グムは寮で2番目に目が覚めた人物であり、彼女には癖がある。
イースチナに起こされると、彼女はイースチナの手を握り、同じ方法で隣の部屋に向かってズィマーを起こす。
ズィマーが彼女の手を握れないということは、純粋に「冬将軍」が目を覚ました時の気分を見ているだけでしかない。
6:30 A.M
イースチナとグムの宿舎
すぅ…すぅ…
(朝だよ。)
(うーん、もうすぐイースチナお姉ちゃんが来るはず)
すぅ…すぅ…
(イースチナお姉ちゃん、今日は遅いなあ。最近疲れているのかな?)
(でも、これ以上待つと朝のお仕事に遅刻しちゃうからなあ。イースチナお姉ちゃんを待たないで、早く起きないね、グム)
すぅ…すぅ…
(あなたなら出来る、グム、頑張れ!)
すぅ…んん、うーん。
起きたよ!
暗いなあ。
イースチナお姉ちゃん?イースチナお姉ちゃん!
おかしいなあ、出掛けちゃったのかな?
行ってみよーっと。
…
いないなあ。
急いで出掛けちゃったのかな。
何があったんだろう?
あ。
これは…。
「グム、今日は用事があるので、帰るのは夜になります。自分の面倒では自分で見るんだよ」
「イースチナ」
「――とズィマー」
ふーんだ、また私を子供扱いしてー。自分の面倒なんて当たり前に自分で見られるんだから。
ズィマーお姉ちゃんも起きたんだ。
うーん…。
あ、もうこんな時間。早く行かないと。
フライパンを持って、カチカチの盾も持って…。
はい、準備かんりょー!
しゅっぱーつ!!
11:28 A.M.
ロドスアイランド食堂料理エリア
ぐぅ――
ちょっとお腹空いちゃったなあ。
朝急いで来たから、お腹をいっぱいにする時間無かったんだよね。
まずは仕事に専念して、仕事が終わったらご飯にしよっと。
よし――
この料理は出来たから、取りに来ておいて!
来たわね!
次の料理はスープとおかず、うん、頑張って!
…。
よし!
この料理も出来たよ、取りに来て!
次の料理は…あ、揚げ肉餃子がある。
あの人達も料理を取りに来てたし、帰って料理を作ったら、朝の仕事はこれでいいかな。
グム、忙しくて手が回らないんだけど!料理を送ってくれないかな!
良いよ!!
どっちみち。
盾が無くて良かった
何処に送ればいいですか?
ジュナー教官!
…
ジュナー教官?
変だなあ。
今日はみんなどうしてこんなに動きは早いんだろう?振り向くといなくなってる。
まあいいや。食堂の人に直接聞いてみようっと。
ここだよね、今日のレジ担当は――ギターノさん?
ギターノお姉さん、こんにちは。
ごきげんよう、子熊ちゃん。
どうして料理なぞ持っているのじゃ、手を貸したほうが良いかの?
大丈夫だよ、お姉さんがグムが何処に料理を置いておけばいいか教えてくれてるし、このままだと料理が冷めちゃうもん!
…
これはスープとおかずじゃな、私の記憶に間違いが無ければクーリエの故郷の。
そうだよ。
本当に手を貸さなくても良いのかの?子熊ちゃん?
大丈夫、大丈夫。ばいばい、ギターノお姉さん
…。
見るな、待ちきれないんだ。
分かっておる。
いらっしゃいませ、何になさいますか?
山菜豚バラ肉、はい、炒めた野菜に卵を混ぜて、大丈夫です。
では、お待ちを。
火傷に気をつけて。
はい、それでは。
クーリエお兄さん、料理が来たよ
はい、ありがとうございます。
どういたしましてー
よっと!
はっ!よし、完成。
申し訳ありませんが、グム、料理を持って行って頂けますか。
良いよ、クーリエお兄さん
ギュルギュル――
ううん…。
ご苦労さまでした。どうぞ、僕のところにお菓子があるので、持っていってお腹の足しにしてください。
ありがとう、クーリエお兄さん!
どういたしまして、忙しいかったとしてもちゃんと食事はしてくださいね。
分かった!
ギターノお姉さん、またね。仕事に戻らないと。
気を付けるのじゃぞ。
うん!
グギュルル――
(ご飯はもうすぐ、もう少しの我慢)
美味しいものちょうだい!
うわああ、ケーちゃんは入っちゃだめ!!
だめなの?
だめだよ!ドアのシール見なかった?
見たよ。
赤い丸の中に斜めに赤い線があるね。
ケーちゃんも書いてある。
これは「ケーちゃんは入っちゃだめ」っていうことなの、分かった?
分かった。
それでどうして中に入っていくの!
お腹が空いた。
お腹が空いたのなら、あそこに並んで買い物をして食べてもいいよ。
お腹が空いた。
と、とにかく、ケーちゃんは入れないの!
お腹が空いた!
もうもうもうグムが何とかしないと!!
うーん…。
もし…。
グムがこのクッキーをあなたにあげたら、もう入らないってグムと約束出来る?
(くんくん)
うん!
良いよ!
はい…。
ありがとう!
どういたしまして…。
はあ…やっと行った…。
グギュルル――――
まだ、仕事もあるし、料理は1つしか残ってない…。
もうちょっと、もうちょっとの辛抱。
グギュルル――――
スプーンが重い…。
野菜をすくうことが出来ないよ…。
…。
だめだ、グムも食べないと。
グムには腹が減った時の癖がある。
コントロール出来ず食べ物を探して食べる。
何でも食べる。
…。
これはなんだろう?
柔らかくて、ふふ、きっとおいしいだろうなあ。
あ、ああ。
あう。
うわあああ!!!
え?
グム、私の腰を噛んで何をしているの?
あ、えっと、うう。
ごめんなさい、教官!!
11:55 A.M.
ロドス食堂 食事エリア
(パンを飲み込む)
(スープを一口すする)
い、急がないで良いからね、グム。ゆっくり食べて。午後は訓練をしないといけないから。あ。
(食べ残しなし)
(おかわり)
グム?
(大量の食材を全て平らげる)
今は邪魔をしづらそうね。
ちょっと待ってて。
ああ、やっと生き返ったよ!
教官はお腹は空かないの?
お腹は空いているけど、私が持ってきたばかりの食べ物はあなたのお腹にもう着いてしまったから。
ごめんなさい、教官!
良いのよ、別にまた取りにいけば良いだけだから。
でも、どうしてこんなにもお腹が空いているのに朝食をちゃんと食べなかったの?
今日は目を覚ますのが遅くて、ちゃんと食べることが出来なかったんだ。
あなたって食べきることが出来ないタイプなのかもしれないわね。
ん?
ほら、あそこ。
ケーちゃんがまた厨房に向かって突進を始めてる!?私が――
大丈夫よ、台所でじっと見ている人がいるし、入り口には美味しいものを置いて緩衝材にしているから。滑り込まれてもあまり影響は無いわ。
厨房の入り口にあるお菓子かごはみんなが持ち場に行く前に小腹を満たすためのものかと思ってた。
それを含めて効果があれば良いんだけどね。
見て、出てきたんじゃないかしら?
あの、ドアが閉じきってしまうと彼女はきっと悲しむだろうし、たまにはドアの先に入らせて勝利を味あわせておけば、ケオべはそこまで面倒な相手では無いわ。
そうだったんだ。
それで入り口で見張っている人って誰なの?
今日だとギターノでしょう。
なるほど、ギターノお姉さんであれば何でも予想出来るもんね。
そうだ、午後の訓練にも関係することで聞きたいことがあるんだけど?
ん?教官なら聞いてもいいよ?
腕を連続して素早く振ることが出来ないみたいだけど何かあるのかしら?
え?
実戦の時も、厨房での仕分けの時も、2回振ると止まるのよ。
多分…癖じゃないかなあ。
癖――ね。それは良い癖では無いわ。矯正をしてみてもいいかしら。
戦場での停滞は致命的よ。
この問題を乗り越えれば、今度のロドスアイランドの大会の優勝タイトルはあなたのものかもしれないわ。
…
やってみない?
…。
やって..みるよ..。
それじゃあ、午後の重装オペレーター訓練が終わったらやってみましょう。
矯正出来るかどうか、効果があるかどうかはその時に見てみるわ。
とりあえず今は。
お腹を満たしましょう。
うん。
3:00 P.M.
ロドス訓練中枢 重装訓練室
これが今日の最後の訓練よ、みんな頑張ってね。
プレートサポート4チーム、セット――
始め!
残り10秒!
3.2.1!
終わり!
今日の訓練ではこれで全部終わり。みんな休んでもいいよ。
よーし!!!
グム。
ここだよ、教官!
時間があるから、昼に言ったことを試してみましょう。
はい、教官!
訓練の盾を持ってくるわ、あなたはその手にある武器を使えばいいから。
リラックスしておいて、回復に役立つわ。
はい!
グム、聞いてるかしら。次は全力で私を攻撃してみなさい。
訓練が終わったばかりで疲れていることは分かっているけど、こういう時こそあなたの役に立つのよ。
分かった?
分かりました。
はい、じゃあ、残りの力を全て使い切って。
(2回殴る音)
たあ!
まだまだ。
(2回殴る音)
おりゃ!
まだまだ。
(2回殴る音)
てや!
まだまだ、止めちゃだめよ!
(2回殴る音)
はあ!!
まだまだよ!!
(2回殴る音)
(条件反射と筋肉制御で見ればさっきの振り下されるはずなのに)
(無意識に自分で手を引いている?)
(どうして?)
(2回殴る音)
グム、振り下ろして!
教官、出来ないよ!
振り下ろして!
(2回殴る音)
本当に出来ないの!
これは命令よ!
グム!
あなたに命じるわ――
グムは料理が上手で、彼女には癖がある。
物を切る時は2回だけ切る。3回目を振り下ろしたら――
まな板とキッチンのテーブルまで一緒に切ってしまう。
(2回殴る音と大きな衝撃音)
うわ!
う、は、は…
教官!
あ、大丈夫よ。こんなにも大きな衝撃を受けたのは久しぶりだわ。
これもあなたの癖なのかしら?
ごめんなさい、教官…。
心配しないで、何も無いわ。
ただ、あなたの問題は複雑なようね。
3回目を振ると無意識に全力を尽くしてしまうようね。
うん…。
これじゃあ4回目も振り出せないはずだわ。
さっきの厨房であれば、まな板は真っ二つになっていたかもしれないわね。
ちょっとした問題を克服するだけだと思っていたけれど、これは…少し面倒な問題ね。
私が焦ってしまっていたみたいだわ、ごめんなさい、グム。
いいえ、そんなことは無いよ。
私が教官に迷惑を掛けちゃったんだ…。
今日は解散しましょう。帰ってゆっくりと休みなさい。後の事はもう一度考えてみるわ。
また試したいというのであれば、いつでも会いに来てね。
じゃあ、お先に失礼するね。
さようなら、教官。
ええ、ばいばい。
(グムが走り去っていく音)
…
(しびれたわ)
(ああああまだしびれてる)
(ウルサスボーイスカウトってどうしてあんなにも力が強いのかしら)
(医療部に言ってガヴィルと話さないといけないかもしれないわね)
(ついでに食べ物も持ってこようっと)
4:30 P.M.
ロドス宿舎、ズィマー、イースチナとグムの宿舎。
グムは一人で寮に帰ってきた。
グムは電気を付けなかった。
グムは壁の隅に”盾”を置いた。
グムは潜り込んだ。
グムは何も間違ってはいない。
グムはただ悲しいだけだった。
グムはもっと上手になりたいと思った。みんなはずっとグムを助けてくれているのに。
グムは失敗をした。
ロドスに来てからグムは多くの「癖」を持っている。
グムはその中のいくつかが他の人に迷惑を掛けるかもしれないということを分かっている。
でもグムは変わらない。
グムでは「グム」を変えられない。
グムには癖がある。
何処に行っても彼女は小さな金庫の扉とフライパンを持っていく。
グムには癖がある。
歯磨き粉は最後まで使う。口で吸い出して歯に塗る。
グムには癖がある。
高い所に立つ時は、端から絶対に距離を置く。そこに手すりがあったとしても。
…
グムには癖がある。
お腹が空いている時は、一番近くにあるものを噛むということをコントロールすることが出来ない。
…?
グムには癖がある。
暗いところに長くいてしまうと…
あ?もう帰ってきてるのか、グム。何で電気を付けねえんだ?
…だが。
グムには癖がある。
ズィマーとイースチナを見た時には、全ての癖は癖で無くなる。
!?
また何かあったのですか、一人で壁の隅でうずくまって泣いてしまって。
(泣きながら)泣いてないもん!
見て下さい。
ああ、困ったな。
グム、片付けてくれ。もうすぐ、リェータが来る。
分かったよズィマーお姉ちゃん!
はい。
ちっ。
グム、ちょっとこっちに来い。
来たよ、ズィマーお姉ちゃん!
良し。
うう。
ズィマーお姉ちゃん、自分でふけるよ…。
動くな。
うん…。
よし、後でハンカチを洗ってイースチナに返すんだ。分かったな。
うん。
それで、何だ。
えっと…。
ズィマー。
あ?
(しー――)
もう、聞く必要はねえだろ。
仕事をするぞ、グム。買い物をしてきた。残りはお前たちに任せる。
え、今日って何か特別な日だっけ?
今日はロドスに来て1周年の記念日ですよ。ズィマーもせっかく珍しく早く起きたんですから。
あぁー疲れた。ちょっと横になる。人が来たら呼んでくれ。
まだまだやることはたくさんあるのですが。
いや、もう疲れた。
グム、それを使ってみましょう。
本当にこれを使うの?
まずは飲み物と食べ物を分けて、ズィマーを引きずる任務をあなたにお任せします。
良いよ。
ふふん。
ズィマーお姉ちゃん~。
何してやがる。
グム、ズィマーお姉ちゃんのことだーいすき~
ぞっとすること言うんじゃねえ、休ませろ。
ズィマーお姉ちゃん、へへ~
私を押さえつけるな。
かきかき。
分かった、起きる、起きるから!!
イースチナお姉ちゃん、出来たよ!
はい、彼女を働かせて下さい。私のところにはまだたくさんあるので。
ちっ、どうして袋を持って仕事なんかするんだ?
リーダーになるにはもっと仕事をしないといけませんよ。
そうだよ、ふふ。
ちっ――めんどくせえ。
ドアは開いている、入ってこい。
来たか、持ってこい。荷物が少し多いな。
全部処理してから祝いをするとしよう。
良く覚えていたな。
ええっと、これは?
私が一番好きな食べ物じゃないか?
でも、これが安くないことも覚えている。
そんなこと気にするな。今日は私のおごりだ。
へへ、サンキュー。
ボサッとしてねえで、さっさと手伝え。
はいはいはい、来たぞ。
これをここに置くんだな。
それは私が持っていったばかりのものだ。
はははははは。
グムには癖がある。
楽しいと笑う。
心の底から笑う。
グムはみんなにもこうしてほしいから。
終わりましたね。
ズィマー、何か言って下さい
食べるとしよう。
ウラ!
ウラ。
ウラ!!
ウラ!
(みんな久しぶりに集まったなあ)
(…)
(次はロサお姉ちゃんにも参加してほしいなあ)
(ドアをノックする音)
入れ、ドアは閉まってねえ。
(顔を見渡す)
熊ちゃんはいる?
?
熊ちゃんいた!
え?
こんにちは。
昼にあなたのクッキーを食べさせてもらったからお返しに来たんだ。
ヴァルカンお姉ちゃんが教えてくれたの、さっき作ったからお届け。
ちょっと…大きいね。
食べてね、冷めると美味しくないから。
ばいばい。
(ドアを締める音)
え、ちょっと待って!
行っちゃった…。
これは(ウルサスの驚いた言葉)クッキーか?
彼女がそう言ったからな。
何をしている。食べよう。
(今夜はお腹いっぱいになれるね)
(良かった)
9:00 P.M.
ロドス宿舎、ズィマー、イースチナとグムの宿舎。
ふう、楽しいなあ。でももう寝ないと。
私の大好きな常夜灯を…
え?どうして付かないんだろう?
電灯が壊れちゃってるのかな?
そういえば朝から明かりが無かったな。
その時から壊れていたのかな。
どうしよう…。
グムには癖がある。
夜寝る時は必ず常夜灯を付けることだ。
グム。
どうしたの、グムお姉ちゃん。
今日は一緒に寝ても良いですか。
うん、良いよ!
ズィマー。
今日はズィマーお姉ちゃんもここで寝るの?
あ、そんなところだ。
なあ、イースチナ。
グムのベッドは本当に3人で寝ることが出来るのか…
押しあえば良いのではないでしょうか。
グムが熊のビスケットに押しつぶされそうなんだが。
グムは大丈夫だよ、ズィマーお姉ちゃん。
それならいいが。息苦しくなったり、暑かったりしたら、言ってくれ。帰って寝る。
うん。
電気を消しますよ。おやすみなさい。
おやすみ。
おやすみなさい。
私達が最後に一緒に寝たのはいつだ?
覚えていないですし、覚えていたくもありません。
私も思い出せないなあ。
余計なことを言ったな、寝るぞ。
Zzz…
こいつ、こんなに早くも寝られるのか?
…
グム?
Zzzzzzz….。
目を閉じても眠れないのは私だけか?
はあ..
考えるのをやめよう、明日もまだまだ忙しいだろうからな。
…
(にこにこ)
(ズィマーお姉ちゃん可愛いなあ)
(おやすみなさい~)