これはビジューのとある一日である。
ビュー!
あれ、食材がない?
作り置きしていたおかずもない!
ちょっと!またケーちゃんが入り込んだんじゃないの!?
ねねねねね!あれ!一瞬で色んな色にコロコロと変わってるよ!?
なんだこいつ?一体どっからこんなモンを見つけてきたんだ?なんだか親近感が湧くぜ。
てか医療部、もうちょっと優しくこいつを扱ってやれよ。
おいちょっと待て、まさかオレをも検査しようと企んでんじゃねえだろうな?
ビュー!
おもちゃが一瞬で消えたぞ!?
うわああああ!きっとジュナーさんが授業をサボってるオレをとっ捕まえにきたんだ、どうしよう!
落ち着きなさい、こう言えばいいのよ。自分は消えたおもちゃを追っかけにここまでやってきたついでに、ロドスがずっとひた隠していた秘密を見つけてしまったんだって……
おっ、その話はホントか?
マジでそんなことが?
だったらこのオレ様も加えろ!
?
ビュー!
――ん?
なんだこいつ?おいちょっと、何するんだ!?
それは今でき上がったばかりのパーツだ、食べちゃ――!
(黒猫姿のシャオヘイがビジューを持っていく)
あっ――今のは、Miss.Christineか?
ふぅ、助かったぜ、あとでファントムにお礼を言わなきゃ。取っつきにくそう人かと思えば、結構優しいところもあるじゃねえか。
ありがとう、Miss.Christine!
ビュー……!
やっと捕まえた!
ビジュー、おいたが過ぎるよ?
それにあんなあちこち走り回ってたら危ないって!
こらこら、なんだその色は?
ビュ~。
きっとたらふく色んなモノを食べちゃったんだろうね。
シャオヘイ、どこでビジューを見つけたの?
廊下の端にあった部屋だよ。
さっきも遊具部屋とか食堂に行って、ご飯とかおもちゃを自分で勝手に平らげちゃってたよ。
あちゃ~……じゃあこれから戻って謝んないといけないね。
そうだね、これからしっかりとビジューのことも見ておかないと。
うん!じゃ行こっか。
じゃあ、ビジューは大きな被害を出してなくて、むしろサボりをしていたオペレーターをとっ捕まえてくれたってこと?
あっちにいるあの赤髪のおっかないお兄さんも、さっきから一緒に何かを発掘するとか言ってたけど、一人で行っちゃうみたい……あっ、こっち見た!
ごめんなさいいいい!もうしませんから許してください、ジュナーさんんんん!
安心してくれ兄弟!お前の悲願、オレ様が引き継いだ――!
……なんか見てるとジンと来ちゃった。
……
ビジュー、たまにはやるじゃん。
じゃあこれなら弁償はしなくても平気かな。何回か外勤任務を手伝ってあげれば大丈夫でしょ。
でも、それだとビジューを連れて行けなくない?
大丈夫、檻籠を貰ったから。任務中は檻の中で大人しくしてもらう。
とはいえ、ビジューをお世話してくれる人を探さないといけないのは変わんないか……
おっ、おおおおお!
此度のアップデートで、この世の一番の天才たるクロージャ様がさらなる機能を付け足してくれたとは!
今ある限界値を突破するほどの熱エネルギーを感じます!これならさらなる光の境地へ達することも夢ではないでしょう!
アップデートの内容を見るに、私たちのストレージ容量が35.7%も増加してるみたいですね、これならもっとたくさんのデータをダウンロードできそうです。
それ以外にも、私には前線での応急処置プロセスを更新してくださいました、あと一部の言語モジュールも。これでもっと皆さんをサポートすることができそうです。
削除してしまったデータの復元機能もすごいです!今なら数年前に削除されたドクターのいびきの音も復元できちゃいますよ、聞いてみます?すごく面白いですよ。
何あれー、すごーい!
なんだあいつら?
喋るロボット?
おやおや、お初お目にかかるお三方ですね!この私のパーフェクトなボディに感動してらっしゃるのかな?
いや、分かってますとも!誰もがこのパッション溢れるボディに釘付けになるのも至極当然でしょう!
未登録の人員三名を検知しました。こんにちは、何かロドスのサポートが必要ですか?
もしどこかお身体に不調がありましたら、遠慮なく私に言ってくださいね。
わわっ、すごい!本当に会話できてる!
こんいちは!私たちはついここに来たばかりなの。それでちょっとペットをお世話してくれる人を探してるんだけど、誰かいないかな?
ペットのお世話ですか?
それなら心配はご無用です!今回のアップデートで956個ものペット飼育指南プログラムを導入されましたから、どんな動植物でも、必ずや私たちの熱エネルギーで暖めて差し上げましょう!
ペットの身体や健康方面であれば、私にお任せください。
オペレーターたちをお世話してきた経験は積んでおりますから。
えっ、ホントに?みんなすごいね!
勿論です!さらに言えば、ウルトラハイパー凄いです!クロージャ様から作られしこの私であれば、どんな問題でも解決してみせましょう!
(小声)ねえ、こいつらって妖精なの?
これは人工知能ロボットだよ、シャオヘイ。私たちがいた世界のよりもさらに進んでいるみたいだね。人の形はしていないけど、本当に人と話してるみたい。
こっちの科学技術ってすごいんだね。
れにみんなペットの飼育に関してとっても詳しそうだから、このロボットたちに任せてみるのはどうかな?
うーん……まあ大丈夫なんじゃない?
今からまた探しても見つかるとは限らないしね……うん、じゃあロボットさんたちに任せてみよっか。
それじゃあヘイシュも預けておこっかな。
ヘイシュー!
おおおおおおお!!このまっくろくろすけ、なんて愛らしいのでしょう!しかも私のボディケースに飛び乗ってくれたとは!!
あはは、それじゃあよろしくね!
あっ、一つ注意点だけど、ビジューには絶対金属とか生き物を食べさせないようにね!危ないから!
ヘイシュがいるんだったら、たまには籠から出してもいいよ。
でもまだ興奮してるみたいだから、大人しくなってから籠から出してあげてね。
了解しました、では私のところにお三方とこちらのペットの名前を記入登録してください、任務内容として端末のほうへ共有しておきますので。
わかった、本当にありがとうね!
ビュー!ビュー!
動作を分析した結果、外に出て遊びたいのでしょうか?
では私の広くて頼もしい背中に乗るといいでしょう!ロドスの隅という隅までご案内致しますよ!
ビュ?
ずっと籠の中で寝転がっていますけど、どこか体調でも悪いのでしょうか?
というか、静かになっちゃいましたよ?
最新の言語モジュールに切り替えます。
私もむかし削除してしまった一部の言語モジュールを復元して、対応できる言語がないか探してみますね……
※クルビアスラング※、※ヴィクトリアスラング※、※炎国方言※……!
分析した結果によると、それは昔誤って導入させられたテラ各地の様々な悪口まとめですか?確かエンジニア部がわざわざそのためだけに差し込み口を追加したとか。
申し訳ありません、お見苦しいところを……もう一度削除しておいたのでこれできっと大丈夫だと思います。
こうしてはいられません、時間はロボットを待ってはくれないのです。私もすでにコアの内から熱エネルギーが溢れ出てきそうです!籠を私の背中に置いて、いざ出発しましょう!
待ってください、『知ってる?ペット飼育に関する100の問題点』によれば、ペットは新しい環境に置かれると“ストレス”を感じると書かれてあります。
これはペットたちが新環境の安全性を考慮しているがために引き起こされる状態とあります。ですので、ビジューにとって絶対的に安全な環境を作ってあげるのが最優先事項でしょう。
ラジャー!では、一先ず周囲の環境をスキャンしてみます――!
スキャン――スキャァァァァン――!
スキャン失敗!そういった機能はまだ取り付けられていなかったのでしたァァァ!
私がやりましょう。
――廊下の安全を確認しました。
ですので怖がることはありませんよ、ビジュー。
なんだかプルプルと震えていますよ?
きっと“ストレス”による反応なのではないでしょうか。
ビュー!(外に出て遊びたい!)
あわわわわ、どうしましょう?
とりあえず、私に診察させてください。
ビュー!(外に出て遊びたい!)
数値は至って正常ですね。大丈夫そうですし、とりあえず外に連れて行きましょうか。
うおおおおおおお!!行くぞおおおおお!!
ビュ~。
外に出たいのですか?
まだ出しちゃダメですよ。今の興奮状態で外に出したら危険が生じると、先ほどのお三方が言っていたじゃないですか。
ビジューにとって危険性はないか、部屋を一間一間スキャンしてみます。
ピュ~……
そう落ち込む必要はありませんよ!この長くつまらない待ち時間の間に、私がここについて説明致しましょう!
私たちが今いるのはロドスの休憩エリアです。この先のスペースでたまにオペレーターたちが売り物をしていることもあるので、お気に召したモノがあればそこで買ってみるといいでしょう!
ビジューにそういうものは必要ないと思いますけど?
ピュ~……
格納庫のほうにご興味はありますか?こちらとしてはもうビジューをそこに連れて行きたくてウズウズしていますよ!
ビュー!ビュー!(行きたい!行きたい!)
エンジニア部格納庫のスキャン完了。中に大量の金属類が収納されていますので危険です、入ってはいけません。
ピュ~……
引き続きこの先に続いている輸送運搬エリアをスキャンしてみます。
え~、なにこれ~?
グムから聞いた、すっごく食いしん坊な子なんだって!今フライドポテトあるけど、食べてみる?
ビュ~!
わあ、かわいい~!
ほらほらもっと食べてもいいよ、お姉さんまだいっぱい持ってるから~!
申し訳ありませんが、この子のご主人から無闇に餌を与えないでくださいと仰せつかっておりますので、餌付けはご遠慮ください!
あっ、そうなんだ。
勝手に餌与えちゃってごめんね……
それで輸送運搬エリアはどうでしたか?私はもうコアの内に秘められた熱エネルギーが爆発しそうです!
ビュー!ビュー!(行きたい!行きたい!)
スキャン完了、大量の輸送用コンベアを確認。危険ですので行ってはいけません。
ビュ~……
……スキャン完了、危険ですので入らないようにしてください。
ビュ~……
……スキャン完了、ここもダメです。
ビジュー、今あなたが活動できる範囲はこの廊下の半径5m以内になります、そこから出てしまうと危険が生じてしまいますので。
あなたが落ち着いて安全が確認できるまでは、この籠の中で大人しくしてもらいます。
ビュー……
なんだかどんどん体調が悪くなってるみたいです、もしかして外が怖いのでしょうか?
ビュー!ビュー!(違う違う!そんなことない!)
それを言った傍から反応するようになりましたね、どうやら間違いなさそうです。
となれば帰投しましょう。今スキャンした結果、ここの部屋のどれにも大量の金属類などを検知しました。木材などは見つかっていないので、ビジューにとって危険でしょう。
では私が消毒しておいた木材をあげましょう、ビジュー。『ペット飼育ならこの本で間違いない』によれば、餌は二時間半に一回与えるのが最高効率だそうです。
はい、今はこれで我慢してくださいね。
ビュー!ビュー!(少なすぎる!)
これは綿密に計算された分量なんですよ。あと、次の餌やりは二時間半後になります。
また、『どうすればペットに好かれるか』によると、飼い主は定期的にペットの心理状態と生理状態に気を付けなければいけないと書かれています。
前回の検査からすでに一時間弱が経過しているので、もう一度検査しておきましょう。これからあなたの健康状態を維持するためにも、一時間ごとに検査を実行致しますね。
……
ビュー!(もうこうなったらお前らをズタボロに噛み砕いてやる!)
ビュー……(いやダメだ、そんなことしたらシャオバイに怒られちゃう……)
ビュー……(うぅ……)
さっ、お腹のほうを見せてください、とりあえず心拍数を計ってみますね……
ビジューにとって最悪な一日となった。
先ほど観測したところ、あのまっくろくろすけがビジューの籠を開け、廊下の隅に逃げられてしまいました。
私は腰を折れるような設計が施されていないので、隠れられては探しようがありません。
音を聞くに、私たちが近づくと逃げていっちゃってますね……
どうやら私たちを避けているみたいです。
これは大変申し訳ないことを致しました、ビジュー!私が熱くなり過ぎたゆえにご機嫌を損ねてしまったのでしょうか!
であれば、私も可能な限り私のコアの内に潜むパッションを押さえつけように努力致しましょう!下げ方はまったく分かりませんが!
しかしそれが今の、私なりの使命ですゆえ!
検知した結果、ビジューはまだ箱の下に隠れていますね。
ヘイシュもここにいるということは、ビジューにとって安全な環境なんでしょう。しかし、私たちからかなり距離が空いてしまっていますね。
先ほどもう一度自己診断を行ってみたのですが、プログラムに問題は生じておりませんでした。すべて書籍に記載された内容通りに行動を実行したはずです。
なのになぜこのような状況に陥ったのか、理解に及びませんね。
このままでは、ほかのオペレーターさんたちの手を借りるしかありません。
ただ、私たちは書籍に記載された内容通りにお世話をしてきましたから、ほかのオペレーターさんたちに頼んでも二の舞になりそうです……
本当にどうしてこうなってしまったのでしょう?
ビジュー?ビジュー?どこにいるのー?
あっ、Lanset-2。さっき任務を終えて、あの三人からビジューをキミたちに預けてるって聞いて探しにきたんだけど、まったく見当たらないんだ。どこにいるか知ってる?
おお!よくぞ来てくださいました、ロックロック様!
是非とも私の熱き抱擁を受けて頂きたい次第ではありますが、今は何卒お力をお貸しくださいませ!
実は少しトラブルが発生してしまったんです、ロックロック様。
そこでお尋ねしたいのですが、ロックロック様がビジューと一緒に過ごしていた際に、アグン様たちはどうやってビジューのお世話をしていたのですか?
私たちは忠実にペット飼育本の内容に沿って行動してきたのですが、まったく上手くいかなくて……
どうやってビジューをお世話してたか、だって……?
(回想)
ちょっとビジュー、今なに食べたの?
ビュ~!
黒に変色して、なんか赤とか白の点々ができてるね?
こら!
ビュ~!
あっ、なんかさっき一瞬でアタシの櫛が食べられちゃったみたい。
食べちゃったの!?ご、ごめんなさい!
いいよいいよ、木材ならまだあるし、また作ればいいよ。
それよりさ、この子って木を食べるの?
そう!この子は木が大好物なんだよ!うちのお爺ちゃんの家が穴だらけになったぐらい!
……なんでそんな嬉しそうなの?
えへへ。
(回想終了)
食べたいものがあったらあげる、とかかな。
アタシが持ってた色んな原料も素材もそれで全部食べられちゃったんだよ。本当はあれで何か作ろっかなとは思ってたんだけど。
ビュー!
あっ、ビジュー!ここにいたんだね!
よしよ~し、お腹撫でさせて――ってお腹ペコペコじゃん!
じゃあ、はいこれ。ちょうどここに余った木材が残ってたから……
お待ちください!まだ餌付けの時間では――
まだロックロックさんが所持してる機械のスキャンも――
それと消毒もまだ――
ごっくん。
ビュ~!
あれ、毛色が黄色に変わっちゃった。多分あげた木材がまだ湿っちゃってたのかな。でもありがとうね、ビジュー。
あっ、ヘイシュもここにいるんだ。
スキャンはしていないし、餌やりの時間にもなっていない。ロックロックさんの行動は書籍に書いてる内容に大きく反しています。
しかしビジューが自分から出てきてくれましたよ、しかもなんだか嬉しそうです。
感謝致します、ロックロックさん!問題を解決できずに、私のコアはすでに冷えに冷え切ってしまっていましたよ!
こんな感じ、お世話なら今アタシがやったようにすればいいよ。
好きなように遊ばせて、好きな時にご飯をあげる。あとヘイシュが傍にいるのなら、人に抱っこしてもらっても大丈夫かな。
リラックスさせることが一番大事だよ。
それは私たちの……飼育に関する内容設定を緩和したほうがいいという意味ですか?なら、少し試してみます。
……ビジュー、ここに木材がありますけど、食べたいですか?
チュ~!
このままあげればいいんですか?
うん、今はお腹ペコペコの状態だから多少あげても問題はないよ。餌をあげてお腹いっぱいになったら勝手に寝てくれるから。
では、新しい環境へ連れて行くにはどうすればいいですか?
ヘイシュが傍にいるんだったら気にしなくてもいいよ。
ほかの方が餌を与えてもよろしいのですか?
金属と生き物じゃなけりゃ、誰でもオッケーだよ。
色々と勉強になりました、ありがとうございます。
うん、それじゃあね。
はい、ではまた。
となれば、私たちが今まで参考にしてきた書籍は一部削除したほうがいいでしょうね、Lanset-2。
もしくは全部。
ロックロックさんが先ほど見せてくれた方法はどれも書籍に書いてあった内容と異なっていましたが、ビジューが嬉しそうにしてたのであちらのほうが正しいのでしょう。
ええ、そうしましょう!本の内容に沿うのではなく、私たち自身の熱いハートでビジューと向き合わなければなりませんね!
『ペットの基本的な習性』という本だけは残しておきましょう。いざという時のためにペットの医療知識は備えておきたいので。
なんせ私はそういう役目なんですから。
これでいいですか、ビジュー?
ビュ~!
では、どこか遊びに行きたい場所とかはありますか?
ビュ~!
なんなりとお好きな場所へ!
このThermal-EX、いつまでも熱きハートを絶やさずお供致します!
あっ、自分から行っちゃいましたね。でしたら、私たちは後ろについて行って見守ってあげましょう。
ビュ~!
ビュ~!
なんと素晴らしい!見てくださいあの夕日を!
あの夕日を見てると、今私のコアにある熱さとはまた別の熱さを感じしてしまいます!
それに見てください、ビジューの食べっぷりを!風巻残雲の如しとはまさにこのことです!
Thermal-EX、もしかして炎国の言語データをインストールしました?
最強無敵のドクター様が以前入れてくださったのです!こう語彙力を備えておけば、より確実に私の熱き考えを描述できるとのことでして!
そこで、まさに今のビジューを正確に言い表してる言葉があります!
それは即ち“珠圓玉潤”!珠玉のように丸く滑らかなさま、という意味です!
ビュ~!
……
……
アグンさんが事前に伝えてくれた時間によれば、そろそろ任務を終えて帰ってくる頃合いでしょう。
どうりでビジューが外に出たがっていたわけです。
ビジュー、さっき食堂で食べた料理は気に入ってくれましたか?
ビュー!
しかし食堂にいたおばさんは少し悲しんでいましたね。作った料理じゃなく、使った箸を食べただけだなんて。
お箸なら、まだビジューに食べさせてあげられるぐらいの数は残っています。炎国と極東出身のオペレーターが少なくて助かりました。
ビュ~!
おお、ビジューが喜んでいますよ!
おおおおおお!なんと!
なんと!なんと素晴らしい!
初めてビジューから私のほうへ寄ってきてくれました!気に入ってくれたのですね!そんなことをされたら、私の熱きハートが!熱エネルギーが爆ぜてしまいそうです――
(Thermal-EXが熱を噴き出し始める)
ガガガ――熱き……私の熱きハートが……!
――
(Lancet-2がThermal-EXに急速冷却モジュールを取り付ける)
ふぅ、急速冷却モジュールを装着しておいてよかったです。いつもはオペレーターたちの患部を冷やすために使うものでしたが、こんなところで役に立つとは。
これでビジューにも言語モジュールを付けてくれれば意思疎通もやりやすくなるのですが。
それは動物愛護の観点からして非人道的な行為だと私のプログラムが警告を出しております、くれぐれもそのようなことは。
いえ、そういうことではなく、もし私たちとも交流ができればいいのに、と言いたかっただけです。
話すことができない小動物のお世話は演算よりもハードに思いますから。
しかし、今回の任務が失敗しなくてよかったです。
おや、慰めてくれているのですか?ありがとうございます、ビジュー。感情はプログラミングされていませんが、今はとても歌を歌いたい気分です、放送しましょうか?
あれ……なぜだかは知りませんが、私の全体的な稼働速度が遅くなってしまいました。どうやらどこかのパーツがトラブルを起こしたようです、どうしてなんでしょう?
あっ、正常に戻りました。
ビュー!ビュー!
さあビジュー、私の背中へ。この坂道を登れば、本艦に戻ってくる車列が見れるかもしれませんよ。
あっ、そこまでおんぶしてあげましょうか?それと自分で歩きます?
ビュー!
あっ、自分で登っていくのですか?
ビジューは木の枝や岩の間を愉快によじ登り、近くにある丘の頂上へと向かっていった。
ビジューと本艦へ帰還する車列に、沈んでいく夕日が照り付けてくる。
Lanset-2、Thermal-EX、歌は歌えますか?
私のプログラムが以前学習した歌を再現してくれたので一緒に歌ってみましょう。
“♪私に弁護士になってほしいと、両親は常々思っていた♪”
“♪祖父母もまた、はやく世帯を持ってほしいと思っていた♪”
“♪だが私は、ただ絵描きのペンを握りたかったのだ♪”
“♪目の前に広がるこの夕焼けを描くために♪”
ビジューは夕焼けを絵に描けるのですか、Castle-3?
その質問、今のボクのプログラムでは回答できそうにありません。
ただとても嬉しいという感情をビジューから検知しました。今もああして、夕日のもとで走り回っていますから。
ビジュー!ビュー!
ビジューは遊ぶのが大好きですものね。
”♪あれもこれもいいものだが、やはり私はこの夕焼けが好きだ♪”
おっ、見えてきました!こちらへ帰還する車列です!夕日に照らされて眩い光を反射してきていますよ!
さあ、一緒にお迎えに上がりましょう!戻られた方々に私たちの熱きパッションをお届けするのです!
少々お待ちを、今データを更新しています。
よし、更新完了、では行きましょうか。
ビュー!
走り出すビジューとその後ろをついていくロボットたちは、荒野に一本の長い足跡を描いていく。
そこへふと、クロージャのロボットたちは端末にあるメッセージが飛び込んできたことを検知したのだ。
「そう緊張しないで、とりあえず今を楽しもう」
なんとも、ビジューの素晴らしい一日なのであった。