
さっきの見たか、モーガン?

あの倉庫番連中、緊張し過ぎて何もできなかった上、最後にはパパッと俺に倒されちまったぜ。

はいはい、ひけらかすんじゃないよ。このジャーキーなら持っていきな、今日はあんたの勝ちよ。

ヘッ、負け惜しみってか?今度は一緒に行こうぜダグザ、負けたヤツは見張り番だ。

……あいつらがこっちを見てるぞ。

誰が?

……

なに見てんだテメ……いや、なんか用か?なんもねーならどいてくれ、キッチンで飲みモンを取りにいきてーんだ。しこたま働いて、喉が渇いちまったぜ。

今日のアレ、なぜあんなことをした?

それは吾輩たちがサルカズの巡回部隊を引き離して、倉庫からあんたたちを逃がしたことかい?

そうだ。

なら吾輩の聞き違いかな~?あんたらが言うべきなのは感謝の言葉のほうだと思うんだけど。

サディアン区にいる仲間たちならとてもお前たちをに感謝していたさ、無論俺たちもな。あの任務なら無事に終えられたはずなのに、倉庫を燃やす必要はなかっただろ?

あの倉庫はな、サルカズのもんじゃなくてヴィクトリアの商人のもんなんだぞ!今はただ、サルカズに奪われたってだけだ!

ハッ、ああいう金持ち連中ってのはな、欲をかきゃかくほどキモが小さくなるもんなんだよ。あいつらが喜んでサルカズに手を貸すってんなら、俺は喜んであいつらに損をさせてやりてぇな。

お前たちのその行いは、彼らをさらにサルカズ側へ寝返らせるもんなんだぞ!それを分かっているのか?

そりゃいい。あの連中が裏切者になりゃ、次会った時は心置きなく倉庫を燃やしてやれるぜ。

……あんなのは自救軍のやり方じゃない、チンピラのやり方だ。

……

イザベルさん、どうしてそう頑なにこいつらと一緒につるもうとするんだ?

ここではダグザと呼べ。

……

思いもしなかったよ、イザ……ダグザさん。アラデルさんがお前や例の殿下の身分を明かしてくれた時、俺たちはてっきり……

……シージが最初から伝えてやっただろ、自救軍と一緒に行動するのはグラスゴーギャングだ、アレクサンドリナ殿下と塔楼騎士じゃねえ。

じゃあんた方チンピラが俺たちを導いて、玉座に座らせてやってもいいっていうのかよ?

おいあんた!この※ヴィクトリアスラング※が!どの口でヴィーナをそんな風に言うんだい?

よせモーガン、牙を仕舞え。ここは余所ん家だぞ!

みんなお前やカンバーランド家に付き従ってくれているのに……

黙れこのヤロー!あいや、その、言葉を慎んでくれ。今のアタシたちは同じ仲間だ、そんな言葉で同じ仲間を傷つけないでやってくれ。

……

俺の失言だ、すまなかった。
(自救軍の戦士が立ち去る)

……

……

なんで吾輩を止めた?

止めなきゃまたヴィーナが頭を抱え込むからだろ、それにロドスの子ウサギとドクターだって。次そうやって衝動的になる前に、よぉく自分は誰についてきたのか考えてみるんだ。

ハッ……あんたが吾輩を宥める日が来るだなんて思いもしなかったわよ。

環境が変わる以上、俺たちもそれに適応しなきゃなんねえんだ。ダグザを見てみろよ、すげー適応してんじゃねえか。

……褒めるな、慣れない。

褒める?ハッ、お前と同じ人生なんかゴメンだぜ、息が詰まって死にそうだ。

でだモーガン、ここ数日で俺はようやく少し道理が分かっていたんだ。俺たちは適応しなきゃ、遅かれ早かれヴィーナの後を追えなくなっちまう。

……フンッ。

ほら、ジャーキーをやるから、今日の勝負はドローにしておいてくれ。

いい、持っていきな。食欲がなくなっちゃったわ。

ハンナ、ここ数日ずっと考えてたの……今の暮らしは、本当にヴィーナが求めたものなのかしら?彼女がここに来てから、彼女に敬意を払ってくれた貴族や商人どもなんて何人いた?

勘違いすんなよ、モーガン。

そいつらならいつかきっと、ヴィーナが素晴らしい導き手だってことに気付いてくれるさ。それにその敬意ってのは、得るべくして得るもんじゃねえ、ヴィーナ自らが勝ち取るものだ。

おぉアラデル殿、ようやく来てくださったか!

申し訳ない、最近はちょっと些事で忙しくてね、中々抜け出せられなくて。

聞いた話によると、あの蒸気鎧のバイヤーを探してるようじゃないか?

……お耳が早い。

ただの噂だよ。商売仲間から聞いた話だ、何やら最近蒸気鎧をロンディニウムから運ぶ出そうとしていたようじゃないか。

でも最後、その取引はなくなったとか。

……そう?

私から言わせればね、あんな高価な物を考えなしに売るに出すのはよくないよ。今の相場じゃ、高値では売れないからね。

助言に感謝するよ、でも家に残された僅かな産業を維持するためにはどうしてもね。

はぁ、まあ理解はできるよ。私たちが持ってるあんな端金など、サルカズからすりゃ手にしてもなんの意味もないからね。

ところで、パーティはまだ始まっていないのかしら?私の到着なら待たなくてもよかったのに。

そうはいかんさ。近頃のアラデル殿は、ここセントラルにいる私らみたいなツいていない連中の大黒柱だ!今日まで持ち堪えられたのも、君の手助けがあってことだよ。

あんな気狂いどもとの交渉なんてゴメンだね、向こうは金すら受け取ろうとしないんだ!

ご冗談を、伯爵様。私にはもう栄誉ある身分はないわ、ただ皆様方が今の境遇に対する不平不満に、少しだけ声を張らせてもらっただけよ。

ご謙遜を、アラデル殿。君の手にかかれば、カンバーランド家もきっとまた往日の輝きを取り戻せるとも!

そうですぞ、あの出来事も今やただの過去だ。

ロンディニウムが再び安寧を取り戻した暁には――オッホン、いや、今のロンディニウムは安寧ではないと言ってるわけではないぞ!

とにかく、この先カンバーランド家ならきっと我々から感謝されること間違いなしだ。

レイトン中佐がお越しになられたぞ!

レイトン中佐に乾杯!
(レイトン中佐が姿を表す)

……

レイトン中佐殿、ようこそおいでくださった。こうして私たちのパーティに貴方をお迎えするのは随分と久しぶりになる。

きっと我々の平和のために東奔西走してらっしゃることでしょうな!心より感謝を申し上げる!

ちょうどいい、最近私の友人がいい酒を手に入れてね。

昔ならどうやっても手に入れられなかった品だよ。だが今の状況下なら、こういった逸品も珍しくなってしまった。後日そちらの邸宅に送らせて頂こう。

……紳士淑女諸君。

今日をもって、パーティはお開きだ。

この後、皆には軍事委員会の審査を受けてもらう。では、幸運を祈っているよ。
(レイトン中佐が立ち去る)

……なんだって?

待って、お待ちを!それはどういう意味かな?

中佐殿、レイトン中佐殿!

アラデル殿、どうかそちらからも中佐殿に掛け合ってくれないか!今のは冗談にしては分が悪すぎる、私は……クソッ!このままでは死人が出てしまうぞ!

レイトン中佐殿、どうかお待ちを!
(貴族達がレイトン中佐を追いかける)

お嬢様、これは……

サルカズたちがこの私利私欲のことしか考えていないクズどもを野放しにしていたのは、大公爵たちに団結するための口実を作らせないためだった。

ヴィクトリアの主になりたがっている大公爵がいないわけがないじゃない?

ヴィクトリア貴族のネットワークの中心がここロンディニウムよ。そのロンディニウムの怒りを買えば、即ち国家そのものの怒りを買うようなもの。

そんなことをすれば、大公爵たちだってやむを得ず互いの争いを一旦放置し、ロンディニウムへの侵攻を開始する。

でも今となれば、サルカズ側はもはやそれを心配する必要はなくなった。

ヤツらは成し遂げようとしたことをやり遂げたんだわ。つまりエルシー……

ロンディニウムの過去数年はあくまで災いを被ってきただけに過ぎなかった。でも今は――

とうとう戦争がやってきたんだわ。

ではお嬢様……

あの貴族方が仰っていたように、お嬢様からもレイトン中佐に進言したほうがよろしいのでは?そうすれば少しは……

彼らは私を“大黒柱”と呼んでいたわね。でもエルシー、サルカズがロンディニウムを掌握する前、あの中でカンバーランド家を訪れに来てくれた方々がいると思う?

大公爵の真の友人とも呼べる人たちも、いつこんな気取ったパーティに参加したことがあったのかしら?

今の私は、あの実力もなく保身に走るだけの貴族たちに推されたネームプレートに過ぎないわ。ヤツらはカンバーランドの名の下に団結した、であれば……

狙われるのは必然的にカンバーランドになるわ。

それはつまり……

屋敷に戻って、自救軍とロドスに直ちに公爵邸を離れるように伝えてちょうだい、エルシー。あそこはもう安全ではなくなったわ。

その際、最後に一目見ておきましょう……我らがご先祖のものであったガーデンを。

アラデルさん。

あなたは……

公爵様から貴女宛てのお手紙を預かっているわ。

オークタリッグ区に数日待機したと思えば、すぐにまたハイバリー区へとんぼ返りだ。ここに密集してる工場と家々を見てみろよ、こんなとこよりも息が詰まる場所はねえぜ。

じゃあ隊長、ウチらが今の任務を終えたら、またセントラルに戻れるってことすか?

戻ったところでお前に何ができるってんだ?ったくマンフレッドの野郎、なんでお前みてぇな殺しもしたことがねえようなガキまでロンディニウムに呼びつけたのやら……

ウチはガキじゃないっす!グリムがまだいた頃、ウチらはクルビアで色んな任務に行ったことがあるんすからね!

グリムの野郎、ね……フッ、自分の命をサディアン区に投げ捨てやがったせいで、こっちはお守だぜ。そうと知ってりゃ、さっさとアイツの首を換金しておきゃよかったぜ。

えっ……隊長と二人は友だちじゃないんすか?

……言っておくが、俺はお前を傭兵に育てる義務はねえからな、ガキんちょ。しっかり地図案内の任務をこなせよ。んで、こっからどう向かうんだ?

十一番軍需工場なら、すぐ目の前っすよ。

それにしてもマンフレッド将軍、どんだけ長いネームリストを寄越してきたんすか……ここに載ってるのって、全員何か知ってる労働者たちっすよね?人目のつかないところで殺せばいいんすか?

俺からすりゃ、工場にいる全員を丸っとぶっ殺しゃいいのに。

な~にが生産ラインの稼働維持のため「正確に事情を知る者のみを殺せ、みだりな殺戮は禁止する”」だ……チッ、面倒ごとばっか増やしやがって。

彼が雇い主なんだから仕方ないじゃないっすか。

はぁ、ここで文句を垂れても仕方がねえ。リストを仕舞ってささっと向かうぞ。

フェイスト!

パット!

丸一年ぶりだな、会いたかったぜ~!

すまなかったな、もっとはやくみんなに連絡しておくべきだったよ。

何言ってんだ、こうして会えただけでもこっちは嬉しすぎて死んじまいそうだ。お前ならきっと生きて帰ってくれるって信じてたよ、ここ一年ずーっとみんなに言い聞かせてきた甲斐があったぜ。

あそこにある通気口、まだ憶えてるか?そこを潜って出ていけば、外に小っちゃいプラットフォームがあるんだ。

数年前、お前はそこからジャンプして隣の工場の屋上まで飛び越えてやるって、俺たちに言い張ってたよなぁ。

あん時はド肝を抜かされちまったぜ。何十メートルもの高さがあるプラットフォームだからな!落っこちたら一巻の終わりだぜ!

でも、お前は飛び越えてみせた。俺たちの中で、最初からそう云い張ってたのはお前だけだったな。それから……はは、トムもダンも俺も、みーんな後に続いて飛び越えていったな。

毎回あいつらがよ、お前はもう死んだんじゃないかって聞いてくるんだ。でもその都度、俺はその通気口を見ろって言い返してやったんだ。

あはは……あの頃のオレたちはマジで怖いもの知らずだったよな?

んで、この人がお前の所属してる自救軍の仲間か?

どうも。

なあフェイスト、このお友だちなんだか博識そうだな。

自救軍にはどんな人もいるって聞くが、ありゃ本当だったんだな。

ドクターなら、確かに博識な人だよ。

自救軍と協力しているんだ。

なんだ、お前ら協力者まで見つけたのか?

ますます真実味が増してきたぜ。

あはは。

それで、今回は何しに戻って来たんだ?なんか俺にも手伝えることはないか?

実は――

パット!

へ、へい!か、頭……

仕事に戻りな。

へい。

ところでキャサリンさん、こうしてフェイストが戻ってきたのなら、もう追い出したりは……しないっすよね?

そう急いで庇う必要はないよ。あんたも、それとあんたの友だちも、話があるから場所を変えてもらうわ。
(キャサリンが立ち去る)

……

あんま婆さんを悪く思わないでくれ、フェイスト。

お前がいないこの一年間、キャサリンさんがサルカズを取り持ってくれたおかげで、ここの工場は一人も消されずに済んだんだ。

一回大事が出て、危うく都市防衛軍の司令官を相手にするハメにもなったんだぜ?

でも最近、サルカズ側も急かしてくるもんだから、キャサリンさんも中々やり辛くなってきているんだ。

……分かっているさ、パット。

オレが婆ちゃんを悪く言うはずがないだろ。

オレが自救軍に入って、この先自分は何と直面するのかをようやく理解した時、オレも分かったんだ……

あの時婆ちゃんがしてくれた決断が、どれだけ難しいものだったかを。

よし。それで、今回は何しに戻ってきたんだい?

探し物があるんだ。

探し物?

ああ、サルカズ側はこの狂った戦争を維持するための、隠された補給線を持っている。

そんでその補給線のゴールが、この工場地帯であることが分かった。

だからその補給線を探しに戻って来たんだ。

あなたが一番この工場地帯に詳しいと、フェイストから聞いた。

婆ちゃんはこの工場地帯に一番詳しい人だ。きっと何かしらの手掛かりも知ってるんじゃねえかって。

だから婆ちゃんにも、手を貸してもらいたい。

あたしを褒めても何も出やしないよ。

手掛かりだけでも教えてくれればいいんだ。

そうそう、工場に迷惑はかけないからさ。

どうしてあたしが手を貸すと思えるんだい?

もしかしたらサルカズの傭兵たちにパットを送り付けて、密告させた可能性もあるだろ。

……

もしそうなら……こっちはほかの連中を連れて逃げるしかねえだろうな。

四日前、あんたらがサディアン区でやらかした騒ぎで一体何人死んだんだい?はっきり答えな。

……

全員の名前は憶えてやっているのか?顔はどうなんだ?全員が死ぬ直前にどういう顔をしていたのか、最後に何を喋ってたのかは憶えているのかい?

それは……

今はまだ答えなくていい、フェイスト。パッと思いついただけの答えで誤魔化そうとするんじゃないよ。

そちらの“ドクター”も、あんたが何を考えているかは知らないが、あんたみたいな人はよぉく知っている。あんたは自分のことを賢いと思っているようだが、小賢しいだけじゃ死は欺けられないよ。

キャサリンさん!大変だ、入口に大勢のサルカズたちが……

……!?

ドクター、今すぐここから――

都市防衛軍の司令官、レイトン中佐が会いたいって、迎えに来たって言ってました。

……なんだって?

……

ジョージ、このよそ者二人をしっかりと見ておきな。

タバコ、いるかい?

馴れ馴れしくすんじゃねえよ。

レイトン中佐があたしに会いたいって?

ああそうだ。

あたしらの工場は予定通りノルマを達成してるはずだ、中佐殿に気を遣わせるようことはしていないと思うがね。

無駄口はいい、中佐が会いたいって言ってるんだ、ついて来てもらうぞ。

……

ならちょいと待ってくれ、まだ片付けなきゃならないことがあるんだ。

おいババア、勘違いすんなよ、お前に選択肢はねえんだ。

だとしてもいきなりすぎる、せめてあたしの仕事をほかの者に引き継がせてからにしておくれよ。
(パプリカがサルカズ傭兵に近寄る)

……ちょっとぐらい待ってあげようよ。

(小声)将軍だって、事を荒立てるなって言ってたはずじゃないっすか?

……チッ、10分だけやる。

十分さ。

婆ちゃん、あいつら何しにここへ来たんだよ!?

あんたには関係ない。

でも――

黙ってな、いいからついて来んさい。