ウニャアアアアアアアア!
うわあああああああ!
ニャアアアアアアアアア!
にゃあああああ……ってあんたに引っ張られちまったじゃねーか!
ニャウワ!落っこちるニャアアアア!
なんだって!?風がデカすぎて声が――うわッ!俺のマスクが!
落っこちるニャアアアア!
俺がしっかり掴まってるから、落っこちたりしねーよ!
リオレウス!リオレウスが落っこちてるニャ!
ぶわっ、目がマスクに遮られてなにも見えねえ!
ノイルホーン、ノイルホーン!リリリリオレウスが――突っ込んでいくニャ!
突っ込むって――何に!?
ぶつかってしまうニャ!
ちょっと待て――よし、ようやくマスクを付け直せたぜ!
ってうわああああ!ぶつかっちまううううう!
(ノイルホーン達が地面に落ちる)
ウニャ!ボクのノート……尻尾……全部ある、よかったニャ~!
ここはいったいどこニャ?とっても暗いニャ……
ノイルホーン……ノイルホーン!ノイルホーン生きてるかニャ?
ニャ、身体の半分が上にぶらさがってるニャ。ノイルホーン、死ぬんじゃないニャ……
生きてるよ……だから俺の足を引っ張らないでくれないか?
ポーチにランプがある、そいつを点けよう。
ランプ?それはなにニャ?これのことかニャ?
そうだ、下にあるスイッチを押すんだ。
ニャ、眩しいニャ!なのにちっとも熱くない……いったいどういうことニャ?
それともう一つ……俺の角が岩に刺さっちまってる、手伝ってくれねえか?
……岩に突き刺さって……ニャははははは!
おい!笑うんじゃねえ!
はいはい、今行くニャ。
そっちから上がって……っておい、俺の身体からよじ登るなよ!そこを掴むんじゃねえ!
上がったニャ……ここに挟まってしまったのかニャ?それ!
(ノイルホーンが尻もちを付く)
いっつ~ッ……俺のケツが。
そんなことよりリオレウスは?あんた見かけたか?
リオレウスなら奥のほうに消えていったニャ。
俺たちが入ってきた場所……穴の位置が高すぎるな、俺たち二人でよじ登るのは難しそうだ。ほかの方法でヤトウに知らせておかねえと。でもリオレウスを見失うわけにもいかねえし……
待った、それよりここはどこだ?
ニャ!こっちが聞きたいニャ!
下に向かってる洞窟、リオレウスはそこに消えていったのか……もしかすりゃこの下は村のほうにある洞窟と繋がってるかもしれねえ、降りて確認してみねえと……
っておい学者ネコ、ちょっと待てって!なにあんた一人さきに急いでるんだよ?
ニャ!はやく行くニャ!
あまりにも謎が多すぎるニャ!テラの自然の摂理はボクたちのところと大差ないはずなのに、まったく理解できない状況が起こりまくってるニャ!リオレウスの行動もおかしすぎるニャ!
おかしい?そう言えばあの新しく出てきたアイルーも“異常”とか言ってたな。
進みながら説明してやるニャ!
リオレウスがここに入って行ったということは……この奥にリオレウスがおかしくなった原因があるかもしれないニャ!
この元王立古生物書士隊の学者の名誉にかけて、必ず真相を突き止めてみせるニャ!
ノイルホーン……こっちに来て見てほしいものがあるニャ。
なんだなんだ……うわッくっせ!なんだぁ?
学者ネコ、これってまさか……
ここにあるのは……全部リオレウスに食い千切られた……生き物たちの屍ニャ。
甲獣に角獣、そんで羽獣……こんな種類があるなんて、もしかしてこの動物たちを殺して食料してるとか?それとも食ったあとの残飯か?
いや、リオレウスの噛む力は骨まで砕くニャ。こんな大きな死骸を残すわけがないニャ。
生物たちの死骸の外観はとてもキレイに保っているニャ。単に殺されただけで、かじられた痕跡はないニャ。こいつらが食われたとは思えないニャ……
行こう、奥のほうも見ておこうニャ。
おう、分かった。
ウニャ!なんでこんなことに?
なにか発見したか?
この生き物の死骸、完璧に燃やし尽くされているニャ……殺されてここまで引きずられてきたにも関わらず、リオレウスがしきりにこいつらに炎を吐いていたってことニャ。これじゃあ食べられないニャ。
それって……イライラしていたから、とかか?
ここも、ここも、あそこにも!どれもないニャ……ここにある死骸たち、彼はひと口も食べていないニャ!
リオレウスは……もしかしてテラの生き物が食べられないのニャ?
それがその、えっと……リオレウスに異常がきたしてる原因なのか?
分からないニャ……確かに飢えは彼の行動を変えることがあるけど、それが原因だとは確信が持てないニャ……
いったいなぜニャんだ?まったく理解不能ニャ!
観測した記録にもとづけば、テラの生物たちもボクたちのところと同じ摂理に従って生きてるはずニャ。ボクが君たちの食材を食ってもまったく問題がなかったように!
もし食いモンの問題じゃなかったら、それって……あいつの身体に付着してる源石が原因なんじゃねえのか?
リオレウスが鉱石病に感染したってことニャ?
――!あれは!
どうしたニャ?
はやくこの死骸たちをどけるのを手伝ってくれ、土も掘っておくんだ。
くっさいニャ!なんで自分でやらないニャ?
さっきあんたに騙されて釣りをさせられちまったからな、その罰だ。
ニャ?フシャー……もう怒ったニャ!ウニャニャニャニャ!
待て、騒ぐんじゃねえ。
……なんでリオレウスに源石が付着していたのかが分かっちまったぜ。
それは掘り起こしたこの穴のことを言ってるニャ?いったいどういう意味ニャ?
これは源石の鉱脈を採掘する際に残った痕だ、なら下の空間はきっと……
源石の採掘場だ。
もしこの採掘場のせいで村人たちがあんな必死に何かを隠そうとしていたのなら、大体納得できるぜ。
ちょっと待つニャ!納得できるってどういうことニャ?
極東が抱えている現在の情勢と日々不足気味な資源からすりゃ……人知れぬ私有採掘場、そこから粗い鉱産物を外に売り出したとしても、想定以上の利益を得ることができる。
だがそうした完全に秘匿された採掘場がもしよそ者やもっとデカい勢力に知れ渡っちまったら、ここが奪われちまう可能性が出てくる。最悪の場合、命に関わることも起っちまうかもしれねえんだ。
つまり源石とは本来地中に埋まってあった鉱石であって、それをあの村の住民たちが掘り出したってことニャ?
そうだ。
君たちはみんなそういうことをしているのニャ?
ああ。
確かその源石って君たちを治せない鉱石病をもたらせたり、ほかにも壊滅的な大災害も引き起こすものだったニャね?
その通りだ。
じゃあなんでそんなものを掘り出しているニャ?
それは……源石がエネルギーだから?
エネルギー?木も脂も燃やすことができるし、沸騰した水なら重いものを動かすことができるニャ。それらもエネルギーじゃないかニャ?
自分たちから源石とかいう危なっかしいものに触れようとするなんて、まったく理解できないニャ!
そういえばドクターはなんて言ってたっけな……テラに生きる人たちはアーツを通じて源石を利用してる、とかだったっけ……
源石エンジンを用いる技術が進歩したおかげで、源石は工業用のエネルギーとして広く使用されることとなった。過去では、源石はあくまでアーツを放つ媒介としてのみ使用されてこなかったって……
俺ぁアーツは使えねえから、ほかのもので説明してやらねえとな……そうだ、ちょいとランプを貸してくれ。
なにをするつもりニャ?ニャニャ、分解するんじゃないニャ!明かりがなくなってしまうニャ!
ほら、こいつのことだ。
あれ?光ったままニャ。
こいつを見てくれ、こいつは“電池”って言うんだ。電池はここに付けられたランプに電気を供給して、それでランプが光る仕組みになってる。
それが源石とどんな関係があるニャ?
電池の中には源石が組み込まれているんだ、それとなんだっけ……アーツユニットってやつも?つまりこれを使えば、電池は源石のエネルギーをビリビリとした電流に変えて、ランプを光らせることができるってわけ。
源石があるからこそ、ランプが光るってことニャ?
それだけじゃねえさ。このランプの電球も、骨組みも中にあるパーツも、すべて工場で大量生産されたものだ。
たいりょうせいさん?
一つのものを、そっくりそのまま大量に作り出すことができるってこと。たとえばこのランプもそうだし、デカい工場なら一日で数千個は生産できる。
数千個!?なんて便利ニャんだ……じゃあ村の住民たちが着ている服も工場で作られたものなのニャ?
ああ、工場は機械でそれらのパーツを作り出してる。んでその機械を動かしているのが、まさしくその源石エンジンだ。
工場だって源石を頼りに動いているんだ。ここじゃほとんどがそうしてる。
つまりテラの科学技術……しいては文明すらも源石の礎から成り立っているということかニャ。
まあ、そんなところかな?
でも、ボクたちのいるところの“ハンター”はランプもないし、君たちのような服だって持っていないニャ。確かにランプはとても便利ではあるけど……
でも源石みたいな危なっかしいものがなくても、ボクたちは生きることができているニャ。
ここだって、源石は代替できるニャよね?
あんたらんとこのその“ハンター”ってのはどこにでもいるのか?
当然ニャ、モンスターを放っておいたら村の住民たちに危害を加えかねニャいからね。それにボクたちだってモンスターからはぎ取った素材を頼りに生活しているニャ。
じゃあ……その“ハンター”たちの狩猟ってのはいつも安全に行われているのか?
いいや、狩猟は……ほとんどの場合危険を伴うニャ。成功よりも失敗のほうが大きいニャ。
強い“ハンター”は極々少数しかいないニャ。厄介なモンスターを相手にすれば多くの“ハンター”たちだって、狩りの途中で命を落としてしまうことがあるニャ。
じゃあ、源石もあんたらんとこのモンスターとあんま変わりはねえのかもな。
ニャ?どういうことニャ?
源石もあんたらんとこのモンスターと同じで、避けて通れない脅威ではあるが、生きるためのチャンスも与えてくれている存在だってこと。
ニャ……
ここじゃ見ることはできねえかもしれねえが……天災ってのはテラじゃありふれた存在だ。ほとんどの人たちは移動都市に住んでいて、その都市の一つ一つは万単位の住民たちを収容しているんだよ。
天災がやって来ると、その都市はのそのそと移動を開始するのさ。
万単位の人たちが住んでいる都市が……移動する……ニャ、すごく壮観な景色に思えるけど、そんな巨大な構造物はどうやって動いているんニャ?
それも源石で、だよ。源石に含まれているエネルギーでないと移動都市を動かすことができねえんだ、ほかのエネルギーじゃ無理なんだよ。
そうだったのかニャ……
俺たちだってちゃーんと理解しているさ、源石を使えば天災を引き起こしちまうって。
でも……天災がやって来るとな、生き長らえるためなら、たとえ近くにプカプカと浮かんだ木の枝があったとしても、それに縋りたいと思えちまうのさ。
その枝にトゲがあろうがなかろうが……少なくともそれを気にしてる場合じゃねえ。
移動都市がまだなくて、源石もこうして広く利用されていなかった時代じゃ、多くの人間が天災で死んじまっていたからな。
それがテラ……恐ろしすぎるニャ。
トゲは確かにあんたの手を血まみれにしちまうかもしれねえが、災いはあんたが苦しんでるからって止んでくれるわけじゃねえ。だからずっと掴んでいなきゃならねえんだ、ずっとずっと……
どれだけ頑張って探し回っても、ツルツルで無害な木の枝を探し当てるまで、そうするしかねえのさ。
苦しみ藻掻いても、歯を食いしばって生きていくしかねえんだ……
ノイルホーン、これで君は賢いヤツだって認めることはできないけど、君の言ってることは正しいニャ……
思い返せば、ボクたちのいたところの苦難も似たり寄ったりだったニャ。
強大なモンスターを相手にすることができる武器を作るには、同じく強大なほかのモンスターからはぎ取った素材を必要とするニャ。その後ろには数えきれない犠牲が積み重なっているニャ……
狩猟の途中で帰らぬ人となってしまった“ハンター”たち。新大陸を切り拓くために倒れてしまった調査団の面々。危険生物を観測するために消息を絶ってしまった書士隊の先輩方……
はぁ、どうやらほかの場所でも人ってのは弱い存在で、大地は却っていつも残酷なものみたいだな。
でもでも、たとえ背負わなければならない苦難があって、生きることに対価を支払わなければならなかったとしても、無関係な命たちが必ず犠牲にならなければならないことなんてあるのかニャ?
そんなこと、ボクたちのところじゃ聞いたこともないニャ……その源石みたいに、無関係な人々にまで苦しみを背負わせることなんて。
その人たちだって自分から鉱石病にかかりたいわけじゃないはず、直せないのならそもそも生きていくことすらできないニャ。それが正しいとでもいうのかニャ?
そりゃもちろん、正しくはないさ。
ニャ、食い気味に答えたニャ!
だからこそ、誰かがその対価を代わりに背負って、道を指し示してもらわなきゃならねえのさ。
こーんにーちはー!誰かいませんかー!
なんの声ニャ?
人の声だったような?
そこでだべってないでさ!こっち見てこっち!
もう三日もここに閉じ込められてるの!だからここを塞いじゃってるものをどけてくれないかな?お願い!
俺たちに助けてほしいみてぇだが……どこにいるんだー?今向かうぞ!
わわっ、気を付けたほうがいいよ!獣の津波がまた起こっちゃうから!
獣の津波?
文字通りの意味だよ!森にいる動物たちが暴れ出して、津波みたいに押し寄せてくるってこと!
なんだか聞いたことがあるような騒ぎが聞こえてきたニャ。
奇遇だな、俺もだ……ってもしかして、またなのか?
ここの場合だと、暴れ出てくるのは感染生物たちになるから気を付けてねー。