。
この兵器を手中に収めたということは、我々は正真正銘ロンディニウムの玄関口を掌握したということになる。
今後すべての砲台も調整し終えたら……もはや鉄筋コンクリートの草陰に隠れられる者などいまい。
どうやら砲撃はダブリンに引きつけられているらしいわね。
じゃあさっきのは……ただの試し撃ちだった?まさかあいつらの目的はただ単に検証したかっただけなんじゃ……
いや、あいつらの本当の目的はきっとここの出入り口じゃないはず。
中尉、どうしましょう?
……引き続き市内に向かって撤退しましょう。
ただ……サディオン区のほかの場所も、もう安全とは言えなくなったわね。
サルカズたちはロンディニウム市の掌握に急いでいる。あの砲台の照準が市内に向けられるようになったら、生きるも死ぬもあいつらの思うがままにされてしまうわ。
ただ……
何かお考えですか、中尉?
なんでもない。行きましょう、話はここを脱出してからよ。
ああもう!壁も大砲も鬱陶しいわね!
(マンドラゴラが石柱を生やし、砲撃によって破壊される)
長官、岩の柱がまた壊されてしまいました……
もう……速度が追いつかない!
なにボーっとしてんのよ、さっさと逃げなさい、足が動かなくなるまで逃げるのよ!
……私たちをここから追い出そうって魂胆?マンフレッド、よくも私を弄んでくれたわね、いつか見てなさい……
長官、見覚えのある人影を見かけました、私たちとは逆の方向に走っていきましたけど……
あいつ……あの茶髪のループスは……あいつだ!?
ヤツを止めなさ――ギャッ!
長官、危ないッ!!
(砲撃音)
あんたなにバカなことしてんのよ!?
長官、ここは私が盾になりますので、どうか、はやくお逃げください……あなたはまだリーダーに代わって……探し出す重要な任務が……
(ダブリン兵が倒れる)
……分かった。
あんたで十三人よ。
十三人目のターラー人の命。リーダーに代わって私が憶えておくわ、いつか必ず、この手で、あのサルカズに倍返ししてやる。
将軍、ダブリンの部隊が完全に瓦解しました。
こちらも確認した。
しかしまだレジスタンス共は発見できておりません……あのズル賢いクソ虫共め!ひょっこり顔を出したと思えば、砲台が起動した後にまたすぐさま姿を消しやがった。
まさか、もうすでにやられていたとか?
お前はそう思うのか?
いえ……あの連中がそう易々とやられるとは思いません。
分かればいい。
ではヤツらは人混みに混じったのでしょうか?巡査部隊に連絡し、引き続き一般人たちを止めて捜査に当たらせますか?
必要ない。
このまま検問所を砲撃し続けろ。そうだ、威力も上げておけ。
威力を上げるのですか?しかし検問所はすでにほとんど粉々ですよ、あそこにまだ誰かが隠れているとは到底……
ヤツらならもうここにはいないはずだ。それに、剣を半ばまで抜いて鞘に収めるサルカズなど見たことがあるか?
この際だ、やったからにはヤツらに見せてやろうじゃないか、我々はどこまでやれるのかを。
……わざとあいつらの前で力を誇示しているんだな。あいつらの退路を断ち、陰から追い出すために。
かくれんぼにしては時間がかかり過ぎたもんでな。私はまだ遊んでやれるが、いかんせん両殿下と諸王宮はもう待っていられないご様子だ。
誰でも構わんが、何か企んでいるのなら早めに手を打ち出してもらいたいものだよ。
ドクター、もうここに安全な場所はありません!
私たち全員がこの区画の下層に潜ったとしても……
(砲撃音)
……いつでも穴ボコにされちゃうよ!
軽く計算してみたんだけど、あの砲台が本気を出したら、アタシ達の頭上にあるこの外壁の基盤どころか、まともな移動都市の区画だって貫いちゃうよ!
シージ、キミたちロンディニウムの大砲はホントクレイジー極まりないよ!
……私もあれほど大規模に稼働したのは初めて見た。
じゃあアタシらってそれなりに歓迎されてるってことかな?
もっと熱烈な歓迎を受ければ、城壁から50km外にいても木端微塵になるだろうな。
うっ……
(砲撃音)
ああああもういい加減にしてよ――!
アーミヤ、この基盤を支えてるウチのドローンたちもそろそろ限界だ、このまま撃たれ続ければ、遅かれ早かれみんな仲良く木端微塵だよー!
どうにかしてここから脱出しないと。
ダブリンたちも最速で撤退していますね……けど彼らはアーツでの被造物で身を守っています、負傷した兵士は見捨てていますけど……
うぅ……ひっく……どうして私たちがこんな目に……
もしかして私たちはここで死ぬの?
ここにいるロンディニウムの市民たちを放っておくわけにはいかん。
(無線音)
偵察隊、砲手は見つけましたか?
見つからない、そうですか……
(砲撃音)
砲手ならおそらく見つからないだろう。
ロンディニウムの都市防衛砲台といま目の前にあるこの城壁は一体だからな。
……つまり、城壁に登ったり、あるいは内部に入らない限り、この砲撃を止めることはできない、ということですか?
・この砲撃に耐えながら登るのは無理だ。
・城壁内のルートがまだ見つかっていない。
でもここに隠れて続けて死ぬのを待つわけにもいかねぇだろ!
なんなら俺が砲撃を惹きつけてやろうか?俺なら少なくとも数分間は惹きつけられると思うが……
ダメだ。
……こいつ一人でダメなら、私も一緒に行く。
ふざけたこと言わないでくれる?ダグダ、インドラとつるみ過ぎて、あんたまでの脳みそが筋肉になってしまったわけ?
そんなことは……
誰かが餌になることなんて簡単な話よ、あんたらが今更ここで言い争ってる必要もない。
吾輩たちが持ってる今の防具じゃ、せいぜい軍が使用してるクロスボウの矢を多くて二発防ぐことしかできない、これでもエンジニア部の仲間たちが数か月頑張って作ってくれた防具なんだからね……
二人ともそんなに死に急ぎたいのなら、わざわざロンディニウムに来るまでもないわよ!
……
わかったわかった、言うことを聞きゃいいんだろ、だがこんなとこでヴィーナがやられるのはゴメンだ、俺は絶対イヤだかんな!
俺たちはまだ……我が家の玄関すら踏んでいないんだぞ!
(砲撃音)
・確かに君たちが出て行っても無駄だ。
・そういう話をするにはまだ早い。
ドクター、何か思いついたのか?
ドローンだよ。
ドローン……ほほ~う、なるほどねぇ……ふむふむ、やっぱりそういう理論で行くっきゃないよね~。
お前なに言ってんだよクロージャ?ドクターは確かに口数は少ないが、それでもかき消すんじゃねぇ、お前のさっきので全部持っていかれちまっただろうが!
ゴメンゴメン、策を練っていたんだよ。
この防衛砲台は中々なスマートな機能だね、こんな広大な射程範囲を持ってるんだから、完全に手動でいちいち狙いを定めてるわけがない、だからきっと何かしらの方法で地面付近を動いてるターゲットにロックオンしているはずだ。
一人や二人が惹きつけたところで、そりゃ照準をウチらの頭上から退けることはできないさ。
けどアタシのドローンを全部飛ばしたら、エイム機能は一般人の頭数も加わったアタシ達の小隊以上にドローンたちを脅威として判断するかもしれない……
結局もしもの話かよ。
そりゃ保証できる人なんていないからね!
(砲撃音)
クロージャさん、固定が外れてしまいました、ドローンたちが受け止められる重量の数値がオーバーしています!
このままだと30秒もしないうちに、基盤が崩れるかと……
もう試してみるしかありませんね。
全員ドクターの指示に待機して、脱出する準備をしておいてください。
5、4、3――
2――
今だ!
(ドローンが大量に飛んでいく)
ドローン発射ァ!
みなさん走ってください!
(砲撃音)
……成功、した?
これはまだ序の口だ、私たちは元いた場所からほんの少し移動しただけに過ぎない……ここの基盤構造も長くは持たないぞ。
それにもう次のチャンスなんてモンはなくなっちゃった、アタシの可愛いドローンたちはみんなペシャンコだ、いくらアタシでも一個一個元通りには直せないよ……
前も後ろも安全ではありませんので、砲撃されてる区域から脱出するには、相変わらず大きなリスクが伴いますね。
ここから回り道があればいいのですが……
道をお探しかい?
え?
誰だ!?
そこのコータスさん、ちょいと話をしましょうよ。
でもその前に、できればそっちの部下たちに武器を下ろしてくれねぇかな。
あなた――一体何者ですか?
自己紹介なら後してくれ。
鉤爪の、刀持ちの、それからその……えっと、ハンマーを持ってるレディのお方?かっこいい武器なんだが、今はオレの頭からそれをどけてくれないか?
……
さもないと、お前らのそのお友だちが危ない目に遭うかもしれないぞ。
――ドクターが!?
・え?なにが?
・……
・私のことか?
おっと、全員そいつに近づくんじゃないぞ。
一歩でも近づいたら、お友だちの後頭部がその場でキレイな花を咲かせることになるぜ。
あ、アーミヤ、ドローンだよ……!
みんな気付かないうちに、一機のドローンがコッソリとドクターの後頭部に回っていたんだ!
尖がり耳のお嬢さん、よく分かってるじゃないか。
実を言うとな、お前たちのことがかなり気になっているんだ。
……
みなさん、武器を下ろしてください。
うんうん、そう来なくちゃな。あと隅っこから狙ってるクロスボウも忘れずに頼むよ。オレがお前らの前に現れてから、そっちの狙撃手は一瞬たりとも瞬きしていないんじゃねぇのかな。
……彼の言う通りにしてください。
助かるよ。
――あの。
私たちは決して見知らぬ人に危害を加える者ではありません、どうか信じてください。ただし――
ただし今あなたの目の前にいるその人に危害を加えるものなら、武器に頼らずとも、私は今ここで、すぐさまあなたを半身不随にしてやれることもお忘れなく。
オホン……
うわあああ!もう危なっかしすぎるよここ!手を出す前にみんな吹っ飛ばされる可能性のほうが大だってば!
その通りだ、サルカズたちの汚ねぇ花火にされたくなければ、こんなところでお互いの眉間に指を差すヒマなんざないと思うぞ。
だからここは穏便に、抵抗を諦めて、オレと一緒に来てもらいたい。
ただ目的地に到着するまで、このお友だちは借りておくぜ――
・そりゃないだろ。
・……
・拒否権は?
すまなねぇな、しばらくお前に選べる権利はない。大人しくついて来てもらうぜ、顔無しさん。