タルラは変わった。
タルラを初めて見た時に彼女が与えてくれた感じはテレジア殿下に似たものだった。
だけど殿下はそれよりもずっととても悲しくて、彼女が背負っていたものは…この大地のより多くの秘密を知っていた。
タルラとは違って彼女はとても怒っていたんだ。冷静なのに情熱に満ちた怒りを持っていた。
細かいことは多かったけど、それ以上に強かった。彼らのような人は力の大きさに関わらず、似たような部分を持っているのかもしれない。
その怒りはレユニオンを生み出し、多くの追随者を魅了した。
だがすぐに…それは変わってしまった。
俺達の毎日の仕事は扇動と加害、挑発へと変わっていった。
これはもはや感染者の革命ですらない――。
――カズデルで幾度となく見たものだ。過剰に操られた戦争の陰謀というものは。

彼女は追いつけなかったか。

…俺たちが本当に彼女と正面からぶつかってしまったら、トラブルになる。

お前はタルラに対してアーツは使うべきじゃないし、それは初めてじゃないだろう。俺たちは常に自分達が見ているものに気をつけないといけない。

…タルラの身に何かがあったに違いない。そのことをWに伝えないと。

Wの色々な小細工のお陰で俺たちには暴徒の疑いが掛けられている。それだけではまだ足りないと?

お前は一体何を見たんだ?

過去のタルラはただの反抗者だったんだ。彼女は抵抗の機会っていうものを解放された感染者に与えていた。

だが今は?あいつらはほとんど自分の欲望を収めることすらせずに、単純に破壊をし、乱りに殺しをしているだけだ。

これじゃあ何の説明にもならないだろうが、サルカズ以外の種族の感染者に対しての扱いっていうのは元々こういうものだ。

…わからないのか。

私はこのような行為自体をどうなっているんだと言っている訳じゃない。このような行為がどういった結果を招くのかと言っているんだ。

タルラは…レユニオンを葬った。工夫を凝らしてな。

…何故?

この状況を何処かで出会ったことがないか?

彼女は優れた指導者であり、普通の感染者すらも戦争に巻き込み、勝利をもたらす。

だが彼女は、彼女だけが誰も知らない方法を用いて、自分で建てた高い塔を一歩ずつ壊していく。

甚だしきに至っては…

タルラ自身もその中の一つの美しいレンガに過ぎないということであり、いつでも壊される存在だということだ。

お前は何を…

3年前と同じ感覚だ。

しかし…以前からそうだったのかもしれないが、迷いなくこの全てをやり遂げるだろう…ただ上手く隠されているだけだ。

タルラじゃない、彼女の変化はあまりにも突然過ぎる。

彼女の影は…影すらも2つ存在している。アーツの痕跡が無いのにも関わらず。むしろ…。

一つの廃墟だ、古く、強く、その力の残滓が多く残っている。

お前のアーツは確かに特殊な性質を持っているが、それでも今回のお前の感覚は曖昧過ぎて行動する理由にはならないな。

それでも、このことはWは知っておかなければいけない!

小さい声で頼む、気付かれるぞ。

どんな動きだろうと他者の取っ掛かりになるんだ、分かるだろ。

私達が2回もバベルのような異変に耐えられると思っているのか?

それは分からんが…

…少なくともWには無理だ

私はあいつを探す。ガルソンが死んだ以上は彼女が新しい指導者だ。

待て!もしタルラが本当に気付いたのであれば、お前は――。

待てない、それに命令するな。私達はまだ同等の位だ。

…ああ。

そう言えば、これが初めての不服従なのかもしれないな。

お前はいつも多くのことを考えすぎなんだ、ヘドリー。

…

(Wはこの先にいるはずだ、この路地を通り抜ければ…)

(あそこはキャンプサイトか?あいつ何をしているんだ?)

(とにかく速くしなければ――)

――

――誰だ?

…

感染者…?何のようだ?

口調には気をつけろ、魔族。

傭兵の数隊が反乱を起こし、敵を城内によこしやがった。

お前たちが犯した過ちは多すぎる。リーダーが見ていないとでも思っているのか?

私にお前の愚痴を聞く義務はない。

お前にはタルラからの責任を負う義務がある。

――良いだろう、Wに報告をしてから、タルラに報告をする。

その必要はない。

俺たちに必要なのはその「責任」じゃない。

何だ…。
(爆発音)

ちっ…嘘だろ?
(複数の爆発音)

先の襲撃はここまで及び、サルカズ傭兵隊長の一人であるイネスは死んだ。

彼女の死体は確認しないのか?

…さっきの戦闘での動きが大きすぎて、人が引きつけられてしまっている。すぐにこの街を爆破しなければいけない。

分かった。

待て。

レユニオンには…彼女と最後まで共に戦ってくれる人が必要だ。

…分かっている。

俺の家族の面倒を見て欲しい、まだこの市内にいるんだ。

当然だ。約束しよう。
(爆発音)

…あいつの死体を少しでもそれらしくしないとな…そうだ、それでいい。

Wならすぐに気付くはずだ…俺たちも行くぞ。

…

はあ…

ヘドリーを連れてこなかったのは…やっぱり、正しかったな…。

…くそ。

あれは、チェルノボーグの街路樹の風景の木だったのか…。

そうか…樺の木…。

…はは。

似たような風景、そこには…全てが、交差する影か…。