ドクター、様子がおかしいです、さきほどのサルカズ兵たちはまいたはずですよね……
・続々とやってきているな。
・まるでこちらの居場所がバレてるようだな。
クロージャさん、こちらの通信回線がジャックされてる可能性は?
アタシがわざわざ回線装置に防止処置を三重も施してるからそれはありえないよ、アーミヤちゃん!サルカズ側にそんなテクがあったら、ロドスはとっくにテレシスに百回は攻め落されているってば!
……クロージャさんの言う通りかもしれませんね、ドクター。
だとしたら向こう側は、きっとなんらかの方法でこちらの居場所を特定してるのかもしれません……
アーミヤ、もうすぐ合流地点に到着だ!
六番隊と合流できりゃ、地下で待機してくれてる引き継ぎ部隊と連絡が取れる。それに地下に潜れば、これ以上サルカズたちに追われることも……
……そこの中継地点にはもう行かないほうがいい。
え?そりゃなんで……って待て、シージ!?なんでここにいるんだ?
……
六番隊は……
六番隊がどうした?それになんだよその顔は……おい、インドラ、お前手に血が!?
六番隊は……全滅した。
全滅って……そんなバカな!六番隊は後方で待機してくれてるんだろ、なんでサルカズとかち合ってんだよ?
今はそれを考えてる暇はない。
ドクター、六番隊が全滅した原因だが……我々が見てきたあのサルカズ兵たちの仕業ではなかった。
それはつまり……
六番隊を全滅させた者は、とても恐ろしいアーツを使用していた。亡くなった現場は……さながら屠殺場だ。多くの戦士たちは武器すら手に持っていなかった。
それは本当にアーツの仕業なのか?
にわかには信じられねえ!
俺が見たのは赤いムシみたいなものがそいつらの胸元を引き裂いたとこだ。ヴィーナ、お前だって見ただろ、ありゃアーツじゃねえ、バケモノだぜ!
……
……只者のサルカズではないことだけは確かですね。
撤退するルートを変更しましょう。フェストさん、ほかに撤退できる道はありますか?
ある。だがあそこに俺たちの仲間は待機しちゃいねえ、万が一サルカズ兵にでも遭ったら……
また苦戦を強いられるだろうな。
(爆発音)
遮蔽物に隠れて!
ホルンさん、ありゃ何なんですか!?
あのサルカズは爆弾でも投げ込んでるんですか?爆弾らしき物体なんか確認できていませんよ――
……あれはアーツよ。
上だ、気を付けて!
あれは……見えたぞ……頭上で赤いナニかが一瞬だけ煌めいた!
後退ッ!退けッ!
(ホルン達の前に雷が降り注ぐ)
この落雷みたいなモンがアーツだって言うんですか!?
なんて恐ろしいんだ、魔族め……!
まだ隠れたままでいるつもりか?
お前が言う戦いとは、そんな風に地面を這いつくばることではないはずだろ、白狼?
(マンフレッドが空に赤い光を生み出す)
今度は上空に赤い光が五本も現れたぞ!?
ホルンさん、このままじゃ反撃なんて――
いいえ、できるわ。
いくら強力なアーツを使えど……所詮彼も人よ。
過去のヴィクトリアは、どうやって次々とサルカズに打ち勝ててきたと思う?
それって……
弾薬ははまだ残ってるわよね?
じゃあ私が行く、援護して。
了解!
抵抗と言うには名ばかりだな、取るに足らない――
今だ……チャンス!
(ホルンが走り去る)
アーツが発した衝撃の余波に紛れて逃げるつもりか?
そうはさせんぞ。
(爆発音)
――!
(ホルンがマンフレッドに突っ込む)
……言ったでしょ、兵士たちが生きてる限り、私は倒れるわけにはいかないって。
やはり私の見る目に狂いはなかった、白狼。よもや逃げずに突っ込んでくるとは。
しかし惜しかったな……
(斬撃音)
――がはッ!
サルカズは、なにもアーツだけを武器にしてるわけではないぞ?
この剣一本でも――お前たち全員を屠ることは可能だ。
私に勝つことは……簡単かも、しれない……
けど私を倒したければ……そう簡単には、いかないわよ……
勇敢だな。
だが感謝しよう、その勇敢さのおかげで、私も早急にこの戦いを終わらせられるのだからな――
(斬撃音)
直剣が刺さんとするその瞬間、マンフレッドの目の前にいた兵士たちが忽然と姿を消した。
ホルンもまた、まるで身体が溶けたかのように彼女の背後にある壁へ溶け込んでいった、僅かな痕跡すら残さずに。
見ないアーツだ……
周囲を警戒しろ!
(アーツ音)
……何もないところから短刀が現れただと?
いや違う、これは“何もないところ”から現れたのではない……
(短刀がマンフレッドを襲いかかる)
いい反応だな。
反応できていなければ、胸にまた穴を一つ開けることになるからな。
目標を捕捉した!ヤツを狙え!
(サルカズの戦士が斬られ倒れる)
は、速すぎる!撃っても当たらないぞ!
盾だ、とりあえず盾を構えろ、※スラング※、こいつ瞬間移動でもしてるのか!?
(サルカズの戦士が斬られ倒れる)
瞬間移動?アーツを発動する際の痕跡すら見えないとは……そんなアーツがあるものか!
それとも……ただの目くらましか?
ヤツに惑わされるな!全員、一斉射撃だ、狙っていようがいまいが構わず撃て!
目の前でこれだけの数に狙われていれば、逃げられるはずもない!
(マンフレッドがアーツを放つ)
当たった……のか?
死体は確認できていません、将軍。
ただ地面がすでにズタボロですので……これ以上どこかに隠れられるはずもないかと。
……
将軍、後ろです!
(斬撃音)
私ではお前を殺せないとでも思ったか?貴様が近づいてくるのであれば、こちらとて刃は届くぞ!
そうかい?
マンフレッド、さっきはいいことを言ったじゃないか、だが……半分不正解だ。
半分?
サルカズは、なにもアーツだけを武器にしちゃいない――
――が、得物だけを武器にしちゃいないのも、またサルカズだ。
ぎゃあああ!
地面があり得ないぐらい柔らかくなってる!それに――く、空気が人を食ってやがる!刀が、刀が握れねえ!
将軍も、地面に沈んでいますよ!?
……全員無闇に動くな、慌てるんじゃない。
これはヤツの短刀が産み出したアーツの現象だ、ただのアーツに過ぎない。
冷静な判断だ、部下を救う……いい将軍じゃないか。
だが……
(マンフレッドが剣を振り回す)
……うぐッ!
地面が……胸元まで……
剣が……
お前の剣術なら、俺の攻撃を止めることなど造作もないだろ。
だが力めば力むほど、地面に飲み込まれちまうぜ。
こんな結末は……イヤだよな?こんな自滅するような結末は。
ごふッ……ゲホゲホッ……
マンフレッド将軍――!
来るなッ!全員その場でいろ!
イヤならお前の部下みたいに、動かなきゃいい。
……それでみすみす貴様に心臓を貫かれるのを待てと言うのか?
そう簡単にお前は殺せないさ。
ごふッ……フッ……
なるほど、私を殺すつもりはないのだな?
まさかアスカロン以外にも、ロドスにまだ腕利きのサルカズのアサシンがいたことはな。
俺はアサシンなんかじゃないさ。
必要がなければ、俺だってサルカズなんかに刃は向けたくないもんでね。
ならなぜ我らサルカズの敵に肩入れしているのだ!
ヴィクトリア人は全員敵……とでも言いたいのかい?
そうは言うがな……俺は、自分ん家の土地で生き残るために必死に藻掻き苦しんでる、満身創痍な兵士たちしか目に入っちゃいねえよ。
むしろサルカズを全世界の敵に仕立ててるのは、お前とテレシスのほうじゃないか。
以前からつくづく貴様らと話してみたかったと思っていたんだが……
その初対面が戦場になってしまったとはな、誠に遺憾だ――
――ロドスのエリートオペレーターよ。
……
また消えた?なっ、地面も元通りになったぞ!
あと少し……
あと少しでヤツを捕らえられた。なんとも奇怪だ……我々の神経を弄くって幻覚を見せる類のアーツではなかった。
地面に残ってるこれは、エネルギーが変化させられた後の痕跡か?だとすればまさか……
将軍、全員いなくなっています!あのヴィクトリア兵たちも――
フッ……私とゆっくりお喋りして時間稼ぎしていたのは、あの重傷の兵士たちを一人ひとり救出するためだった、というわけか。
それで……どうしますか?追いましょうか?
追いつくと思うか?
あと少し――あのような実力を持つ術師からすれば、“あと少し”とは絶対的な失敗を意味する言葉だ。
畜生!本当なら今日ここであの反抗勢力を一網打尽にできたはずなのに、傭兵共の裏切りとワケ分かんねえ術師に邪魔されて全部失敗に終わっちまった!
ロドスがこの戦局に……加わったからだろうな。
我々は敵対勢力を一網打尽にするチャンスを失ってしまったが、それは向こう側も同じこと、ヤツらもどれだけの損失を蒙ったのだろうな?
本来なら潜伏できていたはずだっただが、日の目に晒されるハメになってしまった。戦力が露になったことを言えば、ヤツらにとっても戦術的な大損害だろう。
アサシン、空間の幻術を操る術師、そして未だに顔を見せないバンシィ……ロドスはあと、どれくらいの手札を握っているのだろうな?
なにか策がついたのですか、将軍?
……行くぞ。ロドスを相手する前に、まずはあの落ち着きのないピエロたちを片付けよう。
(マンフレッドが立ち去る)
一先ずここまで来れば安全だ。
……ここは、工場団地の外にある街道?
ナイフで空間を……切り開いた?
あんまり目を過信するんじゃないぞ。目は空間以上に騙されやすいからな。
……
またあなたに、助けられてしまいましたね。はっきりとは目では憶えていませんが、それでも私の直感があなただと教えてくれます。
一体、あなたは誰なんですか?
Miseryだ。ロドスのMisery。
ロドス?
ごめんなさい、あまりロドスのことは……
いいさ、いつかはあのバグパイプから教えてもらえるかもしれないからな。
バグパイプ?
彼女は今じゃ俺たちの同僚みたいなもんでな。
それに……俺の親友の、最期にできた友だちらしいじゃないか。
聞く限り、こちらは色々と情報を逃してるようですね。
バグパイプの名を聞けて嬉しく思いますが、その前にもう一度あなたとロドスに感謝を述べさせてください。
それはここを離れてからにしな。これからいくらでも会えるんだからよ。
おそらくマンフレッドは俺のアーツの本質をほぼ見抜いてるはずだ。いつでも追ってこられる。
……いや、あいつならきっと今は別の用事で大忙しのはずですよ。
ダブリンのことか。
ならヒロック郡のマンドラゴラは……もうこの工場団地から出られそうにないな。
……
]戦友たちに直接復讐してやれなかったって後悔してるのか?
いいえ……ただちょっと、悲しく思えただけです。
彼女を殺しきれず、ここで悔やんでる自分に対して……
そしてもうとっくに救いようのない……彼女に対してもね。
おっかしいわね、あんたあいつらと約束したんでしょ?ここで待ち合わせだって。
確かにそう――ごはッ!
(矢がダブリン兵に当たりダブリン兵が倒れる)
なっ――
サルカズ!サルカズです!はやく逃げ――
(矢がダブリン兵に当たりダブリン兵が倒れる)
……まさか私たちの居場所が、バレた?
これじゃダメだ、“スパイ”、逃げるわよ――!
あの10m先にある扉からここを脱出しなさい!たかが10mなんだから、すぐに……
わかっ……分かった、逃げよう……
また昔みたいに一緒に逃げましょ、あんたが私の手を引っ張って、あの貴族のボンボン共から逃げた時のように。私たちは足が速いんだから、きっと逃げ切れるわよ……
立ち上がれ石像!あいつらの攻撃を防ぐのよ!
(岩像が攻撃を防ぐもすぐに崩れる)
クソッ!こんな時に限って役立たずね、あんたたちも!
マンドラゴラ……
なによ、喋らないでって言ったでしょ!
俺はもう無理だ。お前だけでも逃げろ。
なに言ってるの……?私がこれまでこんなに働いてきたのは、全部……
……俺を助けるため、それともリーダーに功績を認めてもらうためか?
そんなのどっちも一緒よ!いいから“スパイ”のあんたは黙ってて!あと5mだから、外に仲間たちが待機してくれてるから!
そいつらならいねえよ。
へ?
マンドラゴラ……俺たちはとっくに……リーダーに見捨てられたんだ……
(複数の矢が襲いかかる)
“スパイ”!!!
クソ、クソォ――!おい石ころ、あいつらを貫け、あのサルカズたちを貫け!
(岩像が攻撃を防ぐ)
大丈夫よ“スパイ”、ちょっと矢を一発受けただけだから……あと3mよ、死んでもあんたを――
……俺のことはもういい。
そんなこと……
もし逃げきれたら……
リーダーのところには……絶対に行くな。
(ターラー人の密偵が倒れる)
……“スパイ”?
なにコロッと死んじゃってんのよ……ちょっとぉ……
キリアン、ねえキリアン……このクソ野郎!ここで死ぬなんて許さないわよ!いいから起きて、目を覚ましてよ!
そう喚くな。
万事休したな、マンドラゴラ。お前にもすぐそのターラー人の友人に会わせてやろう。
……
はっ……アハハハハハ!
マンフレッドォ……これで十一人分の命の借りができたわね。
せっかく……せっかくあんなにたくさんのサルカズを殺してやったのに!
……そういうところだぞマンドラゴラ、お前はここで死なねばならん。
フンッ、ちょうどいい……自分たちから墓穴を掘りに来てくれるなんて。
一人残らず……すり潰してミンチにしてくれるわ!