7:17p.m. 天気/曇り
ロンディニウム、サディオン区、廃棄されたコール製造工場
ほら、さっさと歩け!突っ立ってないで働け!
今ここにある素材は今晩中にすべて加工して、列車駅に届けなければならないと将軍からの仰せだ!
うぅ……
泣くんじゃねぇ!サボるつもりか?ああ!?
ひぃぃ……お、お許しください……三日も寝ていないので、もう疲れて……イヤッ!
おやめください。
誰だテメェ、止めるとはいい度胸だな?
ハイディさん……
大丈夫、私の後ろに。
なるほど、テメェは二日前に来た新入りだな。前は……教師をやっていたのか?それとも記者か?
まあなんだっていい。どうせヴィクトリアから生まれた穀潰しなんだからな。
その口当たりのいい言葉ならテメェらのお貴族サマと商人にでも取っておきな、サルカズにそんなものは通用しねぇぞ!
(サルカズの戦士がハイディを殴る)
ゲホッ……ゲホッゲホッ……
ち、血が!
今すぐ私や私の仲間を殺したいのなら、どうぞお好きに。けどお忘れなきよう、ここにはまだ百をも超える目があなたを見ておりますのよ。
……なに見てやがんだッ!
彼らはみな、あなたがどう私を殺すのかを見ているんですよ。
たかが捕虜なんぞに俺たちがビビるとでも思ってんのか?
無論思ってませんとも。けど仕事は人を待たない、違いますか?そちらの将軍様はこの素材を今晩中に加工させないといけない、そう仰ってましたものね。
フッ、ならテメェ二人の死に様を見せれば、こいつらも少しは気力を出してくれそうではあるな。
……明日に我が身がどうなってしまうのかを知ってしまった人間が、人生最後の夜を敵の武器製造に費やすはずもないじゃないですか、そんなこともお分かりでなくて?
なっ……!なんで明日のことをテメェが……
それに、今晩だけは必ず私たちを生かしておかなければならないのでしょ?
……
おい、ありゃ煽ってるだけだ、言っちゃいけねぇことまでも口に出しちまうようなバカな真似はすんじゃねぇぞ。ほら、さっさと行こう、こっちもやらなきゃならねぇ仕事があるからな。
オレに指図すんじゃねぇ!
おいおい、衣装を換えただけで偉くなったつもりでいるのか?この前ヴィクトリアの残兵にやられた時に、ずっとママ~って叫んで逃げ惑ってたヤツはどこのどいつだったんだろうなぁ?
お節介が過ぎるぞ傭兵、さっさと消えろ。いつかはその口数の多さでテメェの首もポロっと落ちちまうだろうよ。
ならそれはいつも俺の耳元でうるさくしてるヤツのせいだな。昔の俺はこんなお喋り野郎じゃなかったんだぜ、本当さ。
こっちは忙しいんだ、テメェら傭兵に構ってる暇はねぇ。運がよかったなテメェら、もう数時間ぐらいは生かしといてやるよ。
テメェら……特にテメェだ、余計なことはすんじゃねぇぞ。
……
いいかよく聞け!サルカズは暇人に用はねぇ、働きたくないヤツからぶった斬る、分かったか!
わかったらとっとと働け!
(サルカズの戦士が立ち去る)
これでしばらくは無事ね。
ご、ごめんなさい、ハイディさん、私のせいで怪我を……
平気よ、ちょっとお召し物が汚れてしまっただけです。
ハイディさんっていつも落ち着いてますね……一緒にいるだけで、とても安心できます……
では、もう一回だけ私を信じてくださいますか?
部屋に戻って、ご友人たちと一緒にいてあげてください。サルカズたちはまだあなた方の腕を必要としていますからね、そうそう傷つけたりはしませんよ。
あの傭兵たちも……
俺たちも野次馬になってないで仕事にかかろう、今夜はそれだけで手一杯なんだからよ。
でも……
“でも”も“もしも”もねぇ、あの兵士たちの言うことを聞けってヘドリーから言われたろ?
いつまでも壁と睨めっこすんな、ここは出入口から一番遠い、ムシ一匹すら入りやしねぇさ。だってこの壁――
(サルカズ傭兵Aが壁を叩く)
――こんなにも頑丈なんだからよ。いいから行くぞ。
7:27p.m. 天気/曇り
ロンディニウム、サディオン区、地下構造空間
ほらほら、ちゃっちゃと進め!
指揮官に報告!三番隊、準備完了しました!今、九番出入口の安全を確認しています――
クリア、通行可能です!
……
ロックロック、なんで来たんだ?お前傷がまだ……
隊長、復帰を要請します。
でも指揮官が……
……ビルが連れて行かれた、アタシを守るために……彼が殺されそうになってる状況で、横になんかなれないよ。
……
オレが助け出す、約束する。
お前らからすれば、オレは隊長としてまだまだかもしれなぇが……
ビルがここにいたら、立派に隊長してるって、きっとそう言ってくれると思うよ。
彼はずっとキミを信じているから。それにアタシたちも……信じてる。
信じてる……か。
けど今回の任務は今までオレたちが裏でコソコソやってきた救出任務とワケが違う。
もしかしたら大勢のサルカズ兵と正面から戦って、かつてないほどの危険に晒されるかもしれねぇ……
なあロックロック、お前が自救軍に入って来た頃、確かお前はまだ中学を卒業したばっかの、機関車で石炭を入れる機関助士の娘だったな。
キミもただの職人だったけどね。
ハッ……そうだな。
サルカズたちはオレたちをレジスタンスって呼ぶが……そんなわけねぇ。オレたちはただのロンディニウムの一般市民だ。
そうね、普っ通のロンディニウム市民。
実はアタシ、指揮官が言ってた理念とかあんまり憶えてないんだ。家族に生きててほしい、それを考えるだけで精一杯だから。
ねえフェスト、本当はアタシ、サルカズが怖いの……
でも、キミたちがアタシの見えないところで死んじゃうのがよっぽど怖いよ!
分かってるよ、ロックロック……オレも怖いさ。死ぬのが怖ぇし、なによりお前らを巻き込ませてしまうのが怖ぇよ。
ふぅ……はは。
なんか、喋ったら色々スッキリしたな。
そんじゃ出発だ、一緒に行こう。
……ドクター。
私とインドラは自救軍と共にここを守る、ダグダとモーガンならすでにアーミヤのところに行ってるはずだ。
・別々での行動とは珍しいな。
・何かあったのか?
やはり、お前にはお見通しだな……
だが大したことではない、遅かれ早かれケリをつけなければならないことがあったんだ、それが今になっただけさ。
・全員の期待を背負って進むのは、疲れるぞ。
・こっちから何か伝えておこうか?
……
(無線音)
各位、準備はできた?
そちらはついさきほど目標地点から一番近い出口に到達したわ。でもそこから製造工場までは、まだ地下街を二つも通らなければならない。
こちらの二個小隊はすでに位置についてる、彼らがみんなの道を確保してくれるわ。
では今後の指揮はあなたに任せるわね、ドクター。
(無線が切れる)
クロウェシア……中々の采配だ。彼女もアーミヤも、みんなの期待を背負っている。
ドクター、実はここに来るまでの間に色々と考えてきたんだ。まだ私には分からないこともあるかもしれない。
だがこれだけは、どうしても私自身でケリをつけなければならない。一番親しい仲間をも止められないのなら、私がここに戻って来た意味などないだろ?
ドクター、フェストさんから連絡です、すでに地上に到達してるので、すぐ合流してほしいとのことです――
・こっちもそろそろ出発だ。
・ロンディニウムの空気が楽しみだ。
ああ、こちらも支援の用意はできてる。
はは……私もだ
お前たちの……無事を祈ってる。
7:55p.m. 天気/曇り
ロンディニウム、サディオン区、廃棄されたコール製造工場の東出入口の外
ブレイク、前方の状況を報告して。
(無線音)
オールクリアです。
ロッベンは?
狙撃隊も位置についてます。
よし。敵の数は?
こちらで目視できる限りでは十二人、全員サルカズ兵です。
敵指揮官の位置はわかる?
まだ判明できていません。
ではこちらが合図を出すまで、引き続き警戒を怠らないように。
(無線が切れる)
8:09p.m. 天気/曇り
ロンディニウム、サディオン区、廃棄されたコール製造工場
ぐああああああッ!
ぜぇ……ぜぇぜぇ……あぁ……
……ベニーさん、あちらの部屋にいるのは?
えっと……午後に連れて来られた自救軍の戦士です。
拷問を受けているのですか?
サルカズは自救軍の情報を欲しがっていますからね。あの戦士さんも……きっと長くはもたないと思います。
どうかもう少しだけ耐えてくれますように、そうすればきっと……
……ヤツらは来たか?
まだ動きは見えていません。
では引き続き見張っておけ。
ヘドリーに任せた捜査はどうなっている?
各工場に収監してるこちらの捕虜なら傭兵たちが見張ってくれています。傭兵の心身疲労に加えて、こちらの捕虜の数も少なくないので、一人ひとり調べるとなれば時間がかかるかと。
それとこの中にいるヤツも中々しぶとくて、まったく情報を吐いてくれません……
そうか。最後まで拷問にかけておけ。それでも何も得られなかった場合は……
またボクの出番ってことかい?
なっ――!き、貴様――!
――剣を仕舞え。
しかし将軍!なぜこいつがここに!?
お前は外を見張っていろ、ここは私が片付ける。
わ、分かりました……くれぐれもお気を付けください!
(サルカズの戦士が走り去る)
……
どうせ彼らに斬られたところでボクたちはなんともないよ、キミだって分かっていたんだろ?
閣下……これ以上私の戦士たちを脅かすようなことはご遠慮頂きたい、みなはち切れんほど神経を張り詰めておりますので。
わかったわかった、こっちも急ぎたかっただけだからね。だってほら、中にいるあの人、もう息してないもん。
……となれば、ちょうどいい頃合いにお越しくださいました。
……工場南の担当者は誰だ?
シュワブの小隊です、ボス。
シュワブか……五年前から俺の部隊にいる古株だな。
……
まさか……足元の影に気を付けろとはそういう意味なのか?
……シュワブたちの現在位置を確認しろ。いや、今すぐここに呼べ。
ねえベニーさん、工場の周りがなんだか静かになってません?ここを見張ってた傭兵たちも、どこかへ消えていきましたね?
そうですね、人っ子一人いない。
傭兵たちの動き……なんだか怪しいですね。
そんなの最初からじゃないですか。人を殺したと思ったら仲良くしたり、仲良くしたと思ったら殺される、そんなヤツらばっかですよ。
……そう仰らないでください、あえて挑発するつもりならともかく。
すいません、ハイディさん……でもここに半月も閉じ込められていたら、イヤでもサルカズを憎んじまいますよ。
謝らないでください、誰も責めたりしてませんから。あなたはもう十分頑張っていますよ。
そうだ、それともう一つ、今日の昼にやって来たあの傭兵のボス以外にも、あのサルカズの将軍も来ていましたよ。
……マンフレッドですか?
彼もここに来てるなんて……しまった。
どうしました?
これは罠です。クロウェシアさん……そのほかの人たちもが危ない……
指揮官が今日にも動くかもしれないって?ならどうにかして彼女らに知らせないと……くそッ……でもこの壁の外に情報を伝える手段なんて……
……
いいえ、指揮官たちもきっと想定してると思います。もしかしたら……これはチャンスにもなり得るかもしれませんね。
ベニーさん、ほかの皆さんにも知らせてください、こちらも行動も前倒しにするかもしれないって。戦闘員は全員、備えていてください。
しかし、工場を出られたとしても、門外は厳重に守られてますので突破は無理ですよ……
……ならここに集まりましょう。
ある傭兵が教えてくださいましたからね、確かこの壁はとても……安全だと。
8:45p.m. 天気/曇り
ロンディニウム市民、サディオン区、廃棄されたコール製造工場南の壁外
もう少し~……もう少しだけ高く~……よし、この位置なら大丈夫かな、うん……視界はバッチリっと。
クロージャさん、何か見えましたか?
うーんとね……入口が三か所と、どの入口にも三十人以上が守りについてるかな。
東の入口と南西の門はどちらもサルカズが守ってるね……あっ、でも衣装が違うから、たぶん傭兵かな。
それと北にある正門を守ってるのは……ダブリンだ。
あと団地内に少なくとも巡回部隊が五六個いるね、工場の間を行ったり来たりだ……
あれっ、ちょっと待って……南、つまりアタシらの一番近くにある壁、がら空きじゃん。
がら空き?
守る側からしたらここに部隊を配置してもおかしくないんだけどなぁ……なんだか人がぽっかり消えたみたいにがら空きだよ。
・罠かもしれないな。
・中に協力者がいるのかもしれないな。
ドクター、このまま計画通りに進みますか?
君はどう思うんだ、アーミヤ?
……ハイディさんの救出は必須です。それに、なるべく早く中央にも行かないといけません……ですから……どうであれ、ここで時間を無駄にするのは得策ではないとか。
自救軍はどう思う?
今回の作戦指揮はあんたに任せられてるって指揮官からそう教えてもらってるからな。
アタシたちにも助け出したい人がいるの。
ドクター、お前がどう指揮を取ろうがオレたちはオレたちなりに行動させてもらいたい、って言いたいところだが……三部隊の兄弟たちが今言ったように、今の総指揮官はお前だ、お前の指示に従うよ。
分かった、では予定通り計画を続行する。
・モーガン隊は、東口を頼む。
・自救軍の三部隊は、それぞれ北門と南西門の攪乱を頼む。
・クロージャは引き続き偵察と支援を頼む。
了解、ドクター。ほらダグダ、行くよ。
了解した。行くぞ、行動開始だ!
がってん!任された!
アーミヤ、ほかの人たちにも連絡を入れてくれ。
ほかの人たち?ほかにも地上で行動してるロドスの人がいるのか?
そうなんですよ、フェストさん。だから私たちが今晩作戦行動に出たことを知らせるために、向こうの味方に連絡を入れようと思います。
けど向こうの位置は確認できていますか、ドクター?距離が足りないので確認できていないはずですよね?
そうだぜ、近くにはいないって言ってなかったか?もしかして、ドクターにはなにか特別なアーツがあるとか?
・いいや、PRTSが見てくれる。
・そうそう、実は私、透視できるんだ。
ぴーあーる……ってなんだ?なんかのアーツなのか?
おいおいドクター、こんな時に冗談か?
きっとなにかしらの特殊なデバイスかなんかを持ってるんだろ、表示画面がついてるタイプのさ!
っとまあ、増援が来るってんなら、オレたちが外で待っておこうか?
大丈夫ですよ、こちらと合流する必要があると向こうが判断した場合でも、私たちが入った後になるので。
じゃあどうやって入るかの問題をまずは解決しないとな……
ドクター、どこから入ればいい?
南から入ろう。
でもそこは外壁が……
あっ、そっか。
クロージャさん、フェストさん、あの外壁を超える手段はありませんか?
爆弾で吹っ飛ばすってのはどう?ちょうど新しい爆破装置が完成したんだよ、ロンディニウムの城壁はさすがに無理だけど、コイツなら多分いけるんじゃないかな……
あー……いや、それでも難しい。
ロンディニウムにある工場の外壁はどれもある程度の防爆処置が施されているんだ、内部から吹っ飛ばさない限り、爆弾は使えそうにないと思うぞ。
そっかぁ……じゃあ威力を増やしてみるのは?
……それだと目立ってしまうので却下です。モーガンさんたちの努力が無駄になってしまいます。
それもそっかぁ……は~あ、それならモーガンたちに少しは持っていってほしかったなぁ。
ジップラインはどうだ?オレもロックロックも巡回部隊を避ける時によく使ってるし。
ジョニー、ちょっと装備を持ってきてくれ――
了解だ隊長。ふ~、無駄に背負ってきた甲斐があったぜ。
念には念を、だろ。
それじゃあ、アタシはロック5号でロープの固定を……
あっそうだ!これ渡すの忘れてたよ~!
(ロック17号が飛んでくる)
これは……ロック17号?なんでキミが……
君たちが地面から這い出てる間にこっちは残業してたせいで渡せなかったんだよね~!ほら見て、色々と調整しておいたからきっと上手くいくはずだよ、クロージャ印の安心保証付き!
あっでも、アタシの保証なんていらない、よね……
オホン、あー……オレもチェックしてみたぜ、めっちゃいい調子だったよ。
この耳って……
あっそれ?ついでだから付けておいたんだ、クロージャ産のドローンはみーんな付けてるからね!
……
やばッ、もしかしてイヤだった?イヤなら外しても……
ううん、いい。
……
ありがとう。
おっ、ドローンは一件落着ってことでいいんだな?そんじゃあドクターはオレが連れて行くから、ジョニーとガビは自分らで来てくれ。そんでロックロックは……アーミヤを連れてってくれないか?
……わかった。
よし、そんじゃ牽引装置を発射してっと――
狙って、ロック17号!
(ジップラインを飛ばす)
固定完了だ!
ロックロックさん、よろしくお願いします。
ドクター、しっかりオレに捕まってろよ。壁は高くないけど、飛び上がる際の力はそれなりにあるからよ。
・やはりこうなるのか……
・……
・いつなったらこの運命から逃れられるんだ?
では皆さん……用意はできましたか?
チャンスは一度っきりかもしれないので、用心してください――
ではカウントダウン!3、2、1――上昇!
(発射音)