ソーラー、まだー?
もう、急かさないでよー!
うぅ、この服キツイ~!
アタシに内緒でピッツァを食べたからそうなったんじゃないの?
そんなことない!昨日の夜は一切れ食べただけだし!
そんなことええから、ほらソラ、息吸って!
すぅ――
うし!完璧!
これでオッケーや。
おっ、できた?はやく見せて見せてー。
はいはい、今出るね。
おお~、すっごい美人!
ホンマやで、これ以上にないほどや。
えへへ。
はぁ、テキサスもこの場にいたら見られたのになぁ。
ホントにね。
いや~しかしさすがはソラはんやな、こうもはやくシラクーザの舞台に出演できるなんて。
そりゃもちろん~。
今回『テキサスの死』は三幕構成の形を採用してるの。第一幕のリハーサルならもう完璧、明後日の公演楽しみにしててね!
もしかしたら、あたしがテキサスさんを探しに行かなくても、向こうから来てくれちゃったりして。
ありえるかもね。そうだなぁ、そん時になったらピッツァを買って、あいつの顔面に投げつけてやるよ。
テキサスのことで思い出した、ウチも最近ベッローネについて聞いて回っとったんやけど、どうやら最近色々とゴタついてるみたいでな。テキサスはんがそれに巻き込まれんとええねんけど。
あいつなら大丈夫だよ。
まあせやな、今はそう信じるしかないわな。
ほな、ソラはんが舞台に上がるまで時間もあるやさかい、ウチらはちょいと休んでいこうや。
本当はこの街をあちこち回りたかったのに、結局はソラのボディガードみたいになっちゃったもんねー。
なにそれ!まるであたしが悪いみたいじゃん!
でもまあ、劇場で出された賄いをそこそこ平らげてやったんだし、いいとしますか!えへへ、やっぱピッツァの味が格別だね。
どうせこの後なんかもっと忙しそうになる感じがするし、今のうちに色々と街を回ってみよっか。
そうだね。
ねえ、あの話……いた?
それって……テキ……の話?
ん?
そうそう、テキサス……裁判が……
むむむ?
こんにちは、今もしかしてテキサスのことについて話してました?
あっ、そうなのよ~、あなたも興味ある?
あの、テキサスがどうかしたんですか?
私もベッローネファミリーにいる彼氏から聞いた話に過ぎないんだけどね。
ほらつい先日にさ、建設部の部長が殺されたじゃない?
その犯人がどうやら見つかったらしいのよ。
それがあのテキサスファミリーの最後の血筋、確かチェッリーニアとかって名前の人だったかしら。
……
う、ウソでしょ!?
裁判の、ほら開廷の時間もすでに公表されているわよ。明後日だって。
ようやくこうして話し合いの席に就いてくれたか、レオン。これまで何度そっちから延期されたことか。
申し訳ない、ウォーラック。最近何かと仕事が増えすぎてしまったものでな。
以前ほかのファミリーとゴタついてたシマを部下たちから引っこ抜いたと聞いたもんだから、心配してたぞ。
あんたが無事で何よりだ。
あれはただの損切りだ、心配することはない。
はは、あんたのそういう慎重な態度、嫌いじゃない。
安心しろ、不意打ちなんてロッサーティ家の趣味じゃないさ。
だが、一つだけどうしても気になることがあってな。
テキサスのことだろ。
“チェッリーニア・テキサス”のことだ。こっちに帰ってきたんだってな、しかもあんたのボディガードとして?
本当に本人なのか?
そうだ、と言ったら?
……
まさか生きていたとはな、こっちはまったく把握しちゃいなかったよ。
……あの時、俺の親父が彼女を庇ってやったんだ。
そうだったのか、なるほど、つまりドン・ベッローネが意図してやったことだったんだな。
この新しい都市の建設は、元はと言えばサルヴァトーレとシラクーザの所縁から始まったことだろ。だから親父も、彼女にここへ戻ってこの街を見せてやりたかっただけなんだ。
なるほど、さすがベッローネ家だ。
ロッサーティにとってテキサスのいう名がどれだけ重要なのか分かっていながらも、こうも大っぴらに本人を呼び戻してやったとは。
いやぁデカい、実に器のデカい人だ。
このウォーラックも、思わず感服してしまったよ。
それはまた何かの冗談か?
冗談?冗談なわけあるか?
チェッリーニア嬢が生きてるってことはな、俺たちロッサーティにとってとても意味のあることなんだ。
ベッローネがどう思っていようが、これでロッサーティはあんたらに一つ借りができちまったよ。
我々両家はこの先、共に新都市を作り上げる関係にあるだろ。貸し借りなんてあるものか?
ハハハ、いい!実に太っ腹だ!
どうやら、そっちも最初から何か抱えてやって来たみたいだな。
で、何してほしいんだ?
要求は簡単だ――
この件に対して、ロッサーティには手出ししないでもらいたい。
なんだ、俺たちに最後のテキサスが裁かれるところをただ見ていろって言いたいのか?そんなんじゃうちのドンは納得してくれそうにないぞ。
裁判が終わった後、彼女は収監される。その時に会えるだろ。
……会えるだけなのか?
彼女はこちらの客人だが、ロッサーティの客人でもある。
……いいだろう。その取引、乗った!
……
まさか、ここでチェッリーニアを出してきたとはな。
ラヴィニアの策か?いや……チェッリーニアが犯人じゃないのは、あの女だって知らないわけがない。
あの女の性格からしても、あんなことはしないはずだ。
まさか、レオンが説得した?
……まあいい、どの道こっちからすれば予想外の一手だ。
……で、俺たちはどうすればいいんだ?
チェッリーニアのほうを片付けるか?
……七年前のあの騒動で、一体どれだけのファミリーの精鋭らが彼女にコテンパンにされたのか知らないのか?
でも――
闇討ちに爆弾、あるいは毒を盛るとか、方法ならいくらでもあるが……
彼女が誰によってここへ呼び戻された人間なのか、そこだけは忘れるな。
誰のアイデアかは知らないが、まあよく思いついたもんだよ。
ここまで来てしまったのなら、荒っぽい手を使ってでも裁判を止めなきゃならないな。
……
結局のところ、俺たちの目的は街を混乱させることにある。
最初から俺たちの計画はスィニョーラを挑発することだ。
今はそれを少し前倒しにするってだけさ。
……分かった。
それ以外にも方法はあると思うよ。
誰だッ!?
(ラップランドが近寄ってくる)(
こーんなに面白いことが起こってるんだったらさ、ボクも加えてもらえないかな?
……
(ドアのノック音)
入れ。
(ソラが部屋に入ってくる)
ディレクターさん!テキサスのこと聞きましたか!?
あぁ、私もつい先ほど知ったよ。
一体どういうことなんですか?
少なくとも私が聞いた話によれば、ラヴィニア裁判官が直々に公表したらしい。
ラヴィニア裁判官って、あたしたちを助けてくれたあの裁判官さんだよね……
でもあの人……ウソをつくような人間には見えませんでした、だから……
初舞台をふいにしてもいいのかね?
あの……何か方法はないんですか?
あたし……どうしても会いたいんです。
君の初舞台を先延ばしにできるかどうかは、ひとまず置いておこう……
会ってどうするのか、まずはそれを聴きたい。
……
ソラ殿、確か君は彼女にまた会いたいがために、ほか二人の友人らと一緒にここシラクーザへやって来たと、そう言っていたね。
君が見てきた彼女は、どれも本物の彼女なんだと、ずっとそう信じてきたのだろう。
しかし今、君も知ったの通り、彼女にはひた隠してきた過去がある。
君が追いかけてきた人は、君が想像するよりも遥かにかけ離れた存在なのだと、そう気付かされてしまった。
そんな彼女に会って、君はどうするつもりなのだね?
その時の君は彼女になんと声をかける?彼女にもどう自分に声をかけてもらえれば気が済むのかな?
……もし本当にそうだったとしたら、それは勝手にそうやって想像したあたしにも責任があります。きっとあたしは、まだまだ彼女のことを理解できていなかったのでしょう。
相手がずっと君に隠してきたにも関わらずにかね?
それは、そうせざるを得ない理由があったかどうかにもよります。
ベルナルドさん、この芸能界という複雑な環境の中で、あたしは色んな人を見てきました。
裏表のない人間をやるのはとてもじゃないけど無理な話です、少なくともあたしはできそうにありません。
きっといつか、あたしも思い通りにいかない出来事とぶち当たるはずです。
だからあたしは、これまで一度だって他人に自分の思ってることを強要してきませんでした。
秘密は誰にだって持っているものです。あたしだってありますし、彼女もあります。きっと、ベルナルドさんにも。
もし相手が自分に見せていた一面をずっと貫き通してくれていたのなら、それってある種の誠実さとは思えませんか?
……そうだな。
それにあの時は多分、あたしもはっきりと伝えられなかったのもあるかと思います。
あたしがテキサスさんを探しにきたのは、決して彼女を責めたかったわけではありません、決して。
あたしたち四人は、もう龍門で暮らしてはや六年ぐらいになります。
この六年間の暮らしは、あたしにとって宝物みたいなものでした。
それは彼女にとっても同じなんだって、あたしはそう信じています。
それなのに、彼女は何も言わずにあたしたちの前から消えていってしまいました。
あたしはそれに怒りを覚えるべきなのでしょうか?
いいやそんなわけありません、むしろ心配で心配で仕方がないんです。
エクシアもクロワッサンもそうですよ。
だからあたしたちはシラクーザへやって来たんです。
もし彼女が厄介事に巻き込まれてしまったのなら、あたしたちが助けに行きます。
もし自分の背負う過去の重みで潰れそうになってしまっているのなら、あたしたちも彼女と一緒に背負っていきたいんです。
多くの劇作の中、チェッリーニアの結末はまだ噂程度に留まっているが、テキサスファミリーの結末については知り尽くされている。
彼女の過去は、おそらく君が思っているよりも深く重いものだろう。
分かっています。
けどあたしたちはまだ、それを彼女から直接聞かされてはいません。
だから直接彼女の口から言ってほしいんです、自分はどう思っているのかって。
それでやっと、あたしはきちんと彼女とお別れを告げることができるんです。たとえあたしたちが最後に頑張って、彼女を引き留められなかったとしても。
だってあたしたちは頑張りましたからね、後悔はしませんよ。
……あっ、でも少しはするかもしれません。めちゃくちゃとはいかないけど。
君はとても聡明だね、ソラ殿。
いいえ、自分に強がっていられる言い訳をしてるだけですよ。
けど、こうして色々吐き出して、あたしも少しは楽になれました。
確かに、今彼女に会えたとしても、あたしは何もしてやれないのかもしれませんね。
しかしまあなんだ、こちらとしてはもうすでに君の要求を呑むつもりでいたんだがね。
裁判が終わった後、きっと彼女に会えるさ。約束しよう。
ホントですか!
だが今は、もうしばらく待っていてくれないか?
本当にありがとうございます、それまであたしもしっかりと準備しておきますので。
ふふふ。
いやぁ残念だよ、君の初舞台をこの目で見てやれないなんて。
えっ?ご覧になられないのですか?
ああ。おそらくだが当日、少し大事な仕事が舞い込んでくるかもしれないのでね。
だが心配することはない。すでに君のために最高の舞台を用意しておいた。
ありがとうございます!
では、あたしはここで失礼させてもらいますね。
あぁ、精進したまえよ。
(ソラが部屋から立ち去る)
……
ベルナルドは本棚へ近づき、そこから一冊の本を取り出す。
それは茨が巻きついている法典だった。
彼はしばらく口を紡ぐが、その後電話を手に取った。
(ベルナルドが電話を手に取る)
……ディミトリーか?本人に伝えてやれ、私が約束してやったとな。
窓の外で大きく雷鳴が轟く。
まるでこれから大雨が降ると、そう予感させるかのように。