
…

電源を、入れてっと、大丈夫ですね。

録画出来ているでしょうか?あ――あ――

はい、大丈夫みたいですね。

…

…

何を言えば良いのでしょうか。

んー。

今使っているこの機械はクロージャさんが借してくれたものです。用途は…ええと、申請書に書いてある用途は「リアルな境地暴露式トラウマ記録自己診断」です。

…長いですね。

とにかく、機械による操作は便利です。電気の量が十分であることを確認してスイッチを入れれば…。こうやって、自動的に録画が開始されるみたいですね。うん。

ふう…。

(難しいですね。自分で言うということは)

(自分で画面に向かって話すということくらい、簡単だと思っていたのですが…)

自身の症状を緩和し、自制したいと提案をした時に医療部のオペレーターからこんな提案があったんです。

「自分で話してみると良いかもしれない」と。

あ、今は録画を付けてはいますが、これは他の人に見せるものではありません。むしろ誰にも見せたくはありませんね!

リラックス、イースチナ、リラックス。そうそう、ただ気軽に何かを話すだけです。緊張する必要はありません。自分に聞かせるだけ、何を言っても良いんです。

…今のは他人に聞かせるということは出来ませんから。もう一度自分に言って聞かせても良いんです。

これは実行することが出来る考えだとは思います。

以前のことについてですが…。

今のみんなは大丈夫そうに見えても、解決すべきことがたくさんあるということは分かっています。遅かれ早かれのことですから。

グムもロサも、以前のことを忘れられていなかったということも分かっています。学校で起こった事や、完全に学校から離れて起こったことを、誰も忘れられないことは分かっています。

ズィマーは…ズィマーは最近、悪夢ばかり見ているようです。リェータは安心しているように見えますが、本当に…入れても大丈夫なのでしょうか。

私は?私はどうなのでしょうか?私は向き合えるとは思いますが。私は本当に…大丈夫なのでしょうか?

みんな、口をつぐんではいますが、いずれにせよ最後は向き合うことです。

…。

…難しいですね。

ふう…よし、少しずつ独り言にも慣れてきたような気がします。

本格的に始めましょう。

まずは自己紹介から始めるべきでしょうか?

(深呼吸)

私は「イースチナ」といいます。もちろん、これはただのコードネーム。本名はアンナ・モロゾフです。

はい、なんだか久しぶりにこの名前を言ったような気がします。自分の名前なのに、少し馴染みがありませんね。おかしな話です。

これは、ヴィカ。私の親友です。

彼女は私が学生自治団に入る前は一番の友人でした。

今、私はロドスという組織の本拠地に住んでおり、「ウルサス学生自治団」に所属をしています。

ええっと、学生自治団は私の提案でしたが、本当に作ったのはズィマーです。それに独立したグループと言ってもメンバーは5人しかいません。

ズィマー、ナタリア、リェータ、グム、そして私。

以前はもっと多くのメンバーがいましたが、現在は私達だけが残っています。

あ、もちろんヴィカも私達のメンバーの一人です。

今の私達はロドスのオペレーターとして働いています。

悪くは無いと思います。仕事に成果があり、これはとても公平です。

ズィマーはしばらくはここを離れるつもりはないでしょう。彼女は言いはしませんが、彼女がここは嫌ではないということは知っています。時々私もそう思いますし。このままずっと歩んでいくのも良いかもしれません。

…ふう。

実は、今はみんなで集まってはいますが私達5人は同じ学校の学生ではありません。

私とグム、そしてナタリアは同じ高校の学生であり、ズィマーとリェータは別の学校に属しています。

あ、同じ学校ではありませんが、ズィマーは昔からずっと有名でしたし、市内の隣にあるいくつかの学校で彼女を知らない学生はいませんでした。

…彼女は生まれつきリーダーにふさわしいタイプなんだとは思います。実際、彼女は私達の先頭に立つべきです。

私達が無防備の時にレユニオンは攻撃をし、私達の都市であるチェルノボーグを占領しました。

いくつかの…ことがあって、レユニオンは城区を占領した後、私の学校の一部の学生はズィマー達がいる学校に強制連行されました。

他の学校の学生も集めていたようですが、彼らの意図はよくわかりません。それを始めたとされるレユニオンのリーダーは白髪の少年です。

若く見えました。彼は年上では無いかもしれない?分かりませんが。

彼は何かの理由で現場にいた他のリーダーを説得し、多くの学生を連れていきました。私達はズィマー達の学内に閉じ込められました。

今思い返すと本当に馬鹿げていますね。

その後、十数日間にわたる封鎖と……

アンナ!

はあ、良かった。来たのがあなたで。

私を引き上げてよ、アンナ。

…アンナ?

…と争いでした。

学園内に閉じ込められての争い。そして学園を完全に離れた後も、チェルノボーグ市街全体での争い。

私達はみんな、向き合わなければならないものがありました。

私達は――
(ドアをノックする音)

(この時間はグムでは無いはずです。ならば誰でしょうか…)

少々お待ちを…。

(このビデオは止める前の保存操作が面倒くさいんですよね、そのまま置いておいても大丈夫でしょうか)

どなたでしょうか?

私なのだ!

どなたです?

はえ?予備探偵のイースチナ!あなたはぼけているのだ?私の声が聞こえないはずが無いのだ!

あー、うるさいですね。

それに以前にもお話しましたが、私は予備探偵ではありませんので。

ふふ、あなた達、仲がいいのね。

ごきげんよう、アンナ。私も一緒にお邪魔させてもらってもいいかしら。

…え?

ナタリア?

はい、紅茶。

あ、ありがとうなのだ!

うーん、いい香り!うんうん、良いお茶なのだ!

そういえば、さっきは営業していなかったみたいだけど、イースチナは忙しいのだ?お邪魔してしまったのだ?

忙しいのならまた後ででも良いのだ!本を返しに来ただけだから…。

いいえ、大丈夫です。

特に重要ということでは無いので気にしないで下さい。

そうなのだ?

大丈夫よ。アンナ本人がそう言っているのだから、気にする必要はないわ。

アンナはそんなことで嘘を付くはずが無いもの。そうでしょう。

…

へへへ、それなら良いのだ!

あ、でも鍵を掛ける習慣があるとは思いもしなかったのだ。

良いことなのだ、もう予備探偵としての慎重さを備えているみたいで!

待って、私は予備探偵じゃないです。嘘を付かないで下さい。

そして、ドアは先程用事があったので閉めていただけです。

でもアンナは確かにいつもドアに鍵を掛けているでしょう、なにしろあなたは私達の中で一番慎重な人だし。

ナタリア、私をからかわないで下さい。

ふふ、ごめんなさい。、アンナの表情が可愛いので、ついからかってしまったわ。

…はあ。

ええっと、何といっても、やっぱり午後のこのひとときは紅茶に限るのだ。

紅茶が本当に好きなんですね..今のあなたはまるで焼けて溶けたパンケーキのようです。

え?え?それはどういう意味なのだ?

ん?馬鹿という意味ですが?

え?なんだとー、ひどいのだ!!

ふん、まあいいのだ。心の広い探偵に感謝をするのだ。ほら、クッキーを持ってきたのだー。

え、クッキー?ちょっと意外ですね…。

意外とは?

ごめんなさい、お菓子を持ってくるとは思いもしませんでした。紅茶だけをせびりに来たのかと。誤解をしていました。

私はそんな人では無いのだ!

よく見るのだ。これは特別に準備したお礼、ハイビスカス特製ベジタブルクッキーなのだー!

はい、帰って下さい。いますぐに帰って下さい。

今すぐに外に出て右に曲がって下さい。見送りは無しです。

うーん、そんなに拒否しなくても良いのだ。今回のベジタブルクッキーはさっぱりしていてとっても良いのだ。

これを食べてみるのだ。

遠慮します…待って。やめて下さい、自分で食べますから、やめて――

ああ、あああ…!

ふふ、あははは、アンナとメイさんは仲が良いのね。ちょっとうらやましいわ。

いい加減なこと言わないで下さい、誰が彼女と仲が良いのですか!

へへ、そうなのだ?

え?

ん?

私達の仲が悪いと言えないのが、何とも…。

私の記憶が間違っていたのだ。彼女とは全然仲良くないのだ!

?

?

ははははははははは。

ナ、ナタリア!

はははは、ふふ、ははははは、ご、ごめんなさい。でもあなた達には確かに暗黙の了解があるみたいね。

えっと。

…はあ。

大げさに笑いすぎですが、もういいでしょう。それで…メイは本を返しにきました、ナタリアは?

ん?私は最近何か考えていることがあるから、イースチナと相談がしたいなって…。

うん?何か重要なことですか?珍しいですね、私に会いに来たいというほどとは…。

あら、私はずっとイースチナに近づきたいと思っていたわよ。

大丈夫、あまり重要なことではないから後でも問題は無いわ。今はアフタヌーンティーを楽しみましょう。

あ、なるほど。

あ、ちょっと、メイ!紅茶を持って暴れまわらない下さい!こぼれます!

子供じゃないから、こぼれないのだ!

はあ…。

すいません、人が来るとは思っていなかったので、部屋がちょっと散らかってしまっていて。

宿舎にはみんなをまともに招待出来る場所が無いんですよね。ナタリアも立っていないで、メイのように好きなところを探して座って下さい。

いただくわね。

うん…確かにロドスが提供している宿舎には必要な家具は全部揃ってるし、綺麗で清潔ではあるけどれど。

でも、昔の友人を招いてパーティをするような感じでは無いわね。

ちょっとまって、ナタリア、あなたが言っているのはパーティでは無く、宴会でしょう。

え、宴会?

そんなに違うかしら?

全然違います!

えっと、そうなの?

絶対そうです。

うわあ、宴会となると、すごい感じがするのだ…。

もう、そんなに大げさでは無いわ。

もう過去のことよ。大きな家だろうと、そういう生活だろうと、今の私にはもう関係が無いことよ。

ソニアもそうだったわ。いつもこれを持ち出して私をからかっていた。彼女の心の中では分かっているのに、口は悪かったわ。

アンナがいないとソニアはきっと多くの人と衝突していたかもしれないわね。

…。

うん、今は良いところに住んでいると思うのだ。私が前に調査に入るように命じられた時よりも100倍良いのだ!。

それに、イースチナの部屋ももう綺麗になったと思うのだ。本が多いけど、整っているし。

それは普段からまだ片付けはしているからです。グムは衛生面では厳しいですし。

あ、そういえばグムはいつも整理が好きだったわね。

あの時のような環境の中でも集めたものは全部片付けていたわ。

今も変わらないです。

当時のような環境…?

…。

でも、そういったルームメイトがいるというのは幸せというべきか、苦労するというべきなのかどう言えばいいのかわからないのだ。

えっと、ここに並んでいる人形は何なのだ?

!

だめ、これには触らないで!

な、何なのだ。びっくりしたのだ。

そんなに慌てる必要があるのだ?

…

す、すみません…。

すみません、これは私にとってとても大切なもので。

これは…

アンナ、これはあの人の…。

その人形持っていたのね、あなた――

言わないで下さい、ナタリア。
もう言わないで。

大丈夫です。はい、心配しないで下さい。大丈夫ですから。

…アンナ…。
もう言わないで。

その話は私も聞いたことがあるわ。

あれは仕方が無いことなの。誰も予想なんて出来なかった。
もう言わないで!

…残念なことだったけれど、あなたのせいでは無いことはみんな分かっているわ。
もう言うな!

あなたは少し遅れただけ、あなたは全力を尽くしたのよ。

…

分かっています、ありがとうございます。心配しないで下さい、ナタリア。

大丈夫です。
大丈夫。
ずっと、私はいつもみんなにこう言っている。
ズィマー、グム、リェータ、ナタリア…みんなは私が大丈夫だと信じている。
自分でさえ、もう少しで信じそうになってしまった。
私のせいではない。
私のせいでは無いのか?
遅れただけ。
いや、遅れていなかった。
最善は尽くした。
…最善は尽くした。
――私はもう選択をしたんだ。

あ、この小説!私が借りたこの探偵シリーズの完結編なのだ?

うん?あ、そうですよ、間違いありません。あなたはお目が高いようですね。

これはこのシリーズの小説の中で一番貴重な一冊であり、世界に類を見ない大探偵の最後のシーン…ふふ、ドクターに頼んで長い間調査をしてもらい、やっと見つけてもらったものなんです。

あ…そういえば、実家に帰る時に家の本棚で著者のサイン入りの初版を見たことがあるのだ。

懐かしいのだ。最初に読んだ時は泣いてしまったのだ。

え?

サイン、しかも初版…?

あ、うーん、ちょっとまずい気が。

ソニアが以前話していたのを覚えているわ。アンナはこの作者のサイン入りの作品を手に入れるためにかなり苦労をしたんだけど、結果は…。

仕方が無いわ、そういうものだから

(しまったのだ、本当に貴重なものだったのだ??故郷にはこういうものが多すぎて、見落としてしまっていたのだ)

そ、そうだ、イースチナ!え、ええっと、この本を借してほしいのだ!

…

良いですけど、前に見たのではないのですか?

しかもサイン入りの初版(小声)。

それは…ええと、見たことはあるけど、こんなにも長く経ってしまったから、また見たいのだ!

イ、イースチナのところでこの本を見つけることが出来たなんて本当に幸運なのだ!。

うう。

あなたがそういうのであれば…今回は借してあげましょう。

やったのだ!イースチナ、お前は本当に良い人なのだ!

(ふう…これで一件落着なのだ)

ふんふん。

そこまで明らかだと人の気持ちに対する配慮が足りていませんけどね(小声)

それでも…ありがとうございます(小声)

えっと、何か言ったのだ?

あ、このベジタブルクッキーは本当に美味しいのだ。イースチナは食べないのだ?

いえ、何も言っていませんので、気にしないで下さい。

本当に変な味では無いのですか?それでは私も食べてみます。

それにしてもメイとナタリアが一緒にいるとは珍しいですね。どうして知っているのですか?

あ、あまり詳しくは言えないんだけど、この前ペンギン急便のことを秘密裏に調べていたら、ナタリアに助けられたことがあったのだ。

いえいえ、お役に立てられたのなら何よりよ。

ペンギン急便を調べる?あ、あなたがよく言っていることですね。意外です、まだ諦めていないんですね。

諦めないのだ!王室探偵の名誉にかけて――

私個人としては王室探偵の名誉が擦り切れてしまっているので、もう無いようなものですけどね。

お前ってやつは…!ふん、私はお前とは言い争わないのだ!

とにかく、今日は途中でたまたま出会っただけなのだ。

それよりも、この前借してくれた小説もとても良かったのだ。さっき読み終えたばかりだから、早く人と討論をしたいのだ!

うーん、だめというものではありませんが…。

私も久しぶりに探偵小説について話をしましたが、この前借りた小説の中に私の好きなトリックがあったのですがどうですか?素晴らしいと思うのですが。

本当に素晴らしかったのだ。作者は一体どうやってこんなトリックを考えだしたのだ?結末を見て真相が暴かれると鳥肌ものなのだ!

ええ、そうなんです。推理要素と文学創作を結びつけることで現実的な心理から読者に影響を与えるんです。このシリーズの完結編は私の中でも一番好きな本です。

あーー分かったのだ、完全に理解したのだ!

一人称で創作をしているのは、犯人は小説の主――む、むぐぐ?!
(イースチナがメイの口を抑える)

ばかですか!何処に気軽に真犯人を暴露する人がいるというんですか?ナタリアはまだこの本を読んだことが無いんですよ!

ぐむむ!!

ぐ――ぷはあ!し、死ぬかと思ったのだ…。

うー、痛い、舌を噛んでしまったのだ。確かに私が悪かったのだ。でもイースチナのやりかたはキツすぎると思うのだああああ!

面白そうね。アンナが探偵小説が好きだなんて。話をする時にこんなにも興奮するなんて珍しいわ。

え、そうですか?

そうよ。ええっと、そんなにも面白いのなら、今度私にも読ませて頂戴。

ナタリアも興味があるのですか?意外ですね、前にオススメした時は「今度暇があるときにでも」としか言っていなかったのに。

あら、これは…。

みんなが楽しそうに話しているのを見て、私も話題に入りたくなったわ。

はい、良いですね。何だろうと小説同好会の人が増えるのは私は大歓迎です。

ここにいると、作品について一緒に話す人が少ないのだ。ドクターも読めるんだけど、あの人は忙しすぎて中々捕まえることが出来ないのだ。

ドクター…あ、あの指揮官閣下のこと?

ええっと…ナタリアさんも知っているのだ?

ええ、あの人は艦船でも特殊な人ね。あの指揮官に会いに行って、戦地指揮を拝見したこともあるわ。

うーん、残念なのだ。今日も彼らは何か会議をしているようなのだ。お菓子をドクターに分けたいくらいなのだ。

心配しないでください。ハイビスさんならドクターの分も残していることでしょう。

そうね、ドクターの状態はケルシー先生がチェックをしているけど、それでもみんなが関心を持っているということは分かるわ。

特に医療チームのオペレーター達が最近テストをした時にドクターの栄養バランスをどう管理するか相談していたわね。えっと…まずはドクターの間食を没収だったかしら?

はははは、あれは没収されてもおかしくないと思うのだ。

…グムも私に文句を言ってきたときがありました。本当にあの人はいつも何を食べているんですか。

そういえば、ナタリアが言っているテストって?

あ、この件については秘密にしておいてもらえるかしら。まだ完全には決めていないの。今日来たのはこのことに関係があることなのよ。

でも…。

今日はやめておきましょう。うん、今日この場所というのはあまり良くないわ。

もしかしたらもうすぐアンナには分かるかもしれないわね。

…ん?

まあ、あなたがそういうのであれば、私はもう聞きはしません。

こほん、話を本題に戻しますが、ナタリは古典的な作品から読み始めればどうでしょうか?

え、またこの話に戻るの?

へへへ、好きなものを他の人に紹介する良い機会なのだ。

この話題は安易には持ち越させません。

わあ、情熱を感じるわね。

もちろんです。

探偵小説を甘く見ないで下さい。種類を問わず、優れた作品にはいつも魂が宿っていますから。

ふふ、アンナらしい発言だわ。でも、あなたの言う通りよ、この点については賛成。

イースチナの話は確かに間違ってはいないのだ。でも私に言わせれば、やっぱり探偵が犯人の正体を暴くときが一番好きなのだ。

定番といえば、やっぱり「あれ」なのだ?

「あれ」?とは…。

「あれ」なのだ!「あれ」なのだ!

こほん。

「真実はいつもひとつ、犯人は――お前だ!」

ああ、それは知っているわ。名探偵が必ず言うセリフの一つよね。

うん、何回聞いても胸が熱くなるセリフなのだ。

確かにそうですね。

ですが、犯人を見つけた後こそが、本当に面白くて考えるべき部分だと思います。

え、何なのだ?

ではメイさん。犯人を探して、真実にたどり着いたのであれば、探偵はどうすれば良いのですか?

人の前で真実を語り、相手に罪を認めさせる?

例え真実が人に知られようが、法律が罪人をどうすることも出来ないという時はあります。

罪人を見ているだけ?それとも自分が裁判者となり行動をする?

現実的にも解決しにくい問題ね。

私なら…。

…んん。

何なのだ、それを聞きたいのだ?

一体何を馬鹿なことを言っているのだ?イースチナ、今日は変なのだ、どこか具合でも悪いのだ?

…変なのだ。熱なんて無いのだ。

…何ですか?

私達は真実だけを探している探偵なのだ。その後のことはもちろん警察にお任せなのだ。探偵は万能じゃない、そこは誤解してはいけないのだ。

探偵、警察官、裁判官、それぞれの役割が違うというのは当たり前のことだと思うのだ?

ええ、探偵は他人を断罪する権利は無いということは当然知っています。

ただ、あなたの口から常識が出てくるなんて意外でしたね。

ちょっと待つのだ、へいへい、意外とはどういうことなのだ!

いえ、独り言です。気にしないで下さい。

ふふん、今の環境であれば、一日中殺しをしている人も少なくは無いのだ。謀殺や殺人を気にしていない人も多いのかもしれないのだ。私が言うのも変だけど。

でも、それでも探偵に出来ることはせいぜい真実を見つけて法律を守ることぐらいなのだ。

私達には裁決をする権利なんてない、更に法律の上を凌駕するなんてことは出来ないし、私刑なんてもってのほかなのだ。

…

悪いことは悪いこと。他人を傷付けるということはどんな理由に包まれていようと、侵犯と傷害でしか無い、行動の本質に変わりは無いのだ。

確かにそうですね…。

知られていようが、裁かれようが、やってきたことは少なくとも自分が忘れることは無いのだ。

探偵がやるべきことはこの埋められた真相を全部掘り起こすこと。うんうん、口で言っているだけでもカッコいいと思うのだ!

やったこと…。

…。

そうですね。

どんな理由があったとしても、世間の目に晒されていようが無かろうが、すでにあったことに変わりはありません。

いつかは…。

あら、話がなんだか重くなっているようだけど。

…すみません、そのような議論をするべきではありませんでした。

そんなことは無いわ。聞いているだけでも意味のある議論だとは思う。でも、せっかくのアフタヌーンティーの時間なの。これからは気楽な話をしましょう。

それが良いですね。

もう、お茶は冷めてしまったのだ。

ん?えっと、あれあ…。

どうしたのですか、メイ?さっきから、そこに寄りかかって何を見ているのです?

えっと、あの、窓の外のは何なのだ?

ん?窓の外?何かあるのかしら?見てみましょう。

あれは…あそこで何かが飛んでいるわね、あ、こっちに来たわ。

ドローンのようね。

ドローン?

…本当にドローンですね。何故こんなところにいるのでしょうか。待って、軒先に掛かっているようです。

おわ、艦船では危なくないと思うのだ?危険が無い以上はそこまで多く考える必要は無いと思うのだ。

よいしょ

馬鹿!どうして飛び上がるのですか…危ない!

へへ、手に入れた――

あ、メイさん、足元に気をつけて!

え?

うわあ――

――!

アンナ!

はあ、良かった。来たのがあなたで。
その日、彼女はそのまま滑り落ちた。
身体はかすかに舞い上がり、風が長い髪を吹いた。
周囲とは似つかわしくないほどの綺麗さで、その間に起こった全てのことが、ただの夢のような気さえした。

私を連れて行ってよ、アンナ。
声がでない。言葉も出ない。身動きも取れない。

…アンナ?
私がそっと触れると、その夢はそのまま滑り落ちた。
音も無く、私の指先には僅かな跡しか残っていなかった。

…待って、アンナ、何をするの!?
私はそのまま彼女が落ちるのを見ていた。

…

メイさん!気をつけて下さい!大丈夫ですか、怪我はありませんか?

いたたた、大丈夫大丈夫、心配ご無用なのだ。

ん、このドローンに紙がくっついているのだ。

あ、ナタリアさんにあげるのだ。

え?私にくれるのですか?

どれ…見せて下さい。

…

!

メイ

ん?

わあ、どうしたのだ、顔色が良くないのだ。

…大丈夫です。

本当に?気分が悪いのだ?強がらないほうが良いのだ。

ふう…。

馬鹿。

え??

窓に飛び乗るなんてどうかしていますし、屋根に引っかかっている目的が何なのか分からないドローンを取りに行く人なんていないでしょう。

普通に考えて常識ある人であれば道具を使ったり、それか私がアーツを使えばいいだけじゃないのですか!

私は、そこまで多くのことを考えていなかったのだ!

次はもっと考えてから行動してください。
怖がらせないで。馬鹿。

手を出して下さい。

え?大丈夫…本当に大丈夫なのだ!

先程左手を窓の台ですりむいたでしょう。

隠し事をしようなんて考えないで下さい。私の前で嘘を付くということは役には立ちません。あなたは分かりやすい人なんですから。

うう。

目がどうしてそんなにも鋭いの。

私は「予備探偵」――それには観察力が必要、あなたが言ったのではないのですか。

あううう。

うん、傷はひどくは無いみたいですね。綺麗に拭いて薬を付けて…完了です。

医療オペレーターを呼んで丁寧に処理はしてください。どんな小さな傷でも油断は出来ませんから。

かすり傷だから、そこまで緊張する必要は無いのだ!

でも、ありがとうなのだ。へへ。

(ため息)

あ、このメモにはサイレンスさんからの伝言が書いてあるわ。

サイレンス先生?

ええ、さっき話したテストのことよ。

でも、サイレンス先生もすごいわよね。ここにいることどうして分かったのかしら。

ドローンを使えば出来る方法があるのだと思うのだ?ケルシー先生の下の医療部の人はみんなすごい腕前を持っているのだ…。

それもそうね。

ごめんなさい、アンナ。医療部に行かないといけないみたい。

うん、大丈夫。そっちのことのほうが重要ですから。

あ、私もこれで失礼するのだ。

本も返したし、これから読むものも借りたし、うんうん、見事成功なのだ!

何が見事に成功したのですか?

今度機会があったら、またみんなで話をしましょう。

上手くいけば…自治団のみんなにすぐにでも良い報せが出来るかもしれない。

うん、楽しみにしています。

アンナ、あなた…

…

いえ、なんでも無いわ。

また今度。

また今度なのだ~。
(ドアを閉める音)

…

…

はあ…。

良い報せ…ですか。

ヴィカ、あなたなら、何を良い報せと言いますか?

ナタリア、ズィマー、ソニア…彼女たちが仲良くしてくれれば。

え、きっと出来る、ですか?うん、うん、私もそう思います。

…。

私は忘れたことはありません。あなたのことは。

もし忘れたら、私の責めますか?責めるでしょうね。

しないでしょうって?私はこれで私を騙しているということは分かっていますから。私は分かっています。ヴィカ。あなたは私をだましている。あなたは私に話しかけてくるなんてことはありませんから

ずっと私と一緒にいるあなたは、今でも私のそばにいるあなたは。

いつか私達は向き合わないといけません…。

…だけど、今じゃない。まだそうじゃない。

どうやら、私はまだ十分な強さを持っていないようです。しばらくはできそうにありません。