
Altyさん!あの『Obsession Refactoring』めっちゃ好きです!

あらそう?意外ね、サルゴンのジャングルで閃いたネタなんだけど、案外世間には間に合ってるのかしら?

でもあの医者があなたのような部下を持っていたとはね?あなたたちも彼女みたいにつまらない人なんじゃないかと思ってたわ。

あはは……えっと、ほかのメンバーはどうされたんですか?

Danなら海辺に行ったわ、興奮してたし。AyaとFrostは宿泊する場所に行ってる、オンボロだけど、まあ趣はあるかな。

趣……ですか?

ケルシーから私たちのことは聞かされてる?

少しだけなら……何やら皆さんは大事なものを持ってるとか。

あの超有名なAUSがプライベートでケルシー先生と交流があったと知った時は、仰天しちゃいましたよ……

正直言って、私もよ。

でも……ここで自分たちのファンに会えてよかった、この旅にも少し彩が増えた感じがするわ。

皆さんに会えて、ボクもここに一か月も滞在した甲斐がありました。あっ、よろしければこのポスターにサインを……

……あなた、どういう心境でイベリアに戻ってきたのか聞いてもいい?

いざ言葉にすると複雑な気持ちですね、それよりまさかAUSのAltyにそんなことを聞かれるなんて。

私たちのバンド名が好きなの?

愛してるぐらいには。

ふふ、どーも。

それで、彼女はどこかしら?てっきりここで待ってくれてると思ってたわ、“私は何も知らない、だから君たちに教えるものはない”ってな顔をしながらね。

実はボクもケルシー先生からの連絡を待っていまして。多分そろそろ来る頃じゃないかな。

なるはやで来てほしいわね……そろそろ潮が満ちそうだし。

……よそ者、この頃はよそ者ばかりだ。最近の裁判所はどうしちまったんだ、まるで警戒心がない、そこまで落ちぶれたのか?

ああ、よそ者、とめどないよそ者たち。彼女たちは特殊だ、海の匂いがする。

エーギル人か?

そうとも言えるし、そうとも言えない。こちらの兄弟と姉妹たちも怯えを感じている。

このチャンスは必ずものにしよう、裁判所がこうも疎かになるのは珍しい……怪しく思うだろうが、それでもこの海域の緩みが裁判所の罠だったとしても、大義を全うせねば。

我らの兄弟と姉妹たちのために、そして使者と陸を再び繋げるために、先んじてイベリアの眼を掌握……あるいは破壊せねばなるまい!

無用な殺しはしないさ、君たちとてかつては私の家族だったからね。

……

さあ、より多くの人々を我らに加えようじゃないか、我らにはより広々としした活路を選べる、イベリアが許したすべてを、この大地を遥かに勝る道があるのだから。

俺たちの……あの兄弟たちが、ザワついてるのは、よそ者が入ってきたからなのか?

恐らくは、しかしまだ確証はない。我らは弱い、兄弟と姉妹たちもまた弱い、下手に動くべきではないよ、さもなければ裁判所に根絶やしにされかねない。

もっと……慎重にならねば……さもないと陸で多くの血を流すことになる、彼女を流血を好まないのでね……無論我々も、我々の兄弟と姉妹たちも、無為な死を遂げる必要はないさ。
物音)

……!誰だ!?
(金属音と物が壊れる音)

やっぱりね、邪教徒、深海の教徒……何年もイベリアに戻ってないってのに、あっちらこっちらでそいつらの気配がする。

うーん……こっちっもそろそろ彼女との再会が待ち遠しくなったのだけれど、まだ来ないの?

ケルシー先生なら、裁判所の監視を受けてるって言われたので……

おかしいわね、彼女ってばイベリアの栄枯盛衰を見てきたんでしょ、だったら彼らのボスとも面識があるはずよね?なんでそんなまどろっこしいことをするのよ?

あはは、イベリアの栄枯盛衰ってもう何百年も前のことじゃないですか、いくらケルシー先生が……

どうやらここ最近は彼女もそれなりの処世術を身に着けたってことね……まあ、私はあんまりよくそういうのは知らないわ、だってまだ若いんだし。

あはは、冗談がお上手で……

……もしケルシー先生に何かあったら、手伝ってくれますよね?

うーん……あなたが彼女にお願いしてくれたら考えてあげる。

彼女ってばあなたたち、えっと、ロドス?にとって大事な存在なんでしょ?

……これは本心なんですけど、実はボクも全然理解できていないんですよ、なんでわざわざケルシー先生があんなリスクを冒してまでイベリアにやってきたのか。

けどあれはケルシー先生が自ら選んだ責務なんだって、ボクは信じますよ。ケルシー先生すらイベリアのために危険を犯してくれたんだから、ボクみたいなイベリア人が縮こまってちゃダメでしょ。

……そういうことね。

じゃあ外の様子でも見たほうがいいわね。もう少し待てば、誰かがあれこれ喚きながらここに来るはずだから。

えっ、それってどういう――
(慌てた町民が扉を開けて入ってくる)

だ、誰かいないか!?ば、バケモノだ――広場に――バケモノ!バケモノが現れやがった!

――!Altyさん、あなたはここで待っててください、様子を見てきますんで!
(エリジウムが走り去る)

……ひどい匂い。

けどDanの言ってた通りだわ、逆さの滝に落ちた脳裏の花、ウロコの旋律、根茎の歌……呼ばれて全部出てきちゃったわね。

けどまあ、いいネタが手に入るかもって考えたら、この旅も悪くはないか。

なんなんだ……ありゃ……

ペドロの言ってた通りだ……祖父の日記でコイツを見たことがある!海のバケモノってヤツだ!

でもコイツ……死んでるのか?動かないぞ?

すいません!ちょっと、道を開けてください――

――
残存の日差しは雲を突き抜く、しかし灯台の彫刻によってほとんほが遮られた。人々が灯台のために払った血の代償も、また影を為すかのように。
瀕死になった一匹の恐魚は、静かにその彫刻の影に横たわる。それはまるで夕暮れ時の老人が、樹に寄りかかって眠っているかのようだった。

……

…………

……死んで……いるのか?

ペドロが言ってたことはウソじゃなかったんだ!バケモノ、本当に海のバケモノだ、海のバケモノがグラン・ファロに現れたんだ……!

コイツがなんて呼ばれてるかは知ってる、昔見たことがあるぞ!

(これが、恐魚?)

(でも海岸は落ち着いていたし、なにより裁判所が見逃すはずが……)
ソレは生気を失くした眼差しで周囲を見渡す、陸とは乾燥した海だ。
しかしエリジウムが僅かばかりに息があると思った矢先、微動だにせず、しかし恐魚は深い死を覗き込むように視線を向けた。

(コイツ……ボクを見てるのか?それとも、ほかのナニかを……)

誰かこの死体を片付けてくれよ!

見ろよあれ、なんて気持ち悪いんだ、もし生きてたらどれだけおぞましかったことか、もしかして人を食うのか?

……
恐魚は言葉を発さない、しかし異形な外殻は美しい輝きを放つ。
大勢の群衆がソレを囲う。恐れ、疑い、すべてがソレに吸われていく、まるで花火に火をつけるかのように。
花火、そう、ソレの死はまるで花火だ。傷痕も、あるいはハンドガンによる弾痕も見当たらない。
死がソレを選んだのではない、ソレが自ら死を選んだのだ。

……いやいや、そんなことないだろ、ボクは何を考えているんだ。

もしこれが報告書にあった恐魚だとしたら……予想よりもアビサル教会は近くにいるってことだね。

アマヤさん!はやく見てくれ、コイツが一体何なのかを――
(アマヤが近づいてくる)

まずは落ち着いてください……

アマヤさん!まさかコイツが……例の海の……

その通り、これが……海にいるバケモノです。ウソはつきません。

じゃ、じゃあ!はやく裁判所に知らせないと!バケモノだから、懲罰軍を呼んで――!いや、もう審問官直々に来てもらおう!

さもないと俺たちがおしまいだ!
(町民達が走り去る)

なんだかみんな礼拝堂に向かってるようですね?

おいちょっと待ってくれ、なにがあったんだ?

広場でバケモノの死体が見つかったんだよ!

バケモノ……ペドロが言ってたヤツか?

そうだ、だからみんなトランスポーターを裁判所まで送って知らせるって慌ててるんだ……

知ってるか、あのバケモノの見た目を?聞いた話じゃ1メートルもある牙が生えてて、目も八つ――っておい、どこに行くんだティアゴ!?
(ティアゴが走り去る)

ジョディ、俺が戻ってくるまでここにいるんだ、いいか、何があっても外に出るんじゃないぞ!

でも――

――わ、分かりました……

なあ、もう野次るのはやめようぜ、あんなバケモノ……病を持ってるのかどうかも分かったもんじゃない。

……バケモノ……

……一体何が?

――!誰……?

……!
(怪しげな信徒が走り去る)

待って!
(ジョディが追いかける)

クソ、エーギル人!あのエーギル人め!ついでと言わんばかりに我々の同胞を殺すなど!

……ぐあッ、傷が……

あの……

……ジョディ?

ボクを知ってるんですか?あなたは一体……?

……私を知る必要はないさ、君は私を知らないのでね。だが私が君を知ってるのは、君がエーギル人というだけのことだ。

け、怪我をされてるんですか?

……ああ、手当てをしてくれるのかい?君は礼拝堂で看護をしているのだろう?

……

手当てはします、けどその代わりに教えてくください、なぜ怪我を負ったのかを。

……いいだろう。

じゃあまずは座りましょうか。

我慢してくださいね。

……くっ……

動かないでください!幸い骨や内臓までは届いていない……これは斬り傷でしょうか?でも木屑が皮膚にめり込んでる、どういうことだ?

あるエーギル人が、私の兄弟を殺したんだ。私も巻き込まれて、だから逃げ出した。

こ、殺された!?ここでですか?じゃあはやくティアゴさんに知らせないと――

フッ、フフッ、あのエーギル人、ティアゴじゃどうにもできないさ。滑稽かな、今では彼を裁けるのは裁判所のみだ。

で、でもその人はあなたの家族を殺したんじゃ……

我々はいつだって殺されてきたさ、無知、恐怖、そして今にも残るあの災いへの怒りがゆえにね……ありがとう、かなり楽になったよ。

……あなた、もしかしてフアンさんですか?

私の顔を憶えていたのか、ジョディ。なら海を見てみたいとは……思わないかい?

海……ですか?海辺ならティアゴさんに連れて行ってもらったことが……
あれは漆黒な海だった。風が髪をなびかせ、波は吠える。
“故郷”の定義は人ぞれぞれだ、小麦の香、あるいは街角の陰影、またあるいは雪泥がきしむ音にあるのかもしれない。
だがあの時、ジョディは知ったのだ、グラン・ファロにいながらも、自分はとうに故郷を懐旧していたのだと。

この大地はすでに海の真の姿を忘れてしまっている、けれど我々は遅かれ早かれ……海へと戻る。

(片言なエーギル語)ありがとう、ジョディ、君の善意に感謝を。いつかすれば、無限の利他が生存の巣窟をひしめくことだろう。

(片言なエーギル語)ジョディよ、もし君がまだ一人のエーギル人としているのであれば、我々のことは構わないくれたまえ。自分の暮らしに戻るといいさ、きっとそのほうがいい。

(片言なエーギル語)あるいは、君もまた君の両親みたいに、あの灯台を求めに行くことだろうね。

な、何を言ってるんですか?全然分かんないですよ!

(片言なエーギル語)逃げ惑う家族たちが私を迎えにきたようだ。だが問題ない、グラン・ファロは元よりただの踏み台、我々もいずれ深海へと飛び込んでいくさ。

――!
(蠢く恐魚が近寄ってくる)

(軽快な鳴き声)

ジョディ、ああジョディ。エーギル人よ。

また会おう。