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【アークナイツ大陸版】空想の花庭 HE-6「天なる神には」行動前 翻訳

ジェラルド
ジェラルド

屋内に争った形跡はない、全部調べておいた。子供たちもまだ熟睡している、起こされてはいない。

ジェラルド
ジェラルド

ヘルマンがあの子たちを傷つけるようなマネはしないさ、その点は安心してくれ。

フェデリコ
フェデリコ

今はまだ手を出していないだけの可能性もあります。

フェデリコ
フェデリコ

彼女の理性もいつまで保っていられるか。

ジェラルド
ジェラルド

……感謝するよ。

ジェラルド
ジェラルド

しかしあの子たちが目を覚ましたら、ヘルマンのことをどう伝えるつもりなんだ?

フェデリコ
フェデリコ

あの子たちには知る権利があります。

ジェラルド
ジェラルド

時には知らないほうがいいことだってある。

フェデリコ
フェデリコ

それは私にアドバイスをしていると理解してよろしいですか?

ジェラルド
ジェラルド

そうじゃなくてだな、フェデリコ……そうだ、今みたいにお前のことを呼んでも構わないか?

ジェラルド
ジェラルド

ヘルマンを見逃したのも、子供たちからの信頼を得ているのもお前だ。だから決める権利はお前にある。

フェデリコ
フェデリコ

……

ジェラルド
ジェラルド

少し荷が重かったか?

フェデリコ
フェデリコ

重量ある装備は携帯していませんが。

ジェラルド
ジェラルド

フフ、今のはお前なりのユーモアにしておいてやろう。

ジェラルド
ジェラルド

ところで、何を見ているんだ?

フェデリコ
フェデリコ

これに見覚えは?

ジェラルド
ジェラルド

これは……布団の布切れか?この生地で冬に布団を作る住民は少なくないが、この模様は初めて見るな。

フェデリコ
フェデリコ

これはラテラーノでよく見かける花模様です。

そんなボロボロの布地に包まって、双子の寝息は相変わらず途切れることなく穏やかだ。
執行人もしばらく子供たちに目を向けてから、ようやく視線を傍らにある簡素な木製テーブルに移す。
そこには焼き物の小瓶が置かれていた。
瓶の中には、まだ完璧に枯れ果てていない浅い色をした花束が差し込まれている。子供たちを除いて、室内に見れる唯一の色彩だ。

ジェラルド
ジェラルド

これは……花か?少し萎えてしまっているな、おそらくここ二日くらい交換していなかったのだろう。

フェデリコ
フェデリコ

これもヘルマンの趣味なのですか?

ジェラルド
ジェラルド

それは……分からない。

ジェラルド
ジェラルド

私について来てくれている人たちのことは十分理解していると思っていたんだが、こればかりは……

フェデリコ
フェデリコ

……

フェデリコ
フェデリコ

直ちに聖堂へ戻る必要が出てきました。

フェデリコ
フェデリコ

サルカズ関連のことでしたら、現在把握している情報だけでも判断を下すには十分でしょう。

ジェラルド
ジェラルド

その判断とやらはなんだ?

フェデリコ
フェデリコ

まずは、あなたがはたしてオレン・アギオラスと交流があったかどうか――それを知る必要があります。

ジェラルド
ジェラルド

あの特使のオレンか?

フェデリコ
フェデリコ

はい。

ジェラルド
ジェラルド

交流ならほとんどないさ。ここに来て間もなく失踪してしまったからな。

フェデリコ
フェデリコ

なるほど。

フェデリコ
フェデリコ

ではあなたの名前についてお伺いします。あなたは自身をジェラルドを呼称していますが、本当の名前ではありませんね?

ジェラルド
ジェラルド

……十年も使われ続けてきた名前だ、今さら偽物だとでも?

ジェラルド
ジェラルド

私たちがここへやって来て、ボロボロの木の板で最初の住処を築き上げたあの日から、私は荒野で狩りをするジェラルドだよ。

フェデリコ
フェデリコ

ご自身がジェラルドを自認するのは構いませんが、あなたの自己認識はこの場合重要ではありません。

ジェラルド
ジェラルド

なら――

異様な緊迫感が言葉を口から転げ落ちるように駆り立てる。
しかしフェデリコは相手に発言の隙を与えない。
彼はこれまで十年も碌に使われてこなかった名前を口にしたのであった。

フェデリコ
フェデリコ

カズデルの内戦で頭角を現した傭兵。合わせて三十二もの罪状を抱え、かつて教皇庁傘下の三つの執行部隊を殲滅した、公証人役場が指名手配してる逃亡犯のうちの一人。

フェデリコ
フェデリコ

ホルスト・ディッフェンダール。

ジェラルド
ジェラルド

――!

ジェラルド
ジェラルド

とっくに知っていたのか……

フェデリコ
フェデリコ

はい。私ですら入手できる情報となれば、ほかの者たちも同様に把握していますよ。

フェデリコ
フェデリコ

最終警告です、ジェラルド。

フェデリコ
フェデリコ

あなたの正体はすでに暴露されました。

元気なラテラーノ人
ベテランのラテラーノ特殊部隊成員

前方に建築物を確認、目標地点で間違いない。

元気なラテラーノ人
ベテランのラテラーノ特殊部隊成員

それにしても、本当に自ら我々の修道院に住み着くサルカズがいるのか?まるで想像ができないな。

???
若いラテラーノ特殊部隊成員

このまま行動を開始しますか?

元気なラテラーノ人
ベテランのラテラーノ特殊部隊成員

焦るな、まずは上からの指示を待つ。

元気なラテラーノ人
ベテランのラテラーノ特殊部隊成員

このまま観察を続けるんだ、どのみちここら一帯は我々がすでに包囲している。

元気なラテラーノ人
ベテランのラテラーノ特殊部隊成員

先ほど捕らえたあのサルカズの集団みたいにな……

元気なラテラーノ人
ベテランのラテラーノ特殊部隊成員

サルカズは一匹たりとも逃しはしない。

???
若いラテラーノ特殊部隊成員

はい!

スプリア
スプリア

食事持ってきたよー。と言ってもそんなに見つかんなかったけど、ちょっとは食べたら?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ごめんなさい……食欲ないの……

スプリア
スプリア

いいよいいよ、じゃあとりあえずここに置いておくね。すぐにでもお腹が空いてくるだろうし。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ありがとう、スプリア……

スプリア
スプリア

どうしたの改まっちゃって?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ううん、ただ……ありがとうを言いたかっただけ。

スプリア
スプリア

感謝したいんだったらこいつら全部平らげて、それからさっさと寝てちょうだい!そしたら私もはやく仕事を切り上げることができるからさ。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

そ、そうなの?じゃあすぐ寝るね……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……

スプリア
スプリア

……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ごめん、全然寝付けない……

スプリア
スプリア

だと思った。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ねえ、ずっとここにいて大丈夫なの?私もうすっかり元気になったからさ、だからその、えっと……わざわざ傍にいてくれなくても……

スプリア
スプリア

私をそんないい人扱いしてくれちゃってるけどさ、あなたを見張っておくのが私の仕事なんだよ?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……大丈夫よ、逃げないから。

スプリア
スプリア

それはどうかな。大人しい子であればあるほど、気を付けなきゃならないのが常だからね。

スプリア
スプリア

あなたの頭に生えているその黒い角、それどういう意味なのか知ってる?今あなたの状態のままラテラーノに連れて帰ったら、どういう目に遭うのかも分かってるの?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

それは……分からない。

スプリア
スプリア

そりゃ分かんないでしょうよ。だってあなた、もう私の感情が伝わってこないんだもん。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……

スプリア
スプリア

そんな顔しないでよ、冗談だってば。教皇聖下はとってもお優しい人よ、だから不安にならないでちょうだい

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

不安にはなっていないよ。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

どんな罰でも、私受け入れるって決めたから……

(部屋の外から物音が聞こえてくる)

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

なんの音かしら?誰か外にいるの……?

スプリア
スプリア

何が起きていようが、あなたには関係ないでしょ。

スプリア
スプリア

ここで待ってて、私が見に行く。

 

スプリア
スプリア

……ん?

スプリア
スプリア

おっかし、誰もいないけど?

???
???

しばらくぶりだってのに、随分と警戒心がゆるゆるになっちまったもんだな?

スプリア
スプリア

チッ、相変わらず嫌味たっぷりね。

スプリア
スプリア

ホント、ヴィクトリアにいた時は一体なにをやっていたんだか。まさか外でラテラーノの仇ばっかり作っていたんじゃないでしょうね、オレン?

オレン
オレン

そいつはとんだ誤解だぜ、一番せっせと真面目に働いていたのはこの俺だってのに。

オレン
オレン

んで仕事の話に戻るが、そっちはもう準備は済ませているはずだよな、スプリア?

スプリア
スプリア

そうかもね?

オレン
オレン

おい遠回りはきらいなんだ、はっきり答えをくれ。

オレン
オレン

もしこのまま予定通りに進めば、夜が明ける前に行動開始だからな。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

(おかしい……スプリアがまだ帰ってこない?)

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

(外も静かになっちゃったし……)

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

(な、なんの音?)

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ねえスプリア……?あなたなの?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

きゃッ……むぐぐ!?

???
抑えられた男の声

シッ、声を出すな。

レイモンド
レイモンド

俺だ。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

レイモンド!?

レイモンド
レイモンド

ここから逃げるぞ、フォルトゥーナ。

レミュアン
レミュアン

やっと出てきた。

フェデリコ
フェデリコ

なぜあなたがここにいるのです、レミュアンさん?

レミュアン
レミュアン

ちょっとね。嫌なヤツに足止めを食らっちゃって、挙句目標に逃げられちゃったのよ……はぁ~あ、口にしたら余計惨めに思えてきちゃった。

レミュアン
レミュアン

ここに来たのは、近くで騒ぎが聞こえたからなんだけど……

レミュアン
レミュアン

それがまさかね、フェデリコくんがあんな脅迫じみたことを言い出すなんて。

フェデリコ
フェデリコ

脅迫?

レミュアン
レミュアン

あれ、違うの?

レミュアン
レミュアン

じゃあなたがさっき言ってたこと、あれ一体どういう意味だったのかしら……

フェデリコ
フェデリコ

事実を述べただけです。正確な判断は実情を把握した際の基盤の上に成り立つものです、特定の誰を脅迫する必要はありません。

レミュアン
レミュアン

そう……まあ分かったわ、あなたなりの考えがあるのでしょう。

レミュアン
レミュアン

でもね、人っていうのは一番予測しづらい生き物なの。自分ですら自分の考えが分からない時なんてたくさん。行動と考えが一致しないことも珍しくはない。

レミュアン
レミュアン

私の経験則からすれば、毎回事態が最も「合理的な」方向に進んでくれるとは限らないわよ?

フェデリコ
フェデリコ

……

レミュアン
レミュアン

とまあ、この話は一旦置いといて……どうやら私の想像よりも複雑みたいね、今の状況は。

レミュアン
レミュアン

さてフェデリコくん、ここで情報交換をしましょうか。

レミュアン
レミュアン

なるほど、私たちが見つけたあのバケモノが、ヘルマンって名前の失踪したサルカズだったわけね?

レミュアン
レミュアン

あなたが見かけた時の彼女の状態と私が遭遇した時の状態、聞く限りじゃ違いがあったみたいね。もし本当にそうだとしたら……

フェデリコ
フェデリコ

正常な生理現象を失い、意思疎通ができず、理性も喪失し、明らかな食欲をあらわにした状態から、僅かですが理性が残り、意思疎通ができる状態へと変化した。

レミュアン
レミュアン

まるで進化ね。

フェデリコ
フェデリコ

現段階ではそう推測できるかと。

フェデリコ
フェデリコ

彼女の身体になんらかの変化が生じたのです。以前イベリアが関わっている任務を遂行中に関連資料を漁ったことがありまして、いわく海岸付近で頻繁に活動するとある教会組織が存在すると。

レミュアン
レミュアン

深海教会ね。

レミュアン
レミュアン

よく勉強してるじゃない、フェデリコ。なら以前の任務でも類似した生物を見かけたことが?

フェデリコ
フェデリコ

ほんの僅かに。

レミュアン
レミュアン

それでも見たことに変わりはないわ。なら、話がはやいわね。

レミュアン
レミュアン

私も以前ちょっと気になることがあったから、少し調べたことがあったの……あの教会に関することなら、今後イベリアの裁判所と手を組むかもしれないわ。

レミュアン
レミュアン

聖下も最近はこのことで頭を悩ましていてね。それがまさか、ここでそれに出くわすとは……

フェデリコ
フェデリコ

厄介な出来事です。

レミュアン
レミュアン

そうね、とても厄介だし危険だわ……さっき私の邪魔に入った人も、相手が退いてくれなかったら、私も勝てたかどうか。

レミュアン
レミュアン

ちょっとムカつくけど……やっぱりはやく昔の状態に戻さないとね。さもなきゃあのニヤケ面の修道士どころか、スプリアにだって舐められちゃう。

レミュアン
レミュアン

ところでこの話のついでなんだけれど、本当にあのジェラルドって人に全部教えちゃってよかったわけ?

フェデリコ
フェデリコ

彼には経緯を知る権利があります。

レミュアン
レミュアン

そう、あなたがそう決めたのならとやかく言わないけど。それで、これからどうするつもり?

フェデリコ
フェデリコ

一つ、調べたいことがあります。

レミュアン
レミュアン

何かしら?

フェデリコ
フェデリコ

火が自ら燃えだすことはありません。聖堂の失火には怪しい点が見られます。

フェデリコ
フェデリコ

それとあの花たちも……いえ、まだ確定したわけではありませんが。

フェデリコ
フェデリコ

まずは、その可燃物を探す必要があります。

ジェラルド
ジェラルド

すまない、こんな時間に呼び起こしてしまって。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

呼ばれてもすぐ起きれたからいいんだよ、もともと寝付けないやつも多かったんだし。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

話ならすでにみんなにも知らせた、いつでも出発できるぞ。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

しかし……この前は朝になってから出発するって言ってなかったか?どうして急にまた?

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

もしかしてあの火事が原因なのか……?

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

それなら絶対レイモンドがやったことじゃない、俺が保証する。だからこんな急いで出発する必要は――

ジェラルド
ジェラルド

いや、彼を疑ってるわけじゃない。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

じゃあ……

ジェラルド
ジェラルド

緊急事態が起こってな。これは後で説明するが、とにかく朝まで待てなくなった。

ジェラルド
ジェラルド

以前、先に道を探しに行ってくれた先遣隊からまだ何も返ってきていないのか?

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

ないな。だから変なんだ、もしかしたら何か起こったんじゃないかって。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

どうする?何人か俺が連れて探しに行こうか?

ジェラルド
ジェラルド

……いや、この際だから一緒に行こう。時間になったらほかの人たちにもついて来るように言っておいてくれ、置いて行かれないようにとな。

ジェラルド
ジェラルド

私は何人かベテランたちと一緒に、先頭で道を探すことにする。お前はレイモンドと後方の警戒にあたってほしいんだが、問題はないな?

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

……いいや、ありありだぜ。あんた、なんだか様子がおかしいじゃねえのか?

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

一体なにがあった?なんでそんな緊張しているんだ?

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

……もしかしてあのラテラーノ人たちのせいか?

ジェラルド
ジェラルド

……誤魔化せられんな。

ジェラルド
ジェラルド

変わらず慎重で何よりだよ、リード。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

待った、今はもうそいつを名乗っちゃいねえぜ。

ジェラルド
ジェラルド

これはすまない、ただ……

ジェラルドは言葉を呑み込んだ。
なぜこの長い付き合いの相棒が自分の様子がおかしいと察することができたのか、自分が今にも知らずのうち腰に隠した刃物に手をあてていることに、ジェラルドは気付いていた。
彼は徐々に、ハンターとしてのジェラルドからあの傭兵へと戻りつつあった。

ジェラルド
ジェラルド

悪かった。さっきの雰囲気……あんまりにも私たちがまだカズデルにいた頃に似ていたから。

ジェラルド
ジェラルド

杞憂だといいんだが、なんだか心がぞわぞわしてな。私の直感と思ってもらえばいいが、なるべくはやくここを出たほうがいい。なるべくだ。

ジェラルド
ジェラルド

そう、なるべく早くな。だからお前にはすでに準備ができてる人たちを先に連れて、すぐに出発してほしい。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

あんたはボスだ、あんたの指示に従うまでさ。いつも通りな。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

だが一つだけ言わせてもらいたい。これまでの過去を気にすることなく過ごせるいい場所が見つかるって、前回もあんたの直感はそう教えてくれたな。

ジェラルド
ジェラルド

……

ジェラルド
ジェラルド

必ず見つかるさ、誓おう。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

誓ってもらうまでもねえ、信じてるさ。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

あんたが俺たちをここに連れてってもらったことは事実なんだしよ。

(サルカズの住民が立ち去る)

ジェラルド
ジェラルド

……無事にいけるといいんだが。

ジェラルド
ジェラルド

すまない、アイリーン。今度ばかりはお前を連れて行けそうにない。

ジェラルド
ジェラルド

私を責めるか?

ジェラルド
ジェラルド

もしお前がまだ生きていて、今の光景を目にすれば、お前は一体なにを思うのだろう……

(ドアのノック音)

ジェラルド
ジェラルド

……!

ジェラルド
ジェラルド

誰だ?

クレマン
クレマン

私だよ、ジェラルド。

クレマン
クレマン

今いいかい?

クレマン
クレマン

君に、どうしても伝えたいことがあるんだ……

リケーレ
リケーレ

ふぅ……やれやれ、ご老人にしちゃ当たりが強すぎるっての。

リケーレ
リケーレ

まったく……ただの任務で派遣されただけだってのに、こっちだってこんな居心地悪くしたくはないよ。

リケーレ
リケーレ

サルカズに堕天使、おまけに頭のイカレちまった主教も追加とは、勘弁してもらいたいね。ちょいと沼が深すぎるんじゃないのか、ここ。

リケーレ
リケーレ

しかもよりによって同伴の仲間があのフェデリコだなんて……トホホ、いいんだか悪いんだか。

リケーレ
リケーレ

こうとなりゃ、念には念を入れなきゃだな……

(無線音)

リケーレ
リケーレ

オレン、俺だ。

リケーレ
リケーレ

そろそろ動き出す頃合いなんじゃないのか?人手、そっちまだ余ってるだろ?

リケーレ
リケーレ

できればあのステファノって主教は調べておいたほうがいい、どうも怪しくてな。もしかしたら危険人物の可能性もある。

リケーレ
リケーレ

は?直感?

リケーレ
リケーレ

まあそんなもんかな……この修道院にいると心が落ち着かないんだ。いや、言い方が悪いな。そこそこ悪くない場所だから、なおのことそう感じてしまう。

リケーレ
リケーレ

あんた、俺よりも長くここにいたんだろ?そう感じることはなかったのか?

リケーレ
リケーレ

まったく、どうしてみんな必死に生きようとしてるだけなのに、これっぽっちの希望もない場所が存在するんだろうな?

リケーレ
リケーレ

こんなんじゃあんまりだよ。

クレマン
クレマン

こんなところかな……まさかレイモンドが知らなかったとは思わなかったよ。だからデルフィーヌとフォルトゥーナのことは彼にも伝えたんだ。

クレマン
クレマン

かなり感情的になっていたよ、彼。正直言って、ちょっと心配だ。

ジェラルド
ジェラルド

……

クレマン
クレマン

その……大丈夫かい?

ジェラルド
ジェラルド

……平気だ、心配するな。

ジェラルド
ジェラルド

お前は何も悪くないさ、いつまでも彼に伝えてやれなかった私に責任がある。

ジェラルド
ジェラルド

それで、レイモンドは?

クレマン
クレマン

私にフォルトゥーナのことを聞いてから、飛び出していったよ。フォルトゥーナを連れ戻すとかなんとかで。

クレマン
クレマン

彼女、傍にラテラーノの使者が付き添っているんだろ?本当に大丈夫なのかな……

ジェラルド
ジェラルド

……サンクタが彼の行いを許すはずもないさ。

ジェラルド
ジェラルド

レイモンドはここで生まれた子だ、ここは外とは違う。我々とサンクタがどういう関係なのか、あいつはまだ理解しちゃいないんだ。

クレマン
クレマン

確か前に言っていたよね、サンクタとサルカズは……

ジェラルド
ジェラルド

ひどい関係さ。

ジェラルド
ジェラルド

もし私たちが本当にただの一般人であれば、ここまで酷な扱いを受けることもなかったかもしれないが……

クレマン
クレマン

じゃあレイモンド、今やばいんじゃないのか!?

ジェラルド
ジェラルド

だから今すぐ探しに行く。色々と教えてくれて感謝するよ、クレマン。

クレマン
クレマン

私にできることなんて、これくらいしかないから礼には及ばないよ……

クレマン
クレマン

私もようやく分かったよ、君の決断は正しいって。君たちはなるべく早くここを出たほうがいい。

クレマン
クレマン

そう、今すぐに。とても賢い決断だ、なんだったら……明日を待たなくても……!

ジェラルド
ジェラルド

……そのつもりだ。

ジェラルド
ジェラルド

それよりクレマン、顔色が悪いぞ……また何かあったのか?

クレマン
クレマン

いや、なんでもない。でもちょっと……今日はたくさんのことが起こり過ぎて、少し、気分が悪いかな……

クレマン
クレマン

さあ、もう行ってくれ、ジェラルド。君の言う通りだった、私たちは同じ道を歩けない。もうここに残っては危険だ。

ジェラルド
ジェラルド

様子がおかしいぞ、クレマン。落ち着くんだ、お前――

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

大変だ、ボス!

ジェラルド
ジェラルド

どうした?

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

指示通り、先遣隊の連中とは反対の方向から出発したんだが、その先の道で部隊がこの修道院に近づいてきやがった!

ジェラルド
ジェラルド

部隊……?

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

ラテラーノ人だよ!サンクタ、しかも護衛隊の服を着た連中もいた!

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

昔は何度もあのクソどもと戦ってきただろ俺たち!だから間違いねえ、絶対アイツらだ!

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

すぐにでもここは包囲されちまう……へっ、分かるだろジェラルド?すぐにでも包囲されちまうんだ!

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

ヤロウ、連中最初から俺たちを行かせるつもりがなかったんだ!

ジェラルド
ジェラルド

……

ジェラルドは猛然と拳を握りしめた。
そして数呼吸を挟んだ後、彼は刃物を収めている革の鞘が熱を発していると思ってしまうほど、自分の指があまりにも冷え切っていたことに気付いた。

ジェラルド
ジェラルド

クレマン。

クレマン
クレマン

いるよ。これからどうすれば……

ジェラルド
ジェラルド

心配するな。

ジェラルド
ジェラルド

私はこれまでずっと逃げ回ってばかりだったからな、ようやくすべてが元に戻るだけだ……この事態なら、すぐにでも片が付くさ。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

ボス、こっからどう動きゃいい?教えてくれ。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

みんな覚悟なら決まっているさ、いつでもやれるぜ。

ジェラルド
ジェラルド

これまでの間、お前たちにも苦労をかけたな。

慎重なサルカズの住民
慎重なサルカズの住民

なんだよ藪から棒に。

クレマン
クレマン

何を、するつもりなんだ?ジェラルド、一体なにをするつもりなんだ!

クレマン
クレマン

落ち着いてくれ、まずはその刃物を下ろすんだ……!

ジェラルド
ジェラルド

落ち着いてるさ、クレマン。

サルカズの男は深く息を吐き、力強く刃物を握りしめると、銀雪のように光り輝く刃がゆっくりと鞘から抜き取られていく。
その刃は、あまりにも熱かった。
一瞬、この古い相棒さえ手から落っことしてしまいそうなほどに。

ジェラルド
ジェラルド

この十年もの間、今日ほど冷静だった日がないくらいにはな。

ジェラルド
ジェラルド

もし血を流せばすべてを終えることができるというのなら、それが私の最後の務めだろう。

ジェラルド
ジェラルド

心配はいらないさ、むざむざとサルカズの血を流しはしないさ。

 

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