もはや残り数人といったところだな。
以前の戦いで私を止めたければ、ヴィクトリアは少なくとも蒸気騎士を二人向かわせる必要があった。
しかしお前たちときたら――
所詮はただの雑兵だ。
――陣形を維持!
まだ盾にエネルギーはある、私と動きを合わせて!
狙撃手、火力支援をそのまま維持、敵を牽制して!
了解!
言ったはずよ――いくら強くても、彼とて人の身体をしたサルカズの感染者に過ぎない、アーツにも限りがある!
アーツを使わせて私の体力を消耗させる算段か?
しかし私が疲弊した際は、お前たちもすでに灰となっていることだろう。
(マンフレッドのアーツ音)
がはッ!
ブレイク!
ホルンさん、どうか私の剣を――
――ありがとう。
兵士たちは倒れてもなお、お前に希望の眼差しを向けるか。
その輝き、もうとっくロンディニウムから消え去ったと思っていたんだがな。
しかしだ、その微かな輝きもいつまで続くかな?
ホルンさん、危ないッ!
(マンフレッドのアーツ音)
……ロッベン?
ハァ……ゴフッ……死は恐ろしくありませんよ……ロンディニウムの地に……帰れるん、ですから……
……
サルカズぅぅぅぅぅッッ!!!
(複数の爆発音)
……一度に残った弾薬をすべて吐き出したか?
素晴らしい。私の歩みを止めたのはお前が初めてだ。
だが、ここでチェックメイトだ。
仲間たちが一人ひとりと倒れていく様を見て、お前も戦意を喪失してしまったのではないか、白狼?
……
リタ。
君がお父様に失望した気持ちは分かる。
ああ、我らには戦士の血が流れているものだからな。
しかしヴィクトリアが蒸気機関車を発明し、また数十年後にその蒸気の技術を捨て去るのと同じように――
今日のヴィクトリアは尊ばれる王冠を外し、もはや私や君の曾祖母のような戦士を必要としなくなったのだ、殺戮をもたらす戦士をな。
そしていつしか、白狼も追随したパーディシャの獅子と共に、ついには歴史の朧気な影となる。
君のお父様はそれを見て、一族が時代の波に取れ残されないように、己が爪を鈍へと削り取ったのだ。
だが君は違う。
君は変わりゆくヴィクトリアに生まれ、育った。
リタ・スカマンドロス、君はもうアスランのために戦へ赴く必要はない。
根を張るのだ、ヴィクトリアこそが君の故郷なのだから。
サルカズ……あなたたちが私たちの街を占領し続ける限り、私は戦い続ける。
私もヴィクトリア人も思いは同じ、あなたを倒す。
その無用の長物と化した盾でか?
盾が使えなくとも、私にはまだ剣がある。
剣……フッ、至極平凡な剣だな。
そのような剣で私と相対すると?
ハッ……私もこいつも、舐められたものね。
あなたの記憶に刻まれた蒸気騎士たち……
ヴィクトリアが彼らのために作られた鎧を脱ぎ捨てた後……
彼らとて――
私たちと同じ、ヴィクトリア人だッ!
(ホルンがマンフレッドに斬り掛かる)
俺たち……入り込んだのか?なんで壁がこんなブヨブヨに……
だよね、ついさっきまでアタシの脳みそが危うくロンディニウムの城壁で花開くのかと思ってたよ!
Miseryさんのアーツによるものですね、クロージャさんも安心してください、彼らには傷一つ付けさせたりしませんよ。
ああ……お前の脳みそはロドスの重要財産だ、ケルシーからそう言われてる。
いやアタシの腕も同価値ですけど!
いやでも、もうこんな体験しちゃったら君にヒッチハイクを頼む気もなくなったよ……ブレイズに抱えられたほうがまだ快適だもんね!
でしょ、ドクター?
・まだマシなほうだろ、その間君はずっと手を動かしていたのだから。
・ブレイズのほうも快適とは言えないが。
助かったMisery、しばらくは休んだほうがいい。
そうですよ、Miseryさん、私見えていましたからね……危うくマンフレッドに斬られるところだったじゃないですか。
ありゃ咄嗟の斬撃さ、殺傷力はそれほどでもない。
お前があいつを煽ってくれたおかげで、こっちもお前たちに接近できた。あいつが言った通り、同じ手は二度も通用しないからな。
わざと煽ったわけじゃないんですけどね……
確かに彼から怒りは感じてましたよ、私を問い質していた時に。あの怒りは私に向けられたものでした。
もしマンフレッドが全力を出していれば、あそこに残った兵士たちじゃ長くは持たないだろう。俺がはやく支援に……ゴホッゴホッ……
Miseryさん、あのヴィクトリア兵たちを助けに行きたい気持ちは分かりますが、今日みたいに連続して大規模な物質転換アーツを使用したせいで、体力の消耗が激しすぎます、休んだほうがいいです。
……安心してくれ、アーミヤ。
俺はそんなコロッと死ぬようなヤツじゃないさ。それにケルシーとも約束してるからな……
約束って……あなたたちエリートオペレーターは、もう十分すぎるほどケルシー先生と約束を交わしてるじゃないですか、それでもまだ足りないと?
はやく応急薬剤を打ってくださいね。ロンディニウムの戦いは始まったばかりなんですから、また人目のつかないところで、一人で勝手に吐きかけた血を飲む込むMiseryさんなんてもう見たくありません。
それよりアーミヤ、敵が接近してる。
アーミヤ、彼らを止めるんだ!
フェスト、ロープを六本ほど縛ってくれ。
クロージャ、爆弾を仕掛けに行くぞ。
分かりました、Miseryさんがせっかくロンディニウムの都市防衛システムの弱点を見つけてくれたんです、その努力を無駄にしてはいけません……私たちで必ずこの制御室を破壊しましょう。
素早いな――これがお前の本来の力か、白狼?
かような鋭い爪と牙を持ちながらも、ヴィクトリア貴族の作法儀礼に飼いならされるなど……お前は本当にそれでいいのか?
……そのセリフそっくりそのまま返してやるわ、あなたのその礼儀とやらも、文明によって包まれたものじゃないのかしら?
昔のあなたたちはそんなお淑やかな連中じゃなかったって聞いたけど?
(ホルンとマンフレッドの剣が混じり合う)
お前がいくら全力を出そうが、私を殺すことは叶わんさ。都市防衛システムが稼働し続ける限り――
いや待て、白狼、お前もただの時間稼ぎなのか!
貴様――またロドスの肩を持ったな。
貴様はヤツらの正体を分かっていないのか?ロドスを導いてるあのコータスは……
(マンフレッドがホルンを押し出す)
……彼らがあなたを止めてくれる、私が知ってるのはこれだけよ。
(ホルンがマンフレッドを押し返す)
白狼、仮に貴様らが作戦を成功させれば……この城壁が崩れ行く様を目にすることになるぞ。
本当に貴様はそれを望んでいるのか?永久に堕ちぬロンディニウムの神話もその時に終わりを迎えるぞ――
……終わりを迎える?
なら、あなたがここに立ってる時点で、その神話も……たかが見てくれだけの笑い話だったってことになるわね。
クソッ!もし外にいる大公爵共に気付かれてしまったら――
あら、ようやく焦った顔を見せてくれたわね?
じゃあ私の選択は正しかったってことかしら。
もしこの壁の存在意義が……壁内にいるヴィクトリア人たちの阿鼻叫喚を遮ることにあるんだとしたら、もうとっくに最初に建てられた時の意義はなくなってるわね。
だったらなおさら大公爵たちにも聞かせてやろうじゃないの!
よく耳を澄ましてみることね……私たちの同胞がいかにしてあなたたちの虐殺に泣き喚いているのかを!
(斬撃音)
あの……あとどれぐらいすれば出られるんですか?
(崩壊音)
ひぃぃ……こ、ここの通路も崩れるんじゃ……も、もう私たちはみんな、ここでおしまいなのよ……
足元は見ないようにしてください、振り向いてもダメですよ。
どうしても怖いのなら、目の前の道だけを見て進んでください。
信号はまだ灯っています、私たちの戦士たちが灯してくれた希望の灯りが。
その灯りが徐々に光を取り戻した時……私もまたロンディニウムの太陽を再びお目にかかれるはずです、ですので頑張りましょう。
(爆発音)
クソ、サルカズ側の火力が高すぎる――
ロックロック、このままじゃ列車に近づけられないぞ!
……
(爆発音)
砲撃もまったく止む気配がない……下の連中が大丈夫なのか?俺たちに残された時間もあとどのくらいある?
クソッ、指揮官からの連絡も途絶えちまってる……
アタシは……アタシの家族を信じる。
それでアタシはここまでやってこれたんだから。
(シージ達の走る足音)
クソが、まだしつこく追ってきてやがる!
ねえインドラ……あいつの歩く速度、見た?
わざと歩く速度を落としてるみたい、まるで……まるで吾輩たちにもっと逃げ惑ってほしいかのように……
なんなんだよその変態な趣味は……
ふむ……貴公らの呼吸と心拍数を聞くに、とうとう疲れてしまったのかな?
貴様がしでかしている虐殺とも言うべき行為……それがサルカズの栄誉というものなのか?
もはや戦いですらない。
……戦い?
なにやら誤解しているようだな。
“魔王”がこの場にいないとなれば、もはや私と相対する者もいないというわけだ。
貴公は獣どもと栄誉なんぞを語ったりするのか?狩るための刺激をもたらし、ついにはディナーの前菜として登場するだけの獣どもと。
我々はただの獲物……と言いたいのか?
個人の趣味趣向のために殺戮を行うなど、サルカズとて野蛮極まれりだ……
貴公らが持ち合わせているその文明人として態度で私を推し量るな。最上の侮辱として見なすぞ。
薄汚い瓦礫によって肉片に潰される前に、私に抗ってみるといいさ。
貴公らの恐怖、悔しさ、憤怒……貴公らの血と共に、それらもまとめて吸い取って差し上げよう……さあ、存分にその感情を私にぶつけるがいい!
ヴィーナ、はやくこっちに――
いい。
冗談言ってる場合じゃないよヴィーナ!
モーガン、お前は下がっていろ。
ッ……
一人でヤツに歯向かうつもり?
……そうだ。
敵わない相手よ。
知っている。
一瞬に引き裂かれ、自分の血肉がこの配管の地味なシミになってとしても、逃げないつもり?
お前たちが私よりもはやく逃げてくれれば……私も逃げるかもな。
それはなぜ?
なぜなら……
いや、なぜも何もない。私がそうしたいからだ。
私が率先して抱擁してやりたいのだ、頭上で崩れ行く都市を。
そう、だったら…
配管内にある信号灯がなにやら少しだけ光を増したようだ。
目が疲れているのか?なぜロンディニウムの地下に光が灯っている?いや……地上にいようと、私たちは暗雲の後ろに隠れてしまった星の輝きを見なくなって、どのくらい経ってしまったのだろうか?
シージは瞬く。
そして忽然と理解した、あれは星の光ではない。
あれはボタンだ。
本来なら泥がこびり付いていたが、それも今では揺れによって振るい落とされ、光を発している。そしてシージはそれがなんのボタンなのか知っていた。
三歳の頃、彼女は初めて宮殿の地下へと連れて行かれた。
彼女の師が彼女を背に負い、大きな掌で彼女にボタンを押させた。
そして、ロンディニウムの地下空間は己が筋骨を広げ、未来の王に熱く鼓動する血管を露にした。
それから二十数年後に――
彼女はもう一度、そのボタンを目にしたのであった。
電子回路が束になってる箇所全部に爆弾を仕掛けておいたよ!
ドクター、こっちも撤退の準備ができた!
ここだ、ここにいたぞ!はやくあいつらを止めるんだ――
(アーツ音)
くっ……
アーミヤちゃん!?しまった、どんどん敵が集まってきてる……もしかしてMiseryが間に合わなかった?マンフレッドがこっちに向かって来ているんじゃ……
私が彼らを足止めします、あなたたちははやく!
ドクター、その起爆装置を私に――
ダメだ。
私がここで敵を止めないと、ドクターたちは撤退できないんですよ!
無事撤退できたのを確認したら、私がこの制御室を起爆して――
ダメだ。
もうこれ以上は待てないんですよドクター!私たちだけじゃありません、自救軍たちも、ヴィクトリアの兵士たちも、それからハイディさんやシージさんたちも……
砲撃を受けているヴィクトリア人全員は、もう待ってはいられないんです!
(アーツ音)
アーミヤ、私の手を掴め。
いつ起爆スイッチを押すかだけ教えてくれ。
ドクター……!
(黒いアーツ音)
ゴホゴホッ……黒い線があちこちを覆って……周りが見えねえ!
今です!
(爆発音)
ドクター、どうして……私の前に立つような真似を……?
そうしたかったからさ。
でも私はもう……あの頃の弱い子供じゃないんですよ……
もうドクターの足は引っ張りません。アーツも爆炎も防げるぐらい成長したのに。
知ってるさ。
今のアーミヤはすごい、もしかすれば私よりもすごいのかもしれない。
だが私に選ぶ機会が与えられたのなら……
ドラコの炎、あるいはこの爆炎と対峙することになっても……
私はそうするさ。
ドクター……
ふぅ……捕まえたぜ二人とも!
ドクター、お前の腰にロープを六本縛ってくれって言ったのはこの時のためだったのか?
ちょいとばかし動きにくいかもしれねえけど……まあいいや、どうせ普段のお前もあんま動けるタイプじゃないし……
さあドローンたち、飛んだ飛んだ!
へへ、驚いちゃったかなドクター?君の要望にお応えしてついに――ドローンに滑空機能を付けておいたよ!
航続距離はそこまでじゃないけど、それでもせめてアタシ達を安全に着地させるぐらいのことならできるさ――
ではそろそろもっと大きな爆発を起こしてやろう。
(崩壊音)
バカなッ、制御室が――!
やった……のね……
(斬撃音)
ッ……
貴様……本当はとうに力尽きていたのではないのか?剣を振ることすらままならないそのザマを見れば……
なのに……力尽きてもなお立ち上がってくるとは。
貴様が受けてるその傷……ほかの者であれば、十回は死んでもおかしくない傷を貴様を負っているのにッ!
……今更気付いたの?遅いわね。
……
将軍、制御室の爆発で砲台にも影響が!砲台と繋がってる城壁の箇所がひどく損傷しています――
このままでは全員下へ真っ逆さまです!
……総員撤退だ!
しかしあの兵士がまだ……
……ヤツならすでに敗れている、倒すには一工夫必要ではあるがな。
だが今はもうヤツに構ってる暇はない。
フッ……はは……
ヴィクトリアの白狼、貴様は尊敬に値する相手だ。
もしこの城壁から生きて帰れたのなら――
その時は我が剣で貴様に授けよう……勇敢なる戦士の死をな。
(マンフレッドが立ち去る)
次、ですって……?
次……そんなの、私にあるのかしら?
ロンディニウムの城壁が崩れていく。
彼女もまた落ちていく。
あなたたち……やってやったわよ。
あなたたちが……去っていくまで……
私は……倒れ、な……
流血で彼女はほぼすべての知覚を失いかけた。
しかし彼女の身体はまるで剣と盾の一部になったが如く、鉄よりも硬く、そして打ち砕かれない限り、決して曲がるもない。
ヴィクトリアが打ち出された刃は、今もなおロンディニウムの城壁を守っている。
ヴィクトリアが産み出した戦士たちもまた、ロンディニウムの城壁を守り続けていく。
城壁の一角がロンディニウムの地に落ちていくと共に――
彼女もまた、生まれ育った地へと戻っていくだろう。
この壁……えらく高いわね?
なんで私……
……上に向かって落ちてるの?
ホルンさああああん!私の手に掴まってください!
……ロッベン?
あなた……死んだんじゃ……
ええ、死んじゃいませんよ!運がよかったんです、落っこちましたけど、外壁の構造物に捕まった後、またMiseryさんに助けてもらったんです!
さあ、手を伸ばしてくれ兵士さん、お前の戦はまだ終わっちゃいないぞ。
……フッ、あなたたち、少しは私を休ませてくれたらどうなの?
それはできません!
ホルンさん、目を閉じないでください!あなたの兵士たちはまだここにいるんですから、だから倒れちゃダメです!
ロッベン、あなた……なんだか私の部下の一人に似てきたわね。
でもまあ……最初からじゃじゃ馬で聞く耳持たなかったんだし、言っても仕方ないか。
ホルンの視界が回復していく。
目に映ったロンディニウムの城壁は依然とそこにあった、最上部が微かに欠けてしまってはいたが、それでもその佇まいは堅牢無比だった。
(崩壊音)
……何の揺れ?
とうとう地下空間が砲撃で崩れちまったのか?
いや違う。
この揺れは足元からだよ――
ヴィーナ、あんた何かしたの?
……逃げ道を見つけた。
この通路……上に上がっている?
そんなバカな、なぜそんな仕掛けがあるんだ?ずっと地下に潜っていた俺たちでさえ見つかっていないなんて……
……一部の“ネイティブ”は、いつだってほかのネイティブよりも物知りなのよ。
……
あのバケモノ……
まだ俺たちを追いかけて来るのか?
……来る。
だが今日ではない。
ほう、新たな逃げ道を見つけたのか?
ふむ……いやはや、どうりで。
この匂いは……そのフェリーンものだな?
ふん……しょせん王族とは、権威を固めるため作られた偽りの存在に過ぎん、この国の文明同様、実に滑稽な存在だ。
貴公があの時の逃げ回っていた子獅子なのか?まあ、貴公の血の味もほかのフェリーンとさほど大差はないがな。
だがこの匂いは明らかに違うものだ……
ふむ、実に面白い。
果たしてテレシスはこのことを知っているのだろうか?
確かめさせはせんぞ、もうお前にその術はないのだからな。
ほう、これは……
貴公のことは憶えているぞ。確か……テレシスの傍にいたあの学徒だったかな。しかし残念かな、貴公の師がかかってきても止められる私ではない、ましてや貴公ひとりなど。
ヤツはもはや私の師を名乗れる資格はないさ。
おや?
この呪術の気配……貴公も来ていたのか、バンシィよ?今も城の中で私の従者たちと遊んでいたのかと思っていたぞ?
三流アーツを扱う者ども風情が、我の足を止められるわけもなかろう。
やれやれ……これは参ったな。
こんないつ崩れてもおかしくない場で王たちが集うものではないぞ。
彼奴はもはや我を眼中に収めておらぬのか?我がテレシスから学を授かったこともなければ、我の身に高貴なる血も流れておらぬがゆえに。
ホントこの鬱陶しいジジイには困っていたところだったわ。爆弾百個でこいつの歓迎パーティを開いてあげるつもりだけど、構わないわよね?
……状況を報告しろ。
ロドスの連中が制御室から飛び降りました、あのコータスがいたせいで、狙撃もままならず――
地下にいるレジスタンス共は?
それが、地下で爆発を観測しまして……大君様もまだお帰りになれておりません。
ヘドリーは?
ヤツなら重傷を負って、意識が昏迷してる状態にあります。
……
残った人員をかき集めて、直ちに都市防衛システムの検査にあたった後、損害を報告しろ。いつでもより多くの砲台を稼働するための備えをしておけ……今度ばかりは主砲の使用も辞さない。
その他の人員は列車駅を包囲しろ。生き残ったレジスタンスは必ずそこから脱出するつもりだ。
その……斥候から報告がございまして、レジスタンスとは違う別勢力が列車駅に急接近していると……
……
あまり自責することもありませんよマンフレッド、もうすでに十分よくやってくれていますから。
なぜ、あなたがこんなところへ――
ロックロック、城壁を見てみろ――
防衛砲台が……停止した?
下に連絡を入れて!
おい見ろ、みんなが上がってきたぞ!
……おいおい、サルカズもこっちに押し寄せてきやがったぞ!
ヤツらを止めるんだ!皆殺しにしても構わん!
諦めないで!このサルカズたちを撃退すれば、列車を動かせる!
逃がさんぞ!
(斬撃音)
うぐッ――
(爆発音)
なんだ?なぜ向こうにもレジスタンス共がいるのか?
えっ?
……援軍?
北側で何者かがサルカズの包囲を突破したらしい!
しかしあいつらは誰なんだ……誰が呼んできたんだ?
まさか俺たちが以前中央に増援を要請した時に送り出したトランスポーターが生きていたのか?
サディオン区の同志たちよ、よくやってくれた!
ここからは、専門家である我々に任せてくれ!
(爆発音)
あいつらおっぱじめやがった……なんか俺たちよりも戦い方がサマになってないか……
あれは……ロドスのオペレーター?
――
ヤツらを各個撃破しろ!
自救軍が地下から安全に撤退できる道を作るんだ!
狙撃手、あそこにいる通信兵を狙え――
了解だ、モンタギューさん!
……モンタギュー?
聞いたことがある名前だな、もしかして新聞とかに載ったことがある貴族とか?
そんなことより、今は集中して!
(ドローンがアーツを放つ)
向こうが誰であれ、私たちの心強い味方だ!
道が開いた!はやく、みんなを列車に乗せて!
うぅ……ハイディさん、私たちやっと地上に上がれたんですね……
ええ、だから言ったじゃないですか、戦士たちが必ず期待に応えてくれるって。
……あれは、彼女の仲間なのね。
では私たちのトランスポーターは無事彼女まで連絡が届いたのでしょうか?
正確に言うと、ロドスのトランスポーターね。
ダグダだ!おい見ろ、ダグダだぞ!
あいつ……
……ああ。
人混みの中にいるダグダも彼女たちと目に入った。
取り巻くサルカズを跳ね除け、一心不乱に通路の入口まで駆け寄り、煤や塵を被った仲間たちに手を伸ばした。
(ダグダがシージ達に駆け寄る)
もう……間に合わないんじゃないかと心配していたんだ。
いいや、よく間に合ってくれた。
お前の帰りに遅れなどないさ、みんなそう思ってる。
この野郎、テメェな……なにあっさり消えちまってんだよ、おかげで一発殴り損ねたぜ!
すまなかった……今なら殴ってくれても構わん。
ねえヴィーナ、あんたダグダが帰ってくるのを分かっていたんでしょ?
……ああ。
けどインドラにそのことはだんまりと、まあ分かるよ。もしダグダが帰ってこなかったら、今頃このバカは貴族の傭兵に助けられても受け入れられなかっただろうね。
俺に文句を言ってねえで、手を動かして敵を倒したらどうなんだ!
……手なら動かしてるでしょ!
それでヴィーナ、まだ話は終わっちゃいないよ……ダグダの件、せめて吾輩だけに教えてくれてもよかったでしょうが!
おかげで追い掛け回されてた時、ダグダはまた人目のつかない場所でサルカズと死なば諸共するんじゃなかって、心配でしょうがなかったんだからね!
すまなかったな、モーガン……
……もうあんなことはしない、誓おう。
ではシージ隊、集合だ。
ドクターがここに戻ってきてくれれば我々も脱出できる、もうしばらくの辛抱だ。
みなさーん、ただいま帰投しましたー!
アーミヤ!
えっ、なんで空から……
着地するよー!みんなどいてどいて――
お、おい列車にぶつかるぞ!ロープを引っ張れ、列車が壊れたらもうオレたちに逃げ道はねえ!
ドクターなら抱えました、着地してください!
(アーミヤ達が降りてくる)
着地せいこーっと!
おっとっと……夢じゃないよな?本当に戻れたんだよな?
ロックロック――
指揮官、ロックロックは無事か?みんなも上に出てこられたか?
想定よりも大勢が生き残ったわよ。
これもあなたのおかげね、フェスト、それとあなたが連れて来てくれたロドスの皆さんも。
はは、いやそんな……なあビル、見てくれたかい?
オレ……
気絶してないで叩き起こして!戦いはまだ終わってないんだから!
動ける者は全員ボイラー室まで手伝いに来て!
……まだサルカズ兵が追ってきてるな。
もう彼らに為せることはありませんよ。
私たちがここで彼らを止めます。
ああ、そうだな。
私たちで一緒に、だな。
(列車の警笛音)
指揮官、列車が稼働したよ――
みんな準備はいい?
アーミヤ、乗るぞ!
はい!
出して!
……
アーミヤ?
アーミヤ、列車が動いたな。
アーミヤ……どうかしたのか?
……
…………
コータスの少女は答えなかった。微動だにせず、呼吸も止まったかのように。
彼女は驚愕していた、それをあなたは知る。彼女がこんなにも強烈な感情をオペレーターたちの前で見せるのは初めてだ。
列車が動き出したのと同時に、サルカズたちも追うのをやめた。
そしてみな同じくしてある方向に身を向ける。
そこへとあるサルカズが廃墟の中から姿を現した。
硝煙が彼女の足元で消えゆく、矢を射る音も彼女の周りから潜めていく。
ただ勢いを増す風だけが吹いていた。
灰燼が吹き荒れる、一部は彼女のスカートを、そして一部は彼女の白髪を汚した。しかし彼女は気にも留めず、ただじっと荒れ果てた城壁を見つめていた。
どうやら都市防衛砲台があった箇所らしい。そこにいつの間にか漆黒なトリが飛んできて、まだ温かさを残す砲身に止まった。
しかし加速する列車に驚かされたのか、トリは翼を羽ばたかせる。
それに呼応したかのように、白髪のサルカズも身を向ける。
列車内にいる人の姿など見えるはずもない、だが彼女の表情はその列車内に誰かを見定めていた。
彼女の顔はやはり優しく、しかしその目は悲しみで満ちていた。もしかすればその悲しみは彼女だけのものではなく、彼女を見つめる誰かからのものも含まれているのだろう。
アーミヤ、元気にしてた?
コータスの少女がようやく振り向いた。
だがあなたは焦らなかった、たとえこの子から返事が返ってこなくとも。
耳元でトリの鳴き声が聞こえてくる。あなたは窓の外を見れば、トリの群れがバタバタと羽ばたき、あなたたちに先んじて、嵐の中へ飛び立っていた。
列車があなたたちを瞬く間に駅から遠ざけていく。
城壁、戦場、あの白髪の人影さえ、今でははるか後方へと消えてしまった。
ゴロン。ゴロンゴロン。
これは脳に響く砲撃の残響か、それとも列車とレールがぶつかる音か、はたまた近くに見えるあの暗雲に轟く雷鳴なのだろうか?
ロンディニウムの中央は目前だ。
あなたたちもまた、その嵐の中へと突き進んでいくのであった。