
魔王……中々やるではないか。

だが貴様と傍にいる幼龍はどこからそのような自信を得たのか些か不気味ではあるが。

ようやく偽ることをやめたのですね。

今私と話しているのは誰だ?変質したタルラか、それとも若きコシチェイか?

我が行いを叱責し、我が人格を侮辱し、次々と我が脳内にある記憶を眼前へと押し寄せさせ――

それで私を屈服させ、私を縛り上げることができるとでも?

あるいは、炎国の龍斬りの剣とサルカズの薄汚いアーツにかかれば、私を圧制することができ、その後貴様のアーツが好き勝手私の体内を泳ぎ、この身体のために元ある「純粋」な意志を取り戻せるとでも思っているのか?

――貴様らの屁理屈も所詮はその程度か。

なのになぜそれでも私と敵対する?

貴様の傲慢は貴様の妄想を助長させ、転んだ姿をより醜くさせているのを自覚するんだな。

幼き魔王は、いくら幼くとて魔王だ。さあ、私を説き伏せてみよ、私の心を、「とある意志が彼女の身体を奪った」と、私をその中から振り解くように説き伏せてみよ。

くっ……!

事実、貴様もよく理解しているのだろう?

仮に記憶と感情が偽造できるのであれば、コシチェイはまことに存在しうるのだろうか?

仮にコシチェイが存在していなかったとすれば、どう説明する?

それがどうであれ今のあなたとはまったく関係はありません、コシチェイ。

私たちはあなたを倒します、あなたが何を経てきたからではなく、あなたが何をしてきたからで。

もうこれ以上この大地の人々を傷つけさせません。たとえあなたにどれだけの理由があろうと、チェンさんが言っていたように……

私たちは気にも留めません。

あなたがコシチェイだろうと、タルラだろうと。

……私の姉の中から出て行け。

……本来ならそう言いたかったが、それではお前に言い訳を与えてしまうのではないかと思ってな、もし言い訳を述べたいのであれば、裁判まで生き残ったときに述べるんだな。

アーミヤ、剣を持て、行くぞ!

貴様らは……よもや私が今展開してるアーツによって……惑わされたのではないか?

もう一度言おう、私を殺しうる者はもうこの都市にはいない。パトリオットを除けば、私を殺せる者はもういなくなった。

凍原の雪の悪夢、フロストノヴァも、龍門で死んだ、私の予想通りにな。

貴様らがその剣を二本携えようと……彼らと肩を並べられるはずもない。

どうやら貴様らに多くの錯覚を見せてしまったようだ。

仮にこの身体が拒否していたとすれば、私は何もできなかったはずだ。

なら今、私の身体は何を抑えているのだろうな?私には理解出来ない。

それを今から解放してやろう、かつて私が解き放った一切の滅びのようにな。
ドラコは剣に手を伸ばした。彼女は刀身に沿って指を撫でおろし、血液は刀身各所に塗りたくられた。
彼女は笑った。
チェンは言葉を発しようとしたが、身体がそれを拒否した。何かが彼女の喉の中で蠢いているかのようだった。
アーミヤは彼女にハンドサインをし、情景を彼女の脳内へ伝えた、チェンは気づいた、アーツだと。
チェンが口を開いて言葉を発すれば、彼女の唇にある温度は瞬く間に高まり、食道へと潜り込み、彼女の内臓を焼き焦がしてしまうだろう。
アーミヤは振り返ってタルラを睨みつけた、しかしアーツはすでに効力を発揮した。ドラコの声は熱く滾る空気の中で彼女たちの耳元で荒れ狂っている、しかしアーミヤとチェンはアーツにより沈黙を強いられていた。
チェンはすでに自分の肺がハチの巣のようにされ、呼吸が受刑の如く苦痛に感じていた。
ドラコのアーツはあえて人為的な表現方法と無意識的な生理行為を区分したのだ、だがチェンにはタルラ本人がこのアーツを全概念に効力を発揮することはできないと分かっていた。
そのためタルラは口腔を選んだ。赤き龍は二人に言葉を発するのを嫌ったのだ。
チェンは歯をかみしめた。
温度は上昇し続けている。時間の流れと共に、この一切合切が頂点へと達すれば、チェンもアーミヤも死ぬ。彼女らは己の身を覆う灼熱の空を切り裂くことができるからだ。

多くの命は私の目の前で散っていった、私は悲しみに暮れたが、それでも前に進むしかなかった。なぜなら、私が奉仕する偉大な国家は、鮮血を、死を、謙遜を渇望してることを知っているからだ。

其は消え、また出現す、其は崩壊し、また再建す、其は暴卒し、また蘇る。

「塩化した平原を行き、流血する山々をよじ登った、しかし害に遭うことはなかった。」

「なぜならかの剣は、かの国土は、かの臣下は、みな私を守てくれたからだ。」
(斬撃音)

ゴホッ、ゴホッ……腕だけで赤霄の剣術を繰り出せるようになったとは、もはや実物の剣などもう不必要なのではないか?

君も歳をとったな、老いぼれめ。何もかもを忘れてしまうほど歳を食えば、私の行く手を阻められるはずもない。

君のアーツは依然精錬としておる、だが肝心な本人は戸惑いまみれじゃ、だから手元が狂っているのじゃよ。

なぜまた私の邪魔をする?己の命を賭してまで私を生かせまいとしているのはなぜだ?

君はあえて後悔するほうを選ぶのか!

君はあれほど後悔してまだ足りんというのか、ウェイよ?

またチェン・ファイギを肉親と殺し合いをさせるつもりか?またコシチェイの思惑通りにさせるつもりか!?

わしらの時代はもう終わったんじゃ、ウェイ!

君は彼女らに私たちと同じわだちを踏ませまいとしているのだろう、私も同じことを考えていないはずがないだろ?

君はあの子を育て、この都市を堅守しながら、多くの生き死にをその目で見てきた、そして今あの子は去った、そのあとのことを彼女に無理強いさせる資格など君にあるものか?

感染者の一群と一人の若き警察官だけで事を成せると思っているのか?

少なくとも君が向かったところでいいことは起こらないだろうよ。

グレイ、私が殺人を犯したとき、迷ったことがあるとでも?

もちろんたくさん迷っておったさ。

……貴様……

いつまで私の邪魔をするつもりだ?

わしが死ぬまで――

――もしくは中枢区画が停止するまでじゃな。

あれを止めたのが影守だろうがウルサスだろうが、ファイギだろうが感染者だろうが。

あれが停止するまで、一歩もここから動けると思うな。

リン・グレイ!私に手を出させるな!

……なら手を出すがいい、ウェイ・イェンウ!貴様が次男坊のように自ら死にに行くところを見るぐらいなら、君に屠られたほうが心も安らぐ!

貴様ァ!

そこら中に奴らがいるぞ!

後退するな!前へ!前へ進め!奴らを押し出せ!追い出すんだ!

フェリーン、あとどれぐらい持つ?

……

この戦いに勝つまで、あるいは死ぬまでだよ。

誰にもアーミヤには触れさせない……彼女の戦いを邪魔させない。

タルラが死んだとしても、この人たちが散ることはないよ。そっちの隊はあとどのぐらいで動けるの?

それはつまりこの都市にいる遊撃隊たちとパトリオットに追随していた感染者たちのことか?

そうだよ。

せめてあと一時間は欲しい。

ならもう一時間生き延びよう。

あなたたちについて行くよ。行こう!

分かった!フェリーン、共に行こう!

遊撃隊よ……いいや、ボジョカスティの戦士たちよ、圧制されし者の戦士たちよ!進め!共に進もうぞ!

進もう!

この戦争の双方にあるものは、なんだと思う?

貴様らは感染者と非感染者、正義と非正義と考えているのだろう。

だが違う、それは誤りだ。

それが貴様らが私に勝てない理由だ。

この戦争の双方にあるものは、片方は個人的な目的のために感情をそこら中にまき散らし……この戦争が何のためにあるのかすら理解しようとしない芯を持たぬ者だ。

そしてもう一方は、ウルサスによって苦しめられ……目先のことしか考えない衆人によって苦しめられているこの大地に生きる人民たちだ。

気にも留めないだと?貴様に気にも留めない資格などない。ましてや我々のこの大地への熱愛がどれほど深いのか知る由もないだろう?

あの国家のために奮闘した戦士たちも、戦場で己の熱く滾る血をまき散らされた人々も、たとえ彼らが誰を敵と見なそうと、私は彼らを愛している!

彼らは己の信仰のために己の命を捧げてきた、たとえ偏見とその時の目先でウルサスに反していたとしても構わずにな。

なぜならこの大地は終始彼らを愛しているたからだ。

あの飽食に明け暮れてる官僚や貴族たち、信奉者と犠牲者を嘲笑っている市民や百姓たちも、私は愛している。

彼らの行いでこの愛情が擦り減ることは微塵もない!なぜなら愛は同様だからだ、同等だからだ、普遍的だからだ。

鉱石病に感染せずとも感染者のために戦ってきた者たちも、鉱石病に感染しても諦めずにいた人々も、みな愛しているのだ!!

彼らが命を追い求める姿は、あの何も成すことがない空虚な人生を送るクズどもと比べて、数千万倍も輝いている!

だがそれでも私はウルサスのすべての人を愛している。たとえ彼らが健やかだろうと脆弱だろうと、仁慈だろうと暴虐だろうと、節制していようと貪婪だろうとな。

ウルサスにとって、命とは同等だ、我々はみな同じくウルサスの砂粒なのだから。

一部の人々は生まれながらにして真っ当な暮らしを送る資格があった!だが彼らにはそれが送れない、それを選択することもしない。

なぜなら運命とは盲目だからだ、彼らはああいう理由なき苦痛に遭う必要がある、さすれば彼らはすくすくと成長するからだ。

一方、罰を受けるべき人々も存在する。

だがダメなのだ、何がどうであれ彼らの命は依然尊い、彼らが生きてさえすれば、川は流れ、物事は移り変わり、規則を実施することができる、彼らが溺れ死ぬまで、かの偉大さが再び築き上げられるまでな。

私は彼らすべてを愛してる。

生まれも、行いも、身分も、人格も問わず。

私はこの大地のすべての人々を愛している。

千年経とうが変わずにな。

!

――!
不死の黒蛇。
不死の黒蛇だ!

アーミヤ、アーミヤよ。なぜ貴様の目先はこれほど浅く、力がこれほど脆弱か分かるか?

なぜなら貴様は己側にしか立っていないからだ。貴様の視野はなんと狭隘なことか、貴様はどれだけの不幸を目にしてきた?

貴様はただ魔王の眼を借りて平常な情景を見ているにすぎん、それだけで貴様はあたかも見てきたかのように……

私が見てきた惨状は貴様が見てきた比ではない。

貴様はただ感染者という身分に甘えている遺棄されし者にすぎん、一方で私はウルサスのすべてを見届けてきた見証者だ。

私は貴様が目に見えないこの広大な土地を、嘆く人民を救うために生きてきた、だが貴様らはどうだ?

貴様らは目先のくだらない小事で頭を抱え痛哭し、救いを自ら封じた聾唖者にすぎん。

この大地で何が起こったか貴様に想像できるか?できるはずもない。

貴様が見た言葉、歴史と記憶はすべて私が感動した断片なのだ、貴様は運命が人々に傷を刻み込んでいる情景を目にしたことなどないだろう。

刻まれた傷は人々を殺す。私の身には数千万ものウルサスの同胞たちの傷が刻まれているのだ。

チェン・ファイギ。血の繋がった我が妹よ。貴様はここで私に打ち勝ち、ウルサスを敵とみなす、なぜならウルサスが貴様の故郷に侵入しようとしているからだろう。

だが己の姉にすら勝てないというのにどうやってウルサスに勝とうという?

ウルサスが戦争に巻き込まれようが、この戦争の結果がどうであろうが、どうでもいいが。

私が求めているのはこの土地が凝り固まりと内部消耗からの解脱をする事だけだ。この戦争が終われば、圧倒される側と、再起する側が必ず出てくる、それが軍事政府だろうと、新皇帝だろうと。

先代の皇帝はまさしく再臨されたウルサスの魂のようであった。

彼は享楽に溺れず、権力を渇望するも適切に距離を保っていた、彼は欲望の集合体などではなく、暴虐とも遠かった人物であった。

だが彼は戦争をもたらしてきた、ウルサスは戦争を必要としていたからだ、ウルサスは戦争を用いて彼の人民を成長させる必要があったのだ。

彼はまさしく名君であった。ウルサスのあるべき皇帝と称されてもおかしくはない。

だが貴様ら、貴様らだ、感染者よ。

「貴様はなぜ畜生の如く彼らの面前で跪き、尾を振り媚を売らない?さすれば彼らの赦しを得られるというのに。」

大地の人々に受け入れられたいのだろう?

もちろん受け入れられるとも……愛でられる花や虫のように飼料に食らいつけばいい、人の言葉を捨て奴隷となればいい、貴様らの四分の一を彼らに捧げ、彼らの好き勝手に振り回され屠られればいいだけの話だ。

さすれば彼らは貴様を無害な畜生とみなす、人の形に似た悪趣味だが趣のあるペットとなる、彼らの弱々しき力と悲しき尊厳を維持するための付属品になりえるだろう!

貴様らは息絶え絶えながらも、次々と新たな命が貴様らの寿命を引き延ばすために用いられる、貴様の一族はいずれそうなる、永遠にな。

――なぜならそのような愚かな者たちはこのような方法でしか許しと満足を得られないからだ、巨大な権力のシステムは貴様らと彼ら……主と奴隷両者の主従関係を安定させるために創造されたものなのだからだ。

ウルサスやこの私のように貴様らをこれほど平等に扱ってくれるものなどほかにはいない。我らは彼らがどれほど卑劣なのかをよく分かっている。貴様らを彼らの陰影の下に生かさなければならんことも。

もし彼らを悪と見なすのであれば、悪と見なすがいい。なぜならその悪は国を跨ぐにも十分で哀れな救いの精神を維持してきたからだ、そこにある命もな。

そして今日。

私はこれら一切を変革させる。そのための方向を彼らに指し示した。

この国のかつての統治者は、あの素晴らしき主君は彼らを同様に偉大にさせた、しかし彼の寿命も限りがあった、最後に感染者を豊かにさせることは叶わなかったのだ。

だが戦争は、彼らの非理性的な部分を満足させ、知恵ならざる部分を満たし、平凡な部分を非凡にし、冷血な思考を熱狂さへと変えた。

彼らはみな高尚となったのだ。

彼らを飼いならすためには、愚行を用いるのだ、知恵ではなく。そして我々は彼らの服従も彼らを統治することも欲しているわけではない。

私は彼らに再び尊厳を掴み取ってやりたいのだ。

未来のウルサスで感染者も同じように。

感染者と一般人、ウルサスと諸国に、再び崇高さと平等を与えてやりたいのだ。

そのために辺境の防衛軍と議会は必ず勝利しなければならん。私が戦争を仕掛けたのは、今すぐ結果を出すためでもあった。

時間が流れるにつれ、命は摩耗され、情熱は薄れていく、ウルサスが微かな火花を散らさない限り、この土地も人民もやがて腐敗していき、永遠に人々から忘れ去られてしまう。

そんなこと二度も起こさせるわけには決していかない。

私があえてレユニオンをここで瓦解させたのは、我が手中に集わせ、そして崩壊させたのは、きっかけを創り上げるためだ。

だが貴様らはそれを否定してきた、私がウルサスのために成す一切合切を否定してきた。

貴様らの浅い目先でこの先百年後の出来事を予見できるはずもないだろう?

感染者と一般人が共に仇を討つ情景が見れるはずもない、なのになぜ今のわずかな犠牲のために百年千年後の平和と栄光なる叡智を阻害できる?

貴様らはあまりにも青臭い。

貴様らはあの滅びの瀬戸際に立たされた苦痛を味わったことがないからだ。感染者はそこから抜け出し活路を得られるだろうが、ウルサスは今にもすべてが滅びようとしている。

貴様はかつてハーンの騎兵たちが大地を翔り、手に握る武器が互いにぶつかったときに発せられた山々を平定し、川の流れを変えるほどの甲高い金属音を聞いたことがあるか?

まるで悪夢のようなケシクたちのシャムシールが頭蓋骨を横切るときの悲痛な叫びを聞いたことがあるか?

数万ものルーシの勇士たちが放った轟く艦砲斉射により、尊大なガリアたちが血と泥土に藻掻きながらバラバラに跡形もなく消え失せた情景を見たことがあるか?

貴様らを責めるつもりはない、何も知らぬ者を責めるのは理不尽というものだからだ。

もしそれでも貴様らは己の愚行を実践し、ウルサスの再生を、ウルサス人民の一つの信念への団結を、ウルサスの新たな繁栄を阻止したくば……

ならば、私を阻止するがいい。このウルサスの化身なる私を阻止してみるがいい。

さあ、来い。