
あなたは分かってないんだわ、あの人のことが。私には分かるもの。

お前はその“分かる”ってのを過信してしまっている。感情的になって見えた幻に目がやられちまったんじゃないのか?

サルヴァトーレは……クルビアの暗い路地から抜け出す資格はあるわよ。

あの男はシラクーザ人、どんな手を使うのか分かっちゃいないんだ、俺の妹よ。本当に俺たちに儲けさせてくれる保証なんてあるか?

あの男は面倒事を引っ下げて来るだけだ、俺たちをも巻き込んでな。

あの人は力で私たちを守ってくれるし、その力だって秩序によって厳しく管理されてる、それだけじゃまだ納得できないの?

そんなロマンあるもんじゃないよ。

いいえ兄さん、それは違うわ。確かに、ほかのシラクーザ人なら血と傷口を誇りの勲章として見立てていたでしょう。

けど、血がただの血であることを知っているのは、彼だけよ。

いや~、どうだったどうだった?アタシの演技?

正直に言っていい?

聞きたい聞きたい!

ひっど過ぎる!やっぱエクシアにこの役は合わないってば!

えぇー、けっこー役になりきれたと思ったんだけどなー。

演技はなりきればいいってだけの話じゃないの。

でもまあ台本からすれば、悪くはないかな!ほとんどミスは見れなかったし。

ちょっ、アタシへの要求低すぎない!?

クロワッサン、どうだった?

べらぼうによかったで!

ただ、お兄ちゃんに不満を表す時は、もーちょい感情を抑えたほうがよかったんとちゃう?

うーん、表現方法を変えるべきなのかな……ちょっと考えてみるね。

うへー、クロワッサン、いつの間にそんな演技に詳しくなったのさ。

毎週ソラはんが稽古してる様子を見に行ってるウチを舐めないでもらいたいわ。ウチはいっつものらりくらりと消えてまうどっかの大忙しなお二人さんとはちゃうねん。

むー、アタシはそんな何も言わずに消えたりしないってば。

あイヤ、別にそういう意味やなくて……

でもさ、それってきっと彼女を見つけられるって意味でもあるんでしょ?

まあ、せやな。
(拍手の音)

いやぁお見事、実に特色ある演技でしたよ。

えっ?

えーっと、あなたは……

ベンソンネキソスと申します。

えっとベン、なんだっけ……

ベンと、呼んで頂いて結構です。

おっけー!じゃベンさんね!

あのー、申し訳ないんですけど、もし用事がないんでしたらお引き取り願いますか?まだお稽古の途中ですので。

用事ならありますよ、今こうして演劇を鑑賞してる最中じゃないですか。

ウロウロしながらピザを食べてる人が劇を鑑賞してるとは思えないんですけど。

鑑賞時にピッツァを食ってはいけないルールなんてあるんです?

あー、劇場にそれっぽいのはあるかもよ?

けどそれはあくまで劇場が観客に設けたルールであって、舞台が観客に設けたものじゃないでしょう?

表面的ではありますが、規範とは物事に対する畏敬の念を人々に抱かせるもの。しかし虚構でできた舞台の幕が上がれば、真に畏敬すべき思いも跡形もなく消え果てしまうものです。

えーっと……どういう意味?

あっ、一切れ如何ですか、スィニョリータ。

いる!

うえぇ、食感マジ最悪なんだけど!

この街で売ってる一番安物のピッツァですからね。ただまあ、ソースの味は悪くありません。

……じゃあその、先ほどまであたしの演技をご覧になっていたのでしたら、感想や評価を頂けませんか?

見たところあなたは感情の捉え方や表現を得意としていますが、ミュージカルとは些か差異があるのがポイントでしょうね。

あなたは明らかに舞台慣れしている、いや、慣れ過ぎている。それが却って、ミュージカルの役者として演技を十全に発揮できてなくなっている。

しかし、別にこれはあなたが悪いわけではありません。とはいえ、ミュージカルの舞台に立つ以上は、これを乗り越えなければならないでしょうね。

へー、おじさんって結構目利きがいいんだね、そんなナリだから分かんなかったよ。

考えてみてください、あなたはクルビア豪商人の娘で、サルヴァトーレはシラクーザからやってきた一文無しの移民。

彼はあなたが今まで出会ってきたどの男とも違う。あなたの身分にはこれっぽっちすら興味を持っていないが、いつもいつもあなたに目を配っている。

彼は誰よりも怠け者ではありますが、しかし誰よりも頭が冴えている。

まるで一ファミリーのドンになるべくして生まれたような男は、今や戻ることのできない危険な道を歩もうとしているのです。

そこでお聞きしますがスィニョリータ、あなたはそんな人を愛せますか?

愛せ……ます……

いいや、あなたは恐れている!彼を愛せば愛するほど、あなたは彼を恐れるようになっているのです!

あなたは何一つ、彼を傍に留めさせる保証は得ていないのだ。

彼から離れたほうがいい、彼は私のものではないと、そう直感があなたに訴えかけているのです。

……

それから何度も何度も、彼はあなたの人生におけるただの通りすがりの人でしかない、彼を諦めればもっといい人が見つかると、そう自分に言い聞かせている。

もし彼を追いかけてしまえば、あなたの人生はまるで砂嵐を往く船の如く航路を見失ってしまう。それをあなたは、何よりも理解しているはずです。

なのにあなたは、自分の決断は正しいのか間違っているのか、それだけは未だに分からないままだ。

だがしかし、それでもあなたは自分の親にこう怒鳴りつけたのです――

「血がただの血であるのを知っているのは、彼だけよ!」

お~。

おお!

そっか、こういう感じだったんですね……

やっと理解してくれましたか、スィニョリータ。
(ベンが立ち去る)

あたし……

エクシア、もう一回やるよ!

えっ、ちょっ、まずはひと口ぐらい水を――

へへ、ソラはんがこの状態になってもうたからにはもう逃げられへんで~。

ほなウチは飲み物でも買ってくるわ、食べ物もついでにな。

ベンはん、あんたもどう――

あれ、もうおらん?

あっ、やっと来た。お巡りさーん、こっちです!

私は警察ではなく、ヴォルシーニの都市裁判官です。ラヴィニアと呼んでください。

ついでに言うと、シラクーザに警察組織はありませんよ。

えっ、警察がいないんですか?

外国から来られた方なんですか?治安維持なら、彼らが担当ですので。

彼らって、誰なんです?私はただビジネスしにシラクーザへ来ただけですので、あまりこの国ついては詳しくないのですが……

彼らとはファミリーのことです。できることなら関わらないほうが身のためですよ。

は、はぁ……

それで、現場はどこですか?

あっ、それが……まあ自分で見たほうが早いと思います。ほら、そこのゴミ箱の後ろ。

……

遺体は五名、死亡して24時間は経過していないはず、恰好を見るにファミリーのメンバーのようですね。

待った……

どうしました?

……この人たち、今朝会ったばかりです。

ついこの前、ある公務員の人を襲ったのですが、少し顔を合わせただけで取り逃してしまいました。

しかしなぜこんなところに……この人たちのボスだった人もいない。

シラクーザが……危険な場所だってのは聞いたことありますけど、まさかこんなにも……

もしファミリー同士の争いだったら、必ず現場をキレイに処理するはずです。

これは彼らのやり方にそぐわないわ。

ここは何も見なかったことにしておきましょう、スィニョーレ、あなたの身の安全のためにも。

あとは私に任せてください。

あっ、は、はい!

クソぉ、今にもさっさと出ていきたいよ、こんな場所。
(通報した人が立ち去る)

……
(携帯の呼び出し)

やぁラヴィニアさん、まさかそっちからかけてくるなんて珍しいね。

ディミトリー、近頃街中で威張ってるようなヒットマンの類は見かけませんでしたか?

んー?んー……この時期にそんなことをする人はいないと思うけどね。

……ここ一か月起こった罪状を全部あなたになすり付けてやってもいいんですよ?

まあまあ、ちょっとした誤解だと思うよ~。

ついさっき、オルヴィエト大通りの裏路地で五人の遺体を発見しましたが、現場は処理されていません、ファミリーの仕業には見えないんです。

それに今朝、この横たわってる遺体の連中がある公務員を襲ったところに出くわしたばかりなんです。

へぇ、面白いこともあるんだね。

あなた方の権力闘争にはなんの興味もありませんが、少なくともここにはまだ秩序が保たれていることだけはくれぐれも忘れないように。

ここヴォルシーニはベッローネが仕切ってるんだ、それにあんたみたいな厳しい裁判官がいりゃ、忘れたくても忘れられないよ。

こんなこと、ベッローネファミリーにケンカ振ってるようなもんさ。誰もやりたがらないよ。

まっ、クルビア人を――

クルビア人を除けば、と言いたいのでしょう?

俺たちが定めたルールに縛られない人間なら、こんなこともしでかすかもな。

……何かあったら私に知らせなさい。

そんな義務負っちゃいないはずなんだけど?

それも“ベッローネファミリーへケンカを振ってる”と見なしてもいいと言うのなら、従わなくて結構ですよ?

はいはい、レオンに伝えておくよ。まっ、どうせあいつも暇だろうし。
(携帯が切れる)

……

……政府職員への襲撃、それと突如と現れた殺し屋。

この二つ、何か関係があるのかしら……
顔に打ち付けてくるほどの湿った空気。
裁判所への帰路の途中、近頃発生した事件がラヴィニアの頭の中で幾度となく過っていく。
それらすべてを覆い被さっているのが何なのか、彼女には分かっていた。しかしここシラクーザではそれが当たり前なのだ。彼女含めて、ここに住まう人たちはみなそれに慣れ切ってしまっている。
そんな中、裁判所の前に止めてあったマイカーを見たラヴィニアは、堪らずため息をついた。
彼女の車に塗料がぶっかけられていたのだ。周りに止めてある車両と比べて、格段に目立っている。
これでもまだ優しいほうの悪意だ。
昔の彼女であれば、こういった行為に心底やるせない気持ちでいっぱいになっていたはずだが、今はこの降り続ける雨のほうが悩ましいばかりである。
無論、洗車代もそうではあるが。
(ラヴィニアとラップランドがぶつかる)

あっ、すみません。

気を付けてね、裁判官さん。

今日も雨は止みそうにないんだ。足元に気を付けなきゃ、すっ転んじゃうかもよ。

……お気遣いありがとうございます。ただ、あなたも傘はお持ちになれていないようですね。

傘をさすのはあんまり好きじゃないんだ、ボクとしては雨に打たれたいものなんでね。

そうですか、ならそちらも足元にはお気をつけてください。
(ラヴィニアが達ち去る)

……

なんでわざわざあの女にちょっかいかけたんだ?

なんでちょっかいをかけたって思えるんだい?まさかキミ、ボクを少しは理解したとでも思ってるのかな?

……聞かなかったことにしてくれ。

まっ、ちょっかいをかけたのは本当だけど。

……

あの女、全身からボクのよく知っている大っ嫌いな匂いをしていたよ。

そうかよ。しかしだ、お前からベッローネファミリーに潜入するよう言われたけどよ、これじゃ向こうに疑われて終わりなように気もするんだが。

ボクが知りたいのは今この街で何が起こってるのか、なぜベッローネがテキサスを連れ戻したかだけだ。

そこでキミたちはどう潜入するつもりなんだい?下っ端のヒットマンとして始めて、どんどん出世してからベッローネのお抱えになるつもりなのかな?

少なくともガンビーノならそう考えてるはずだ。

効率が悪いね。

少しは交渉材料でも見つけたらどうなの?

でガンビーノは?

……例の仲介人んとこに行って、手柄を立てに行きやがったよ。

ハッ、ほらぁ、シラクーザでどう出世街道を登っていくのかあいつのほうがキミよりよっぽど理解してるじゃないか。

否定はしない。

俺はもう長い間ずっと龍門で暮らしてきたんだ。まさかシラクーザがてんで変わっていなかったなんてよ、もうすっかりここでの暮らしが鈍っちまったぜ。

またすぐに慣れるさ、ガンビーノみたいにね。

キミだってシラクーザ人なんだもん。

それでお前、本当にあいつがまたここで成り上がっていくのを放っておくつもりなのかよ?

ダメなのかい?キミだってそうすればいいじゃないか、思う存分にね。ボクからは絶対に手出しはしないよ。

……ますますお前が何を考えてるのか分からなくなってきちまったぜ。

ボクなら今は雨を楽しんでいる最中だよ、雨は嫌い?

ガンビーノは大っ嫌いだろうよ、それだけだ。

んで、なんか情報でも手に入ったのかよ?

知りたいの?

はいはいそういうやつかよ。それで、知るにゃ俺は何をすればいいんだ?

キミは運がいい、ちょうど運転手を必要としてたんだ。

……はぁ。

さあ入ってくれ、番狂わせさん。
(ガンビーノがディミトリーに襲いかかる)

そら、生きて帰ってきてやったぜ、このバーテンのクソ野郎が。

いいね、中々やるじゃないか。でもあんたも、八年前龍門に行ったあんたのお友だちのカポネも、まだまだだね。

イヌっころが、あんま調子に乗んじゃねえぞ!

やっぱあんたは噂通り、自分の持つべきものと持つべきでないものをよく分かっていないみたいだ。

最後のシチリアーノはそうやってスィニョーラからの庇護を失ったんだろ、違うか?

今のシチリアーノに、自分のそのちっぽけな誇りを守る以外何ができるんだい?

……

よく聞いておけよガンビーノ、俺はあんたやカポネが何しにシラクーザへ戻って来たかは興味ないんだ、後ろに誰がついていることもな。

俺が欲しいの実力、それと行動力だけだなんだよ。

そうかよ、んで俺たちの行動力はどうだったんだ?

あんたらはここのモンじゃないが、キモは中々据わってる、悪くない。

だからこれからも至ってシンプルだ。報酬はやる、もしいい仕事ができたのなら、もっとやる。

ベッローネに会いたいんだろ?俺を満足させてくれたら、ちゃんと会わせてやるさ。

ならその際はテメェが悔やんでも悔やみきれねえぐらい、いい仕事をしてやるさ。

シチリアーノのそういった骨の髄までの諦めの悪さは嫌いじゃないよ、本当さ。

今のシラクーザは逆にそういうのが少なくなっているからね。

だからあんたは使ってやるよ、ガンビーノ。

そん時になったら分かるさ、俺は決して後悔しない人間なんだってな。
パーティが間もなく開始する中、早々に入口で客人らを迎える人が立っていた。

ようこそ、スィニョーレ・ベアット。

君は――

ルビオだ。先週のパーティで一度会ったことがある。

あぁ思い出した、食品安全部部長のルビオか。いやすまない、最近記憶力が悪くてね。

君がいるということは、今日のパーティも色々と美食にありつけられそうだな。

そんなとんでもない。いやまあ、今日は客人がいらっしゃるからな、確かに色々と仕込みをさせてもらったよ。

そうか、それは楽しみだ。

ベアット、こっちだ。

おう。では、先に失礼させてもらう。

さっきの人は?

食品安全部部長のルビオだ。

はぁ?あの恰好で部長?てっきりただのコンシェルジュだと思ってたから、来るとき無視しちまったよ。

まあ目を配るほどの人物でもないのは確かさ、所詮はただのピエロだからな。

と言うと?

あいつはファミリーの人間じゃないんだ。だから一生頑張ったところで、精々食品安全部部長とかいう地味な部門のトップ止まりなのさ。

だがあいつが部長になってから、あちこちファミリーに取り入れてもらうようになっている。おかげでそこそこ名を上げたてはいるみたいだがな。

今じゃヴォルシーニ内の大小様々なパーティで出される食品は、全部そこからの提供だ。

にしては体面なんか気にしないで、ああやってよく入口に立って客人らを迎えてるみたいだが。

なるほどね。まっ、ああいった面の厚さは、少しは学ぶ価値があるかもしれないね。

……
(携帯の音)

おめでとう、ルビオ。

えーっと……なんのことかな?

聞いたぞ、今夜のパーティにはあのレオントゥッツォの坊主も参加するそうじゃないか。

ベッローネのボンボン、あのカラッチのお気に入りなんだぜ。昔じゃこんなパーティになんか参加しようともしなかった大物だぞ。

これはお前が出世するまたとない機会だ、違うか?

……ふふふ、ウォーラックさん、どうやらワシが数日前に送ったステーキ、お気に召してくれたみたいだね。

さもなきゃ、こうしてわざわざ電話してまで冗談を言いにくることもないだろ。

ふっ。

今はもう昔じゃなくなったさ、ルビオ。俺がまだロッサーティのこの街のボスとして威張り散らしてるように見えるかもしれんが、こっちもこっちでルールってモンを守らなきゃならん。

例えば今、俺はあんたのことをフラテッロ(兄弟)って呼ばなきゃならない、とかな。

いつもお世話になっているよ。

みんな仲良く手を貸し与える、いいことだ。何かあったらテーブルの上で解決する。

俺たちだって毎日ドンパチやり合いたいわけじゃない、そうせざるを得ないってだけなんだ、そうだろ?

そりゃごもっともで。ウォーラックさんもいつもご苦労なことだしね。

輸送部部長はベッローネの人間だ、いつも俺を避けやがるが、こっちが下手に手を打つわけにもいかなくてな、ったく。

だが貿易部の部長は賢い、あいつとは仲良くやらせてもらってるよ。だからロッサーティも全力であいつを支援している。

で今日のパーティの主役、建設部部長のカラッチはよく分からん。ベッローネのガキが傍にくっ付いてるとは言え、どことも関係はそこそこで悪くはないんだ。

だからルビオ、食品の安全も大事なことだが、あんたも賢い人間でいてくれよ。

もちろんさ、心配はいらんよ。
(レオントゥッツォが車から降りてくる)

おっとお客人がいらっしゃった、それじゃまた後でな。

おう。

……
(回想)

お前が中々の腕の持ち主なのは分かっている、テキサス。だが生憎、俺はあまり暴力は好きじゃなくてな。

暴力に走るのは一番効率の悪いやり方だからだ。

だから、もし暗殺の仕事を数件こなせばシラクーザを出られると期待しているのであれば、お前を失望させてしまうかもしれない。

……何をすればいいのか、それだけを教えてくれればいい。

カラッチ、ヴォルシーニ建設部の部長だ。

彼は新しい移動都市の区画建設の責任者でな、こちら側の人間なんだ。その人を、お前に警護してもらいたい。

政府の役人をか?

言いたいことは分かる。

「政府とはサラ・グリッジョが囲む円卓のテーブルクロスのようなものだ」。

スィニョーラが言ったその言葉に、どこのファミリーの面々も深く感慨を受けたものだよ。

そしていつの間にか、俺たちはそんなテーブルクロスの上に置かれた食器やら花瓶やらを気にしなくなったんだ。

だが今、俺はそういったもの気にしなきゃならなくなってしまった。

クルビア人が新しいモノを持ち帰ってきたからな。その中で一番俺を不安にさせたのは、あいつらが持ち帰ってきた技術ではない、一番不安に感じるのは――

あいつらのやり方だ。シラクーザのとはまったくもって異なってる。

シラクーザの役人共は昔からここにいるファミリーたちに歯向かえないでいる、それをあいつらはよく分かっていた。だから役人たちを無理やり従わせようとはいない。

役人どもには、時には目を瞑ってもらうか、あるいは融通を利かせるようにしたんだ。

それで俺たちには何ができる?あの役人どもを殺したところで、根本的に問題を解決したことにはならないこの場面で。

連中に殴り込むか?いいや、あいつらは自分の弱みを曝け出すほどのバカじゃない。

いくら俺たちがここに強い影響力を与えることができていても、あいつらに手を出すことは不可能だ。

龍門で何年も暮らしてきたお前なら、こういった出来事について少しは親近感を覚えるんじゃないのか?

……ああ、龍門に戻ったと思えるぐらいにはな。

フッ、だがここシラクーザの人たちはまだほとんど気付いていないんだ。クルビア人のやり方が、いずれは大きな波紋を呼ぶことになると。

知っているか、テキサス?このやり方のロジックを真の意味で理解した時、俺は――

心の底から感銘を受けてしまったよ。

暴力や争いではなく、利益と交渉術を武器にしているあいつらに。

つまり、お前も多少なりともそいつらのやり方を学んだというわけか。

学んだ?いいや違うさ、テキサス……俺ならあいつらよりもっと上手くやってみせる。

そこでカラッチは俺の、言わば手札みたいなもんだ。

近頃街中ではいきなり、政府の役人を対象とした暗殺が増えてきている。まだ誰が後ろで糸を引いてるか判明できてはいないが、そんな中、俺はカラッチ部長の安全を確保する必要がある。

彼は結構面白い人間でな。車じゃなく徒歩での移動を好むんだ。裏で彼に守りをつけてやってはいるが、やはりどうにも安心できない。

だからお前にはパーティ会場へ向かう彼の警護にあたってもらいたい。心配するな、話ならすでにつけている。

……
(回想終了)

(ターゲットはすでに前の道を通った。ほかの場所ではファミリーのものが七人も警護にあたっている。)

(問題はなさそうだ……)

(!?)
(ラップランドが近寄ってくる)

やっぱりボクの言った通りだ、これからいいことが起こるって。

やあテキサス、ミルフィーユは如何かな?