観客席に一人の老人がいた。
老人は騎士競技に微塵の興味もなかったが、孫を喜ばせたいがために、人に頼んでチケットを二枚手に入れ、鳴り物入りの試合を見に来た。
彼は眉をひそめ、嘆き、戸惑っていた。
サルカズ人が若いクランタを大衆の面前で公開処刑如く蹂躙されているのになぜそれほど歓喜できるのかと。
彼は己の疑問は正しいと思っていた、なぜなら彼も一人の騎士であった、貴族の地位を持たない征戦騎士であったからだ。彼はただ目の前で繰り広げられている試合に、サルカズに唾棄したのだった。
しかし会場に突如と眩い光が現れた、老人はふと思い出した、ステージにいる騎士はニアール家の末の娘だったことを。
なんて惜しいことを、彼はそう感慨に思い、その光を注視した。彼がその光を注視していたと同時に、観客席にいた極わずかなカジミエーシュ人たちも、同じようにある昔話を思い出した。
話は森に流れる川や湖畔のさらに向こうにある、要塞と城壁が連なる防人たちの地から始まる。
毎晩黒夜が降臨し、かがり火が連なり、征戦騎士たちの甲冑が月光の下に煌めき、銀槍の鋭刃は闇に蠢く敵を指していた。
あの無情なる侵略者たちは、空の色彩を変え月光を遮ったリターニア人だった。あるいは城壁をものともせずに押しつぶすおぞましいウルサスの軍隊だった。
数個の都市は屈辱にもウルサスの国境内に連れ去られてしまい、防衛線は下がる一方だった、「銀槍」はたちまち戦争商人たちの騎士を嘲笑う笑い話と化した。
もはやこれ以上退けなくなってしまった都市外周に、荒廃とした辺境の地の最後の防衛線に――
――カジミエーシュ最後の砦に、一人の金髪の老いた天馬が現れた。
ウルサスが戦争で初めて敗退したその日の黎明に、カジミエーシュのはるか遠くにある地平線に、二つの太陽が昇ったのだった。
光。
光は消えず、満ち溢れ、恐怖を駆逐していった。
それと同時に、太陽は頷き、その帰郷する騎士を迎えた。
……
……マリア。
立つんだ、マリア。
……
……お姉ちゃん?
マリア。
成長したな、よくここまで頑張った。
いや……あれはマリアのアーツではない……
一体何が起こったんだ?
チェルネーさん!さきほど――無冑盟の守衛から報告が届きました!一筋の光が競技場の北西1km先から競技場に衝突していったと!
とてつもないスピードでした!あれが何なのかすらはっきりと分かりませんでした!
……まさかテロですか?
いえ、兵器の類には見えませんでした、人です、クランタに見えました、しかしあの速さを出せるのは、最上級の騎士だけかと――
……
……いや。
あり得ない……あの光は……まさか……
(アーツの発動音と複数の打撃音)
グァ……敵はどこだ?光が眩しすぎて、何も見えん……!
任務は、最後まで遂行しろ。誰の仕業だろうと――最優先で目標を殺せ!
(打撃音)
グアァ……!
拳だけで……このオレを吹っ飛ばしただと……?貴様何者だ?
薄汚いアーツだ……迫害されしサルカズの感染者だろうと、「騎士」として恥ずかしくないのか?
グァ……
お姉ちゃん……?
待って……本当にお姉ちゃんなの?幻覚じゃないよね……?
ああ。
……
ほ、本当に……?
そうだ。
……お姉ちゃん?
よくここまで頑張ったな、マリア。
うぅ……お姉ちゃん……どうして……今頃帰ってきたの……
(斬撃音)
……邪魔だ!まとめて殺してやる!
いいや、これ以上の勝手は許さない。
(斬撃音)
なっ……斬撃を食らっても微動だにしないだと……
……奴の光が束になって、俺たちのアーツを抑制しているんだ、お前は下がれ、オレが片付ける。
(打撃音と斬撃音)
(大歓声)
光の中で登場したのは――光の中登場したのは、ま――ま――紛れもなく耀騎士だぁ!!
何ということだ!?追放されたはずの耀騎士が再びここに戻ってきたぁ!!
(大歓声)
(おい!はやくアンバサダーを探してこい、何なんだこの状況は!?なにが――あ?)
ル、ルール違反ではあるが!だがもうそんなもんは関係ねぇ!妹を救うため、危険承知でカジミエーシュに耀騎士が帰ってきたぁ!!
常人ならざる迫力!常人ならざる気迫!地獄からやってきたような騎士二人を前にしてもまったく恐れていない!!
耀騎士のために――歓喜の声を上げよう!!
あれって……マーガレット?あの盾を持ってる騎士って、耀騎士……?
な、なんでカジミエーシュに戻ってきたの……?
すっかり様変わりしたな……
……あの子が帰ってきたのか、あの子はあれから……何を経験してきたんだ?
あぁ……
耀騎士、あの意気軒昂なマーガレットが……帰ってきたのか?
ふぅ……いい加減そこをどいてくれないか?
残念だけど、それはできない。
つまり、死ぬ気でやらないと通してくれないわけじゃな?
……もし出来るなら、これ以上死ぬ気を出さないでほしいんだけどね。
もう一度言う、これ以上やっても無駄だ、私は決まったターゲットは必ず処理するけど、関係ない人は見逃す主義なんだ。
競技場に向かうことさえしないければ、命だけは――ん?
――周りが明るくなった?
おい!フォーゲル、あそこを見ろ!
なんだあれは……
あの……あの光は……
ニアールの爺さんの……?
(あの明るさ、マリアが以前放ったアーツではなさそうだ、まさか……)
(いやでも……ラズライト二人がかりだぞ……そんなまさか……)
(無線音)
ん。
こちらプラチナ。
お遊びはそこまでだよ、ペガサスちゃん、撤収だ。
……なんだって?
耀騎士がもう中に入っちゃったんだよ、これ以上入口を守っても、意味ないでしょ?
……
状況は大体分かったよ……でもアンタたち二人がかりで失敗したの?
上位者の力を甘く見ないでほしいね、ペガサスちゃん、理事会が私たちに与えた任務はただ「耀騎士を見張っておけ」だった、別に戦えとは言われなかったし……
私もね、戦うにしても、あのしかめっ面と手を組めば、どうってことなかったんだよ。
ただちょ――と予想外のことが起こってね、一つは耀騎士本人が前よりも強くなったことでしょ……それから、彼女何人か厄介な連中を連れているんだよ、それが面倒臭くてね。
あぁ……アンタたちですら面倒臭いって思うんだったら、相当な相手なんだろうね。
うん、あとそれとね、わざわざ君に連絡したのは、ターゲットが進んでるルートに君が立っていてこのままだとぶつかっちゃ――あ、もう間に合わないかも。
とにかく、絶対相手にしちゃいけないよ、あとのことは自分でなんとかしてね、プラチナちゃん。
(無線が切れる音)
はぁ?ちょっと待っ……
まったく、何がしたいんだか……
まさかマイナが動き出した?いや……彼はずっと自分の執務室に籠ってたはず……じゃあ……
(な、なんだ?さっきのあれは……青い影?)
フォーゲル……!
分かっておる!
何が起こったんじゃ?今までにない感覚じゃったぞ……
……下手に動くな、呼吸を整えろ、周囲もよく見張っておけ。
(何かに掴まれた感じだった……あの二人すら厄介に思う奴って……)
ん、来たか。
……
……
……
……
……はぁ、そりゃメンドクサイって言うよね……だって最初から騎士じゃないんだもん……
……
彼女たちを通してあげて、どうせターゲットリストに名前は載ってなかったんだし。
……ありがとうございます。
リズ、まだ歩けそう?
大丈夫……あそこ、すごく明るい。
ニアールのアーツだね。
じゃあ早く行きましょ?
そうだね。
(シャイニングとナイチンゲールが歩き去る足音)
……ホント、今日はなんて日だ。
さっきのサルカズ……マーガレットを知ってるのか?一体何が起こってるんじゃ……?
本当にマーガレットじゃ!フォーゲル!マーガレットが帰ってきたぞ!
……耳元でわめくな。
そんなことより……わしらはどうする?まだ続けるか?
そんなに睨まないでよ……命拾いしたね。
……
任務がキャンセルされちゃったんだし、これ以上アンタたちを止める理由はないよ。
その余生を大事にしてね。
そのまま帰るつもりか?待て!
フォーゲル!先に競技場に急ぐぞ、奴らは放っておけ!
チッ……憶えておれ無冑盟……!
マーガレット・ニアール……耀騎士だと!
競技場の警備はどうなっているのですか?
け、警備ですか……?しかしあの全力の耀騎士ですよ、市内で対抗できるものなんて用意しておりませんよ……
……
耀騎士……
はは、耀騎士ですか……今更、ここに戻って何のつもりですか?騎士たちの卒塔婆を一目見ようというのですか?
チェルネーさん、連合会からご連絡が来ています……その……
……
ミスター・マルコヴィッツ。
はい?
このあと何が起きようと、私がここに戻ってこなかろうと、絶対にこの部屋からは出ないでください。
は、はぁ……
ええ、とっくに全部要用意周到です……そうです、チェルネー、君は全部やり遂げました、あとは幕が下りるのを待つだけです。
チェルネーさん……?
あぁ、失礼……
(電話のバイブ音)
……
チェルネーさん?お電話が鳴っておりますよ……?
分かってます、分かっていますよ。
では……少々失礼します。
(アーツの発動音と爆発音)
……騎士としての技量は中々だ。
しかし、薬物と、アーツ多用の痕跡があるか、それに……
グルァァ――
俺が奴を抑える!お前は目標を殺せ!
理性が尽きかけたサルカズの戦士は武器を振り回し、アーツと墳墓の気配をまき散らしていた。
しかし耀騎士は一歩たりとも微動だにしなかった。
――目標を殺せ!
(アーツの発動音と爆発音)
むっ、爆発のエネルギーで相殺したのか――
――死ねぇ!
(マリアが駆け寄る足音)
――
(斬撃音)
グワァ……!まだ、力が残っていただと!?
マリア、まだ傷が――
お姉ちゃん……!言ってたでしょ、他者を守るために、騎士は盾を持つことを選んだんだって……そうでしょ!
でも今は、ここのステージには――
――お姉ちゃんが心配に及ぶ弱者はもういないんだよ!
……!
私がお姉ちゃんの盾になるから、だから――
そこをどけ、二人まとめて粉々に吹き飛ばしてやる!
――全力で行こう!
(斬撃音と爆発音)
グァ……やつが盾を捨てたぞ!お前のアーツはどうしたんだ!
……そんな、馬鹿な……あのハンマーが奴のアーツロッドだったのか、奴は……
マリア……準備はいいか?
うん!
……騎士なるものとは。
……即ち大地を隅々まで照らす崇高なる者!
(大歓声)
戦場に突入した耀騎士が二三手交えたあとになんと盾を捨てた!待て!いや違う!!
みんなは耀騎士がもらたしたダブルハンマー使いのブームを憶えているだろうか!?今の彼女は、盾を放棄しハンマーのみで挑む完全なる臨戦態勢の姿になった!これこそが耀騎士の本来の姿だ!
強者の群れに突進していく耀騎士!帰ってきたレジェンド!おそらく試合終了後すぐさま国民院に連れて行かれるだろうから、耀騎士の風采が見れるチャンスは、今だけだ!
この……アーツは、この輝きは……
貴様はなぜそう平然とその光が出せるのだ……?この狂妄者が――自分が太陽にでもなったつもりか!?耀騎士!
(大歓声)
マーガレットが盾を下ろした様子を見るのはいつぶりだろう?
彼女の光……とても熱い。
彼女なら大丈夫、だよね?
あの姿の耀騎士が敗北したところは一度も見ていないからね。
あの子、ニアールにそっくり。
そうだね、彼女の妹だろうね。
ふふ……可愛らしい騎士だ、彼女そっくり。
……矢が……尽きた!
ガァ――!アーツを使え!
彼はアーツで矢を作ってるんだ……私が防ぐよ!
ああ、あとはこちらに任せてくれ。
射貫けないだと――鬱陶しい光め!
(斬撃音)
……
……観客が静まりかえった。
マーガレットは未だ劣勢だ、あの二人のサルカズは強い……それにコンビネーションも完璧だ。
でもなぜかマーガレットなら絶対に負けないって心のどこかで思っている……それに彼女がまったく劣勢だなんて思えないわ……
彼女の武芸が人々を魅了してるんだろう……彼女はあれだけ平然としているが、光はどんどん明るさを増している……
ニアールの爺さんがまだ若かった頃を思い出すよ。
(斬撃音)
な、なんということだ!オレは夢でも見ているんだろうか!
マーガレットのウォーハンマーが振りかざされる度に、光が放たれ相手のアーツを尽く駆逐していく!耀騎士が踏み込んだ亀裂からも尽く光が満ち溢れていく!
なんと不思議で目が奪われるアーツなのだろうか!何なんだあの技の数々は!!
これこそがチャンピオンのなせる技!真なる騎士の実力だ――!!
(大歓声)
ふぅ……傷口が、痛くなくなった……これもお姉ちゃんのアーツのおかげなの?
(あんな激しい攻防を繰り広げてるのに、私に構う余裕がまだあるなんて――)
(複数の打撃音)
ガァ――!オレのハンマーが……!
武器がなければ、この手で、貴様を引き裂いてやる――!
奴を殺せ!
……
お姉ちゃんはおかしな表情をしていた、あれは一種の……哀れみ?
あの二人のサルカズの行いのせい?彼らが騎士と称されているせい?それとも……彼らと遭遇してしまったせい?
……マリア。
あっ、はい!
援護を頼む。
――うん!
やれ!
分かっている!
懺悔しろ。
――
――
――
(アーツの発動音と爆発音)
その時、会場は静まりかえった。
誰も試合が終了していたことに気づかず、騎士は勝利を誇耀せず、敗者の苦痛による呻きもなかった。
腐敗したサルカズたちは地面に膝をついていた――彼らは倒れなかったが、耀騎士もこの機に乗じて追撃を加えることもなかった。
彼女は上から二人のサルカズを見下ろしたあと、片膝をついて、二人に手を伸ばした。
……
サルカズはそれに応えなかった。
お前たちは己の運命をまだ諦めるべきではない。
いや……
……
二人の少女に負けを認めるのが至極悔しいのか、彼らはそれから一文字も声に発せず、立ち上がることもなかった。
マリア。
えっ、え……?
私たちの勝利だ。
(大歓声)
眼下の起こった出来事が信じられるだろうか!己の目を信じれる人などいるのだろうか!!
このオレですら信じられねぇ!突然試合に乱入してきた耀騎士!!この一切の行為を黙認した騎士協会!!オーマイ、これ、これって――
オレの長い解説人生でこんな出来事に遭遇したのは初めてだ!!国民院が今回の乱入をどう処理するかはわからねぇが、眼下のこの勝利が覆えられることはない!!
今――
(ミスター・モブ。)
(……いやぁ、やっと来てくれましたか。)
今ここに栄えある勝者を発表しよう!!
(アンバサダーさん、どうすればいい?)
(彼女の名を言いなさい。)
勝者は!若き奇跡のマリア・ニアール!及び、遥か遠い荒野から帰ってきた、誰もが知っている天馬、耀騎士!マーガレット・ニアール!!
(そうです、その調子です、ミスター・モブ、あなたの人々の情緒を盛り上げる実力は本当に尊敬に値します。)
(その調子で現場を盛り上げてください、あとで処理致しますので。)
彼女たちのために大いに歓声を上げよう――!!
(大歓声)
――
おいゾフィア!?どこに行くんだ?
マーチン!二人はどこじゃ――その、あ、あの子はどこじゃ?
本当にマーガレットなのか……なぜ今頃戻ってきたんじゃ?
で、でも彼女は仮にも追放者じゃぞ、せめてわしらに一声かけて――
わかったわかった、落ち着け、マイナも前々からこのことは知っていたのかもしれんな……だが今は、まずはここを出よう。
記者や観客ですぐに出入口が塞がれてしまうからな、先に裏道を探そう――耀騎士が我が家に帰れる道をな。
(大歓声)
耀騎士!!前大会チャンピオンの耀騎士だ!!
どけ、どいてくれ!写真を撮らせてくれ!!
おいおい、みんな!落ち着いてくれ!予想外の事態だとしても、今回の試合を正式なプロセスで最後まで終わらせなきゃならねぇんだ!
(次はどうすりゃいいんだ!?アンバサダーに連絡が取れないって?バカ野郎!VIPルームに行って探してこい――!)
ちょっと待ったぁ!あれは、あれはウィスラッシュナイトだ!ウィスラッシュナイトが観客席から直接ステージに上がって耀騎士のもとに走っていた――
ゾフィ――
(打撃音)
えええぇ――ゾ、ゾフィア叔母さん!?
バカ……なんで今頃帰ってきたのよ!?
――か、彼女はもしかして先ほど耀騎士に平手打ちをしたのか?ん?いや?ちょっと待てよ、これはこれで需要のある場面だ――
すまない、でも、ただいま。
……さっきの平手打ちはマリアの分だからね。
――!?
私の分はチャラにしといてあげる。
うん、手加減してくれてありがとう……でも、さっき右手でぶっただろう……もう大丈夫なのか?
……今はそんなことを言ってる場合じゃないわ、あなたは突然現れた、国民院は追放者がカジミエーシュに戻ってくることを許しちゃいないわ。
記者と国民院が来る前に、さっさと逃げるわよ。
い、今逃げるの?でも試合結果がまだ……
そんなの構ってる暇なんてないわよ!この人が突然乱入してきたことのほうがとんでもないことなのよ!
ニアール。
リズ、気を付けて!
……そう心配するな、ほらっ、私の腕に掴まって。
この二人のサルカズは……
安心してくれ、私の戦友だ、シャイニング、手伝ってくれるか?
うん。
……!
お……オレは気絶していたのか……これは治療アーツ?
誰だ……お前は!?
サルカズなのか、お前……お前は!そんなのあり得ない、サルカズのお前が?オレを治しているのか?
ひどい傷をされています、でもこの試合で負った傷ではありませんね。薬物が残した傷跡は取り除くことはできません、もっと自分を大切にしてください。
どけ――オレに触るな!グァ……
オレは……
……待て、お前は……お前はまさか……
――ニアール。
ああ、分かっている。
あの二人の無冑盟が今もこちらを見張っている……今は勝利に喜ぶ時ではない。
む、無冑盟?それってどういう――
逃げるの?ニアール?
――いいや。
勝利を収めた騎士が怯えて逃げまどう理由などない。行かせないのなら、試してみればいい。
ニアール、あっち。
ああ……コワルさんとフォーゲルヴァルデさんか。何か見つけたのかな?
何とぼけたこと言ってるの!逃げる裏道を準備しているに決まってるでしょ!
私と彼らの三人で雪崩れ込む観客たちを抑え込むわ、でも国民院ならその後きっとあなたたちの家に来るはずよ、その時は自分たちで何とかして頂戴――
――それとマーガレット!
ん?
おかえりなさい……本当に、よかった。
あとでいつもの場所で会いましょ、遅刻厳禁よ。
ああ……もちろん。
(ニアールが走り去る足音)
あれは……ニアールの家族?
彼女は家に戻ってきたからね、顔には出さないけど彼女は喜んでるよ、そうでしょ?
だから、彼女のことはひとまず放っておいてあげよう。彼女はあの耀騎士だ、ここカジミエーシュで、彼女をどうこうできる人なんていないよ?
うん。
私たちもあとで……アーミヤたちと合流しよう。
マーガレットは首を仰いだ。
かつての彼女はこの土地を至極嫌悪していた。
……マリア。
ん、なに?
……家に帰ろう。
だがここは、彼女の故郷だ。
……
……やっと来た。隣にいつもいる人はどうしたの?
……彼が次を務めます。
あー……そりゃまた残酷だね。
話はこの辺で、はやく答えを教えてください。
さすが仕事ができるね……でも答えはもう知ってるんでしょ、なのになんで私に聞くの?
……
アンタはこれからマシな暮らしができるかもしれないよ。
いいえ……私は追放された流浪の荒野で野垂れ死ぬか、あなたの手によって死ぬかのどちらかです。
……そうだね、その時は私のせいにしないでね。
もちろんです。
アンタの追放に国民院の工程は挟まれないから、今晩にもここを離れないといけないよ、何か言い残したいことはある?
……
シェブチックに小さい息子がいます、事件が起きたとき、彼はその場にいました。
うん。
そこでお願いしたいのですが……
……彼の口から永遠に真相が出ないようにして頂きたい。