
ハァ――ッ!
(斬撃音)

ウニャああ!

ノイルホーン!もう少しでボクまで斬られそうになったニャ!

あっ、わりっ。まだこの太刀の扱い方に慣れてねえんだ。

ニャ!こいつらの様子、この前の洞窟にいたヤツらよりもさらにおっかないニャ!

身体表面にある源石の生え具合からして、こいつらの感染状況はかなりひどくなってるニャ。動きもなんだか逃げ回ってるように見えるほど切羽詰まっているニャ。

君はきっと“なぜそんなにたくさんのことを知ってるんだ”と疑問に思ってるはずニャ。それはもちろん、ずっと源石に感染してしまった生物たちを観察していたから……

ってコラ!ボクの話聞いてるのかニャ!

人助けが優先だ、ちょっくら見に行ってくるぜ!
(ノイルホーンが声の元へと駆け寄る)

おーい!外はもう大丈夫だ、どこにいるんだー?

こっちこっち!ここにいるよ!

っと……ここにいるのか?

そうそう、この扉の向こう。

……扉の前はなにも塞がっちゃいねえぞ。

えぇ!?そんなバカな?色んな方法を試しても開かなかったんだよ?

だったらさ、下から持ち上げてみたらどうだ?

え?こ、こうかな……あっ!開いた!
(扉が開き、女性が出てくる)

こうやって開く仕組みだったの?どうりで見つからないわけだ。あはは、面白い設計だね!

それで三日もここに閉じ込められていたのか?

そうだよ。えへへ、ちょっと観察に夢中になっちゃってたのかもね。なんせえらいモンを見つけちゃったからさ……ってあれ?足元がなんかフカフカなんだけど?

あー……それはオリジムシの死骸を踏んじまってるからだ……それであんたは?

ごめんよぉ、オリジムシたち……あっ、自己紹介を忘れてたね。私は瀧居(たきい)未来(みく)、生態学者だよ。

ノイルホーン!彼女、君とまったく違う角が頭に生えてるニャ!

未来……それがあんたの名前なのか?

そうだよ。

俺たちはロドスのオペレーターだ、ちょうどこの近くで任務にあたってる。俺はノイルホーン、んでこっちは……

ニャ!君はここの学者なのかニャ?

もちろん、目下この地域で生態観察を行ってまーす。

ニャ――じゃあちょっと君の研究ノートを拝見してもいいかニャ?

それは……ってちょっと!話せる小動物ちゃん、なにするの?

ニャ~!ボクは小動物じゃなくて、アイルーって言うニャ!ボクも一人の研究者ニャ!ほら見て、ボクにも研究ノートは持ってるニャ。

すごい、ドカン草の実が爆発した瞬間を描き写してる!あたしこれちょ~好きなんだ。ねね、これが爆発する原因が実は果実内の液体に圧力がかかってることによるものだってのは知ってた?

それについてなら予想はできていたニャ!それってこうじゃないかニャ?果実がどんどん成熟するにつれて、中身の粘液の量もどんどん増えてって――

おい!助け出したのは俺だぞ、少しはこっちも構ってくれねえか?

あっ、うん。

……で、なんでこの洞窟に閉じ込められてたんだ?

環境調査ってやつでね、なんせあたしは学者だから。

じゃあほかにもう一つ……

待った!先に言わせて!こっちはちょ~ビックリするような情報を持ってるんだ!あたしが何を見たのか、君たちじゃ絶対に当てられないようなやつをね!

君たちは知ってるかな……この洞窟にナニが潜んでいるのかを?

ちょ~~~~~デカい!空飛ぶバケモノがいるんだよ!

……うん。

空を飛ぶバケモノ!しかも炎も噴けるような!

……知ってる。

し、知ってる?ちっとも興奮したりしないの?

そいつはリオレウスってんだ。俺たちがここに来る前はそいつの背中にしがみついてた。

えぇ……そんなことってある?

あ~あ、残念、なんだとっくに発見されてた生物だったのか。本当なら最近読んだマンガのキャラから命名しようと思ってたのに……はしゃいで損した……

ってちょっと待った!喋れる小動物ちゃん、君のような生物は今まで見たことがないよ。君ってもしかして……新種だったり?

なっ……なにをするつもりニャ?近づいてくるんじゃないニャ!!

ちょっとあたしに調べさせて!

たんまたんま、先に真面目な話をさせてくれ。あんた、リオレウスと接触したことがあるのか?

あるよ、ずっと観察してきたし、そいつの洞窟内での行動も記録したことがあるし。でも源石まみれの環境下で変化が起こったみたいだったからさ、なんか全部無意味に感じちゃった。

行動を記録した?

源石まみれの環境……変化だって!?

なぁあんた……いや、その記録をちょっと俺たちにも見せてくれねえか?俺たちにとっちゃめちゃくちゃ重要なことなんだ!

もちろん構わないよ。ちょっと探してみるから、君たちもこっちに入ってきな。

わっ、食料に飲用水、それに照明装置まで。これなんだニャ?

それは源石の防護装備だよ。

……色々と揃っているニャね、どうりでこんな場所で三日も生きられたわけニャ。

もちろんだよ~、ほかにもリョウカソウ風味の炭酸飲料まであるよ。

ノイルホーン、ここに梯子があるニャ。これなら入ってきた洞窟の穴から脱出できるニャ。

ここは源石の加工場みたいだな。そんであんたはどこでリオレウスを見たんだ?

ここの洞窟を少し進んだところに坑道があるんだ、そこにリオレウスがいるよ。

君たちが入ってきたあそこの天井は採掘現場から一番近いとこだけど、村から遠すぎるから遺棄されちゃったんだよね~。今はむしろリオレウスに使われちゃってるけど。

この洞窟に詳しいのか?

まあね~。

そうそう、これあげる。

これは?

リオレウスに連れてこられたんでしょ?なら君たち二人だけってわけでもなさそうだし、きっと友だちとはぐれちゃったんじゃないかな。

それは発煙筒だよ。そっちの通風用な穴から煙を出せるよ。

ありがてぇ、感謝するぜ。

はい、記録は全部ここにあるよ。でも雑に走り書きしちゃってるから、読み聞かせしてあげるね。

リオレウスは四日前の夜に上の天井からこの採掘場に入ってきたんだ。その時、洞窟の中では働いてる人たちがちょうど交代しようとしてたんだけど、みんなリオレウスに驚いて逃げて行っちゃった。

あいつが噴いた炎で小規模な爆発が起こってね、洞窟の一部崩落してしまったんだ。それで村に繋がってる通路も塞がれちゃってね。

どうりで活性源石粉塵が大量に現れたわけか……

うん、それにリオレウスの様子もあまり芳しくはなかったかな。活性源石が大量に漂ってる環境が悪影響をもたらしてるのかも。食欲不振になったり、怒りやすくなったりして。

そいつの周りに大量の源石粉塵が漂っちゃってるの、こっちも測定器で観測できちゃったからね。噴き出した炎が粉塵に引火すると、すごく大きな破壊力を生み出すんだ……幸い採掘場で暴れ出すことはなかったけど。

ニャ!ノイルホーン、炎の威力が上がってる原因はそれだニャ!

あっ、君たち外でもリオレウスと遭遇したことがあったんだ?

何度もな……あいつが暴れ回るせいで源石粉塵が村まで拡散しちまってるから、それを解決するために俺たちがここまでやって来たってわけだ。

だったら忠告しておくよ。もしここでその問題をキレイに解決したいのなら、今が最大のチャンスだと思うな。

なんだって?

今のあいつは非常に弱まってる状態なんだ、回復力には驚かされるけど時間を要する。しかも採掘場が過度に使用されてきたせいで、中の構造が非常に不安定になってる。それがあたしたちのチャンスさ。

もし肝心な場所で起爆さえすれば、採掘場を丸ごと破壊して、一瞬で崩落させることができるよ。

だがそれでリオレウスがところ構わず炎を噴きまくって、源石を活性化させちまわねえかが心配だ……採掘場の中ともなれば、きっと悲惨なことになっちまうはずだぜ。

そうだね、でも大丈夫。あたしが言った方法に従えば、リオレウスに炎を噴かせる隙なんか与えないまま生き埋めにしてやれるよ。

ただ今は人手が足りなさすぎるせいで、あたしがマークした場所に爆薬を設置してやれる時間がないのが問題かな。もう一人くらいいないと、今日中には絶対に終わらないよ。

もしヤトウが来てくれれば問題はないはずニャ。

それは君たちと一緒にここに来るはずだった仲間のことかな?

とても厳しいけど頼りがいのある女の子だニャ。彼女の傍にもボクと同じようなアイルーが二匹いるニャ。

それなら人手は足りるはずだね。でも……

でも?

リオレウスについて、まだ少し疑問点が残ってるんだ。もしかしたらこれは君たちの判断にも影響しちゃうかも。

あたしの記録を見てもらえば分かるよ。237ページ、右下の隅っこのところ。

リオレウスが落っことした物を調べてみたんだけど、リオレウスは鉱石病には感染していなかった。つまりあいつが変わってしまったのは、感染が原因じゃないってこと。

感染していないニャ?じゃあ彼がものを食べられない原因って……

それは源石によるものだと思うよ、感染ではないけどね。なによりおかしいのが、どんどん源石がそいつの身体に付着していってるんだ。なんなら結晶化してしまったところもあったよ。

そうだなぁ……もしリオレウスが感染していないのなら、源石もずっとそいつの身体に残ることはない。だったら源石粉塵を拡散させることもねえんじゃねえのか?

理論上はそうだけど、今のところ確証は得られないかな。だって……

リオレウスの源石に対する行動がすごくおかしかったんだ、あれはあたしの知ってる生物的な行動じゃない。なんていうか……言葉じゃ言い表せられないかな。

あれは自分たちの目で見たほうがはやいかも。

ニャ!だったらノイルホーン、今すぐ出発ニャ!変な角が生えた学者、案内を頼めないかニャ?

ちょっと待った……

あっ、そうだった。君はまだ外に出たばっかりだったニャ。

あたしなら問題ないよ~。

いやそうじゃねえ……
(無線音)

通信機に――信号が繋がった。

それはきっとここにある信号増幅器のおかげかな。

ニャ、ヤトウに連絡はできないかニャ?はやく彼女にここの状況を知らせるニャ!

ちょっと待てって。

先にもっと重要なことが聞きたい。あんたについてだぜ、瀧居さん。

え?あたし?

あんたは十分に物資を揃えて、リオレウスが来る前に独りこの採掘場にやって来た。

ここについてえらく詳しいが、ここで働いてる人たちの作業には関与していなかったんだろう。さもなきゃこんなとこに閉じ込められるはずがねえ。

俺が観察した村人たちの態度からして、よそから来た学者が採掘場の中を好き勝手調査させることを村人たちが許すとも思えねえ。

以上のこともあって、あんたの正体が疑わしく思えちまう。

それと、あんたの苗字もだ……露華村の村長と同じ苗字なのか?

あんたら二人はなんらかの関係にあるはずなのに、あんたはイヤな顔一つせず俺たちに採掘場を破壊する方法を教えてくれるし、リオレウスの居場所にも喜んで案内しようとしてくれている。

瀧居未来、いったいなんの目的でここに来た?

ありゃりゃ。まっ、もとから隠すつもりなんてなかったしね、バレるのも遅かれ早かれだろうし。

ニャ、本当はボクたちを騙していたってことニャ?そうか分かったニャ、君……本当は生態学者なんかじゃないニャ!いったい何者なのニャ?

あたしなら正真正銘の生態学者だよ、証拠だってあるんだからね。

教えてないことがあるのは、まあ本当かな。たとえば瀧居應があたしの叔父だったり、こっそりこの採掘場に入り込んだことだったり。

君たちがロドスからやって来たことも知ってたよ、だって君たちへの連絡方法を残したのはあたしだもん。叔父さんたちもリオレウスが拡散してる源石粉塵をどうにもできなかったから、君たちを呼んだんじゃないかな。

あんたが残した?そりゃいったいなぜ?

採掘場を封鎖させたかったからだよ。でもあたし一人じゃ村のいるみんなを説得させてやれなくてね。

本当ならあたしが君たちを呼ぶつもりだったんだよ。

一目この採掘場の状況を見たら、なりふり構わず村のみんなを避難させてくれるでしょ?ただ、あたしの持ってる通信装置が全部彼らに没収されちゃってね。

だから自分でここに入り込んだってわけ。なんとかしてこの採掘場を破壊してやろうってね。

なんで俺たちなら必ず村人たちを避難させるって思えたんだ?俺たちだからって、必ずしも採掘場での掘削作業を阻止するとは限らないだろ……あと、あんたがここを破壊する理由をまだ聞いちゃいねえ。

理由はね、もしこのまま露華村にこの採掘場を使用させちゃったら、高い可能性でここが天災に襲われちゃうからだよ。

天災だと!?それはどのくらいだ?

今のところまだ周辺の環境に異常が来してるだけなんだけど、具体的にいつになるかは分からないかな。

じゃあこの前、山のところであんたの名前があったのはここを調べていたからだったのか……

そっ。君たちのほうも、その場所で方角が分からなくなった状況に出くわしたんじゃないのかな?あれはエネルギーの力場が異常化してしまった影響だよ。

そこで悪いニュース。そういった異常現象の頻度がどんどん増えちゃっていってるんだ。

そしてここにやってきたあのデカブツ、君たちの言うリオレウス、あいつが巣穴の中で炎を噴いてるとこは観察していないにしろ、あいつも不安定要素と見て間違いないかな。

無論、私がさっき言った方法なら問題をすべて解決することはできるよ。すべて、ね。

しかし、なんでこの採掘場が天災を引き起こしちまってるんだ?

その原因は……まあ、見たら分かるよ。

ヤトウ!血が流れてるニャ!

リオレウスが尻尾を振ってきた攻撃を防いだあと、地面に倒れてしまった際にもらった傷だろう。石の破片で塞がれていたから、その時は気付かなかった。

ふとももの内側から刺さってる……今のところ傷の深さは目視できないが、石の破片を取り除かねばならないな。

傷口にあてる薬などは持っていないか?

これは……違うニャ。これも違うニャ。

気にすることはないさ、職人ネコ。その代わり、使えそうな縄はないか?

あるニャ!草を持ってきて、こうして編み編みして!

強度は……これで十分だろう。

それと、火をつけて燃やせるものはないか?

拾ってきたニャ!これなら燃やせるニャ!

よし、なら……火をつけて……これをこうして……

火が燃えたらこのナイフをキレイに拭き取って、それから火の中に入れるんだ。頼めるか?

それはいいけど……でもヤトウ……

ふぅー……
(レコーダーの起動音)

四度目の音声記録を行う。こちらはロドス行動隊A4……隊長のヤトウだ。

先ほどのリオレウスとの戦いにおいて、オペレーターのノイルホーンと離ればなれになってしまったが、主要な目標は依然としてリオレウスの追跡に変わりはない。だが……私が負傷してしまったせいで、任務はしばらく停滞状態に陥ってしまった。

今回の任務において、私たちは予想をはるかに超える困難と遭遇した。進捗もあまり順調とは言えない。

……それでも私たちには任務を完遂する能力を有していると、私は信じている。たとえどれだけの代償を支払うことになってもな。

これから傷の緊急措置を行う。後程の応急措置をスムーズに行うためにも、ここで措置のプロセスも音声として記録しておく……

(深呼吸――)

まずは、体内に入り込んでしまった石の破片を摘出する。

フッ――ああああッ!
(ヤトウが自身に刃を突き立てる)

ちっ、血が出てきちゃってるニャ!

ハァ、ハァ……

続いて……縄をきつく縛って止血を……

ッッッ――

ハァ、ハァ……傷口から……骨が見えているが、動脈は無事だ……

……清潔を保つために……異物を、除去する……!

ふぐッ――ッッッ……

除去……完了だ……次の……次の作戦をスムーズに行うためにも、身体を動かせる状態を維持する必要がある。

医薬品や包帯が欠けているこの状況下……その最適な方法は……

職人ネコ、準備はいいか?

で、できてるニャ。

焼灼止血法で……傷口を塞ぐ。オペレーターのヤトウ、音声記録を終了する。
(レコーダーを停止させる)

よし、ナイフを渡してくれ。

(深呼吸――)

(ナイフを傷口にあてる)

ああああああああッ!

ああッ!

ヤトウ!ヤトウ!

……大丈夫……私は無事だ。

傷口は……よし、ちゃんと止血できてるな。

あっちを見るニャ!

あれは、信号煙?ノイルホーンたちが出したのか?オトモアイルーが示した方向と一致してる、おそらくリオレウスのところに辿りついてのだろう。無事でよかった。

空模様は……もうすぐ夜明けの時間になるはずなのに、なぜまだこんなにも暗いままなんだ?あの黒い雲の層は……うん?

なんの音だ?

森ニャ!森が震えているニャ!
(獣の唸り声)

この鳴き声、獣だ!

あっちニャ!

森の中にいる獣たちが暴れ出したか!

獣たちがこぞって巣穴から出てきている、なんて数だ……ヤツらはなにかを感じ取ったのか?

助けてくれ!誰か助けてくれェ!

助けを呼ぶ声だ!向かうぞ!

*極東スラング*、なんで急にこんな大量の獣が湧いて出てきやがったんだ!

だから村長の言うことを聞かずに森へ入るべきじゃなかったんだ!たかがよそ者数人ってだけだろ……誰か助けてくれー!

もうそれやめろ!こんなクソみたいな森の中に人なんざいるかよ!ほかの方法を考えなきゃ俺たちはここでおしまいだ!
(ヤトウが村人達に駆け寄る)

村の人たちか?なぜこんなところにいるんだ?

ほら見ろ!やっぱ助けを呼んでみるもんだぜ!

はやく私について来てくれ、ここから脱出しよう。

それならあっちに向かってくれねえか?あっちなら獣が入れない場所に行けるから。

いいだろう。

着いたぞ、ここにはまだ獣は来ていないみたいだな。

あれ?よく見たらお前ら……

ってあいつらじゃん!村長から探してこいって言われてたあのよそ者!やっぱり生きていたんだ!

私たちを探していた?村長がか?彼が君たちをここに来るよう言ってきたのか?

こいつの実力……どうりで未来のやつがロドスの連絡方法を残して、そこにはやばいヤツしかいねえって言ってたわけだ。

村長からお前たちを探しに行けと言われたんだ。もしかしたら崩落した洞窟に閉じ込められてるかもしれねえってな。もしお前たちを見つけたら……

山から、そして村から連れ出すようにも言われた。遠ければ遠いほどいいって。

なぜそんなことを?

って、話はあとだ!獣どもがこっちに来やがったぞ!

獣たちの数がまた増えていってるな、このままでは……

クソ、私の落ち度だ。オトモアイルーが付いて行ってくれたとは言え、柏生さんを一人で行かせてしまった。それに今の状況下では……

君たち、二人だけでも安全な場所までは行けるか?

ここまで来れば大丈夫だと思う。

申し訳ないがこれ以上君たちを守ってやれそうにもない、気を付けるんだぞ。もし村まで戻ったら、はやく住民らに避難指示を出してくれ!

分かった。それと……ありがとよ。

職人ネコ、柏生さんのところに向かうぞ。

ニャ、それとノイルホーンたちもニャ。

……そうだな、ノイルホーンたちは今もリオレウスのところにいる。こちらも彼と合わせて行動しなければならないと思うが、今は時間が……それを許してはくれない。

ピピ――ピピ――

ニャ、通信機が鳴ってるニャ!

ノイルホーンからだ、ようやく通信が回復したんだな。
(無線が繋がる)

ヤトウ、聞こえるか?

聞こえている。信号煙もこちらから確認できた、君たちが放ったのか?
ああ、俺はいま学者ネコと一緒にいる。こっちはしばらく安全だが、そっちはどうだ?

私は……平気だ。

ノイルホーン、そっちはいま外の状況を把握できているか?

天災の兆候、だろ?

ああ、すでに明らかな異常現象が出現している。状況を見るに、村人たちを避難させる時間にはまだ猶予があるが、森の中にいる獣たちがそのせいですでに暴れ出している。

ノイルホーン、今すぐそちらの行動と歩調を合わせておきたい。

それと少し前に……私は一つのミスを犯してしまった。柏生さんと衝突してしまってな、彼を一人で行かせてしまったんだ。

こんな状況下じゃ、彼は危険に身を晒しているようなものだ。だから私は君たちと合流するのではなく……彼を救助しにいくほうを、優先したい。

リオレウスの脅威を排除する方法は今もなお確立できていないが、このままでは柏生さんが命を落としてしまう危険性がある。

これは私がやらかしてしまったことだ、絶対に彼を放っておくわけにはいかない。

気持ちは分かるさ。だがその前に、こっちも一つあんたに伝えておかなきゃならねえことがある。

……なんだ?

俺たちは今ちょうどリオレウスがいる場所の真上にいる、ここが村の洞窟と繋がっていることも確認できた……

ここは源石の採掘場、リオレウスはまさにここから活性源石を持ち出していたのさ。

やはり源石の採掘場だったか。

それに……リオレウスを倒す方法なら、俺たちのほうで見つかったぜ。

まさか……

採掘場を丸ごとぶっ壊して、リオレウスをそこに生き埋めにするんだ。そうすればリオレウスだけでなく、鉱石病が拡散させられる危険性も排除することができる。そしたら安心して村人たちを避難させてやれるだろ。

本当に実行できるのか?

ああ、採掘場に詳しい人が考えてくれた策だからな。だがそれを今すぐ実行するには、俺と学者ネコだけじゃ人手が足りねえ。あんたにも手伝ってもらいたいんだ。

もしこのチャンスを逃しちまったら、後々また思わぬ出来事が起こるかもしれねえからな。最悪の場合……今までにないくらい危機と出くわすかもしれねえ。だからあんたに決めてほしいんだ。

……そうか。

ヤトウ……

まったく、無理難題を突き付けてきたものだな……

ヤトウ、もう一つ話を聞いてくれ。

俺たち、約束を交わしただろ?そん時から俺たちはすでに決めていたじゃねえか。

……

一言余計だぞ……まだやらないとは言っていないだろ。

約束に変わりはない、こっちは柏生さんを探しにいく。そっちは君たちのほうでできるだけ抑えつけておいてくれ。

柏生さんは私が助ける。リオレウスも、誰一人とて傷つけさせはしない。

私が全員助け出してやる。

気を付けるんだぞ。

君もな。
(柏生義岡が獣に斬りかかる)

死ね!死ねェ!

全員ここから出ていけェ!
(柏生義岡が獣に斬りかかる)

クソガキめ……なぜなんだ……
(回想)

ジジイ、邪魔するんじゃない。

この大バカ者が!

あの狩人どもは……森を尊敬することはせず、ただ徒に森を乱しおったんだ。そのせいで農地も驚かされた獣に蹂躙された。

ざまあない、あれはヤツらがしでかした報いだ!

あいつらは掘削用の工具だけを持って入っていった。あんな数の獣を対処できるはずもない。

俺も……森に行かねば。あのまま獣に襲われるあいつらを見殺しにするわけにもいかないさ。

お前だって源石採掘には反対しておっただろ?ならむしろちょうどよいではないか?

森にいる獣どもに襲われるのはヤツらの自業自得だ!あのまま獣どもに食わせておけばいいんだ!

ジジイ、俺はこの村の狩人だ。この時ばかりは黙っていちゃダメなんだよ。

バカ者!

この門から出ていくものなら、お前の足をへし折ってやるぞ!
(回想終了)

結局あんたは俺を止められなかったな。

だから俺はあの場所であんなザマになっちまったんだ。

そうだ、儂のせいだ。すべて儂のせいだ。

儂がお前を殺してしまった……すべて儂のせいだ、父親失格だ。

なら悔やめ、自分の無力さ。

償うんだ、その罪を。

ああ、償うさ。お前のためにすべての獣を皆殺しにして、仇を討とう。

特にあの一番図体が大きく、悪辣で狂い果てた、炎を噴くバケモノをな!

……だが儂にはできん。

こんな皺くちゃな手では矛を持つことすらかなわん。この両目も、もはや畜生どもが押し寄せて来るのをただ見てやることしかできないくらいには濁りきってしまった。

じゃあ、あんたも死ぬしかないようだな。

死ぬしかない。そうだな、そうするほかない。

だがせめてあと一匹、さらにそのもう一匹を殺し尽くすまで。

その後に……お前に会いに行こう。
狩猟の矛を振りかざそうとする。
だが腕にはもはや力はなく、矛を地面に落としてしまう。
拾い上げる意志などない、そんな意味などとっくに失ってしまったから。
やがて獣たちは無気力になってしまった獲物を引き裂こうと、薄気味悪い牙を露にした。

はっ、防がれたか……全身に鱗を纏った獣に……こいつは見たことがない。

この期に及んで、まだ互いに争っているとは。

儂はそんな畜生どもの、牙によって殺されるのだろうか……

ヤトウ殿、このような状況に身を投じれば、生きて帰れる保証はないニャ。今一度考え直されよ。

今度はなんだ……声?いったい誰の……

今は私をそこに送り込めるような方法がないかだけを教えてくれればいい。ないのなら自分でそこに入る。

話し声……幻聴か?

まだ死ぬ時ではないぞ、爺さん。

なっ……

小娘、なぜまたこんなところに現れた?

無論あなたを助けるために。

お前はさっさとここから出ていくべきだ、儂を助ける必要などない!

いいからもう黙っていろ!

今までずっと、リオレウスを打ち倒すと言っていただろ?なのに今のあなたが相手しているのは名前すら知らない獣ばかり!このまま納得して死ねるのか?

目をかっ開いて今の状況をよく見ろ!暴走した獣たちは遅かれ早かれ山を下る!その際最初の犠牲となるのは村だ……見知った人たちは逃げ回り、はぐれてしまった子供は食い殺されるんだぞ!

そんな状況を引き起こしてもいいというのか?

柏生義岡、あなたは露華村の狩人、そこの唯一の狩人だ。そんなあなたは、あなただけは黙っていちゃダメなんだ。

今のあなたがやるべきことはここで恨み言をぶつぶつと呟くことでもなければ、何もかも諦めて死ぬことでもない。

矛を握りしめ、その無意味は執念を捨てるんだ!狩人であるのなら、何をするべきなのかを考えろ!

獣たちから故郷を守ることを!命を懸けてでも、生き延びるための火種を絶やさないことを!

生き延びるための代償は、必ず誰かが引き受けなければならない……狩人にしろ、私たちにしろ……自分でその道を選んだじゃないか。

だから立ち上がるんだ、柏生義岡!

明……

儂があの時お前を止められなかったのは、お前が一言言ってきたからだ。あの時お前はなんと言ったか……

必ずそいつらに打ち勝つ、そう言ったんだ。

お前はそれを果たせたか?

果たせたさ、親父。
(柏生明の幻影が消える)

明……

マセガキが、お前の矛は使い勝手がいい。しっかりと握りしめておかなければな。

さっさと行くがいいさ、もう儂の目の前に現れるではないぞ。

儂も必ず打ち勝ててみせる。

まったく騒々しい……騒ぐでないわい。

小娘風情が、普段は口数が少ないのに、いざ喋り出したら裂獣よりも容赦がないな……

反論する気力がまだ残っているのなら、背後を守ってくれないか?今はとにかく時間が惜しい。

若輩者の指示に従う筋合いなどないわい……自分の身は自分で守りな。

先ほどの貴殿の叱咤激励、わしもココット村にいたあの頃を思い出してしまうニャ。

“ハンター”がまだ存在していなかった頃は、まさに村長が率先して困難に立ち向かっていたニャ。村を救うためにモンスターを討伐するその勇ましい姿、まさに“英雄”の称号にふさわ……

ニャ!わしの首根っこをつまんで持ち上げるでないニャ!

オトモアイルー、君は右のほうを見張っててくれ。

ところでヤトウ殿、先ほどわしが貴殿に教えた技術は覚えているかニャ?

それは……何度か頭の中で反芻したつもりだ。

これだけは憶えてくだされ、双剣を扱いこなす秘訣とは即ち――獣の如く、防御を捨て去った猛攻の構えに入ることニャ。

我々はそれを“鬼人化(きじんか)”……と呼んでいるニャ。

“鬼人化”……

では行くぞ、二人とも。