
やや渋みがある感じがする、塩を入れすぎたような味がするな。あー、戻ってきたって感じがする!

一回長期任務が出ただけだろ、そうじゃなかったっけ?

お前は知らないんだろうけど、ウルサスの食べ物って本当に食べ慣れないんだよ。

やっぱり、ロドスの食堂が一番だよ、全部俺の好きなものだし。

さっきの言い方だとお前の好きな食べ物って感じはしなかったが…。

美味しいと好きっていうのは違うんだよ。

親戚を見つけた難民にごちそうをされたんだけどさ、んん、繊細で高貴だったんだよな。

あれに慣れることなんて出来ないね。

これからはお前をロドスアイランドの食堂に飼いならされた男とでも呼ぶよ

それで今回の任務はどうなんだ?

簡単だったよ。お前も知らない訳じゃないだろう?俺たちはチェルノボーグから救い出した難民を他のウルサスの都市に送り届ける。走るだけなんだが時間が掛かる。

それは聞いていなかったな。お前からは難民を助けられると聞いてとても気にはなっていたが。

そうか、まあ俺達には時間も人数も多くのことをするっていうのが許されてはいないが、でも救ったのは救ったからな。

俺もドーベルマンから聞いたんだが、俺達の状況は良くない感じでウルサスと何か接触してるんだってさ、まあアーミヤとドクターがこういう救助をしてくれて嬉しい限りではあるけど。

ああ、こっちもそういう指導者がいることは喜ばしいよ。

でも、このことについてはアーミヤとドクターの他にもう一人感謝される人がいるんだろ。

ああ、知ってるよ。道端で他の人から聞いたんだ。ナタリアっていう女の子だろ。

あら、私の話が聞こえたみたいだけど

あ、ナタリア。こんにちは。

セレンさん、こんにちは、そしてこの方は…

俺はコンパス、そのままコンパスって呼んでくれ。

コンパス…いいコードネームですね。こんにちは。よろしければ、ここに座って食事をさせてもらっても良いですか?

もちろんいいよ!

おい、学生だって聞いてたんだが…。

どう見ても超が付くお嬢様じゃねえか!

こんな人とどう話をしたらいいのか俺分からねえよ!

緊張するな。ナタリアはとても話しやすいからさ。

そういえば、先ほどお二人のお話をお聞きしたのですが、コンパスさんは難民保護の任務を終えて帰ってきたばかりとか?

ああ、さっきはそれについて話していたんだ。

そうそう、そこでナタリアが果たしてくれたことのことを彼に話すつもりだったんだ。

私は些細な仕事をしただけですよ。

謙遜し過ぎだよ。ナタリアが難民達を説得してくれなければ、俺達の仕事は上手くいかなかったんだから

道のりで難民達から聞いた話なんだが、とても親切なお嬢さんがいて、ロドスは全員いい人なんだと言ってたな。

俺もセレンの話を聞いて、君に感謝をしないといけないな、ナタリアさん。

正直なところ、難民達の俺達への態度はあのままじゃ何処にも行けない感じだった。君がいなければ道のりがどれだけ面倒なことになっていたか想像出来るくらいだ。

俺も難民出身で、そういうのは分かるんだが、白い目で見られるからな。

それは私がすべきことでしたから。本当に大変なのはコンパスさんが護送をしてくれた人達です。

ロドスが信じられないという訳ではありませんが、彼らは災難を受けたばかりで誰も信用が出来ません。

ロドスが皆さんのために良いと言えるということは感じていましたし、私は学生会長としてこういうのはよくやっていましたので。全部得意なことなんです。

うんうん、セレン、聞いとけよ。こういうのこそ人の話として気持ちが良いもんだ。

だから言ってるだろ、ナタリアは話しやすいって。

新人が貴族のお嬢様ってことを最初に聞いた時、俺達はまた付き合いにくそうな相手なんじゃないかって心配してたんだ。

いざ蓋を開けてみたら、仕事能力があって、話しやすくて、誰とでも仲良く出来て、誰もが彼女のことを好意的に見ている。

そんなことはありません。私はまだまだ若いのでみなさんが面倒を見てくれているだけです。

そういえば、ナタリアはロドスには残ることにしたのか?

はい、先週の時点で後方勤務部門の審査に合格をしまして、正式にロドスの一員になりました。

おお、それは良かった。きっとここを好きになってくれるさ。

私はもう、ここが好きになっていますよ。

そういえば、セレンさん。第二陣の難民のリストと彼らが送られるべき目的地の準備が出来ていますので、昼休みが終わったら進めていただけると良いかと。

お?そんなに早く?

つまり、救出された難民達はちゃんと行き場があったということか?

ええ、一部治療を受けている方以外は全て確認済みです。

すごいな。部長が君にこの件を任せたのは正しかったみたいだ。

私はただやるべきことをしただけですよ。

となると、俺もは早く第二陣の保護に参加出来るように申請をしておくか。

第二陣も行くのか?お前はウルサスの料理が食べられないんじゃなかったのか?

それでも、彼らが自分の知っているところに帰って、親戚の表情を見るっていうのが楽しいからな。

まあ、もういいじゃねえか。ご飯もそろそろ食べきるし、先に申請しに行ってくるよ!

おい、ご飯をよそわはなくても良いのか!

ごめんな、ナタリア。あいつはああいう慌ただしい性格なんだよ。

コンパスさんは難民にご執心なんです…ね?

ああ、さっきも聞いたけど、あいつも昔は難民で俺達のチームに救われたんだ。だから毎回難民に関する任務だと気になるみたいでな。

お二人は仲が良いんです?

まあ、良いほうだな。あいつも最初は後方勤務をしていたんだが、その後に前線に転じたんだが、同期なんだ。性格も合っていたし、いつの間にかいい友人になっていた。

ナタリアもあの自治団のメンバーの一人だったよな。

はい、でもソ…ズィマーはコンパスさん達と同じ前線オペレーターで私は後方勤務部にいますね。

一緒に発見されたと聞いたんだが、君たちの関係も良いんだろう?

ええ…あの時はずっと一緒にいましたし、仲は良いです。

苦労を共にしたってことなんだな。あ、誤解しないでくれよ。災難が良いってことじゃないからな。

分かっていますよ。

…

ん?あれは…

ズィマーじゃないか、偶然だな。彼女について話していたばかりなのに。

んー、彼女、君を見ているみたいだな?

はい。

…

すいません、セレンさん、お先に失礼します。

問題ないよ。

ズィマー、私を探していたの?

…

あなた大丈夫なの?顔色が悪いわよ。

私は…

なんでもない。私はきっと気がおかしくなってお前を探していたのかもしれない、私は来なかったということにしておいてくれ。
(ズィマーが離れようとする足音)

ちょっと、待って。
(ナタリアが追いかける音)

引っ張るな!

話をしましょう、ソニア。ここに来てからというもの私達はまだよく話をしていないわ。

…

私の部屋に来て。

どうぞ、座って。何か飲む?コーヒー、紅茶、何でもあるわよ。

…流石貴族のお嬢様だな

私を皮肉る力はあるみたいだし、私が思っているよりかはマシのようです。でもさっきは顔色が悪かったわ。

コーヒーにしましょう。ロドスでウラれているコーヒーのは味は良いのよ。紅茶は普通だけど。

その理由はエンジニアさんが特にコーヒーに執着しているからだそうよ。どう思う?

私が分かると思うのか。

ふふ、最近聞くのは褒め言葉ばかりで、あなたの私に対する攻撃的な態度が懐かしいわ。

砂糖は必要かしら?

いらない。

本当に?入れたのはブラックコーヒーなんだけど。

いらない。

はい

どうぞ。

…。

うぇ

言ったでしょう?

…

はい、砂糖を一杯入れてあげるわ。

私を連れてきたのは私をからかうためか?

砂糖はいらないと言ったのはあなたでしょう、ソニア

ちっ。

それに、忘れちゃだめよ。先に私のところに来たのもあなたでしょう。

…言ったように、お前の話すことは何もねえ。私達は友達じゃないし、私はお前のことが好きじゃない。

そうね、あなたともアンナとも友達とは言えないわ。私達は一緒にあそこから生きてきただけ。

私はただ…

ソニアは親しい人にほど言葉を出せない。

もしあなたが私の友達だったら、私はあなたを連れては来なかった。

相手というものは重要ではなく、あなたの立場というものを知っている時だけにこそ、話しやすい言葉というのもある。

私にとってはアンナがその人として一番良い、あなたでも良いけど。

うん…ロザリンドは直接的な性格でだめだし、ラダは優しすぎるから、だめ。

あなたからすれば、私がその役というだけかもしれない。あなたが私に会いに来てくれたというのは、私にとってそこまで驚きじゃなかったわ。

お前は私と話したいということか?

そうよ。

どうして?

…ソニア、あなたが2ヶ月間、オペレーターとして働いてきてどうだった?

どうって、戦いは戦いだ。あのドクターの指揮を聞くのは少し嫌だけどな。

あなたがドクターにもぶつかっているというのは後方勤務部にいる私も聞いているわ。あなたらしいわね。

…私はお前には似ていない。私は綺麗にものを言うことが出来ないからな。

実際、あんなことを経験した後に武器を手にするということはしんどいものじゃなかったの?

…戦うのは好きだからな。

なるほど…ところで、いわゆる綺麗な言葉は勉強したほうが良いと思うわ。そうでなければ損をすることになるわよ。

いらねえ心配だ。

私達は確かに友達ではないけれど、苦楽を共にする仲間なんだから、仲間に関心を持つのは普通でしょう?

それに正直言って、私はあなたのことが大好きよ、あなたと友達になりたいわ。

…は?

いえ、正確に言えばあなたが羨ましいかしら。あなたは簡単に私が出来ないことをやってのけるもの。

そういえば、ソニア。どうして私の元を訪ねてきたのか教えてくれない?

…最近、ずっと悪夢を見るんだ。

悪夢の内容を教えてくれる?

…それは出来ない。

分かったわ、でもきっとアンナには言えないものが含まれているのよね。じゃないとあなたは多分私にもとには来ないだろうし。

…ああ。

チェルノボーグにいたころからそんな感じはしていたわ。

あなた達は息もぴったりだし、相手が何を望んでいるのかも分かるみたいだけど、あなた達は相手とのコミュニケーションを避けている気がする。

放っておいてくれ。

安心して、私はあなたを導きたい訳じゃない。今は自分が他の人を導く資格があるとも思わない。

話を変えましょう、ソニア。あなたはズィマーとして生きていくつもりなの?

どういう意味だ?

ロドスにずっといるつもりなのかって。

私達はロドスにいる必要は無いわ。ここの大人達は本当にいい人だもの。離れたいと思うのであれば穏やかな場所で生活も出来るでしょう。

私達と一緒に救出をされた人達の多くはすでに多くの人達がウルサスに戻る途中よ。

私達が望むのであれば、私達もウルサスの他の都市に行って、そこで私達の新しい生活を始めることだって出来る。

お前は何故行かなかったんだ?

分からないわ。

…?

今日はいい天気ね、ソニア。

ピクニックにはいい天気だわ。

おい。

廃墟の中で狼狽をして食べ物を探し、水一本ですら毎日節約していた時に思ったの。

生きていたならば、ぜひとも明るい午後に美しい庭園を探して、そこで一杯食べたいなって。

おい!

でも私がもっと考えているのは――

あの日あなたが私を殺してくれれば良かったのにって。

ためらわず、哀れみの心を持たず、助けが来るとも思わず、私を憎らしい貴族の一人として、あなたの手にある斧を振り下ろしてくれればって。

私をあのまま死なせてくれるのが私にとって一番良かったのかもしれないのにって。

今からそこにお前を送ってやってもいいが。

本当に良いのかしら?

…

私達はあそこを離れたの、ソニア。文明社会に戻ったのよ。

私達は文明的な考えで考えて、文明的な方法で物事をしなければいけない。そこで起こったことはもう起きない。

そんなこと私は気にしない。

あなたは管理をしているの。あなたは善良な人、ソニア、冬将軍、弱者の守護神、陵辱者の天敵。

何なんだ、気持ち悪いことを言うんじゃねえ。

私が聞いたあなたの噂よ。

こそこそと自分の力で人をいじめるやつらが嫌いなだけだ。

貴族は嫌いなんでしょう、ソニア。

当然だ、偽善的な連中は常に偉そうにしているからな。

ええ、彼らは、いえ、私達はいつも自分を偉い人だと思っている。

あなたに連れ戻されてからというもの、私はそれまで何を経験したのか具体的には言っていなかったわよね。

そうだ、私はお前があの貴族団体のリーダーであるということしか知りはしない。

もし、時間があれば私の話を聞いてくれるかしら。

勝手にしろ。

大部分の貴族と金持ちはレユニオンが事実上の都市占領をし始めた時、その前には難を逃れ始めていた。

貴族どもはとっくに知っていたということか?

そうよ、貴族たちはとっくに知っていた。

…卑怯者め。

そうね、あなたも知っている通り、貴族は利己的なの。

お前も?

私も。

…どうしてあそこにいた?

簡単なことよ、私達の家は逃げるのが遅すぎた。他の貴族も一緒に止められたの。当然、気にしていなかった家族もいるわ。

ほー。

あら、そんな面倒くさそうな顔をしないでちょうだい。必要な背景紹介よ。

とにかく、あの学校に移された貴族の生徒達は基本的には二種類の貴族の子供達だった。

私達は両親と共にいて、レユニオンによってチップとしてウルサスに交換されるべきだったのでしょうが、最終的には親と離れての学校に行くことを余儀なくされた。

それっておかしいことなのか?

おかしいわ。貴族というものは戦争の時にはチップになり得るものだから、無駄にすべきじゃないのよ。

貴族は優雅であり、高貴であり、その身分は尊重されるべきであり、捕虜になったとしても自分の家族や身分を忘れてはいけないの。

お前ら貴族の頭に問題でもあったんだろ。

以前の私ならば、今のあなたの言葉で少なくとも2時間は議論していたでしょうね、ソニア。私はそういう風に教育をされていた。

でも、今であればあなたの意見に同意するわ。

きらびやかな外見を以外は貴族と庶民は変わらないのに、そのきらびやかな外見にとって貴族は逆に醜くなってしまった。

最初の火災で最初の食料が焼けなければ、あんなことにはならなかったと議論をしたことを覚えている?

だがお前は、あの火災が無くても似たようなことが起こり、全てを取り戻すことは出来ないだろうと思っていたとも言っていた。

私はそういう経験をしたとしても思うでしょうね。

でもとにかく、何があっても「何かが必要なのであればその後には全ての事が起こる」とも言っていたわ。

おかしなことに、貴族は何かが起こる必要が無くても、彼らは集まっただけで争いが起きるの。

何故?

新旧貴族の違い、市長の政治の傾向、市内の貴族がいくつか分かれているっていうのを聞きたい?

どうしてそんなこと聞くんだ?

聞かないと理解出来ないからよ

じゃあ言うな。興味無い。

実際、私も興味は無いのだけれどロストフ家の長女として私は知らなければいけないの。

学校に集まった初日に貴族生徒達の間で流血事件が起きそうになったことさえ知っていれば良いわ。

私は第四高校の生徒会長として立ち上がり、私の威信のために彼らを組織しなければいけなかった。

お前はあいつらを内紛させないためにあいつらを組織したってことか?

そうよ、正当に聞こえるかしら?自分のクラスメイトの内紛を起こさないように、私は立ち上がって彼らを組織したっていうことは。

う、あ…

パルヴィル、お前の父が鉱脈の採掘権を握っているからといってやりたい放題出来ると思うな

区の男爵程度が俺にわがままを言って、刺されなかったのは幸運に思っておけ。

お前もだ、イワンノフの次男、お前の話す番が来たとでも思っているのか?俺がお前の胸にも風穴を開けてやろうか?

お前…俺の父は議員なんだぞ、お前がそんなことできると思っているのか?

議員ねえ?毎週日曜日の母のパーティで議員が何人来るか教えてやろうか?

お前は知らないだろうけどな、お前の父にはその資格すら無い。

お前!

黙りなさい、パルヴィル!

ナタリア、パシーって呼んでくれよ。俺達の間でそんなもの必要は無いだろう?

私は本気よ、パルヴィル・ニコラエヴィチ!こんな時につまらない争いを産まないで!

は、はい!

みなさん、私達は今この学校に閉じ込められています。私達には何が起こるのかまだ分かりませんが、少なくともレユニオンは簡単には私達を開放しないでそゆ。

あなた達の様子を見ていたら、ここに来て半日で喧嘩をしたり、殴り合いをしたり、はてには一人の貴族を殺そうとさえした。

それは貴族の姿としてどうなのよ!

お前は誰だ、お前の話を聞くとでも思っているのか?!

彼女は「第四高校の明珠」であり、ロストフ伯爵が爵位を継がせると公言したナタリア・アンドレエヴィッチ…

ここには各区の高校から貴族が集まっています。私は自分の身分を強調したくはありません。私達が今直面しているのは生存の問題だけだと言いたいのです。

ここには私達以外にも多くの民間人学校の学生がいます、皆さんも庶民に自分の醜態を見せたくはないでしょう。

それに私達はレユニオンに抑留はされていますが、彼らがウルサスに何かを要求しようとしているのであれば、おいそれと私達に傷を付けるということは出来ないに違いありません。

私達は自分の貴重な命を内紛で無駄にしてしまうのですか!?

争いよりも私達に必要なのは団結です!

もちろん、今はもう分かっているわ。レユニオンは貴族なんて眼中に無かった。

…。

私は争いを鎮めることは出来たけど、スローガンと威信だけでは、ああいう場合には大きな効果は無い。

ソニア、ならばどうして、今日のような強大なウルサスがあると思う?

実際、最後には多くの貴族学生が私に服従をしたり、誰かと一緒に過ごしたりして、自分でグループを組んでいる。

最終的には私のもとには少将が30人以上集まってきた。

当時の私はもうそれはとてもよく出来たと思う。

道理でお前達の団体以外には没落した貴族が大量にいたわけだ。

ええ、彼女たちも様々なグループを組織していたのでしょうね。

…そんなの私に分かる訳ねえだろ。

残念だわ。あなたと話をするのは楽しいのだけれど、こういった話題ではやっぱりアンナと話をしたほうが良いみたいね。

…話を逸らすな。

ウルサスが今日のようになったのは戦争のために前の国王陛下が戦争を繰り返し、資源を獲得して次の戦争に突入をしたから。

戦争があれば、ウルサスは動き、国民が協力をしてくれるからよ。

私は…ナタリア会長の言う通りだと思う。

ナタリア会長が俺達をリードしてくれるのであれば、俺は従うよ。

私を信頼してくださるというのであれば、私をこの団体の主催者としても問題はありません。

(何とか戦いは止められましたが、これからはどうすればよいのでしょう…)

それならば一つ提案がある。

え?

ナタリアの言うとおりだ。貴族の体面は保つべきだろう。

ならば、その庶民たちには少しでも貢献をしてもらいたいところだ。

お前…まさか…

そう、私は彼らの「民間人からの略奪」の提案に同意をした。

ソニア、私は自分は優しい人だと思っていたの。

少なくともその時、私はそう思っていた。

貴族同士の社交というものは面白みが無く、偽りでしかない。悲劇のために嘆き、難民達のために食事を送ったことだってある。

でも私はあなたを騙したくは無いし、私自身を騙したくもない。

あの時、貴族を団結させるために、私は彼らの略奪に同意することを選んだ。
ドン!
白髪の少女は地面に倒され、顔には拳を打ち込まれた。彼女の口元からはゆっくりと真っ赤な血が流れていたが、彼女は笑顔を見せていた。
その笑顔は鮮血によって引き立てられて、悲惨にも見えた。

こほ、こほ…

この…

私は悪魔よ。

でもね、ソニア。あなた達と一緒に暮らしていなかったら、ロドスには来ていなかったし、今のようにも考えすらしなかった。

あなた達が教えてくれた、高貴ではないという事実が、その事実こそが、私に対する最大の非難なのよ。

だから、あなたが私を見つけた日に、私の仲間をあなたが殺したように私を殺してくれたら、どんなに良かったか。

自分がいい子だという幻想に溺れて、私もどうしようもない自分の慰めで溺れて死んだら、どれだけ今よりも良かったか。

…ソニア、それは何かしら?

カッターだ。

私はこの数ヶ月の間、26回手首を切りたいと思い、15回は喉を掻っ切りたいと思ったわ。

…よくそんなことを覚えているな。

私は諦めるたびに自分の愚かさと臆病っぷりに笑ってしまうから、忘れるのが難しいのよ。

私も貴族の方法とやらで毒茶を使ってみようとしたり、剣で自殺してみようとしたり、遺書はどういう形で書けば良いのかも考えたことがあるわ。

でも残念だけど、こういう方法って事前に他の人に見つかってしまうのよ。他の人には迷惑を掛けたくは無いわ。

一体何が言いたい?

私は…

私は大人たちに言いたい。ここに残って、ウルサスの人たちのために何をしてあげたいのかって。

私は自分に言ったわ。ナタリア、あなたは罪を償っているのよって。

でも、本当にそうなのかしら。

ニコラ達の笑顔を思い出す度に、彼らが庶民から強奪をしたことを思い出して、私に功労を求めた表情を思い出す。

私が彼らに許可をした願いを思い出すたびに、私は彼らのために計画を立てて、彼らにどうすれば良いのかを教えてあげた。積み上げた物資に対する喜びも思い出すわ。

私は無視のふりをしていた悲鳴と鳴き声を思い出す度に、私は強制された、無実だと思ったことを思い出し、私がそういった生活に慣れ始めていたことを思い出す。

ソニア、信じられる?あの大脱走の仲で私は誰も殺したことなんて無かったのよ。

でも私は一番汚れているに違いないわ。

私があなたを連れてきたのは私がこれからあなたはどうすればいいか教えたいからと思っているんでしょう?

違うわ、ソニア、私には何も分からないし、何もわからないの。

私にはどうやって教えていけば良いのかが分からないの!私は私の全ては余裕があるというふりをしてあなたを引き入れることしか考えられないの!

…

…

お前…

はあ、ごめんなさい、少し調子が悪いみたい。

…何か飲むか?

紅茶を、ありがとう。

ああ。

おい、この部屋の紅茶は何処にあるんだ?

この部屋にはお茶の箱が多すぎて、私には分からないんだが。

あ。

…ぷっ。

やっぱり私がやるわ、ソニア。

えっと、すまない。

あなたは紅茶を入れられないということを思い出したわ。一時の失態であなたに不得意なことをさせようとしてしまって、本当にごめんなさい。

お前な…。

えっと、ソニア、それであの日はどう思ったの?

え?

火事の後、逃げ回っていた他の学生が捕まっている中、私をどうして助けてくれたの?

私が先日まで学校で暴れていた貴族のリーダーだってことは知っていたのに。

忘れた。

多分お前がかわいそうに見えたんだろ。

どうして私を自治団に加入させることに同意したの?

アンナが同意したからだ。

お前は私に憎んで欲しいのか、ナタリア?

分からないわ、ソニア。私が憎い?

私が見たことのある馬鹿は自分が馬鹿だと認めないやつだけだ。

自分が馬鹿だと分かっているなら、それは馬鹿なんじゃないのかしら?

…てめえは殴られたいのか?

被虐趣味は無いわ、どう言ったら良いのかしらね。私はあなたに、そう、あなたの誤解を防ぐために、さっきの私の話を聞いてくれた人には正直になりたいの。

ひぎゃ…なんだって?

ああ、それは貴族の間に伝わるちょっとした趣味で私も聞いたことがあるだけだから、気にしなくても良いわ。

少なくとも、もう二度と殴りたくはない。

そう。。

紅茶はクルビア製が良いかしら、それともヴィクトリア製が良いかしら

…立ち直るのが早いな。

どっちでもいい。私はどうせ飲まない。

結局私はそういう人として教育されているのよ、いつでも一番いい姿を他の人に見せている。

砂糖はいる?

…いる。

ごめんなさい、この紅茶は砂糖が入れられないんだったわ、そのまま飲んで。

お前めんどくせえな。

ちっ。

聞け、ナタリア。私はどうやってお前を慰めたら良いかはわからないし、お前を慰めたいとは思わない。

あら、私を恨まないどころか、慰めてくれるつもりだったの?

黙れ。

はいはい。

人を慰めるのは嫌いだ。いつもそうしようとしても、効果は悪いものになる。

私は私が今考えていることしか教えることは出来ない。

さっき、お前は私はズィマーとして生きていくのかを聞いてきたな。

私の答えは「そう」だ。

私の母さんと父さんはチェルノボーグで死んでいる。だから私はあそこに帰りたくはない。ウルサスにもだ。至って単純だろう。

お前は私がお前の痛みや何かを理解出来るのだろうと思っているのだろうが、私はよく分かっていない。

最初は自分のためだけに弁解したいと思っていんだが、お前と似たような話をする人たちを私は見たことがある。そいつらは私の隙を狙って奇襲を仕掛けてきただけだ。でもお前は本当に辛そうにしている、何故?

お前がいなければ貴族達は何処行こうがろくでもなかった。お前は貴族を馬鹿にした訳でもなく、お前があれを起こしたわけでもない。

むしろ私は…

あなたは?

いや、何でも無い。そして私が貴族の一人だったら、お前のような人がリーダーになってくれれば嬉しいのかもな。イースチナが私をリーダーに選んだように。

私はお前は出来ることをしたんだと思う。

私がお前が嫌いなのは、加入する前のお前は私の敵で、私は貴族が好きじゃないからだ。

そして、私は悪夢を見る。悪夢を見たら吐く。それは一晩中眠れないくらいには辛い。

だが、生きていくことは悪いことでは無いと思う。

私はお前が生きていくということは悪いことでは無いとも思う。

お前は馬鹿だとは思うが、お前がいなくて、アンナだけに頼っていたら、あの後の十数日感は生きられなかっただろうということは分かっている。

いろんなところを歩いたり走ったりするのを勧める。腹が減ったら食べて、眠くなったら寝る。座って考えているよりかはマシだ。

…ぷっ。

何だ。

あははははははは。

そんな風に笑うと、涙が出てくるぞ。

大丈夫よ。これこそがあなたと話をする良いところだと思っていただけだから。

もしここにいるのがあなたじゃなくてアンナだったら、私達二人は今頃、頭を抱えて泣いていたかもしれないなって。

あいつもお前のことは嫌いだからな、忘れるなよ。

知っているわ、あ、はは。知っているわよ。

ねえ、ソニア。

何しやがる。

あなたは私の問題を何も解決出来ていないってこと分かってる?

お前のことを気にするのがめんどくせえだけだ。

私もあなたの問題を解決することは出来ないわ。

でもあなたの言うとおりよ、私達は生きてきた。

それならば、私達は歩くことが出来るんじゃない?

あ?

足元の円、夜、迷宮、内心、思考、深淵。

同じ言葉で話してもらっても良いか。

ええ、そうね、でもオペレーターならばコードネームはあるべきなんじゃないかしら。私がオペレーターになるなら、どのコードネームを選ぶべきかしらね。

知るかよ。このコードネームはアンナが考えてくれたものだ。

そうね、それじゃあ、Pocaなんてどうかしら?

露?

そう、露。共通語ではロサというの。

…良いんじゃねえか?

そう、ではもし私がオペレーターになるなら、ロサと呼んでね。