あなた達行こうとしてるの?
ちゃんと治療しないと感染するわよ。
――俺が魔族を信じると思うか?
魔族、魔族ね。
身近に魔族が多すぎてその呼び方を忘れてしまうところだったわ。
ちっ、お前、俺たちの後ろを付いてくんな。
もう十分離れてると思うけど?
白々しい事しやがって、そんなにやりたいなら、今すぐやれよ!
ル、ルブリョフ、あんまり刺激しないほうが…。
…いいんだ、何なら自分一人で行け。
ほっとけ。
ご、ごめんなさい…。
感染する時は感染する、魔族の助けなんて必要ない!
…うん。
うふふ…。
この近くに廃墟病院があるの。チェルノボーグ区病院。
何処にあるか知りたいんじゃないの?
…。
ルブリョフ…?
あいつの話なんて聞くな。きっと俺たちを騙しているんだ。
あいつを振りまくぞ…急げ。
あそこに路地が見えるだろ?お前はその角に走って、1分以内に行くんだ!
…うん。
――走れ!
まだ速く走れるみたいねえ。
あいつどうしてこんなにも速く付いてこれるんだ――あっ!
ルブリョフ…君の足!血、血が黒くなってる…
ちっ、さっきお前を助けなかったら、あいつから逃げられていたのに!
ごめんなさい、ごめんなさい…
もういい!声を小さくしろ。
あいつに気付かれないようにしろ。
…。
前の通りを左に曲がると、壊された広場が見えるわ。。
広場の西にある一番大きな建物が病院よ。
廃病院。
…僕たちもう見つかってるみたいだよ…
お前が言うことを聞かないからだろ――もういい。
おい、魔族。
どうしてそんなことを俺たちに教えてくれるんだ?
気まぐれかしらねえ。
あなた達二人ってどういう関係なの?
…。
…俺はただ食べ物を探してたらこいつに会ったんだ。
ルブリョフが僕を助けてくれたんだ…。
へえ…だからあなたは彼の言うことを聞くの?
…
もういいわ、好きにしなさい。今度はあなたは自分の命の恩人を助けてあげる番よ。
お前はこいつに何をさせたいんだ?
ルブリョフ…。
大丈夫よ、行ったでしょ、そこまで遠くない所に病院はあるって。
当然、レユニオンだって馬鹿じゃないわ。あの医療物資を放っておく訳が無い。だからルブリョフを助けたいのであれば…盗むのよ。
そこの全ての感染者は暴徒で、あなた達の家族、身内、友人を殺した暴徒よ。
オリパシーの早期症状を抑える薬剤もそこにしかない。
盗む、奪い取る、何だって良いわ。
でも、そこの人が助けてくれることは期待しないことね。
行くな!あいつの言うことなんて聞く必要無いからな!
で、でも…
行くな?
彼はあなたの名前を知っているの、ルブリョフ、あなたは彼の事を知っているの?
それが今と何の関係がある!?
行くな!お前には出来ない!あそこにあるのは――。
僕――。
僕――やってみるよ。
ルブリョフ兄ちゃんだけじゃない、多くの人が天災の時に怪我をしたんだ。
みんな痛がってる…僕は…
お前はどうして俺の話を聞いてくれないんだ!
あの人達を救いたい、それはとても良いことだと思うわ。
私の言った病院、医療物資は既に地下倉庫に集約されているの。
化学廃棄物が無ければ駐車場のダクトから潜り込んだり、排水溝から歩いたりすることが出来るわ。
もしかしたら、あなたはそこで死ぬかもしれないけど。
…。
ほら、お前の足震えてるじゃないか、考えるな!俺たちのこの魔族の話なんか聞く必要はないんだ!
早く行くぞ!
僕は…。
(爆発音)
ひっ――。
な、何があったんだ?
龍門では色々なことがあったのよ…ここにもいくつかの穴が出来るくらいには。
今のチェルノボーグではせっかくの戦地病院なの。どうして他の人はそういったアイディアが考えられないのかしらね。
あなた達はどうしてだと思う…魔族の私が、そこに病院があるのを知っているのはどうしてだろうね?
お前はこれを――う、あ――。
僕..僕…。
彼はとても苦痛を受けているの、しかもこの勢いで進行していくなら彼は救いようが無いわ
あなたがここで決めないのなら..。
あなた達はここで死になさい。
あ…。
お前、お、お前は一体何をしたいんだ!こっちに来るな!
行くわよ。
行かないの?
あ…でも今から行っても遅いかもしれないわね。暴動が起きている以上、盗みに行くのはもっと難しいだろうし――
僕、行くよ
――へえ…死んじゃうわよ。
どうしてあいつの話を聞いて俺を救おうとするんだよ!。
僕は、僕はやってみたいんだ…。
お前にそんなこと出来るもんか!俺たちは薬局と食べ物を探す、それで良いんだ!
――。
ごめんなさい!
あ…待て!
彼の名前も知らないのに、止めようとするなんて、本当に仕方が無いわね。
お前…あいつを騙しやがって!この悪魔め!。
騙す?
私は嘘なんて一言も言ってないわよ。
当然、信じるも信じないもあなた次第だけど。
彼を信じるのもの信じないのもあなた次第だけどね
…俺は、俺はあいつに会いにいかないと、うっ….
どうして?
あいつは俺無しじゃ何も出来ない…。
あなたは彼が逃げたと心配しているんじゃないの。
あなたはこう思っているんでしょ。彼はどうしてあなたを一人で魔族の所に置いていったんだろうって。
そんなことは無い!
*ウルサススラング*お前みたいな化物は――
黙りなさい。
…ここで彼を待つのよ。一歩も動かずに。
でなければ、私は今あなたをここで殺すことになるわ。
うぅ――
私を誰だと思っているの?
私が犯人なの。
この街を壊して、あなたの両親と友達を傷つけた犯人。
…あ、ふふ、そうだ。
あなたが忘れたこの刀。その柄にはサルカズのアクセサリーが付いて血に染まっているでしょ。
誰の血だと思う?。
う…うぅ、俺、俺には分からない…あいつは…。
泣いてもいいの、子供は泣いても良いのよ。
この後の死活なんて…あなた達の態度次第なんだから。
あいつには出来やしない…。
そう。
俺があいつを廃墟の地下から掘り出していなければ、あいつはとっくに…
…あいつは俺がいないとダメなんだ。
…。
誰だって…他人無しでは生きられない。
違うわ。
…
また静かになったわね、この廃城。
あの虐殺以来、反乱者はとても少なくなった。良いことだわ、これでようやく少しは力を足せるし、死人も少なくなる、
だけど、病院の方向は動かないわね。
あいつ…あいつは…。
もう…うぅ、こんなにも長く…。
彼は逃げた。
…
だけど、あなたが彼を救ったのであれば、彼もあなたを救うために努力するでしょ、違う?
…俺は…。
それともあなただけが彼を救えて、彼はあなたを救うことが出来ないとでも?
あいつは…あいつはずうっと何にも出来なかったんだ!
食べ物を探す時だって!あいつは店の他の奴にも気付かなかったんだ!
あいつのせいで!俺の足は――!
…。
…。
何処へ行くの?
俺は…自分で帰る…
私、ここから離れるとあなたは死ぬって言ったわよね。
でもあいつは逃げたんだろ!
あら――
あなたの目、彼を恨んでいるのね。
そ、そんなこと!
例え…あいつが向かっていたとしても…もうこんなにも長く…あいつはもう…。
――黙りなさい。
彼が帰るまではあなたは何も知らないわ。
彼が帰ってくると思っていても良い、彼には出来ないと思っても良い。
でも、彼が出来ないと考えて、彼を疑って、彼を疑うのはあなたの問題よ。
彼が失敗した、彼が逃げた、何でそう仮定をするの?
あなたが彼を救ったから?あなたが彼よりも強いから?
…うう。
うああ――
また泣いちゃって。
安心しなさい、すぐに痛くて泣けなくなるわ。
あなたは年下でしょうし、サルカズでもない。本当に耐えられないのであれば教えて頂戴。
楽にしてあげるから。
…。
う..うあ..うう..。
意識がはっきりとしなくなってきているわね
まあいいわ…本当に間に合わないみたい。
いらない…俺はまだ…。
あいつを…待つ…。
…。
あなたが彼を信頼し直したのは、あなたが死ぬのが怖いだけに過ぎないわ。
子供っていうのはいつも空気を読むのが上手。そうやって私から好感を得たいのだろうけど、つまらないわね。
…う…
でも、確かにもう随分と時間が掛かっているわね。
最後の10分よ。
安心しなさい。本当にその時になったら、子供を苦しみの中で死なせるなんてことはしないから。
…
…もう咽び泣く力も残ってないのかしら
あなた何を考えているの?
私を恨んでいる?それとも彼を恨んでいる?
それとも余計なお世話をして、一人を助けて、自分が怪我をしたことに後悔でもしているの?
…違う…。
そう。
あなたにはまだ力が残っているわ、私の目に適ったもの。
…。
聞いてるの、ルブリョフ。
人一人が何かをするって決めた理由って何なのかしら?
出身?身分?それとも過去?ずっと彼の行動を束縛するため?
全部違う。
彼の人生の全てが、彼に与えた影響が常に変化をさせているの。彼自身の信念と考えに。
そして、彼は自分のこの信念をどれほどまで信じているのか。
あなたは彼を救った、でも心の底では彼を信じていないから、彼を軽蔑し、自分を彼の救世主だと思っているの。
彼はとても単純よ。あなたが彼を救ったから、彼はあなたを救いたいの。
この面では彼はあなたよりも間違いなく強いわ。
このナイフを受け取りなさい。それはサルカズのナイフ。主人の代わりにそれをあげるわ。
それを使って、それを使うことを覚えて、あるいは売ってお金にでも換金してお金に好感しても良い。あなたの好きなようにすれば良いわ。
じゃ、そういうことで。
お前は..お前は何を…。
ル、ルブリョフ!大丈夫だよ!
見て!見て!
医療箱全てを盗んできたんだ!鎮痛剤と包帯もあるよ!
ルブリョフ――
うるさい…ぞ、俺はまだ死んでない…
う、うん、傷口を包帯で縛るからね…!
この包帯はどうやって使うんだろう…こ、これは抑制剤?ぼ、僕が開けて…。
…お前の両親って医者じゃなかったか?
えっと…僕には教えてくれなかったんだ、試してみないと…
…お前怪我してるのか?
大丈夫、軽い傷だよ…鉄の棒で叩かれただけだから…。
馬鹿…!
…へへ…。
あの…サルカズは?
え…僕が入ってきた時にあの人とは会わなかったよ…あの人はさっきまでずっと一緒にいたの?
…。
ルブリョフ兄ちゃん?
…
…あの、えっと、お前、お前は何て名前なんだ?
え?あ…アンドレ。
フルネームは?
アンドレ・フヨードル・オストロフスキー…へへ。
何を笑ってるんだ?
やっと聞いてくれたなって。
…ごめん。
いや、そんなつもりじゃなくて…君が謝る必要なんて無いよ…。
よし、少しは良くなった?。
ああ…。
やった!
僕が君を支えるから、さっさと帰ろうよ。
大人たちもこの救急箱を見たらきっと喜んでくれるはずだよ!
私はその二人の子供を見て笑った。
不安の種がなくなれば、彼らはきっとこの街で…この大地で生きていけるだろう。
生きてこそ、生きてこそ苦労はすることが出来る。
蛾が火に付くように、深い穴の虫が入るように。
代価を支払っても、何かを求めて。
そうよね。
…タルラ。
サイドストーリー「黒夜生誕」完