あれ、ミュルジス主任じゃないですか?こんな遅くに出勤とは精が出ますね。
うっ……オホン、あはは、ちょっとやり残した仕事があってね。
いや~、お疲れ様です。
そちらのお二方は?
……
……あー、うちらの大事な提携先の方たちだよ。
特にこちらの方、忘れちゃった?
えっと……お顔があんまり……
こちらの方は源石理論学者にして、鉱石病のプロフェッショナル、天災の研究家であるあの――
ああ、あなたでしたか!いや~お初お目にかかります、あなたのような突出した科学者に会えて感無量でございます!
・(絶対私のこと知らないだろ?)
・……
・(これで誤魔化せられるのか?)
ちょ~っと急用で上の階に向かわなきゃならないからさ――また機会があったら、お食事会でも開こうよ。
ええ、それはもちろん是非とも!ではお邪魔してはあれですので私はここで……
……
待ってください、先ほどから見覚えがあるなとは思ってたのですが、もしやあなたはあのけ……警備……
警備用防護素材の分野でとても著名な専門家の方だよ。
(パルヴィスが近寄ってくる)
パルヴィス……
ここ数年のライン生命の発展は目覚ましいものだ、そう思わないかい?
とは言え、新入りの君はまだまだ学び足りていないものがいい、精進したまえ。
……この場に主任がお二方もいるだなんて……ま、まだやり終えていない仕事があるので、ここで失礼させて頂きます!では!
(ライン生命研究員が立ち去る)
フフッ。
……ヤツらに私たちが戻ったことを言わないのか?
もし間違っていたら許してくれ、美しいヴィーヴルのお嬢さん……以前どこかでお会いしたかな?最近は老眼が酷くてね、よく見えないんだ。
……
もし何もないのなら、私もここで失礼させてもらうよ。この歳の人間からすれば夜更かしは身体に悪いのでね。
そうそう、ミュルジス主任、黒豆茶の約束を忘れないでくれよ。
(パルヴィスが立ち去る)
ふぅ……あれって本当に通りすがりなだけだったのかな、サリア?
今は朝方の四時だ。
パルヴィスのいつもの退勤時間は今より九時間前になる、そういうことだ。
やっぱり……最後になるまで、フェルディナントかクリステンの片方だけにベットするような人間じゃないね。
まだまだどちらの勝機のほうが大きいか見定めてるんだよ、きっと。
ライン生命が廃墟になったとしても、どうせ彼が一番最後に生き残る人なんだろうね。
……ライン生命本部ビルに入っていったわね。
ナビゲーション小隊、インターセプトの用意を。
まあそう焦って動こうとするな。
あなたは……
サリアとの交戦を見て、あんたの装備に興味が湧いた者だ。
少し拝借しても構わないか?
……
戦う前はいつもそうやって挨拶するものなんですか、ロドスのエリートオペレーターさん?
誤解しないでくれ、さっきのはロドスのオペレーターとして言ったわけじゃない。
メカニストとして、私はどんな優秀なテクノロジーやその発明者にだって敬意を抱いているんだ――
だからあんたのその奇妙な形をしたアーツロッドを奪る前に、本人の意思を確認したくてな。
……面白いお方ですね、Mechanistさん。
前まではサリアさんとお会いするだけで満足だったんですけれど、あなたやあなたの上司……あのドクターさんにもとても興味が湧いてきました。
私のコードネームを知ってるのか?
そちらだって私のことを調べたのでは?
なるべく多くの情報を掴むのを習慣としているんです、私たちみたいな荒事を起こすような人間は。
……ライン生命本部の資料アーカイブにあんたの名前が乗っていた、ミズ・ホルハイヤ。
だがフェルディナントが歴史学者なんかを雇って自分の同僚を殺すとは思えん。不可能に満ち溢れたクルビアの学界から見ても、あり得ないことだ。
歴史学者は副業でやってるだけですよ。
歴史研究があんたの副業?
いいえ。
ここに来たのは、千年間伝わって来た予言が現実のものになる場面を見届けに来ただけです、歴史学者として。
それに、きっと未来が埋もれてしまった歴史を暴いてくれることでしょうし――
だから私もあなたたちと同じように、真実を追い求めている追究者なのですよ。
ついたわよ。
自分のクソッタレな上司のところへの行き方は分かってるの?研究員さん?
あの人ならきっとモニター室にいると思う。
ここから曲がったところにダクトがあるから、そこを登れば最速でモニター室に入れるとはずよ。
急いでね。
これからたくさんのお迎えがこっちに来るはずだから。
……マリー巡査部長。
あなたがそちら側につくのは分かっていました。決意が揺らぎましたね、その犯罪者との過去をどうしても忘れられないでいる。
彼はまだ犯罪者ではないわよ、それを決めるのは私たちじゃない、法よ。
……あなたは今、二度と戻れない片道に足を踏み入れている。
なぜです?なぜあなたたちのような優秀な人間は、こぞって自らの将来を投げ捨てるんですか?どうして彼女は……私の忠告を聞き入れてくれなかったんだ……
それ、私に言いたいわけではなさそうね?
でも、その人に代わって私がもう一回だけあなたに教えてあげてもいいわよ。
(マリーがライン生命警備課員にクロスボウを放つ)
くッ――
私たちはみんな、自分がなんのために戦ってるのかはっきりと分かっているからこうしているの。
誰かを守るためなら……あのクソ主任みたいな人間に踏みにじられないように守るためなら、私たちは絶対に戸惑ったりはしないわ。
私たちは、決してあなたみたいになったりはしない……
(マリーがライン生命警備課員にクロスボウを放つ)
人の立場ばかりを気にして――
手を出す前に「どうして」なんて聞いてくる人なんかにはね!
(マリーがライン生命警備課員に殴り掛かる)
うぐッ……!
(ライン生命警備課員が倒れ、他のライン生命警備課員が寄ってくる)
ダクトのルート、分かった?
たぶん……
ならはやく行きなさい。
キミはどうするの?
私にはボウガンがあるけど、あなたは持ってないでしょ。私のことはいいから、まずは自分のことを心配しなさい。
……ありがとう。
無茶しないでね。
……
ついて行かないの?あの野郎をぶちのめすために、ここまで来たんでしょ?
……俺も武器は持ってる。
え?
こうして一緒に肩を並べて戦うのは久しぶりだな、マリー。
何よ、戦うって……あの時のはただのおままごとだったでしょうが。
それに、いつも私がリードしてあげてたんだけど?
ふふ……ありがとう。
懐かしいよ……あの頃が。
この先のエレベーターに乗れば、総括のオフィスにつくよ。
後ろにある避難通路から行ったほうがいい、万が一にも備えられる。
それはそうだけどさ、急いでるんでしょ?
直通の通路を行ったほうが早いよ、武装した連中ともそんなに相手しなくて済むはずだしさ……
待て、そこで止まれ――
え?
(警報音)
……
あちゃ~、ごめんごめん、忘れちゃった……ここ監視フロアだったね……
ドクター、別のプランで行くぞ。
(ライン生命警備課員が駆け寄ってくる)
侵入者を発見!
ここだ、ここにいるぞ!
この侵入者を捕え――待て、主任?
やあ、レイジ。
……
どうしてここに戻って……いや、今のあなたはもう主任ではない、この先へ進むことは……
侵入者に対して戸惑いを見せれば命取りになるぞ。
もう一回指導したほうがいいか?
……盾を構えろ!
テーザー銃を用意、侵入者を――サリアを狙え!
及第点だな。
最新のデータはきちんと記録したか?
はい。
ドローンの配置には目を配っておけ。
データ収集の妨げならないよう実験体の行動にも気を付けるんだ。
安心してください、主任。
求めてるデータなら、もうすでに目の前にありますよ。
……
エレナ。
君が無事で……何よりだよ。
主任のもとでずっと働いてきたんですから、あなたの微かな表情変化だってすでにお手の物ですよ――
驚いた際、あなたはいつも左側の眉を少しだけ動かす癖があるんです、気付きましたか?
……君にはいつも驚かされるよ。
よく戻ってきてくれた、これで私もようやく一息つける――いずれ君にはあのバカな新人どもの教育係にもなってもらわねばな。
私をチーフに置いてくれるんですか?
いいや、チーフじゃない。
テーブルに置いてる鍵が見えるか?それをやろう。
君はもう自分の実力を証明してくれた。もう誰の助手になる必要はない――私だろうがドロシーだろうがな。
次のプロジェクト、君がその第一責任者を務めろ。
その鍵は君へのプレゼントだ。新しく作られた……まだ何も置かれていない実験室、君だけのラボの鍵だ。
そこで好きな研究をするといい、私とライン生命が全力で君をバックアップしよう。
わー、それは素敵ですね。
じゃあ私にエネルギー課を任せてもらうことも考えて頂けますか?
……考えておこう。
……
ふむ……あまり喜んでるようには見えないな。
私にどんな道を敷いてもらっても……私の答えは“ノー”ですからね。
……アーツロッドを下ろせ、エレナ。
あれ、ビビってるんですか?私の裏切りに?それともこの偉大な成果を迎える時に、自分の輝かしい未来が崩れていくことにですか?
もしかしたら私、本当にそんなことやっちゃうかもですよ?
なぜだ、私は今までずっと君を……
私は君から君自身の才能と、勤勉さと野心を見た。
成功を得るための必需品である上に、君を形作った重要な要素を見出してやったというのに、なぜ……
そりゃ分からないでしょうね。
もし本当に主任の言ったように、そんなに私を重用してくれていたのなら――私にもこの実験の真実を教えるべきだったんですよ。
教えてくださいよ、あの被験者の安否なんて眼中に置かず、ドロシーを監視するための道具として私を利用し、使えなくなったら自分の犯した罪の証拠と一緒に闇へ葬り去る……
……主任からすれば、私は特に言うことに忠実なバカだったんですか?
今やっと目が覚めましたよ、よりによって主任自らが手を動かす時にね!あれだけオリヴィアから言われてたのに……
君はまだ覚悟ができていないだけだ、エレナ。心配だったんだよ、今みたいに動揺するんじゃないかと……
最初から私を信じていなかったくせに。
あなたは誰も信じちゃいなかったんだよ、フェルディナント。あなたは自分のことしか信じない人間なんだ。
そんなあなたを私はどうやって信じればいいの……どうやってあなたが私にしてくれた約束を信じればいいの?
私がこんなにもチャンスを与えた人間は君だけだ。
知ってるか、エレナ?君は私の子供よりも私に似ているんだよ。
私は君にたくさんの心血を注いできた……だから今こうして私を裏切ろうとしていようがまだ間に合う、もし私のもとに戻ってきてくれるのならば――
……
じゃあ、これが私の最後のわがままだよ――
shut the f※※※ up、フェルディナント。
キミのその見せかけの好意も、その“プレゼント”も、二度と私の前に出すな。
このエレナ・ウビカは今日をもって、あなたに振り回されるばかりの助手ではなくなった。
フェルディナント・クルーニー、キミはクビだよ。
(ライン生命警備課員が駆け寄ってくる)
……フェルディナント主任!
ヤツを取り押さえろ、あの暴徒を取り押さえるんだ!
くぅッ……
主任、ご無事ですか?
ああ、平気だ。
エレナ……
もうやめてよ……そんな私を気に掛けてるような目で……私を見ないで……
本当に……キモい。
……私は君を理解していないと言ったな?それは君も同じだ、君も私のことを本当に理解してはいなかった。
確かに私も……先ほどは心配してしまったさ
だが君が私の実験を台無しにすることを心配していたわけじゃないんだ、君のことが心配だったんだよ。
君が……落ちぶれる姿は見たくない、これだけは本心だ。
その言葉……
ゲホッ……そっくりそのまま返してあげるよ。
(エレナがアーツを放つ)
ハァ……ハァ……どうしよう、警備課の連中がどんどん増えてってるよ……
フェルディナントも用意周到なもんだね。いくらサリアが戦いに長けてるとはいえ、あれだけの人数を一気に撃退するのは無理なんじゃない?
また君にお願いすることになってしまうな、ミュルジス主任。
……あたし?いやいやいや、あたしなんか全然戦力外だよ。
向こうの攻撃を避けたり逃げたりするだけで精一杯なんだから……
こっちはもうゼェハァ言ってるんだよ。聞こえてないの、ドクター?
・さっきは巧妙にサリアを助けてやらなかったか?
・それは君がこれ以上わざと時間稼ぎしなければの話だ。
ありゃ……バレちゃった?
サリアは長らくここへ帰ってこなかったが、それでも監視フロアを憶えていた。/君はいつもわざとサリアの視線を邪魔していた。
それに総括はここにいる推測を聞いた後、君は明らかに焦らなくなっていた。
それは……ギャッ!
(殴打音)
……ひぃ~、あとちょっとで当たるところだったよ。
ていうかそこまで知ったのに、まだあたしの手を……取ってくれるの?
こっちはまだ何か企んでるはずだって、そっちは考えてるはずなのに……
・何を企んでいようがそれは君の自由だ。
・君がどんな立場にいようが構わない。
だからどうかサリアを助けてやってくれ。
・ライン生命とロドスの共通の利益のために。
・クルビアのほかの国々の安全のために。
・君のためにも。
……今回を含めて、二回もあなたに助けられちゃったね、ドクター。
うん、いいよ。
少なくとも今回は、あなたたちと一緒にサリアを送り届けてあげるよ、サリアの行きたい場所にね。恩返しってことで。
――
あたしの呼応に応えろ、水の分子たちよ。
眼前にあるすべての命に口づけし、眼下に広がるすべての砂塵を洗い流せ!
……あのエルフ、動揺したわね。
哀れなエルフ……あなたはいつだってそうだった、いつも他者から明日を保証してくれる言葉を聞きたがっている。
でもまあ、そうよね……自分と自分の種族が過去の遺産になってしまったことなんて、誰も認めたくはないもの。
クリステンは自分の求めていたものを与えてくれなかった、ならそのドクターなら与えてくれるかもしれないって考えてるのかしらね?
マム、サリアに包囲網を突破されました。
構わないわ、そのまま旧友に会わせてあげましょ。
私にはまだほかの仕事が残ってるから……こちらのメカニストさんとの交流は次回へ持ち越しね。
――彼がこのパワーアーマーたちから生き残れればの話だけれど。
もうここを離れて、どのくらい経った?
1497日。
別れた時、私たちは敵同士だった。
ならこの再会で、私たちは仲を戻すことはできるのだろうか?
おかえり、サリア。
……やあ、クリステン。