
状況は?

――D区及びC区の被害甚大、ほかの区域の上層構造区画層も差があれど一律に損害を受けています!

重傷者は現時点で発生していませんが、十九人が軽傷を負いました。

指揮官とドクターの指示の通り、大半の人員は事前に安全な区域まで移しております、指示に従っていなかったらどうなっていたか――

いいえ、だとしても安全だとは言えないわ。

今は区画全体が危険に及んでいる……我々の拠点が完全にサルカズ側にバレてしまっているんだわ。

我々が潜めなくなるまで、向こうは徹底的に砲撃を行ってここを更地にするつもりでしょうね。
(構造物が崩れる音)

時間的な猶予はあとどのくらい?

30分だよ、いや、もっと短いかも。

ここら一帯の区画は経年劣化で古い上に、以前見たあの都市防衛砲台の威力、その威力が最大限発揮されていると考慮すると――

30分もしないうちに、うちらの上にある上層構造が全部吹き飛ばされちゃうよ!
(構造物が崩れる音)

ハマーに連絡、直ちに列車を稼働させて。

列車、ですか?

あなたたちも見たと思うけど、ここから数キロ上のところに列車駅があるの。

てっきりその駅はすでにサルカズに占領されたと思ってました……

奪われたら取り返すまでよ。

現時点で我々のほか区画への撤退ルートはすべてサルカズに遮断されている、あれがサディオン区を離脱するために残された最後の希望よ、失いわけにはいかない。

ハイディ、サディオン区を離脱した時点での、サルカズの目を掻い潜る方法はあるわよね?

ええ、この時のためにずっと用意しておりました。

カモフラージュと援護をしてくれる仲間たちが次の駅で待機しています、私たちが中央区に侵入するまで支援してくれるでしょう。

結構。

ただ現時点での一番の問題は、どうやって無事列車に乗り込むかってことね――

……

クロウェシア、ここから城壁はどのくらい離れていますか?

地下の通路を使えば、とても近い距離にあるわよ。

では地下から城壁へ上がれるかどうか試してみましょう。

アーミヤ、それってまさか……

ロドスが時間を稼ぎますので、自救軍は急いで撤退してください。

目標区画の全入口を封鎖し、列車駅の監視を強化しておけ。これ以上ヤツらをドブに潜らせてはならない。

地上に動態トラッキングを設置しろ。もし地上に上がって搭載装置を使用するものなら、より強烈な砲撃をお見舞いしてやれ。

城壁内部の防衛も強化しろ、どんな隅も見逃すな。

……それと、砲台がほかの者たちによって停止させられては困る、防衛砲台のすべての制御権限を私に移せ。

いい心掛けだ、慎重に越したことはない。

テレシス様!?なぜこのような場所に……

もうしばらくすれば、あの鬱陶しいムシ共も日の下に姿を晒すことになる。そうすればロンディニウム中に点在する反抗勢力も横行することはなくなるだろう。

何より、目の届かない箇所を走り回るネズミ共もいなくなる、喜ばしい限りだ。その際は外にいる公爵の部隊に“清掃を終えた”という一報を送ってやろう。

これで我々を阻む者はすべていなくなったも同然だ。

しかしだマンフレッドよ、あまり気が乗らないようだな?祝って然るべき出来事だ、私と一緒に祝ってはくれないのか?

……

おふざけが過ぎますよ、王よ。

へぇ?キミも進歩したものだね、今回は会話を五回重ねただけでボクたちがテレシスじゃことがバレてしまったとは。

王よ……殿下ならきっと気にかからないと思いますが、そのお姿を聴罪師に見られてしまえば、またあなたの行動を制限するよう殿下に言い付けられてしまいます、お控えしたほうがよろしいかと。

分かった分かった、言う通りにするよ、軍事委員会の最高意思決定権を持つ者が二人もいてはならないものね――

それじゃもっと楽な恰好に変えておくよ。

……王宮議会の際のお姿をお見せ頂くとは、珍しいですね。

死者の顔は用いらない、そしてキミとキミの戦士たちを脅かさない、そう約束したじゃないか。

予定よりかなりお帰りが早いですね。

レジスタンスの巣窟を見つけ出して頂けたのはありがたいのですが、それでも未発見の退路はまだいくつか存在してるはずです。

もしこのままヤツらの後を追跡していれば、最悪逃げられたとしても……

あのドクターがいる中でずっと隠れられるわけがないだろ?

何よりだ、マンフレッド、キミは誰の許しを得てボクたちに指図しているんだい?

……

大変失礼致しました、ご無礼をお許しください。

あのアルゴスみたいな話し方もやめてくれ、言っただろ、腰を低くしてもボクたちは動かないからね。

仰せのままに、王よ。

ではこうもお早くご帰還されたということは、地下で何かご覧になられたのですか?

そうだねぇ……あの“魔王”のことだけど、想像よりも強かな子だったよ、全然未熟だけど。

あの子、まだ自分が何と直面することになるのかが分かっていないんだ、もっとあの子のことが知りたかったけど、もう一人の殿下に会わせてからじゃないと無理かな。

……今の話、くれぐれも聴罪師に聞かれてはなりませんよ。

聞かれたらどうなるのさ?

シェイプシフターたちの王宮には揺らぎがある……と思われてしまいますので。

そんなこと、ボクたちが気にすると思う?

約束した仕事は片付いけておいたんだから、残りの締めはキミとブラッドブルードに任せるよ、頼んだからね。

あっそうそう……もし次もチャンスがあった場合なんだけど、その際はまだ生きてる人間に化けさせてほしいかな。

ヴィーナ、アーミヤとドクターならもう出発したよ。

そうか。

自救軍たちも上にある駅に向かっているね……

はやくはやく、遅れないように!

彼らが駅を奪還した後は、まず負傷者と非戦闘員たちを優先して乗車させる。

ホワイトホールさん、医療オペレーターの皆さんと一緒に動けない負傷者を見てやってもらいますか?それと皆さん、通路両側にある信号に気を付けてくださいね、はぐれないように!

大半の指揮を任されてる者たちなら負傷者や一般市民と一緒に移動する、あの子を除いてね――

全員撤退通路に入った?
(構造物が崩れる音)

上層構造区画の耐久度が低下!指揮官、あなたもはやく離脱してください!

全員撤退したのを確認したら行くよ!

十二番隊、状況報告!

もうこの地下はいつ崩れてもおかしくありませんよ、それでも敵が入り込んでくるんですか?

いいから報告!
(構造物が崩れる音)

ヴィーナ、吾輩たちもホワイトホールたちについていく?

いや、私たちは残ろう。

残る?クロウェシアと一緒に撤退するってことかい?

予感がするんだ……きっと彼女も同じのはず。

今頭上で轟いてる砲撃が、我々の一番の難敵ではないのかもしれない。

……都市防衛砲台が……

ええ、また稼働しました!今度は城壁から一番近い区画を狙っています、ですのここは比較的安全かと……

だとしても油断は禁物よ、ここら一帯が安全だって保証は誰にもできないんだから。

逃げろ!はやく逃げるんだ――

娘は、私の娘は……誰か私の娘を見ていませんか?

危ない!
(砲撃音)

直ちに一番頑丈な建物の中に避難――いや、なるべく城壁から逃げてください!

わ……わかりました……

今のは……ロンディニウムの都市防衛砲台からの砲撃だわ。

状況を見るに、暫くもしないうちに区画がぶち抜かれるわね、もしかしたら一番底の基礎構造区画も破壊しかねない。

サルカズ共め、最初からこれを狙っていたんじゃ……?ヤツらはこの都市を木端微塵にするつもりか?

いいえ、ヤツらは少数の砲台を稼働させただけ、きっと明確な砲撃目標がいるはずよ。

きっとあれは私たちと……私たちの仲間を消し炭にするためなんだわ。

クソッ、ホルンさん、どうします?

昨日私たちについてきた兵士たちの中に、何人かはここの都市防衛部隊に所属していた人たちがいたわよね?

私のところに集合するよう召集をかけて、一番いい装備を着るように。

――サルカズから城壁を奪還する時が来た、そう伝えてちょうだい。

もう少しこの先を進めば到着だ。

気を付けて!ここでつまずいちゃ危ないよ――

大丈夫?

ハッ……これが大丈夫なように見えるか?

うん、だよね。

アタシもね、すごいやらかしたことがあったんだ、信じちゃいけない人を信じたってやらかしを。

それから一か月あまり、自分の足を止めちゃダメだ~!って、ずっと自分に鞭打ち続けたんだ。

足を止めたら、なんだか……その、アーミヤちゃんと顔を合わせられなくなるぐらい、申し訳ない感じがして……

そうだったのか……だが戦争はまだ終わっちゃいねえ、今ここで反省会を開いてる暇はねえぞ。

みんな息抜きすら許されてねえ状況なんだ、オレだけ過去を悼んだり自己否定するような贅沢なことはできねえよ。

フェストさん、よかったらケアしてあげましょうか?私なら感情を宥めてあげられますけど。

感情を宥める?それもなんかのアーツなのか?

まあ、そんな感じです。

お前はいつもそうやって……自分の仲間たちにメンタルケアをしてやってるのか?

必要とあらばそうしますけど……

そうなのか、えーっと……

・誤解しないでくれ、アーミヤはただ心配してるだけだ。
・アーミヤはみんなが無情な戦闘マシンになってほしくないと思ってるだけなんだ。

フェストさん、もしかして勘違いさせちゃいました?

オホン、いや、そんなことはないぜ、ただアーツは本当に不思議なんだな~って。

ロンディニウムみたいな大都市に生まれたけど、まだまだオレの知らないことばかりだ。

ありがとうなアーミヤ。でもオレはまださっきのあの出来事を忘れたくはないんだ。

そんじゃあ引き続き働いてもらうよ~?

おうよ。

それでちょっとドローンを飛ばして、今アタシらの頭上にあるこの防御構造区画層を調べてみたんだけど……すごく分厚くできてるね。

砲撃で貫かれる可能性は?

低いかな。ロンディニウムの都市防衛機能がどれもあんな簡単に突破されるようなものなら……アタシらはとっくザ・シャードまで乗り込んでるよ。

・君ならできるよ。
・クロージャならできると信じてる。

信じてくれるのは嬉しいよドクター、労働搾取するにはもってこいの口説き文句だね。

それでね……うん、スキャンしてみたらエレベーターを見つけたんだけど、ちょうどいい穴というか隙間というか、それを見つけてくれたら、アタシがドローンをそこに突っ込ませて、エレベーターの制御システムを乗っ取ってやれるんだけど……どうかな?

まあまずは隔壁を超えないと話にならないんだけどね、あの隙間をどうにかできればな~……

ドクター、ここはやっぱMiseryに連絡を入れて来てもらったほうがいい?

彼には別の任務があるんだ。

そっか~、じゃあサボれそうにないね。

そこでロンディニウム生まれのネイティブさん、何かヒラメキはない?

支柱かなんかの構造物があったら、隙間をこじ開けられなくもないな……

……何者かが高速でこちらに接近中!

まさか、私たちが城壁に登ることをサルカズ側は予想していた?

もうあれこれ考えてられないから、ドローンに爆弾を積んで吹っ飛ばしてみるよ!

フェスト、適切な射出位置を計算しておいてね、今はなるべく爆弾でこじ開けられないかやってみるしか――

来ます!

……ヘドリー。

また会ったな、ロドスの指導者。

Wさんは……

彼女の話を聞く暇はあるのか?かなり急いでると話には聞いてるが。

あなたたちの間の因縁も、チェルノボーグやScoutさんのことも……今は聞かないでおきます。

けど傭兵さん、もし今どうして私たちの前に立ちはだかるというのであれば、容赦なく斬り捨てます。

あの殿下の継承者に手にかかって死ねる、傭兵からすればある意味栄誉だろうな。

アーミヤ、やるならさっさとやった方がいいよ!

今さっき、アタシが仕掛けた爆弾がカウントダウンを始めた――

1分だよ、多くても1分だけだからね!

ヘドリーは私に任せ……

いいや、アーミヤ、この傭兵はオレに任せろ。

フェストさん?

支柱ならもう見つけた。それにいいアイデアがあるんだ、使えるかどうかはまだ分からねえが……でももし成功したら、一気に城壁まで登れるはずだ。

お前のことは憶えているぞ、若き戦士よ。

その表情も、憶えている。お前も知ったようだな、自分がどれだけのモノを失ったのかを。しかも迷っているじゃないか、本当にこの方法でいいのかと。

迷ってる?

そうかもな。だがいくら時間があったとしても、オレは人殺しなんかと言葉を交わすつもりはねえんだ、すまねえな。

こっちを見やがれ――!

……またスモークグレネードか?

腕一本動けなくはなったが、それでもそんな小道具じゃ通用しないぞ
(ヘドリーがグレネードを真っ二つにする)

さあ来いよ、サルカズ、オレを殺してみろよ!

お前のその剣で、刀で、持てるすべての武器でオレを殺してみやがれ――!

俺を引き剥がそうという算段か?あまり賢明な策とは思えんな。

蛮勇では奇跡は起こらんぞ、身の程を知れ。

いくら部下と一緒に阻んでこようとも、俺に勝つことはできないさ。
(ヘドリーがフェストに斬り掛かる)

くっ……

逃げる様がますますみっともなくなってきたな。助けがなければ、すぐさま血を流して死ぬことになるぞ。

とはいえ、お前は所詮ただの製造職人だったな……お前もお前の部下も、レンチとハンマーを振ることしか知らない、そんなザマで戦争を百年も生き抜いたサルカズの剣を止めるつもりか?

向こうにいる魔王に助けを求めるといいさ。彼女ならお前を助けてやれる。

……魔王だぁ?

何を……言ってやがるんだ…

サルカズ……ロンディニウムに戦火をもたらしてきたのはテメェらのほうだろうが……

となれば、これはオレとお前らの戦争だ!

あと30秒!

アーミヤ、エネルギーを充填しろ。

ドクター、捕まってください!

フェストさん!ロープの固定を――

傭兵……これがなんだかわかるか?
(ヘドリーが投げられたものを切り捨てる)

……今度はなんだ?またヘンテコなものを持ち出したところで、俺の目は誤魔化せられないぞ。

そうだ、そのまま――

もっと力を込めて斬ってこいやァ!
(ヘドリーが投げられたものを切り捨てる)

これは……ハガネガニ?ロボットのおもちゃか?またつまらん小道具でやり過ごすつもりだな?

小道具なんかじゃねえよ、そいつはオレが一番大事にしてあるものだ、それを今、お前は奪った。

オレにはいつだって仲間がついてきてくれてるんだよ、独りなんかじゃねえ……

ビル、またお前に助けられちまったな……おい傭兵、お前の猜疑心のおかげで色々と助かったぜ。

俺の猜疑心だと?なっ……

俺の攻撃を利用したのか――!

ぷっ……ぷはは!ようやく気付いたか?

お前はオレに斬りつけるたびに、失敗と滅びに一歩一歩向かっていやがったんだよ!

アーミヤ、ヘドリーの剣撃のおかげで構造区画層に道ができたよ!

ほら、はやくあそこを狙って!すぐ爆弾が爆発しちゃうよ!

3,2――
(爆発音)

くッ――

こじ開けた――この隙間なら入れる!ドローンちゃん――!

よし、エレベーターの制御機能を乗っ取ったよ!

ドクター、上がります!

フェスト!はやくロープに掴まって、アタシらもついて行くよ――

逃がすかァァ――!

クロージャ、まだ爆弾はあるか?

あるよ、受け取って!

貴様らァ……

……ご協力感謝するぜ、傭兵さん。
(爆発音)