私たちの出会い、まだ憶えていますか、ローレンティーナ?
あの雪のような砂浜で、重傷を負ったあなたは、まるで眠り姫のように岩礁に横たわっていました。
潮にあれほど流されたというのに、わたくしを覚まさせたのは結局、腐ったような匂いを放つ陸の人だったわ。出来ることならもうずっと眠っていたかったのだけれど。
そんなまさか。確か初対面の時、お互いが残した印象はそれなりにいいものだったはずですよ?
そうね。じゃないとあなた、クイントゥスのように頭からつま先までバラバラにされていたもの。
サルヴィエントの時に眠ってしまっていたのが残念ね。もしかしたら彼とも色々と昔話ができたはずなのに。
……
アマヤは依然と優雅な出で立ちを保っていた。彼女の目に入るところすべては、すでに溟痕に覆われている。
しかしローレンティーナはまったく彼女を眼中に置いていなかったのだ。
あなたは何を見ているのですか?
……どうやらかなり回復されたようですね。
お陰様でね。もう一人はどうしたの?彼は元気?
どうでしょうね、もしかしたら彼もクイントゥスのように、狩人に殺されたのでしょう。
……どの狩人に?
適当に言っただけです。
(アマヤがアーツを放つ)
オリジニウムアーツか。まあ確かに、陸の人が狩人たちの脅威になり得るのも、その“アーツ”のおかげでしょうね。
でもあなた、あまりアーツを使っての殺しが得意じゃないようだけれど。哀れね、そう思わない?
ローレンティーナ、こう考えたことはありません?なぜ自分の意識は時に目覚め、また時に眠りにつくのか。なぜ体内にあれほど濃縮された精錬源石の液体を注入されても、平気でいられるのかと。
(スペクターが回転ノコギリを振り回す)
わたくしが健康体だからじゃないかしら?
ダンスに関することも私と語り合ったことがありましたよ?
\……はぁ、最悪。思い出す前に、あなたに言われるなんて。
そうね、ダンス。それで、ほかにわたくしはあなたに何を教えたのかしら、アマヤ?
話を逸らさないでください、ローレンティーナ。
それとも、自分が“如何にして目を覚ましたのか”を分かってるつもりなのですか?
……
あなたには色々と実験をしたものです、眠り姫さん。
ずっと島の人々の知識でしか海を知りえなかった私たちの目の前に、こんなにも美しい生き物が舞い降りたのですから。
古く原始的な手段でしたよ。いくら教会の皮を被ったとしても、私たちの陸の生き物としても瑕疵を隠すことはできない――
――海を抱擁できた事例もこれまた極僅かしかありません、新しい命の形もそれゆえ不安定なんです。
あなたが目を覚まして、あまつさえ暴れ回ろうとした時、私があなたに初めて声をかけたことを憶えていますか?
こう訊いたんです、“エーギルはどうやってそれを成し遂げたのか”と。
アマヤがスペクターの攻撃を避けていく。
彼女は己の首元をそっと触れ、黄金の大広間が反射する光が彼女の肌を血色悪く映す。
大量の液体源石があるのは……あなたのここ。
一般人なら、脊髄液をあれほど濃縮された液体源石に置き換えたら、“意識朦朧”程度じゃ済まされないはずです。
(スペクターがアマヤに襲いかかる)
くッ……
……あなたたちには感謝してるわ。だって、今までとは違う日常を体験させてくれたんだもの。
知ってるかしら?あなたたちが崇拝するあの海溝にいるゴミ共のせいで、どれだけのエーギル人の夢を壊したことか。
……あなたはどういう夢を?演劇女優?それとも劇作家?
フッ、まさか。違うわよ。
わたくし、彫刻家になりたかったの。教わった先生からも才能があるって言われたわ。
(スペクターがアマヤに襲いかかる)
小さい頃、わたくしが住んでいた都市には真っ白で巨大な彫刻が鎮座していたの。
その彫刻は、シーボーンの侵入で壊されてしまったのですか?
いいえ、それだけじゃ味気ないじゃない。
壊されるところすら、見れなかったわ。わたくしたちはすぐに、ほかの都市へ移されたから。
でもそれからもあの彫刻はずっとわたくしの脳裏を過ってくるの、模様も形も忘れられなかったわ。何より……あなたたちのおかげで、わたくしは陰影の中にあるあの白黒織り交ざった彫刻の意味を理解したのだから。
あれは“祈り”よ。
もしずっとエーギルに引き籠もっていたら、わたくしはその言葉の複雑さを理解することもなかったはずね。
……
時間稼ぎなら結構よ。あなたのアーツは感知系なんでしょ、初めて見たわけじゃないんだし。
ウフフ、そう考えると、ロドスではかなりの奇人変人たちと出会ったものね。少々失礼を働いてしまったかもしれないけど……まあ、きっと許してくれることでしょ。
それは船なのですか?
ええ、これよりもずっとマシな船よ。
それで、あなたの恐魚たちは死に絶え、溟痕もこの大それた大広間を腐らせる以外に能がないみたいだけど、どうするつもり?
……
遺書でも書いてあげましょうか?本物のエーギル文字っていうのは、それはそれは美しいものよ?
……フフッ。
そうですね。では、ローレンティーナ。
アマヤがスペクターに手を差し出す。その繊細な掌は溟痕に覆われていて、まるで蛍光を発するドレスグローブのようだった。
その手を受け取るスペクター。しかし武器は手放さず、片手でアマヤを率いて、この黄金の大広間でステップを踏み始めた。
実は小さい頃、あんまりダンスは得意じゃなかったの、隊長から何回か教わった程度だったわ。今のあなたのステップなんかより断然上手よ。
自分の鉱石病を抑えてくれてるのはなんなのか、なぜ海に近づけば近づくほど、その病魔から覚醒しやすくなるのか、あなたはもう全部知ってるはずですよね。
ほかの狩人、特にあのグレイディーアさん、彼女ならとっくにピンと来てるはずです、けどずっとその事実を頑なに認めようとしない。その事実はとても単純で、しかし残忍にも思えてしまうものですからね、無理もありません。
故郷に帰れると知って、感情が湧き上がったからじゃなくて?
ウフフ……ローレンティーナ、あなたってばそんな自虐を言う人だったのですか?
しかしそうですね……故郷に帰る、海に帰る。
それもすべて、あなたにはヤツらの血が流れているからなのでしょう。
……
あなたの体内にあるシーボーンがあなたの体内の源石を抑制し、体内にいるシーボーンがあなたを海まで導き、それゆえに目を覚ます。
なら、今目覚めているあなた、今のあなたは、はたしてシーボーンなのでしょうか、それともアビサルハンターなのでしょうか?
……ステップに気を付けなさい。
あら、お気遣いありがとうございます。
わたくしがそれで動揺するとでも思ってるのかしら?サルヴィエントにいた頃、スカジもあの言葉を喋るゴミに散々言われたものだわ。
動揺しないのですか?こうもはっきりと、自分の力と理性と魂が自分の敵から来ていることを知っているというのに。この事実の前で平静を保っていられる者などおりませんよ。
話は最後まで聞きなさいな。わたくしがなぜ彫刻が好きなのか、知ってる?
なぜですか?
それはね、彫る、削る、形作る過程の中で――
スペクターがステップを止める。
それに一瞬訝しむアマヤ。スペクターは手を離し、すでに武器を振り回していた。その時の顔はまるで子供のように眩しく、純粋無垢なものであった。
――命を持たない形から意味を見出し、無意味という虚無からその意味を解放してやれるからよ。
わたくしの愛らしい運命のようにね。
(スペクターがアマヤに襲いかかる)
(スカジが恐魚に襲いかかるも次から次へと恐魚が湧いてくる)
このゴミ共め、斬っても斬ってもキリがない、チッ。
どうしましょう、このままではヤツを逃してしまいます!というかどこへ向かってるのでしょうか?
傷を負ったんだから、きっと海ね。私たちも乾燥した陸での狩りはめったにしないから。
しかし――うわッ!
恐魚たちが船体に穴を開けている!?“阿呆船”の船体は高速戦艦の砲撃にも耐えうるほそ頑丈なのに!
何十年もここを貪ってきたんだから、とっくに穴開きにされてるんでしょう。
……でもコイツらは船を足止めしてるだけで、沈ませようとしていない……一体なぜ?
それは後で考えましょう!コイツらがどういう奇跡を起こして船を浮かばせているかはともかく、今はなんとかしないと本当に船が沈んじゃいますよ!
方法なら……ある。
パパっと敵をやっつければいい。そうすればこの恐魚たちも巣穴に逃げていくはずだから。
そんな単純なことでいいんですか!?
今はそれしかない。
ヤツが上に上がった、それに動きが速い――すぐ海に潜られてしまうわ!
くっ……恐魚め、回廊がほとんど埋め尽くされている!
……あなた、跳べそう?
はい?
屋根が溟痕の浸食で脆くなってる。
近道を行きましょう。
……グゲゲ……
戻って来たか、我が獲物よ。
……君、血族を食ライ、同族を食らってル。
タクサン、食べたね。
じゃなければ霞を食っているとでも?
捕食ハ、正しい。食べ物モ、たくさんある。
君、ボクヲ食うの?ボクヲ求めているの?
だって、遥か深遠な言葉ハ、伝わらない、血族、言葉ヲ知らない。空気ノ振動で、音ヲ発する、規則性を見つけ、言葉ヲ学ぶ。
これだからエーギル人は好きになれんのだ。なぜバケモノ連中はどいつもこいつもエーギル語ばかり習得するのか。
貴様が言葉を話せたとしても容赦はしないぞ、ゴミクズめ。
……君ハボクを食らう、ボクハ君を食らう。
食事、もうずっと続いてキタ。そろそろ終わりニしよう。
(シーボーンがアルフォンソに襲いかかる)
――動きが素早くなったな、フナムシめ。ここまで私は、ずっと貴様の成長を見てきたが……
自分は捕食者だとよく思い込んだものだな!貴様は所詮私が飼い育てた畜生に過ぎぬのだ!
(アルフォンソがシーボーンに斬り掛かる)
アルフォンソの刃がシーボーンの肉体を切り刻んでいき、シーボーンの牙もアルフォンソの腕に傷をつけていく。
血は飛び散り、空気は加速し、シーボーンの動きも素早さを増していく。
チッ、私の最後のまともな衣装に穴を開けてくれたな、ならば貴様も皮を剥いでやる。
(咆哮)――
(スカジが駆け寄ってくる)
――いた、ここよ!
Ishar――
(斬撃音)
グゲゲゲ……Ishar-mla、君タチも、捕食を。
……うるさい。
狩りに言葉は必要ない、ただのお勤めなんだから。
……
――ヤツを止めて!あのままだと海に入られる!
逃がすか!
シーボーンの動きがさらに速まった、もはや影すらも置き去りにしてしまうほどに。
ヤツはひとっ飛びして、瞬時に甲板のあちら側に移動していた。そしてほぼ甲板に足をつくこともなく、海へ一直線に飛び込んでいく。
しかし、ナニかがヤツを上回る速さで迫ってきた。
その黒い影はシーボーンの海へダイブする軌跡を尽く断ち切り、甲板へ投げ捨てた。それから光の乏しい海面上で、ナニかが甲板の上に痕を残し、大船全体もそれゆえに振動した。
……ハァ……ハァ……
ねえ、あなたもクイントゥスのようなものなんでしょう?じゃなきゃあなたの片身、本当ならもう吹き飛んでるはずよ?その程度の傷だけじゃ済まされないもの。
さてさて――
――あら、なにかしら?この匂いは……
あなたも嗅ぎ取りましたか。ええ、彼はきっと証明したいものが証明され、言いたいことを言えたのでしょう。彼はもう自分を欺くことをやめたのです。
はぁ……てっきり彼なら理解してくれると思っていたんですけれどね……
……理解してくれるってなにを?
もしこの匂いが本当にまだシーボーンのものではなく、彼自身のものであるのならば、理解されてほしいなんて考えは諦めたほうがいいわよ。
あなたたちの浅はかな知見と道徳観から見るに、あなたたちが“信頼できる”と思っているエーギル人は、往々にしてどれも個性的な人たちばかりね。わたくしの印象での話ではあるけれど。
……
(ウルピアヌスさんが手を出した以上、ここで彼女と戦って、時間稼ぎをしても無意味ですね。)
(使者様を探し……お迎えに上がらねば。)
あら?もう行っちゃうの?まだやることは残ってるはずだけど?
次回までの持ち越しです、ローレンティーナ。
もし再会できた時には、また語り合いましょう、エーギルの物語を。
(アマヤがアーツを放つ)
――
スカジは瞬きができなかった。
あの影の動き、彼女なら誰よりも知り尽くしていたのだ。単純で、迷いのない、大振りな動き。
彼女はロドスの仲間たちの自分への評価を思い出していたが、また自分が初めて目の前に現れた二人との出会いの印象を思い出していた。
しかしこれは――
俺たちはみなエーギルに認められた者だ。俺の下に就いているのなら、本能から狩りを全うする、暴力を振るう天才だったはずだというのに……
今のお前は何もかもが鈍り過ぎだ、スカジ。
あなたは……
(グレイディーアが近寄ってくる)
まだヤツを仕留められてなくてよ、ウルピアヌス。スカジへの説教なら後にしなさい。
分かっている。
復習だ、スカジ。昔と同じように、一度しかしないからよく見ておけ。
(甲高い叫び声)
ウルピアヌスが得物を振り回す。
剛直でなんの飾り気のない一撃。その振りただただ速かった、シーボーンが避けようとも避けきれないほどに。
そして後から響いてくる轟音が、パワーも十分にあることを説明してくれた。
未だかつて火を吐かなかった砲塔にシーボーンが叩きつけられ、シーボーンの体積もなにやら相当小さくなったように見える。
こういった感じだ。動きをよく見て判断し、武器を振って、急所を突く。
コイツら相手ならそれだけで十分だ。お前は昔に比べて動きが遅い、何よりも慎重過ぎる。陸での暮らしがだいぶ響いたみたいだな。
……
まさか……あなたが生きてるだなんて……けどどうやって?
死んだと思ってたあなたも……カジキだってそう、一体どうやって生き延びたの?
もしかして、この先まだほかの僚友にも会えるの?一番隊は?四番隊は?彼らはどうなって――
俺から言わせれば、俺が生き残ったことはとんだ悲劇だったさ。俺たち以外の生存者ならいない、シーボーンが言っていた。巣窟に入っていった連中を、ヤツらが食い漏らすはずがないだろ。
だが、グレイディーアのあの一貫した態度は恥辱とも言えるがな。
先にヤツを片付けますわよ。あなたの処置は、狩人たちは全員揃ったところで決めて差し上げますから。
……
君タチ、この干からびタ浮き物……この船の上デ、狩りヲしている。君たちハ、一族カラ脱した存在。
死は、一族ニなんの価値もない。君たちノ死モ、一族になんの価値モない。
君タチは――
(アルフォンソがシーボーンに斬り掛かる)
ギィィエェェアアァァ――!
フンッ、狩られる獲物に、狩る側が話しかけるわけがないだろ。野戦訓練で初めて習うレッスンだぞ。
しかし、なにやら私はいつも貴様らの尻拭いをしてるような気がするな。どうなんだ、エーギル人共?
貴様らは何をするつもりでいるのだ?私の船に何をした?イベリアを滅茶苦茶にし、ヴィクトリアを破壊したあげく、ウルサスを水に沈めてくれて……
(咆哮)――
チィッ!なんてしぶとい畜生なんだ!
(ハンドキャノンがシーボーンを貫く)
(甲高い叫び声)――――!
穿った!今よアルフォンソ!
食らえェ!
(アルフォンソがシーボーンに斬り掛かる)
ふぅ……
し、仕留めたのかしら?
くッ……手が……痺れて……
……足元!気を付けて!
なに?
まだ死んでいない!
――!
……(喉に血が溜まってる声)グブぷ……
ごプッ……
甲板に穴を開けている。口につける価値もないゴミめ、自らまな板に飛び移るつもりか?
……いや違う。
追え!船内に逃げ込むつもりじゃない、中にはまだヤツの仲間がいる!
そいつを探しているんだ!
……ぐ……ぐぶッ……
(シーボーンが恐魚を襲う)
(咀嚼音)……ガブッ……ボキッ……
……使者様。
……鱗無しノ、同胞。
傷ガ、治らナイ。一族ヲ、潤せナイ。
みんな、ボクヲ狙ってル。捕食ノためじゃナイのに。
……
アマヤはただ静かに耳を傾けていた。
スペクターによって傷つけられたこの華奢な身体からは未だに血が流れ出しており、その一滴がシーボーンの血溜まりに滴り、一つに溶け込んだ。
アマヤはただ静かに耳を傾けていた。
……君モ、傷だらけ。
ねえ、ボクヲ食べて。
同胞、生き残ロウ。
一族ノタメ、生き延び、生き残ルンダ。
シーボーンは首を垂らし、アマヤの足元に倒れ込んだ。
そして目を閉じ、死を待つ。
だがアマヤはただ、静かに耳を傾けていた。
貢献と、犠牲。
この報われない利他的な行為は、人々から崇められ、美徳と称されてきた。
エーギルは、まだ一度もこの目で見たことはありません。イベリアもヴィクトリアも、はてにはウルサス、あるいはこの三つの国よりもさらに巨大な国家すら、私は目にしたことはありませんでした。
エーギル人はみな、合理主義者だと聞きます。では同胞に対して、彼らはどこまで合理的になれるのでしょうか?
お聞きくださいな、使者様。
思うに、犠牲も貢献も、崇高にして美徳なものではないのです。
……ビトク……?スウコウ……?
無理してこれらを理解する必要はありませんよ。シーボーンがヒトの形に近づくのは一種の進化、そう思い込むのは凡人の思考です。
いや。
さらなる可能性のために編み出された言い訳に過ぎないのでしょう。
私たちが無私の精神で貢献した同胞を称賛した時、それはさらに多くの者たちが別の選択肢を迫ったことを意味します。
仲間を守るためなら、幼い鉗獣ですら自らを天敵の口へ投げ入ります。ではなぜ私たちは繰り返し、この美徳を賛美する必要があるのでしょうか?
ヒトが賛美する対象は希少な物事のみ。道徳で利他的な精神を塗り固め、己の功利主義的な内面を納得させて、自分は獣よりも上位の存在なんだと思い込む。
なんて可笑しな嬌態、自己辯護なのでしょう。国と種族との隔たりはとっくにこの大地では引き裂かれているというのに。
“命は産まれた時より秩序的な存在です”、私の使者様。私が陸を離れ、海へ求めた最後の答えがこれでした。
……
シーボーンは目を閉じた。アマヤの言葉に、同胞の言葉に思考を巡らせる。
理解はできない、けど理解する必要はない、そう同胞から言われた。だからシーボーンはそうした。
鱗無しの同胞が手で自分の身体を触れているのを感じ取る。
そして同胞はこう言ったのだ。
“ああ、使者様、どうか……”
“私を記憶し……”
“私を解放し……”
“私を糧としてください。”
(ウルピアヌスが駆け寄ってくる)
アマヤ!
……
いない……だが匂いが残っている、まだ遠くには行ってないはずだ。
溟痕に浸食された壁を引き裂いて、海へ潜ったのでしょう。
それだけじゃない。きっとここで何かが起こったんだ、血痕だって消えている。
……お前たちはここに残れ、俺一人で追う。
海へ帰ることを恐れる狩人は狩人に非ず。侮辱でしてよ?
ならその侮辱をとくと味わうがいいさ、グレイディーア。こればかりは慎重に行動しなければならない、俺一人で行く。
わたくしがお供しますわ。
お目付け役でか?
規律維持のため、でしてよ。
勝手にしろ。だがお前も感づいているはずだ。
大量のシーボーンがこっちに向かってきている。ここは海岸に近いが、海のど真ん中でもあるからな。
……
……ブルル……
……すぐだ、もうすぐだ――偉大なる国土よ。
もうすぐだ。
嵐が空を引き裂いている。大波が間もなく、やってくる。
……
ここで待とう。
大波を迎えに。
(ロシナンテが嘶く)