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【アークナイツ大陸版】空想の花庭 HE-ST-3「慈しみの光に」翻訳

レイモンド
レイモンド

おい、そこの羽付き野郎。

レイモンド
レイモンド

おい、お前を呼んでるんだ……って!ちょっと待てよ!

フェデリコ
フェデリコ

仮に羽が生えていることがサンクタに対する呼称とするのならば、ここにはその印象に合致した人物が多数存在すると思いますが。

レイモンド
レイモンド

……お前のことを呼んでるんだよ。お前がフェデリコって名前なのは知ってる。

フェデリコ
フェデリコ

なるほど。

レイモンド
レイモンド

チッ、ホントお前ってムカつくやつだぜ。

レイモンド
レイモンド

こっちは今お前と無駄口を叩いてる暇はねえんだ。

レイモンド
レイモンド

あのオレンってやつ……そいつからジェラルドさんのことを聞いた。俺たち、俺やフォルトゥーナのためにあの人は……

レイモンド
レイモンド

あの話は本当なのか!?本当にジェラルドさんは――

フェデリコ
フェデリコ

はい、当のジェラルドはすでに死亡しました。

レイモンド
レイモンド

……

レイモンド
レイモンド

そんなハッキリ答えてほしくないと思えたのはこれが初めてだぜ。

レイモンド
レイモンド

ウソだと思いたい……そんなことあるわけ……

フェデリコ
フェデリコ

……申し訳ありませんが、事実です。

レイモンド
レイモンド

……フンッ、なんでお前が謝るんだよ?

レイモンド
レイモンド

……

レイモンド
レイモンド

まあいい、とりあえず俺から離れろ、羽付き野郎が。できれば目も閉じておけ、チラチラ見てくるんじゃねえぞ。

レイモンド
レイモンド

ちょっと目が痛くなっただけだ、お前らの輪っかが眩しすぎるせいで。本当にそれだけだからな、すぐに治る。

フェデリコ
フェデリコ

……分かりました。

レイモンド
レイモンド

ジェラルドさんはナイフをお前に渡したか。となりゃあの人の選択だ。俺には……それを否定する権利はねえ。

レイモンド
レイモンド

だが、このまま持って行かせるわけにはいかねえぜ。

レイモンド
レイモンド

知らねえとは言わせねえぞ、サルカズ傭兵の武器を引き継ぐことにどういう意味があるのかをな!

フェデリコ
フェデリコ

名を、引き継ぐことですね。

レイモンド
レイモンド

そうだ。だから……ジェラルドさんを、ジェラルドさんの名前も尊厳もひっくるめて、いつか必ずお前から奪い返してやる。

レイモンド
レイモンド

お前への果たし状ってやつだ。

フェデリコ
フェデリコ

あなたでは勝てませんよ。

レイモンド
レイモンド

勝ってやるさ、必ずな。

レイモンド
レイモンド

俺が生きてる限り、いつだってお前に挑んでやる。

レイモンド
レイモンド

俺を舐めんじゃねえぞ。

フェデリコ
フェデリコ

その果たし状なら断らせていただきます。

レイモンド
レイモンド

はぁ!?断るだとォ!?

レイモンド
レイモンド

ここまで言ってやったっていうのにテメェ――

フェデリコ
フェデリコ

ジェラルドはただの狩人にすぎませんでした。ここにあるナイフなら、継承においてなんら意味も存在しませんよ。

レイモンド
レイモンド

……そいつはどういう意味だ?

フェデリコ
フェデリコ

言葉通りの意味です。

フェデリコ
フェデリコ

仮にあなたがサルカズ傭兵の名が刻まれたナイフを継承しようとしても、私のところにそんな物品は置かれておりません。なので、私に挑んでも時間の無駄かと。

フェデリコ
フェデリコ

しかし狩人ジェラルドのナイフを所望しているのでしたら、ここにあります。

レイモンド
レイモンド

ンにゃろうが……

フェデリコ
フェデリコ

今すぐお渡ししましょうか?

レイモンド
レイモンド

……冗談じゃねえぜ。

レイモンド
レイモンド

そいつはあの人が一番のお宝にしていた得物なんだ。そう易々と俺の手に渡しちゃ、ジェラルドさんも絶対認めちゃくれねえだろうよ。

レイモンド
レイモンド

だから、そいつはお前が取っておけ。

レイモンド
レイモンド

見とけよこの野郎……俺もジェラルドさんみたいに、みんなを引き連れて新しい道を見つけてやっからよぉ。

レイモンド
レイモンド

そん時になってやっと、俺にもそいつを受け取る資格ができるってわけだ。それからお前を挑んでやる。

フェデリコ
フェデリコ

……

フェデリコ
フェデリコ

いいでしょう。

フェデリコ
フェデリコ

ではそれまでの間、私が代わりに保管しておきましょう。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

レイモンド……

スプリア
スプリア

覗き見はもうそれくらいにしたら?あいつならそれまで頑張ってくれるさ。

スプリア
スプリア

それよりもあなた、前にもう銃は握れなくなったって言ってたけど、今のそれって……お祈りしてるの?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

うん……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

こうすれば、少なくともまだ応えてくれるなーと思って。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ねえスプリア、私……まだこの銃は使えるのかな?

スプリア
スプリア

そりゃもちろん、使えないわけがない。銃そのものはちょっと古いけど、まあ私の腕さえあれば平気だよ。信じてちょうだい。

スプリア
スプリア

これでも、元々は遺産銃っていう骨董品研究の道に進もうとしていたんだからね。

スプリア
スプリア

でも最近じゃ……フレッシュな出来事のほうがもっと面白いかな~。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

フレッシュな出来事……それ、怖いとは思わないの?

スプリア
スプリア

怖がっても仕方ないじゃん、どの道知りたくなっちゃうんだし。

スプリア
スプリア

それに……

スプリア
スプリア

テクニックというのは人のために使うものよ。これ、私の先輩からの受け売りね。

スプリア
スプリア

あの頃はまだよく理解していなかったけど、今は……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

今は?

スプリア
スプリア

多少は理解できたかな~。私は武器を取り扱う人だからね、なら、私のところから出ていった武器たちには責任を負わなきゃ。

スプリア
スプリア

まっ、この話はもうおしまいってことで。それで、あなたはどうするの?

スプリア
スプリア

身支度はもう済ませているのかなお嬢さん?サルカズと一緒にここから出て行こうとしてるんでしょ~?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

なっ……!それ言おうとしたのになんで分かるの!?

スプリア
スプリア

感覚は何も伝わってこないけど、あなたの考えならほかの共感できるサンクタよりは分かりやすいからかな。

スプリア
スプリア

だったらさ、共感性ってなくても別に大したことないわね。あなたもそう思わない?

スプリア
スプリア

もし大人しくラテラーノまでついて行くつもりがあったら、あなたこんなタイミングに私のところまで来ないでしょ?わざわざこんなご丁寧にね。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……ごめん。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

相応の罰を受けるために、あなたたちの監視に従うってこの前約束したはずなのに……私は今それを破って逃げ出そうとしてる。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

だ、だから……

スプリア
スプリア

だから見逃してほしいって?

スプリア
スプリア

ふふん、それはどうかな~。どっちだと思う?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

うぅ……

スプリア
スプリア

今のあなたはね、結構厄介な存在なんだよ?ラテラーノに入ってもずっとフードを被って生活しなきゃならない、そんな人なんだよ?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

やっぱりダメ……?

スプリア
スプリア

当たり前でしょ。ほかのところに行ったってロクな目に遭わないんだから……って少なくとも上はそう言ってる。

スプリア
スプリア

あなたのその角、その姿そしてその銃、あんまり大勢の前で曝け出してほしくはないのよねぇ。

スプリア
スプリア

それに、私はまだあなたの監視員を継続してるの。これからどこに行こうが、あなたが生きてる限りじゃ私と連絡を維持しなければならないってわけ。

スプリア
スプリア

だから余計な面倒は起こさないこと、いい?分かった?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……あっ、うん。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……え、私を見逃してくれるってこと?じゃ、じゃあなたはどうするの?私を逃がしちゃったら、色々とまずくない?

スプリア
スプリア

平気だよ、最悪教皇庁の仕事を辞めればいいだけだし。

スプリア
スプリア

あっ、今のは冗談ね。

スプリア
スプリア

でも、帰って始末書を書かなきゃならなくなるのは避けられないかなー。辞職するかどうかは、書いてる途中でイヤになってからまた考えるよ。

スプリア
スプリア

まあとにかく、私への借り、もうワッフルどころじゃなくなったってわけだから。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

う、うん……その……本当にありがとう。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

私たち……まだ同じサンクタってことでいいのかな?

スプリア
スプリア

え、そんなこと気にしてどうするの?相手が同じサンクタだろうがなかろうが、私手は抜かないんだからね。

スプリア
スプリア

だから次会いに行った時、ちゃーんとワッフル作っておいてちょーだい。

リケーレ
リケーレ

物資輸送部隊がもうすぐ到着だ。燃料を補充したら、修道院も動けるようになる。

リケーレ
リケーレ

やれやれ、まったく今回はラテラーノからそう遠くはないとはいえ、厄介極まりない外勤任務だったぜ。ここはちょいと修道院の寝床を借りて、ぐっすりしてもいいじゃねえのか?

オレン
オレン

そう言う割には、あんましやつれてないように見えるけどな。

オレン
オレン

お前、ずっと知らんぷりを貫いてきたんだろ?

オレン
オレン

それともサボってあの深海教会と関連する証拠をドブに流さなかったお前に感謝してやったほうがいいのかな?

リケーレ
リケーレ

勘弁してくれよ、オレン。

リケーレ
リケーレ

あのサルカズ傭兵の事案なら、フェデリコのほうが俺よりもはっきりとしているわけし、深海教会の事例も、あんたやレミュアンのほうが俺よりも把握しきってるからだろ?

リケーレ
リケーレ

それによ、お前共感性をシャットアウトしてから、ギリギリだけど、なんだか俺たちうまく協力できるてるように思えねえか?

オレン
オレン

……なんだよ急にその話を持ち出して?

リケーレ
リケーレ

いやさ、なんかたまにはあんまり人のことを詮索しないほうがいいのかなって思えただけだ。射撃をする時、片方の目を閉じてやらなきゃみたいにさ。

リケーレ
リケーレ

つっても先に言わせてもらおうが、レミュアンから言われた修道院と深海教会にその他の関係性がまだあるのかどうかについての調査ってやつ、俺はマジメにやったからな?

リケーレ
リケーレ

結論からして、それについては安心してぐっすり眠れるぜ。

オレン
オレン

お前ってやつはホント……いや、この場合は俺たちか。まったくツいてるぜ。

オレン
オレン

とまあ、修道院が補給を受けた後は、無事ラテラーノまで帰還してくれるだろうよ。中にいる住民たちも、そこまでパニックを引き起こしちゃいない。

オレン
オレン

あの堕天した少女ならサルカズたちについて行っちまったわけだが、今後必要とあらば、あの少女もサルカズの集団も、ラテラーノから位置を特定することはできる。

オレン
オレン

まあ全体的に見て、今回の事件でラテラーノの外交イメージが損なわれることはあんましなかったわけだ。

オレン
オレン

だがそんないいことが毎日続くとは限らねえ。

パニクる住民
修道院の男性住民

お祈りはこんなものかな。野盗連中に襲われることなく、無事ラテラーノまで到着できますようにって、祈っておいたよ。

パニクる住民
修道院の男性住民

ラテラーノに着きさえすれば、もうなんの心配もせずに暮らせるはずだ。

冷静な住民
修道院の女性住民

そうだといいわね。あのラテラーノから来た使者を見ても、あんまりお腹を空かせていないし、服だって新しい。ホント羨ましい限りよ。

冷静な住民
修道院の女性住民

あの人たちって、どうやって畑を耕しているんでしょうね?それとも国が一人一人に銃を配って、狩りをするよう推奨してるのかしら?

パニクる住民
修道院の男性住民

さあな、家の修理やら道具の組み立てに時間を割けなくていいつっても、余った時間で何をすればいいのか見当もつかん。

冷静な住民
修道院の女性住民

なんだかちょっと震えてきたわ。そこまで激しくはないけれど、やっぱりなんだかちょっと怖い……

パニクる住民
修道院の男性住民

なら祈ろう。何があろうと、信仰が俺たちを守ってくれるさ。

リケーレ
リケーレ

まっ、少なくとも俺たちは尽力したってことでいいんじゃねえのか?

リケーレ
リケーレ

その結果ロクでもないことが起こるのかどうかについては、まあ俺たちの知ったことでは――

アランデール
アランデール

――ねえねえ、おにいちゃん。ママがどこに行ったかしらない?

リケーレ
リケーレ

あれ、なんで子供が?ママを探しているってことは、まだ全員ここに集まり終えていないのか?

アランデール
アランデール

ここにはいないけど……でも、きのうの夜にママかえってきていたよ!

エステラ
エステラ

うん、それにきのうの夜にママがくれたプレゼントをね、おねんねしていたおじさんにあげたの……

リケーレ
リケーレ

おねんねしていたおじさん……?

???
アランデール&エステラ

そう!おじさんぐっすりねてた!きっといい夢をみていたはずだよ!

アウルス
アウルス

移動区画に建てられ、十数年もの座礁を経て、その土地とほぼ一体化を遂げたのち、再び動き出した修道院……

アウルス
アウルス

なんとも壮観な光景ですね。滅びと新生ここに会合す、実に印象深い。

歪なバケモノ
ヘルマン

アァ……

アウルス
アウルス

なにやら気分が優れないようで。どこか問題があるのなら、我慢は禁物ですよ?

アウルス
アウルス

なんせ、あなたの身体はまだ完璧の状態に仕上がっていませんから……これからの道のりも苦労しますよ、我が同胞よ。

歪なバケモノ
ヘルマン

平気ダ。

歪なバケモノ
ヘルマン

アノ人タチ……

歪なバケモノ
ヘルマン

アノラテラーノ人タチ……アノ子ラニ優シテクレルノカシラ……?

アウルス
アウルス

優しくしてくれますとも。今ラテラーノを統治している教皇は温厚な方ですからね。何も起こらなければ、二人は相応しい人に引き取ってもらい、あのままラテラーノで育てられることでしょう。

アウルス
アウルス

あなたの同族も、あの堕天使のお嬢さんがその集団について行ってる以上、人知れず存在が揉み消されることはないはず。教皇庁のサンクタたちが見張っていますからね。

歪なバケモノ
ヘルマン

ナライイ……

歪なバケモノ
ヘルマン

シカシ、一ツ間違エテオリマスヨ、アウルス……主教。

歪なバケモノ
ヘルマン

私ハモウ、彼ラノ同族デハナクナッタ。

アウルス
アウルス

あなたがそう思うのであれば。

歪なバケモノ
ヘルマン

……

アウルス
アウルス

さて、荒野に擱座した楽園が無くなってしまったことですし、私たちも出発しましょう。

アウルス
アウルス

改めて……歓迎しますよ、ヘルマン。

レミュアン
レミュアン

これからはどうするおつもりで?

修道院の主教
修道院の主教

儂のような罪人に、選択の余地などあるものか?

レミュアン
レミュアン

意図的に加害するつもりがあったとはいえ、結果からしてみれば、主教様はなにも実質的な損害を出してはいませんよ。

レミュアン
レミュアン

まっ、私としては気にしていませんよ。ただ今回の事件は少なからずイベリアと関りがあるものですから、ヴェルリヴのほうは真剣に受け止めなきゃならないのかもしれませんが……

レミュアン
レミュアン

……あんまり受け入れられないって感じですね?

修道院の主教
修道院の主教

……まず、特使殿には謝罪を。これまで数々の無礼を働いてしまった。

レミュアン
レミュアン

はい、受け入れましょう。お気持ち、伝わってきていますよ。

レミュアン
レミュアン

それと……本当に伝えたいのはそれだけじゃないってこともね。

修道院の主教
修道院の主教

……己に罪を言い渡すことは容易ではない……

修道院の主教
修道院の主教

儂はこれまで絶望に陥り、心の内に潜む悪意に首を垂れてきた。容認も軽視もできぬことだ。

レミュアン
レミュアン

善意による傷害と行動を伴わない悪意。どちらがより罰するに相応しいかと問われれば……

レミュアン
レミュアン

私なら、それは前者だと思います。

修道院の主教
修道院の主教

思考というのは、一瞬の間を過るだけのこともあれば、脳裏の深くに潜り込み、そこで芽を出すまでじっと根を下ろすこともある。

修道院の主教
修道院の主教

となれば此度のような結末は、どうしてただ一度の動揺から引き起こされたものと言えようか?

修道院の主教
修道院の主教

仮に儂が別の道を選んだとすれば、それはまたどういう光景が広がったのだろうか?

修道院の主教
修道院の主教

脳裏に根差した邪念はすでに取り除いたなど、儂にそんなことは言えんよ……未だ我々の「法」を信じている、ということもな……

レミュアン
レミュアン

けど、あなたは今もソレを感じているのではなくて?

修道院の主教
修道院の主教

そうさな、今もしかと感じる……

修道院の主教
修道院の主教

儂は常に祈り続けてきた。人々がこの地で、彼らが求めたものが得られるようにと。この片隅の楽園が、儂の掌の中で崩壊しないでほしいと。

修道院の主教
修道院の主教

だがあまりにも遅すぎた……

修道院の主教
修道院の主教

遅すぎたのだ。信仰という存在は、ただ己に施した一種の幻想なのではないかと、そう疑ってしまうほどに……

レミュアン
レミュアン

それってどういう感覚なのですか?

レミュアン
レミュアン

絶望、恐怖、悲しみ……ほかにこれといった感情は何かありましたっけ?

修道院の主教
修道院の主教

でたらめというものがある。

修道院の主教
修道院の主教

時に、自分の脳裏に存在するものを、儂らはどうて疑えばいいというのかね?

修道院の主教
修道院の主教

それは即ち、すでに自分自身を疑い始めたということにはならないだろうか……そういった疑心暗鬼を振り払わない限り、とてもとても恐ろしいことが起こる。

修道院の主教
修道院の主教

もし信仰が偽りの存在であったと仮定するのであればだ。このステファノの存在というのは、またどこまでが真実だというのかね?

レミュアン
レミュアン

……

レミュアン
レミュアン

私も頑張って理解を試みましたけど……どうやらまだまだ甘かったみたいです。

レミュアン
レミュアン

……私たちは完璧に他者を理解することはできません。たとえ共感性とかいうチートみたいな能力があったとしても、「理解する」という行為は変わらず尊く、困難なものです。

修道院の主教
修道院の主教

……

レミュアン
レミュアン

けど、色々なことを経験して私分かったんです。共感性がなくても、人との間には多くの感情が伝わっていて、それを理解してくれているって。

レミュアン
レミュアン

少なくとも今の私なら、とある男の考えがちょっぴり理解できたんだと思います。何かを感じ取ったからではなく、この身で会得したがために……

レミュアン
レミュアン

となれば、これをあなたにお渡ししたほうがよさそうですね、ステファノ様に。

修道院の主教
修道院の主教

これは……

レミュアン
レミュアン

以前ここに仮住まいしていた修道士の日記です。主教様も、一度お目を通されたほうがいいかと思いまして。

レミュアン
レミュアン

あの人も多分……色んなことで悩みを抱えていたんだと思いますよ。主教様と同じように。

修道院の主教
修道院の主教

……

修道院の主教
修道院の主教

先ほど……これからどうするつもりかと訊ねていたな、特使殿。

修道院の主教
修道院の主教

今その返答をしよう。儂はラテラーノに行く。ただし――ほかの者と一緒に行くつもりはない。

レミュアン
レミュアン

それはつまり……お一人でここからラテラーノへ向かわれるということですか?

レミュアン
レミュアン

ご高齢の方お一人だけでは、色々不安もあるかと思いますが……

修道院の主教
修道院の主教

頼む。儂は……信仰を取り戻したいんだ。

修道院の主教
修道院の主教

罪を償っていつか、もしその時にも奇跡というものが存在しているのであれば儂は、儂のラテラーノを取り戻せるやもしれんのだ……

レミュアン
レミュアン

そうですか……

レミュアン
レミュアン

分かりました、では祝福して差し上げましょう。

レミュアン
レミュアン

願わくは、ステファノ様の求めた答えが見つかりますように。

修道院の主教
修道院の主教

……

修道院の主教
修道院の主教

ではまた、あの楽園で会おう。

それから老人と会話することはなかった。
目の前にいるこの人は実に、老衰した人だった。あのような一夜を経て、彼が纏っている老いた様はますます顔に彫られた一本一本の溝を深く埋めていく。
やがてレミュアンに見守られる中、ステファノ・トッレグロッサは僅かに背筋を曲げながら、ゆっくりと目の前にある門を出て行ったのであった。

(無線音)

フェデリコ
フェデリコ

こちらは執行人フェデリコ、任務の報告をいたします。

フェデリコ
フェデリコ

関連する状況は前述の通り、特使二名の生存は確認済です。両者ともに状態は良好、命に別状はなし。数日内にラテラーノへ報告しに帰還する予定とのこと。

フェデリコ
フェデリコ

アンブロジウス修道院も再起動し、計画通り再度航路を立てる模様です。目的地はラテラーノに設定されており、来年春より前に到着する予定。

フェデリコ
フェデリコ

移動都市の安定した運行、及び住民らの生活需要を満足させるため、すでに教皇庁へ物資援助の申請を送りました。

フェデリコ
フェデリコ

修道院内の住民は計153名、そのうち41名は近日中に修道院を離れるとのこと。彼らの動向はスプリアが追跡、及び記録を担当します。

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

その人たちは、君が言っていたあのサルカズたちのことだね?

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

以前も予感はしていたが、やはり今回の事態は私の想定を超えるものだったよ……

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

修道院の中の情況にしろ、深海教会の動向にしろ、アルトリアにしろ、ね……

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

とはいえ、よくやってくれた。今回もご苦労様、フェデリコ君。

フェデリコ
フェデリコ

……

フェデリコ
フェデリコ

いえ、聖下の委託を完璧に遂行することはできませんでした。

フェデリコ
フェデリコ

我々の介入により修道院の内部状態は悪化。そのため当初、安定的に維持するという目標を達成は失敗に終わってしまいました。

フェデリコ
フェデリコ

それに、三名ほどの死者も……

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

何やら気にかかることでもあるようだね?

フェデリコ
フェデリコ

……はい。

フェデリコ
フェデリコ

もし誤った行為が目に入れば、私がそれを矯正しましょう。任務のターゲットが罪人であれば、多種多様の方法でその者に縄をかけることもできます。

フェデリコ
フェデリコ

しかし今回の任務を遂行する中、私はそのように明確な執行プロセスを見つけることができませんでした。

フェデリコ
フェデリコ

誤った部分がないというのに、なぜ最善の結末を迎えることができなかったのでしょうか?

フェデリコ
フェデリコ

我々の法は、いかなる状況にも対応することは不可能なのでしょうか?もしそうであれば、私はこれから何を根拠に行動すればよいのでしょうか?

フェデリコ
フェデリコ

それが分からないのです。

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

……

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

それを答えてやれることは私にはできんよ、フェデリコ君。それも私を悩ませていることの一つだからね。

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

だがとても嬉しいよ……君がその問いを声に出してくれたことに。

フェデリコ
フェデリコ

それはどういう意味でしょうか?

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

焦らなくていい。君はこれまで考えもしなかったことを考えるようになったんだ。とても大きな進歩だよ、違うかね?

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

いわばボトルのコルクを抜いたようなものさ。一番難しい段取りは終わった。あとは、君が望んだものをボトルから注ぎ出すだけ……

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

今ちょうど、とある友人を訪ねに行ってる最中でね。彼のことなら、君も多少は顔見知りのはずだ。君が抱えているその疑問も、私から彼に聞いてみるとするよ。

イヴァンジェリスタ11世
イヴァンジェリスタ11世

彼が導き出してくれた際には――一緒にその答えを分かち合おう。

高大な聖像が衆人の背後で沈黙を保ち、清らかな朝の光が外から中へと差し込まれる。やがて赤衣の執行人は通信を切り、思索を巡らせながら顔を見上げた。

ほのぼのとした朝日のもと、年老いたサンクタの後ろ姿は次第に遠のいていき、やがてゆっくりと光の中へ溶け込んでいく。
一方、門の前で見送っていたレミュアンはふと予感めいたものを覚えた。
今見えている光景、この老人との出会いはこれが最後になるとは考えづらい。
彼が口にしたように――
いつか彼は本当に、彼自身が求めたラテラーノを見つけることができるのかもしれない。

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