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【明日方舟】11章 淬火塵霾 11-3「立ち込める蒸気」行動後 翻訳

後日

レイトン中佐
レイトン中佐

どうだね?

サルカズ傭兵
サルカズ傭兵

問題ない、きっちり指定された数量通りだぜ。

レイトン中佐
レイトン中佐

結構。

レイトン中佐
レイトン中佐

キャサリン殿、知っての通り、ロンディニウムに置かれてる数百もの工場を接収し、なおかつ稼働を維持するのは容易なことではない。

レイトン中佐
レイトン中佐

私もやむを得ず、こうして一軒一軒回っては納品を確認しなければならんのだよ。

レイトン中佐
レイトン中佐

そうしていると、どうしても不愉快なことは起こってしまうものだ。だが今回の納品は、ほかすべての工場と比較しても一番スムーズに終えられた。

レイトン中佐
レイトン中佐

協力に感謝するよ、少なくとも時間の節約にはなった。

キャサリン
キャサリン

当たり前なことをやったまでさ、徒労に終わっちゃ元も子もないんでね。

レイトン中佐
レイトン中佐

その毅然とした態度も結構なものだ。

レイトン中佐
レイトン中佐

だが、内心はそうでもないのだろう?

キャサリン
キャサリン

どういう意味だい?

レイトン中佐
レイトン中佐

小耳に挟んだのだが、何やら数日前にここから脱走者が出たようじゃないか、ん?だから差し支えなければ、ここのスタッフリストを見せてもらないかな?一応数えておきたいんだ。

キャサリン
キャサリン

……

キャサリン
キャサリン

……逃げ出したのはあたしの孫だよ。

ロンディニウム労働者
ロンディニウム労働者

頭……

レイトン中佐
レイトン中佐

おや、お孫さんが?

キャサリン
キャサリン

若気の至りってやつさ。そそっかしくて、救いようがないバカな孫だよ。

レイトン中佐
レイトン中佐

素直なのも結構なことだ、キャサリン殿。しかしだね、この一件は素直に打ち明けたから解決できるものでもないのだよ。

キャサリン
キャサリン

ここにいる全員を取りまとめることなんて不可能なのさ、中佐殿。あたしにそんな才能はない。

キャサリン
キャサリン

できることと言えば、納期を間に合わせることだけよ。

レイトン中佐
レイトン中佐

……

レイトン中佐
レイトン中佐

それはお孫さんを見逃してやってくれ、と解釈してもよろしいのかな?

キャサリン
キャサリン

ケツの毛すら生え揃えていない青っちょろいガキだ。あいつがいなくなったところで、工場が稼働できなくなることはない。

レイトン中佐
レイトン中佐

だが貴女のとこの人員となれば話は違ってくるがね。

レイトン中佐
レイトン中佐

貴女の事績なら、それなりに私の耳にも入ってきているよ。

レイトン中佐
レイトン中佐

さすがは工場の代表者に選ばれただけのことはある、実に感服した。

レイトン中佐
レイトン中佐

しかしだ、不穏の種は摘み取らなければならん。それとも何かね?その孫が我々の反抗勢力に、例を挙げるとすれば……彼が昨今裏で暗躍してる自救軍に加入しない保証でもあるのかな?

キャサリン
キャサリン

保証なんて必要ないわよ、中佐殿。

キャサリン
キャサリン

若者ってのは、いつだって自分はなんでもできると根拠のない自信を抱きがちだ。

キャサリン
キャサリン

けどそんな連中に限って、自分たちがナニと直面するのかすらまったく理解しちゃいないのさ。

キャサリン
キャサリン

逃げ出した連中なら……どうせそこら辺で勝手に野垂れ死ぬわよ。

レイトン中佐
レイトン中佐

……言いたいことは分かる。

レイトン中佐
レイトン中佐

ふむ……

レイトン中佐
レイトン中佐

いいだろう。逃げ出した労働者の件で追及するよりも、今は工場の稼働を維持するほうが重要だ。

レイトン中佐
レイトン中佐

今回の脱走についてなら不問にしてやろう、キャサリン殿。

レイトン中佐
レイトン中佐

しかし、そちらも約束を守って頂きたい。

キャサリン
キャサリン

フッ、あたしが工場を受け持った以上、問題は起こさせないわ。

レイトン中佐
レイトン中佐

結構結構。では、私は譲渡式に向かうとするよ。

サルカズ傭兵
サルカズ傭兵A

はぁ、ツいてねえな~。俺も工場んとこに行って譲渡式を見ておきたかったぜ。

サルカズ傭兵B
サルカズ傭兵B

我慢しろ、ここからだって旗ぐらいは見えるだろうが。

サルカズ傭兵
サルカズ傭兵A

その場にいたほうが雰囲気諸々も実感できるだろうがよ。

サルカズ傭兵
サルカズ傭兵A

いや~それよりも、まさか俺たちがマジでヴィクトリアの首都を取っちまったとはな。昔だったら夢にも思わなかったぜ。

サルカズ傭兵B
サルカズ傭兵B

……そうだな。

サルカズ傭兵B
サルカズ傭兵B

だがこっからが本番だぞ。今じゃ大公爵たちがどっからでも俺たちを睨みつけているんだ、忙しくなるぞ。

サルカズ傭兵
サルカズ傭兵A

ハッ、あいつらが能無しだったから俺たちにロンディニウムを奪い取られたんだろうが。んなヤツら放っておきゃいいんだ。

(サルカズ傭兵達が立ち去り、フェイストが姿を見せる)

フェイスト
フェイスト

……

フェイスト
フェイスト

ふぅ、あっぶねぇ……

フェイスト
フェイスト

ここにある隙間がバレなくてよかったぜ、こっから区画に潜り込んでっと……

フェイストは、とある配管の入口前に立ち止まっていた。
彼が調べたところによれば、この配管を辿ればサディオン区に入れる。
だが、そんな配管に潜り込もうとする彼の足取りには戸惑いが見えていた。
この先遭遇するであろうシチュエーションは、大方シミュレーションしてきた。パットにだってウソはついていない。
ただ、そのシチュエーションすべてに対応できる解決策を、彼は持ち合わせていなかったのだ。
キャサリンの言う通り、少しばかりは冴えた頭脳と器用な腕を持ってはいるが、それでも今のフェイストはしがいないただの技師でしかない。
その脳みそと腕さえあればロンディニウムで食いっぱぐれることはないかもしれないが、サルカズに見つかってしまえば命の保証はない。
トムの言った通りだ。あのデカブツのなまくらさえいれば、ここでこんな思い悩む必要もなかったはずだ。
こんな歳にもなって、蒸気騎士を見たことがないとは情けがない。

ガシャンガシャン。ガシャンガシャン。
オレがずっと過ごしていた工場には、天井高くに天窓が備え付けられていた。そこから見える空はいつも狭かった。
太陽が昇ったり傾いたりするにつれ、工場内はいつもコロコロと顔色を変えてくれる。だが唯一変わらなかったものと言えば、組み立てラインでひたすらに金属部品を叩いた際に聞こえる甲高い音と――
いつもその組み立てラインを見守ってた、婆ちゃんの背中だけだった。

キャサリン
キャサリン

どうしたフェイスト、焦っているのかい?

キャサリン
キャサリン

手が緩んでるよ、しっかりレンチと金槌を握りしめな。

キャサリン
キャサリン

何かを成し遂げたいのなら、そのままひたむきに続けていくしかないのさ。

キャサリン
キャサリン

今日金槌を振り下ろせば、あんたは屑鉄を手に入れられる。

キャサリン
キャサリン

明日振り下ろせば、あんたは蒸気鎧を作り出すことができる。

キャサリン
キャサリン

そして明後日明々後日も振り下ろしておけば、あんたの子供もそのまた子供も、それに倣ってハンマーを振り下ろしてくれる。そうしたら――

キャサリン
キャサリン

あたしらはやがて、ロンディニウムを築き上げることができるのさ。

やっぱり、戻ったほうがいいんじゃないのか?
それとも、このまま突き進むべきか?
分からない、オレは一体どうすれば。

(角笛の音)

そこへふと、サルカズの角笛が吹き鳴らされ、フェイストは振り向く。
ロンディニウムの工場には、どこもその建物の上に旗が掲げられているのだ。
今そこで靡いているのはヴィクトリアの旗である。
工場が建てられて以来、そこだけは何も変わってはいないのだ。

レイトン中佐
レイトン中佐

だがそれも、今日を以て変えられる。

レイトン中佐
レイトン中佐

さあ、ここにサインしたまえ、キャサリン殿。

(キャサリンがレイトン中佐に近づきサインをする)

そう言われたキャサリンは、なんの躊躇もなく、工場を譲渡する文書にサインを書く。これまで何度もこのためだけに練習してきたサインを。

レイトン中佐
レイトン中佐

よろしい、では最後に旗の交換を。

レイトン中佐
レイトン中佐

降ろしてやれ。

サルカズ傭兵
サルカズ傭兵

はっ。

レイトン中佐
レイトン中佐

キャサリン殿、共にここで見守ろうじゃないか。

レイトン中佐
レイトン中佐

今の貴女は、まさしく歴史の当事者であるのだからな。

キャサリン
キャサリン

……

キャサリン
キャサリン

タバコ、いいかい?

レイトン中佐
レイトン中佐

お好きに。

(キャサリンがタバコに火を着けてふかす)

キャサリン
キャサリン

中佐殿、あたしも実のところ、あんたについては色々と聞いたことがある。

レイトン中佐
レイトン中佐

ほう、何かな?

キャサリン
キャサリン

ガリアの遺民らしいじゃないか。

レイトン中佐
レイトン中佐

……ああ、父はガリアの遺民だった。別に隠すことでもない。

レイトン中佐
レイトン中佐

いま私がどう思っているかが知りたいのであれば率直に教えてやろう。

レイトン中佐
レイトン中佐

血を流さずに旗を取り換えられたことは嬉しく思うよ、だがそれも一瞬でしかない。今は悲しみのほうが募ってしまっているよ。

その傍ら、サルカズたちはせっせと自らの旗を運び込んでいく。
そのほか二名のサルカズも、いつでも旗を降ろす用意はできている。
そんな彼らの顔に浮き上がった喜びの表情を、キャサリンは人知れずに覗き込んでいた。
その奥には、なんとも儚げな夕焼けの空が広がっていたのである。
暗闇はとうとうやってきた。そう思ったキャサリンであったのだ。

一方その頃、振り向いたフェイストは、ちょうど取り換えられようとしていた旗を目に焼き付けていた。
彼はそのままそこで立ちすくみ、ただただヴィクトリアの旗が下ろされていくところを見届ける。
そしてしばらくして、サルカズの旗がゆっくりと昇ってきたのであった。
何も変わらない、いつもと同じであるかのように。
そうしてフェイストは深く息をつき、ひょいと配管の中へ飛び込んだのであった。
配管の中は暗闇が広がっていた。そんな中、彼は期待と不安を覚えながらも、記憶を頼りにサディオン区のある方向へと足を踏み出す。

この日、ロンディニウムにあるすべての軍需工場はサルカズに譲渡され、その証としてサルカズの旗印が掲げられた。
思い思いの心情を受けながら、今日もその旗は風に靡く。

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