

まずいッ、アーミヤ!!

なっ……!一体何があった、アーミヤ!?

・何が起こったんだ!
・一体何が……
・ケルシー、なんとかしろ!

……こっちに来てくれ、Dr.●●。

これから私がやることは、決して誰にも言うな。

龍門のチェン警司!

もう警司ではない。

ならそちらの龍を見張っててほしい。あとで彼女をすぐさま収監するが。

何か問題は?

先にアーミヤを診てやってくれ。

よし。ドクター、腕を出してくれ。

・わかった!
・(腕を出す)
・嫌だと言ってもやらせるんだろ?

ああ。痛くはない、だが、何も聞くな。

この注射針を君の腕に刺しこみ、少しだけ血を頂く。ほかのことは聞くな。

自分のためだと思ってくれ。

これは……

聞くな。

彼女の言う通りだった、確かに痛みは感じなかった。
ケルシーはあなたの新鮮な血液を腰の計器に入れ、数秒後、彼女は淡い青色をした薬品をアーミヤの首に注入した。
アーミヤの呼吸もそれに従い徐々に穏やかになった。

どういうことだ!?

……うっ……!

効いてきたな。アーミヤ……起きてくれ。

あ……テレジア……さん……?

……いや、違う。私だ、アーミヤ。

ケルシー先生……私……

もう大丈夫だ、アーミヤ。あまり無理して喋るな。そろそろここを離脱する。もう大丈夫だよ。

はい。

……うっ……

うぅ……

うっ……グスッ……ううぅ……

・どうして泣いてるんだ?
・アーミヤ……
・(静かにアーミヤの傍に寄り添う)

うっ……ドクター……うぅ……うわぁぁ……

戦いはもう終わったよ。

うん……うん……

グスッ。

……涙が……ドクター、私最後まで我慢して……私……約束したんです……私……私も……

……ドクター……ドクター……

……Dr.●●……

チェン、こちらの飛行機がもうじきコントロールタワーに着陸する。一緒にここを離脱するぞ、タルラを連れてな。

本当に収監するつもりなのか?私はまだ……どう彼女を処すればいいかがわからない。

私たちはタルラが必要なんだ。ロドスはほかより先に彼女を捕縛しなければならない。

・そんなことしたら厄介事が回ってくるぞ!
・……
・君が何を言おうともう驚かないさ。

彼女が私たちに災いをもたらしてしまうと恐れているのか?

心配はいらない、Dr.●●。この件に関与すると決めたときから、我々はもうすでに滅びと隣り合わせだ。

二本の剣が今私たちの頭上にかけられている、一本は龍門が、もう一本はウルサス第三軍団が握っている。

……チェルノボーグ中枢区画の停止、龍門攻防戦への参戦、黒幕の発覚、この三つだけでも彼らが裏でロドスを十数回滅ぼすには十分だ。

もし龍門が我々を攻撃しようとすれば、第三軍団はどうすると思う?

彼らなら高みの見物をするだろうな。

あの軍服を着た殺し屋たちは私たちの艦が荒野で燃え尽きるのを見て、心の不安要素が一つ消えた安堵する。

逆も然りだ、龍門に登録されておらず、龍門の庇護下にないただの個人企業は、不明勢力の武装襲撃によってどこかで瓦解する。

龍門と関係がなかろうと、炎国と関係ないとは限らないだろう?

こちらがタルラを拘束していれば話は違ってくる。

たとえどちらであろうとロドスに手を出す際、自分たちの相手に「重要な証拠であるタルラを、奪取する。」というシグナルを出すべきなのか、一旦留まって考えるはずだ。

「我らはその証拠を奪い取り優勢に立ち、劣勢を抹消する」というシグナルをな。

我々の唯一の生き残れる道は彼らそれぞれの思惑次第だ。

ロドスは……ロドスはここ百年以内龍門の豪商たちとウルサスの旧貴族たちとの間に握手が交わされなかった可能性を幸運に思うべきだ。

彼らはタルラがこちらにいるおかげで互いに牽制試し合い、簡単に手出しできなくなっている。

リスクを冒してまで敵にとっても我にとっても極めて重要な証拠を奪うより、距離を保ったほうがいい。自分や自分の相手もその証拠から距離を保たれていると保証するためにな。

第三軍団にとっても龍門にとっても、一手間違えれば後がなくなる。彼らは所詮国家の代表ではないからな。

……第三軍団がすでにその結末を示してくれたからな、彼らは自分たちが犯した過ちのためならどんな代償だって厭わない。とてつもなく高い代償でもな。こんな賭け事などどの陣営とってもあまりに痛手だ。

だから、こちらは彼ら抑止する必要がある。彼らを利用して彼らが相対する相手の脅威から私たちを守らせるためにな。

タルラはロドスにとって極めて重要だ。少なくとも今は、な。

今生きてる賢い人たちならばその支点を探し出すだろう。タルラを抑えているロドスならなおさら積極的にその支点になる必要がある……

この事件がいつかそれほど重視されないときになるまでな。もしくは、彼らによって次なる嵐に巻き込まれるまでは。

・君には敵わないな。
・……
・とっくにその算段があったんだろ?

フッ……

飛行機が到着した。行こう、先にアーミヤとタルラを乗せる。

私と君は二番機だ。


このまま戦ってももう意味はないな。遊撃隊の連中が俺たちの命を頂戴しに来る。

撤退だ!この都市から離脱するぞ。俺たちの負けだ!俺たちはなんの意味のない戦争をしたんだ。

誰がないですって?

まだ生きていたのか……?

そんな簡単に死んじゃったら、私にあんたたちをついてこさせる資格なんてないでしょ。

理由だ。お前が俺たちのボスとしての理由をくれ。

ハッ、まだ分からないの?あんたはもう自由になったのよ、デカブツくん。

……なんだと?自由?なんのことだ?

今のあんたたちはもう誰の殺し屋でもなくなったってことよ。それにあたしはあんたのボスでもないし、ただあんたたちを誘っただけよ。

もう誰かのために人を殺さなくて済んだのよ、これからは自分たちのために戦争をしなさい!あ、もちろん、面白半分で殺しを楽しむヤツがいたら、そいつから真っ先にそいつの肋骨を胸からボンッしてあげるから。

もちろん、あたしが言いたいのは、あたしたちはもうあたしたちの剣やボウガンを利用しようとするヤツについていかなくて済むってことよ。あいつらはあたしたちを活かしたくないんじゃなくて、あたしたちが死ぬ前にもっとたくさんの死を道ずれにさせたいって思ってるだけ。

でもあたしはね!あたしは違うわ。お金って、いいものよね。あいつらもたくさんくれるしね。

でもあたしたちが生きてるのは、あたしたちがたくさん稼いでいるのは、あいつらが約束してくれた金銭を他人の墓の上に捨てて干からびさせるためじゃない。

あたしたちのことが気に食わないやつがいれば殺しちゃえばいい。自分の気に食わないやつも殺しちゃえばいい。あたしたちを殺したいやつも。ぜーんぶ殺しちゃえばいいわ。

誰かのためではなく。レユニオンのためでも、すべての魔族のためでもなく。

自分たちの命のために生きなさい。炎国の将棋を習いたいからでもいいわ、自分たちの好きなように生きなさい。

んでどーすんの?

……どうせ行く宛てもないんだ。

お前についていくよ。だが、変な小細工はするなよ、W。

それはできない相談ね、兄弟。小細工はあたしの専売特許なんだから。


終わったのかな?

よかった、今回も他人の友人に偽装して人を殺さなくて済んだぜ、それだけでも万々歳だ。

でもまさか、作戦計画では本来なら彼らを攪乱するはずだったんだが……

ありがとうよ、兄弟!よくやってくれた!さあ、早くここから離れよう!

(ウルサス語)礼には及ばないよ!

……今じゃ彼らの助っ人になってしまった。

ホーク、帰ったら一緒にコーヒーでもいかがかな?前回ぼくのクルビアでの任務の話をして……

あんときも俺とお前は同じチームだったろ。

そうだったっけ?

お前チームメンバーのこと憶えるつもりないな?

だっていっつもロドスのチームとして行動してないじゃないか。

じゃあ今回は……本当に誇りに思えるようないいことをしたんだな。


待て、子猫、あれはお前たちの飛行機か?何しに来たんだ?

あ、あれはたぶん……

おじさん、あれはタルラを連行する飛行機だよ。あ、行っちゃった……もう連行しちゃった。

……なに?お前たち、タルラを連行しただと?

いや。ロドスとてそのような権利はない!

我々は奴を裁かねばならん!奴を逃すわけにはいかんのだ!

ダメ……ダメだよ。

あなたたちは復讐をしたがっている、だからあなたたちにも資格はない。

私たちに彼女を裁く権利なんてないんだよ。

だがお前たちは奴を奪った。我らから奴を処する機会を奪った!

子猫よ、受け売りはよくないぞ……

憎しみは我らの血と共に流れている、奴のよって殺さされた無数のレユニオンと感染者の同胞たちの憎しみが我らの血を熱く滾らせているのだ、だから我らには奴を裁く権利がある。

だがほかの者にはない。決してな。

じゃあちゃんと公正に彼女を裁いてくれるの?

我らこそが公正そのものだ。タルラとて我らが手中から逃れることはできん。

じゃあこうしよう、おじさん。あなたたちに誓うわ、私たちは決してタルラを第三者に、あなたたちとレユニオン以外には渡さないって。

ではお前たちは彼女を連行して何をするつもりだ?

私にも分からない。でも誓うよ。

だって私も私たちがしてることは正しいって信じてるから。

もしそれでも納得できないんだったら、今私を殺せばいい。私はロドスを信じてるから、私が彼女の代わりになれればいいんだけど。

……何をバカなことを言ってるんだ!もう二度とそんなことは言うんじゃない。

はぁ、子猫よ、お前のそのロドスへの忠誠、我らのと何が違うと言う?私はお前を信じよう。お前は将来きっと立派な戦士なれる。

行くがいい!お前に免じて、一度だけロドスを信じよう。

だが、覚えておけ、たとえタルラでも、それともあの魔王でも……一度でも、一度でもやましいことをしてると我らに知られれば……

お前たちがこの大地で迫害と統治に苦しむ人々にさらなる苦痛をもたらしたと知られれば、我らはすぐにお前たちを探し当て、攻撃し、殺してやるからな。

特にあのタルラだ。奴を利用して悪事を働けば決して許さん。

でなければ奴の首を都市の最も高い場所で大尉を祀るために吊るしやる、ここで孤独に死んでいった大尉のために。

大尉はああいう結末を迎えるべきではなかったんだ。

じゃあ指切りしてくれる?

ん?ワハハ、いいだろう。指切り、だな?

うん。

……もし私の娘がまだ生きていれば、お前ぐらいの歳なんだろうな。

子猫よ、もしもう一人の少女が、あの魔王……あのコータスのことだ。もしあの子が本当に成し遂げられるのであれば、本当に歩み続けられるのであれば……

……お前も我らを信じよ、子猫。もしお前たちが困難に直面すれば、我らがお前たちのもとに駆け付けよう。なぜなら大尉は……大尉とエレーナ嬢は……あの子を選んだからだ。

お前たちの道がお前たちは正しく、我らは間違っていたことを証明してくれると願おう。

だが不可能だろうな。我らの成してきたこともまた正しいからだ。

そろそろ別れだな。

ロスモンティス!そろそろ……レユニオンの戦士たちよ、感謝する。そろそろ行こう。

もうレユニオンではない。

さらばだ子猫よ。さあ、行くがいい。

バイバイ、おじさん。


さらばだ!

……

行ってしまったな、兄弟たち。

だが我らはまだだ。まだ行ってはダメだ。我らにはまだやるべきことが残っているからな。


レユニオンリーダーからの返信が途絶えた。

チェルノボーグ中枢区画の運航も停止。第六第七及び第十二師団に通達、もし彼らがそれでも計画を逐次進行したのであれば、今にも……

止まれよ。

さもなくば我らが諸君らの足を止める。

……我らがそんなことをしても、なんの効果もないことは承知しているが。

だが今は諸君らにしかあの理性に欠けた戦争マシーンを止められぬ。

お前たちはもうウルサスの利刃と対抗できない。もう叶わないのだ。

……ましてや、お前たち、暗君の愚令にすら従順に従う走卒が我らに説教を吐く資格などあるものか?

(ガリア語)では君はどうやって己はコシチェイに惑わされたと知る?

その言語で私に話しかけるな……ガリアの時代はもうすでに終わったのだ!

奴らの言語で国家間の交流を行う時代は、もうすでに過去のものとなったのだ!一つの都市すらも残さずにな!

コシチェイは、彼はずっと貫いてきた、ウルサスのために貢献してきたのだ!

ウルサス人にそう謳われた先代の人々は諸君らの刃のもとに死したがな。

優柔不断はここまでだ、我らが諸君らの助けになろう。諸君らにしか頼めないこともある。

我々に国家を裏切れと言うのか?

若人よ……私によれば、諸君らが今なお独断専行することこそが国に背く行いよ。これから起こることに諸君らは選ぶことはできる、だがその結果を背負うのはウルサスだ。

だが今諸君らはそれを行った、なればわかるはずだ、貴族たちが戦争を引き起こしたのにはただある問題を解決するためだと、だが戦争は、戦争はもっと惨いことになることも。

諸君らは一体どちら側で己の血汗を垂らしてウルサスに安寧を築きたいのだ?

諸君らは自分たちであの時代を終わらせたのだ。諸君らなら我ら以上にそれを理解しているだろう。

――

ウェイ・イェンウの走卒め。どうやって我らを探し当てた?

そこは我らの実力よ。諸君らはまだまだ学ぶべき物事が多いな。

私を脅しているのか?

いいや、我らはただ……歳なのだよ。

それに、諸君らは国家に忠誠を誓っていると自負しているが……

あることに関しては、諸君らの目に映る我らが忠義であるか否かは別として……我らは手出しはせぬ。

お前の言う義とは何だ?

我らには成しえないこと。

(ガリア語)互いに一歩退こう、若人よ。

皇帝の親衛は新鮮な血を得られるのだろう。であれば諸君らなら我らより長生きするはずだ。仮にこの事件がまことに過ちであったのであれば、諸君らにはまだそれを正す機会がある。

もし本心でそれのためと思っているのであれば、同じ轍を踏むことなかれ。

……

ではどちらが解決しに行こうか?

我らが行く。お前たちは自分の連中を止めに行け。

それと、老いぼれ……お前たちはもう親衛軍ではないのだ。余計なお節介は遠慮して頂きたい。

とっくに親衛軍ではなくなったから、こうして世間話ができるのだよ。長生きするのだぞ、若人よ。

ではさらばだ。


頼む……頼む!

俺を殺すんだったら、一思いに殺してくれ!

……

あいつらに見つかりたくないんだ!あいつらはきっと俺を痛めつけて……あいつらはずっと……

根も葉もない噂に惑わされるな。

さっさと逃げろ!早く、でないと俺は……

盾衛兵に見つかるんじゃないぞ。

……ほ……本当に俺たちを見逃してくれるのか?

隊長はお前たちに生きていてほしいんだ。隊長もつかみどころがない人だったからな。

これからそういう人に見つかるんじゃないぞ。タルラの親衛隊にも盾衛兵にも。

……つかみどころがない人にもな。


あんたはここに残るのか?

ああ。

だがレユニオンはもう……

今のレユニオンの代表は、あの盾衛兵たちだろうともう務まらないだろうな。

彼らはもう自分たちをそう呼ばなくなったからな。

だったら……俺たちでレユニオンを変えよう。

俺たちがレユニオンとしてレユニオンを変えるんだ。

まだそんなことを信じているのか?

感染者はコケてもまた立ち上がると信じているからな。

その後の三十六時間以内に、チェルノボーグに潜伏していた第三軍団に所属してたウルサスの軍人たちは、忽然と音もなく姿を消した。
当然、彼らが果たしてウルサスの軍人だったのかは今となっては誰も知る由もない。
中枢区画を離れる前に、盾衛兵たちは多くのレユニオンの死体を発見した。死体は身元を証明できる品を何一つ携えていなかった、死体に刻まれた傷痕を除いては……
傷痕はすべて同一の投擲武器によるものだった。
姿なき犯人の彼らしか知りえなかった暴徒の謀殺は、まるでその場にいない陰謀家が発した声なき警告のようだった。
当然、盾衛兵たちの警告のほうがよっぽど率直であった。裏切者は必ず血の河にしてくれようという警告を。

炎国とウルサスの合同調査団がチェルノボーグに入って二週間後双方それぞれに調査報告を提出した。
報告では、いかなる証拠は、両国ともに此度の災害に対する画策及びその実行に関与したことを証明できないとのことだった。
最終的に、チェルノボーグ事変は感染者が引き起こした重大な人為的災害として認定された。
しかし、一連で発生した政治衝突により、各大都市でけたたましく議論され続けてきた感染者補充法案は議会の廃棄案の中に埋もれて数か月が経ち……
……その後の処分でほかの重要廃棄書類と共に年老いた書記の手動式シュレッダーにかけられた。
チェルノボーグ事変は、こうしてひっそりと事なきを得たのだった。


ひぃ……!

怖がるな。

……お前たちは殺しに来たわけじゃない。さあ、ここから離れるんだ。ここに残ろうなんて考えるな!ウルサス人はお前たちを探しまわる、お前が感染者だろうがなかろうが、そしてあの都市は誰一人いない空城になる。

……

つまり俺たちはあんたを信じるしかないってことか?

生きたいんだろ……生きていけるさ。

……生きていける、か。どこに向かえばいい?

……ああ。わかった。こっちだ。

私たちを恨むなとは言わない。でも、今後お前たちと同じ故郷を失った人たちに出会っても……恨まないでほしい。

兄弟!こっちに来てくれ。彼らを預ける。彼らは感染者じゃない。だから気を付けろ。

クラウンスレイヤー?お前はどうするんだよ!

じゃあお前はどこに……?俺たちはどうすればいいんだよ?

なぜまだ私についてくる?

だってお前はレユニオンの……

もう何者でもない。

……私はシラクーザに戻る。

なぜだ?なぜ……

私は弱いからだ。だから強くなる。

シラクーザを出て父の仇を討つためにウルサスに向かおうとしたとき、先生は私を止めた、私は弱い、私にはできないって言った。

先生は私を騙してるんだと思っていた、私に復讐させたくないがために、でもようやく先生の言ってることは正しいと今理解した。

私にはタルラみたいな頭脳も、先生みたいな技法もない、私はあまりにも弱い。

あまつさえ自分の今まで信じてきたものまで……利用された。知ってるか?タルラは私たちを裏切ったんだ。内情がどうであれ、レユニオンはもうおしまいだ。

私はレユニオンがそれで終わるとは思わないがな。

……龍門の人か?

ああ。だが私が話すことと私の出身は、関係ない。

あのタルラが頷いたどうかは置いておくとして、お前たちは気づくべきだ……たとえレユニオンがどうなってしまっても、タルラはすでに火を灯したことを。

その火がいとも容易く消えるとか思わないが。

それもそうか。そう言うのであれば、こいつらをお前に預けたほうがいいのかもな。

それは委託か?

信頼してると思ってくれれば。お前が私を騙してるのかどうかは知らないが、今はみんな家を失った、私はお前を騙したりはしない。

では、お前たちは私についてきてくれるか?

……クラウンスレイヤー……

ウルサス人……私たちは……ウルサス人だ。

ウルサスはただまだ私たちのような全ウルサス人を扱えるような時期にはいないってだけだ。

みんな、じゃあな。私と同じ過ちは犯すなよ。

若者よ……

あんた名前はなんて言うんだ、これからどこに行く?

「ナイン」と呼んでくれ。

そして行き先は最も火が燃え盛る場所だ。


やはりここにおったか。

やはりお前には隠し通せないか。

君がここに来る理由なんて一つだけじゃろ。彼らの悼みに来たんじゃろ。

あるいは自分たちへの悼みかもな、未だ現世で死を恐れている私たちへの。

君の剣はそうは言っていなかったが。

あのときお前の喉を掻っ切ってやればよかったものだ。

できぬことを口にするでないわい、ウェイの若旦那様よ。本気で殺り合えば、どちらが死ぬかはわからんものよ。

皮肉はよせ。

じゃが一二回皮肉ってやらんと気が済まん、友よ。ファイギは成し遂げた、あの感染者たちもな。

そろそろ思い改める頃じゃろ、なにせ君はあと一歩で龍門を滅ぼし、あと一歩で、多くの人々を戦争に巻き込ませてしまうところじゃったからな。

あれが必然的に起こったこととは思わんがね。たとえ龍門が一つの未来を選んだとしても、小さな出来事でその未来が捻る潰さる可能性もあった。あれは運が良かっただけだ、ただの偶然にすぎん。

都市が彼女を選んだのではないぞ、友よ。彼女が都市を選んだんじゃ、君もわしもそれを喜ぶべきと思うがね。

どちらとも言えよう。グレイ、都市が彼女を選んだとも言える。

たとえ都市が未だ彼女を受け入れられずにいてもな……

そういう似たような話は直接本人に言っておくれ。わしは先に失礼するよ、若旦那よ。

……待て、グレイ!

影衛は私を騙したのか?

はて?

――君の影衛とは、なんのことかな?

お前とリン・ユーシャが何かを企んでも何もおかしくはない。

君の影衛はもう過去の親衛軍ではない。彼らも今は同じく人じゃ。

彼らが忍んで君が再び過ちを犯すところが見れる思うか?

つまり、私が彼らに処理を当たらせた感染者は、今お前に……

シー。それは神のみぞ知ることじゃ。それに、君はわしらがそうすると知っていたでは――

あまりここに長く留まるんじゃないぞ。あの床に伏した老いぼれのトラが君に用があるって言っておったからのう。
(チェンが歩いてくる足音)


――ファイギ?

おや。もう来ておったのか。

リンおじさん。

その恰好を見るに、もうじき出発するんじゃな。

ファイギ、たまには顔を出しておくれよ。

……どうだろうな。

なら手紙を送っておくれ、君が外でも無事でいるようにと。

分かった、リンおじさん。

……

ここにはタルラの父が眠っている、それと……君の母親も。

彼らは終始自分たちが愛していたあの都市に埋められることはなかった。いや、君の母親なら、あの都市には愛憎が入り混じっていたな。

私はここの景色は忘れることはないんだ、ファイギ。この景色を見れば、彼らを思い出す……私の妹と、血の繋がりはなくともその繋がり以上の我が兄弟のことを。

二人ともここで眠っている。

二人の情熱が収まりきれないほど、棺は小さく、彼らの悔しさを口で表すことができないほど、言葉もまた軽かった。

だからここは無名塚なのか。

そうだ。ここは無名塚だ、フッ……名前というのは生きてる人にしか意味を成さらないからなのかもな。

――この大地で、埋葬というのは理想化の言い訳にすぎない、どんな墓でも最後には消え失せてしまい、安らかに永眠できる死者も存在しなくなるからな。

天災、戦争、廃棄など、理由は様々だ。その都市が消滅すれば、都市に埋められた死者たちもみな消え失せる。

広大な荒野に点在する無数の集落、その各集落の子孫が言う、自分たちの先祖の墓を見つけたことはないことを鑑みれば理解できるだろう。

埋葬方法の一つに道葬というものがある、移動都市の航路の一部を墓地に定めるんだ、そこへ死者の遺品を供え、循環して往復する巡航を一種の瞻仰としているのだよ。

私はますます健忘になってしまったようだ。多くのことを忘れてしまった、あるいは、多くのことを必死に忘れようとしていたのかもな。

だが私は二人のことは何があっても忘すれてはならんのだ。

……だから私は……二人のためにこの場所を選んだ。

……私は妹を連れて龍門にやってきた、そこで文月と出会い、龍門に逃れてきたエドワードとも出会った。

彼とは完璧に意気投合だったとは言えないが、あの男は知勇兼備で、度胸もあった。

暗中で龍門を統治していたコシチェイは私たちを目の上の瘤として見ていた。私たちも理解していた、奴を追い出さない限り……私たちも龍門も未来はないと。

ここは、この墓所は、龍門がかつて通りかかった最も遠い場所だ。

あれは私たちが協力してコシチェイに打ち勝ち、奴を徹底的に龍門から追い出したときだった、龍門はそのときここから数十里離れていた、希望に満ち溢れた都市が数々の明かり灯し、未来は私たちの帰りを待っていたんだ。

ここで、私たちはここで、酒をたらふく飲み、談笑し、笑いあった、後先考えずに馬鹿騒ぎをした。

あの病弱な老いたトラのアダムスが咳き込みながら彼の自家用装甲車をここまで遣わしてくれなかったら、あと少しで喉が渇くあまりに死ぬところだったよ、そのあと私もエドワードもこっぴどく彼に怒られたがね。

いや……あの頃の彼は今ほど老いても、病弱でもなかったな。それに今ほど人当りも厳しくなかったな。

だが、誰がそんなことを気にする?あのときの私たちはみんなそんなことすらも笑い飛ばしていたさ。

リンも笑っていたな……まるで手が血で染まらず……愉快な青春時代を送った少年のように笑っていた。

エドワードはロンディニウムで最も高貴な血族の末裔だった。私たちはその秘密を龍門に閉ざすことにした。しかしコシチェイはすでに彼の身元を知っていた、奴の計画はあのときすでに形を得たんだ。

奴は私の妬む癖な弟とロンディニウムの陰影に、エドワードと私の妹が……相思相愛だったことを知らしめたんだ……

私はやむを得ず妹の腹にいたエドワードの子を選択するしかなかった。

エドワードの死後、私はその秘密を十年も隠し通した、私の弟とコシチェイを除いて、誰もその真実を知り得なかった。だが今、エドワードも私の妹もこの世を去った。

いつしか、ここにも天災が降りしきってくるだろう、すべてが無と帰せば、ここに悲しき恋人たちが葬られていることという事実は人々の記憶から消え去ってしまう。私のために死んでいった二人は、やがて人々から忘れ去られてしまう。

……「コシチェイ」に会った。奴はお前と私が思っていた以上に邪悪だった。

想像はできる。

墓……

……母さん。

君の母親は君にそれほど感情は抱いていなかった、これは私のせいだ。彼女を守るため、私はやむを得ず彼女を炎国の貴族に嫁がせた。もっといい方法があったはずなのに。

過去のことはもう過去に置いておけ。

約束しろ、ウェイ・イェンウー。もう龍門を墓場にはしないと。

誓おう。

口先だけだ、信じきれん。

君に信じてもらう必要などない。ふん……だが……今回だけはもう一度私を信じてもいい。あのとき君を鍛え上げると言ったときのようにな。

――

お前はよく私を鍛えてくれた。お前がいなければ、彼女は救えなかった。

それは良かった。

ここ十年間私に話しかけた言葉を全部足しても、今言った言葉ほど多くはないな。

まだ足りないと言うのか?

私が言いたいのは、チェン・ファイギに対して言った言葉のことだ。チェン警司にではなく。

ハハ。

じゃあ私は行く。

君の姉のことだが。君はどうするつもりだ?

……私はもうタルラに親の情を抱く資格はない、残ったのは彼女へのやましさだけだ。

ならこれから一生やましい思いを抱きながら生きるんだな。

私たちはこの大地にある離れ離れにされた兄弟や姉妹の内の一組にすぎない、それにそのほとんどは生涯再会できていない。

だとしても、私は彼女を見過ごすわけにはいかない。今でも理解しきれていないんだ、今の彼女は一体何なのかを。

罪を犯した者にはみなその者に相応しい牢が与えられる、だが今の龍門はまだ彼女を収監できる場とは言えない。

それは私では作れん。感染者も一般人も隔てなく収監できる近衛局を作れるのは君だけだ。

私である必要はない。自分のやるべきことは自分でやる。

私はもう真実を見極めた、たとえこの事件がどれだけ正しかったとしても、龍門の市民たちがそれを受け入れないのであれば、受け入れないままだ。スラム街で嫌というほど見てきた。

タルラについては……どれだけ時間が掛かっても構わない。私が必ず彼女を公正に裁かれるようにしてやる。

……成長したな。

お前にそんなことは言われたくはない、ウェイ長官。お前の言葉はロクなものがない。

私が龍門に代わって君を止めようとしても、無理なのだろう?

ハッ。

もし君もタルラもここに帰りたいのであれば、龍門から君たちの元へ赴こう、赴ければの話だが。

我々では成しえない多くのことは、この先彼らが成し遂げてくれるだろうな。

私はお前に忘れてほしくないだけだ、当時お前が構想していたあれらのことを。それだけでいい。

文月おばさんによろしく伝えといてくれ。

そうだ……

……その。

……伯父さん……

元気で。

……

ファイギ!
チェンは少し戸惑ったが、振り向かなかった。

なんだ?

道は長く険しい。だが、君なら、きっと乗り越えられる。

心に刻んでおくよ。


それで、本来ロドスに言い渡すはずだった二つ目の条件とはなんだったんですか?

……

ロドスを利用してレユニオンの脅威を排除後、彼らに連れて行けるだけの感染者を龍門から連れ出させる要求だった。

彼らに土地と、物資を分け与えて、彼らが欲しがっていた研究資料と資金をも提供するつもりだった。

彼らなら拒否できなかっただろうな、私が提供するこれらがどんなに呑み込みづらかったものだとしても。

以前の私であれば、今のこうしていただろう。

迷わず、顧みずにな。

今はどうなんです?

……フッ。世は変わった。であれば私も変わらねばならん。

直接彼らに礼を言えばいいじゃないですか?

……

今のあなたにそんな損得を考えさせられるものなんてないでしょ、原因は、あれでしょ。

チェンちゃんのことでしょ。

それで条件も変わったんですよね?

龍門の感染者は龍門に属するからな。

ではチェン・ファイギはどうなんです?

彼女には彼女の道がある。

様子を見に行ってあげたりしないのですか?

龍門の長官はもう感染者組織とはいかなる関係を持たないと誓約したのでね。

ふんっ、いけずな人。

じゃあこれから私がちょくちょく様子を伺いに行きますので。

ああ……頼む。

あの時奴は私に妹か義弟かを選ばせた、そして私は妹を選んだ。私はもう彼らを苦しませまいと誓ったはずなのに、なのに……
誓いは果たせなかった。
だが今は、もうあの時とは違う。私はもう選ばん。
コシチェイは間違っていた、私に選択の余地など最初からなかったんだ。ウェイ・イェンウー、君が歩める道は一つだけだ。
たとえそれが肉親を殺さねばならん道だったとしても。
妹の二人の娘のため、私たちが夢見た龍門のために。道はその一本だけだ。

(ファイギ……しっかり生きるんだぞ。)

数週間後
(無線音)

親愛なるオペレーターの諸君、ケルシーだ。

我々の並みならぬ努力のもと、チェルノボーグ事件はついに比較的平和な方式で終わりを迎えた。

……

痛い?

痛ッ……ツンツンしないで!ツンツンしたらそりゃ痛いよ!

あ。ごめん。

まあいいわ……どうかしたの?

どうもしないけど。

あれあれあれぇ?まさか子猫ちゃん……昔の君は……昔の君なら隠し事はしないはずだったんだけどなぁ!

それっていいことなの?

え。あぁ!もちろんよ!Scout見てる?ウチらの子猫ちゃんがまた立派になったよ。成長したよ……!

大きくウウゥ……

や、やめてよ……忘れたくなっちゃうでしょ……!

……泣いてるの?どうして泣いちゃったの?

ウワァァァァァ……

……泣かないで、泣かないで……ブレイズ……泣かないでよぉ……

エメラルドシルバーも……Aceもきっと見てるよね……子猫ちゃんが……子猫ちゃんが立派に成長したところを……

……ブレイズ……

ウワァァァァァ……!

もう!


……多くの真実は永久にチェルノボーグの廃墟の下に埋もれてしまった。

なぜならこの大地は相も変わらず無情だからだ。

しかし、ロドスは決して忘れない。たとえ我々がどれだけそれを重みに背負おうと……決して忘れてはならない。

ロドスのオペレーター諸君らは、誰かのためでも何かのためでも命を差し出したのではい。


わぁ、この外用薬、本当にすごいです!

似たような特許はもうすでにたくさん見かけますけど、でも特効薬としてのこの外用粉末薬なら、まだ市場が残ってるはずです。

肝心な点として、効果は薄いですけど、製作コストはずばぬけて安い……成分を分析したらよく見かける野生の植物由来ですし。

ただ収集がちょっと厄介ですね、西北凍原の西と東、あんなに長い距離の両端に分布しているなんて……

この薬を発明した人は、医学知識よりも、それ以上にガッツがある人だったんでしょうね。

どこでこれの特許を取得しましょうか、アーミヤさん?

……ウルサスで取得しましょう、それにもっと廉価にする必要がありますから。

でも、ウルサスはこういう医療技術は欠けていないはずでは?

ウルサスにはまだたくさんこれを必要とする人たちがいますので。

では薬名はどうしましょう?

では……フロストノヴァと名付けましょう。

アーミヤ?私に何か用かい?

あ、Dr.●●!

ではMedicさん、ワルファリンさんと一緒にお願いしますね。

は、はい、お任せください!

ドクター、すぐ行きます!


我々があることに身を投じているのは、結果を見るためではない。

我々があることをやっているのは、それを成すためにやっているのではない。

ビジネス面において、そういった策略は愚策と言えよう。しかし我々の命はそういった物質面だけの命ではない。

勇敢なオペレーターたちが彼らの行いですでにそれを証明してくれた、命とは、命の価値とは一個人あるいは多数人の生存を確保するためにあるのではないことを、生きているという生物学的定義だけでもないことを……

その上我々は文明における道徳的な意味においても、生きらねばならない。なぜならロドスは堅く信じている、未来の命には支えが必要であることを。

我々はこの大地の傷を癒す信念のために奮闘しているんだということを。


また任務か?

ああ。メテオリーテと一緒にな。

では新人を連れて行ってくれないか?こっちにまだ教育が必要なヒヨッコたちがいてな。

しかし、いいのか?今回の任務はそう簡単なものではないぞ。

ジェシカとフロストリーフが巡回任務に当たっているわ。彼女たちに連れて行ってもらったほうがいいんじゃない?

ジェシカが?大丈夫なのか?

いい加減彼女の成長を見届けてあげるべきよ。

彼女が成長したからこそ、ほかの人たちにプレッシャーを与えていないか心配しているんだ。

じゃあ私なんかとっくにニアールにペチャンコにされているわね。

……私……そんなに重いのか?

そ、そういう意味じゃなくて。もう。


この信念を抱いているからこそ、犠牲となってしまった者たちが出てきてしまった。

――Ace小隊、計十三名。Ace、バッドトム、カーガー、クリンカータイル――

――ウッドディッパー、セブンティーン、コッパーノーズ、グリーンビーンズ、ダークシルバー、コード、ビーンズペースト、パープルフレイム、キャビティー。

アーミヤ小隊、計十三名。ブラックニードル、ソフトハンド、スパイシージミー、デストルドイヤー。

アングリーロール、ワカヒル、マルコ・スミス、チョウ。

ラージュヘッド、フロストノヴァ、アントニオ・リサ、フィールドエンバー、フェイ、インジルビン。


フロストノヴァを死亡リストには入れられない。

・何故!?
・……
・理由をくれ。

君が同意したところで、彼女は我々の正式な人員ではない。

一人のレユニオンを加えることで怒りで煮えたぎっているオペレーターの胸中に軋轢を生じさせるつもりか?

越権行為としても大概が過ぎる。

同じ目標のために戦った仲だろう。

理由はそれだけか?

それだけで十分だ。

ロドスは同じ信念のために戦っているんだろう。

わかった……

加えてあげよう。君は己の責任を背負いこんだんだからな。

……今後の君も、今のようであってくれ。

――以前のことについてだが、すまなかった、Dr.●●。

君は石棺区画で最後に私に質問したが、その答えは出せない。たとえ明日になっても。未来でも。

残念に思うかもしれんが、私は何も真実を隠したいのではない、ただ君の欲しがっている回答を答えてあげられないだけなんだ。私もPRTSもどう君に説明してやればいいか未だに見当がつかない。どうか私たちのこの過ちを許してくれ。

だがその日が来れば、答えは自ずと君の目の前に現れる。

ドクター……

その日が来て、真実が明かされた時、その時君は覚悟できてるのだろうか?

それともう一つ、Dr.●●。

アーミヤはあまりにも多くを背負いこみすぎた。これ以上彼女によくない思い出を……増やさないでほしいんだ。

それとは逆に、私たちは彼女に代わって私たちでも直視できないそれらを背負い込むべきだ。私たちならきっとできるさ。

君がここに留まっていてさえくれれば。君がずっとそのままでいてくれればきっとな。


Scout小隊、計十三名。Scout、ムラム、カクテル……

……スリンカー、ミミ、レイファ、ソラナ、マリー……

……サムタック、ユラン、ロングトーン、プータル、スコーピオン。

ロスモンティス小隊、計一名。エメラルドシルバー。Raidian小隊、計一名、チェリー。

計四十一名がチェルノボーグ事変で犠牲となった。

ロドスは決して忘れない。ロドスは永遠に彼らの名をここに刻み込もう。

たとえロドスが存在しなくなろうと、彼らがロドスのために成したすべては、この大地に軌跡として残っていく。


ドクター……

話したくないんですか?

……わかりますよ。この短い間あまりにも多くのことが起こってしまいましたからね。

でも、ドクターが傍にいてくれるだけで、私……すごく嬉しいです。

一人だけではどうしてできないことがありますからね。

でも私たちは成せられるからそれを成しているわけではない。

はい!

ロドスは……たとえこの先どんな暗闇が私たちを待ち受けようと、ロドスは進み続けます。

それに、たとえこの大地に冷たい物語がどれだけあろうと……

……私はドクターの心は温かいって信じてますから。

・もちろんさ。
・……
・もし私が実は悪い人だったら、どうする?

もしそうだとしたら、ドクター、そうだとしたら私がドクターを止めますから。
(もし私が実は悪い人だったら、どうする?選択時のみ)

おかえりなさい、ドクター。

ただいま、アーミヤ。



彼女なんか喋りました?

いや、君たちが彼女をここに連れてきてから、全然……一言も喋ってくれないよ。

それにしても落ち着きすぎでしょ。それとなに……チェンさん、だっけ?彼女が来ても、なーんも喋ってくれない。

じゃあどうすればいいんですか?

そんなのこっちが聞きたいんだけど?私アスカロンじゃないんだしさ……それに現時点で喋ってほしいことはぶっちゃけないんだよね。

踏み込んだ情報も、使いどころは見極めないとね、多分だけど。あーもうめんどくさいなあ、ああいう人は私の専門外だっていうのに……


あの龍門近衛局の方たちは何なんでしょうか?

何よ?アンタ初めてロドスに来るわけじゃないんでしょ、なにソワソワしてんのよ?

小官が昇進したあと、他からロドスとつるんでるんじゃないかって言われたくないだけですよ。

逆にMissyはまったく気にしてないんですね、もはや観光しに来てるみたいですよ。

アタシに指図できる人なんていると思う?

それもそうですね。お金持ちの言うことは違いますね。

ん……?ウェイ長官の執務室に誰かいる、あの人……誰かしら?


……青い髪の色をしたサンクタ?いやサルカズでしょうか?

うわっ……ちょっと!か、彼女すごい怪我をしてるわよ!

待ってください!入っては……ウェイ長官も中にいるんですよ。

Chief、お客さんが来てるよ。

ここにいる人たちはみな信頼に値する者たちだよ。それよりも自分の怪我を心配したらどうかね。

外のお二人に盗み聞ぎされてもいいって言うんだったら、私の傷なんて大したことじゃないよ。

でも今度は何用かな、ラテラーノのトランスポーターよ?

ラテラーノの正式トランスポーターじゃないけどね……

(ただ、教皇からあなた宛ての伝言を預かっていてね。)

ホシグマ!スワイヤーを外に出せ。

あ、イエッサー!

ちょっ!なんでアタシだけなのよ……

よし。

ではトランスポーター君、話してくれたまえ。

……えっと……(ラテラーノ語)

「今朝は何を召しあがったか?夜はまた何を召し上がるか?」だってさ。

……妙だな。彼はどうやって私の考えを知ったのだ?

多分だけど……あなたがChiefだからじゃないかな、ミスター・ウェイ。


あれは非公式訪問だろうね。あのトラとオニ……きっと元同僚の様子でも見に来たんだよ。

だとしたら、この調子だと、下手したらウルサス皇帝の親衛もロドスに散策しに来るハメになるのでは?

彼らが来たあと、あの……病人に、なんか効果はあったんでしょうか?

ぜーんぜん。

ありゃケルシーがどう考えてるか次第だね。あ、ちょっと監視室に行ってくるから、君はあのカメラの下に立っててね。ほら早く早く~


タルラよ。

人とは脆弱で、複雑で、エゴな生き物なのだ。

瘤獣のほうが人よりもはるかに尊い、あの獣たちは大地で餌を求め続け、歩み続けている、毎日欠かさずにな、あの種族は決して途中で諦めることはしないのだ。

だが人はそうではない。

人は食料のために同族同士で殺し合う。己の欲のために同類を侵害する。

だから、人は他者に己の価値を見つけ出し、それを発揮させる必要がある。君にはそういった素質も、権利もある。

君は自分のやるべきことが分かっているはずだ。君のすべては私が教えたのだからね……君はどうやってその積み重なってきた重厚な歴史を超えようというのだね?人類の歴史を、即ち闘争の歴史を。

知識も、理想も、それに方法も……すべて私が君に教えた。幻想など諦めなさい。君はどうあがいてもいずれ私のもとに帰ってくるのだから。

君の終着点は私なのだから。

コシチェイ……いいや、コシチェイ、私は決して諦めない。
貴様が私に与えたこれらは、とっくに私の中で根を張った、だがそれが私の永遠の傷痕だとしても、過去にあったすべてはもうすでに終わってしまった。
もう……終わってしまったんだ。
いや……貴様がもたらした何もかもこそが終わらなければならないのだ。
貴様が私に植えたあの醜さや羞恥さは……すべて私の燃料となる。私の未来のための燃料に。
私はもう貴様を否定はしない、コシチェイ。貴様を反対することも。
すべての不当が消え失せるまで、すべての罪悪が死ぬまでな。
私は必ず成し遂げてみせる。たとえ私たちの終着点が同じだったとしても、私がその終着点を灰燼で埋め尽くしてやる。それで私が焼死しようと構わない。

逃げ出してどのぐらい経ったのだろうか?
あぁ、面倒だったからな、もうすっかり数えてすらいない。
しかし、いくら逃げようと、逃げ切ることはできない。
釘を打つ側が釘に金槌を探してもらうわけにはいかないように。金槌としてあるのであれば、ただ振り下ろすだけだ。
そして今がその時なのだろう。


ヴィーナ!こっちに来てくれ。話したいことがある。

……わかった、ケルシー医師。

だがちょっと待て。先に聞いておこう、準備はできたか?

わからない。だが、これでいいのであれば、準備ならもうとっくにできているさ。


陛下……

本事変の報告書でございます。

――なぜこのようなことが起こった?

……親衛の中に裏切者でもいるのか?

ヴィッテ、包み隠さず我に答えよ。

我の胸元は、まさに久しく着火されずにいた冬の暖炉の如し、誠実な言葉でのみ朕の心臓は再び鼓動せんのだ、たとえ朕の心を傷つけてしまうような不快に思う事実であっても同じよ。

いいえそのようなことは。親衛が裏切ることなどありません、陛下。親衛はいつまでも陛下のために尽くしております、この大地が炎に飲み込まれるまで――陛下がいつまでもウルサスの君主であらせられるまで。

世辞などよい。もし親衛たちがあの老いた怪物の死を傍観だけで済まずにいたとすればあるいは……

……もうよい!これ以上の体面話も、世辞も、もううんざりだ!ヴィッテ、貴様はピエロではない、そうであろう?なら簡明直截でいこう、ヴィッテ、率直に答えよ!

このような拙劣な陰謀を企てた首謀者たちの名を言え、奴らは今どこにいる?

――

バイカル大公、第三集団軍副師団長兼任のカニフォル総督、及びケルク子爵でございます。

しかし、こちらは未だ彼らがこの事変を策略した首謀者である十分な証拠は掴めておりません。

また親衛がこれらの罪人を懲罰するにあたって、彼らの住居に侵入し彼らを己の自宅内で吊し上げようとした時、その時……

その時、あの叛徒たちは、自分たちが犯した罪と陛下の震怒と対面できずにいる場面を発見致しました。懲罰を受ける前に、彼らはその罪に恐れ自殺したのです。

懦夫どもめ……なんたる懦夫か、奴らには公正な審判と直面できる勇気すらなかったとは。

どうやら自覚していたようだな!自分たちが裁判にかけられれば、その下賤極まりない貪欲さが、至極汚らわしい思想が、すべてウルサス人民の面前に晒されてしまうことを!

だが我々は……もはや奴らを公正に裁くことすら叶わなくなってしまった。

ええ、陛下。誠に遺憾ながら、一連の件は舞台上に晒すのではなく、舞台裏に仕舞われたほうがよろしいかと。

愚かな獣を急かせば、餌である草以外のものにすら口を付けてしまいますゆえ。

なので、彼らの残された部分、とりわけ身体の一部分は、親衛たちがすでに適切に処理致しました。

彼らの屍は家屋の梁に吊るされ死臭を放ち、彼らの腐った遺体を下ろそうと試みる輩は誰一人ございませんでしょう。

もし彼らが成功していたら、彼らはウルサスを戦火に引きずり込み、権力を再び取り戻し、議会の力を削ぎ落していたでしょう……もしくは我々の多くの都市をハイジャックしていたかもしれません。

しかし幸いにも彼らは失敗に終わりました。

国賊どもめ!あのような結末では生ぬるいわ、奴らを肉蠍の餌してやったほうが妥当であろう!

しかし……この懲罰はいささか恐ろし過ぎるな。いかんいかん。このような懲罰をするわけにはいかんな。

どうか我を許してくれ、ヴィッテよ、本心ではないのだ。

我々はもう同じ轍を踏むわけにはいかん、たとえ今の我がどれだけ我が敵どもに怒りをぶつけてやりたかろうと、こういった行為は、認めざるを得んが、我には忍び難い。

陛下は大反乱期であのような懲罰を拒否されました。しかし今日に至るまで、私めは依然思うのであります、血なまぐさい警告以外では、彼らを揺れ動かせないと。

より純粋な恐怖でなければあの他者に恐怖をまき散らす者どもを震撼させられまいと。

たとえ私めがそういった手段を取らないと固く心に決めたとしても変わりはありません。

不思議なものだ。

まさかこの悪辣な伝統でなくてはあの無知蒙昧で浅はかな阿呆どもを震撼させられまいと言いたいのか?

我らの帝国の剣と盾はあの蛆虫どもに握られておるのだろう?まさか我らもあの蛆虫どもと共に腐り果てなくてはならぬというのか?

陛下、誠に遺憾ながら、私めでは陛下のその問いにはお答えしかねます。法で定められたように、私めは陛下の問いにお答えできる正式な情報官ではござませんゆえ。

しかし重要なのは、ヴィッテよ、あの伝説は本当か?あの「不死の黒蛇」という、奴らの言うように、あれは本当に殺せぬ死神なのか?

仮に我らのこの広大な国土に、そのような死神が一人だけではなかったとすれば?我らの人民はどのようにしてあのような隷属から解放できるというのだ?

ヴィッテよ、我らは光の下に立っているが……周囲は暗闇により包囲されているようなものだ!たいまつ一つでウルサス全体を照らすことなんぞ叶うと思うか?

陛下、私めに一つだけ事実を指摘させてくださいませ。ここ数十年来、明らかにあの事変に痕跡を残した長命者は、終始あのコシチェイ公爵一人だけでございます。

しかし彼の死後、彼の身元は検証することは叶いませんでした。

つまり、たとえウルサスにそのような長命者が蔓延ろうが……彼らは依然と陛下を恐れております。

もしくは、陛下と陛下の睥睨を恐れているのです。

我々が鷹の統治を革め、今日に至るまではや千年近く経ちました。ウルサスの民の強靭さが老いたバケモノの一人や二人に屈することなどありません。

奴らが何かを企てるのであれば、好きなようにさせればよいのです。必ず失敗に終わりますゆえ。

我々なら必ず奴らを探し出し、滅ぼすことができます。ですので陛下がご憂慮なさる必要などございません。

そなたが言うのであれば、杞憂で済みそうだ。

それで感染者の件はどうなっている?進展はあったか?

どうかご焦燥すぎぬよう。西北の各軍が所有している感染者採掘場の閉鎖を世間の話題にするにはまだお早いです。

陛下は軍の物資や資源の削減をお考えになられていると思います、それが陛下の仁慈の表れなのでしょうが――

そうしてしまわれると軍はおろか、陛下の人民もそのことに反対されます。彼らが感染者を恐れているとはいえ。

陛下は陛下の人民と敵対するわけにはいきません、今はまだ時期ではございません、陛下の人民の大多数は感染者を憎悪しております、なので陛下が軍と対立すれば、人民との対立として歪曲に解釈されてしまいます。

今はまだそのときではございません。

……

それが正しい行いだったとしてもか?

それが正しい行いだとしてもです。陛下は感染者に大変ご寛容です、しかしそれが原因で彼らが坩堝に陥ってしまいます。

そろそろお時間です、陛下。佯狂者がすでに外で十五分余り待たされております。先にそちらの件を処理されたほうがよいかと。

フンッ、奇々怪々な狂人どもめ。存分に蔑んでくれるわ。

その前に、ヴィッテよ、我らは本当に成功するのか?本当にウルサスを再び輝かせられるのか?

私めにはなんとも、陛下。今ははっきりと申し上げられません。

少なくとも陛下は陛下の父君のようにこの大地を滅ぼすことはありません。この一点だけでも素晴らしいことでございます。

感染者のタルラ……か。

もしそなたは不死の黒蛇の呪いを打ち破ることができるのであれば、己の身にあるほかのものも打ち破れるはずだ。

……いつか、我々で先代のあの国に打ち勝てる機会が来ることを待ちわびておるぞ。

タルラ?
お疲れさま、こんな天気でも見張り役を買って出るとは。
お前はそういう人だったな。


君も知ってるだろ。私の火は私たちが冬を越す前に消えることはない。

(シーッ。声が大きいぞ……)

(二人とも寝ているんだ。)

(あっ……すまん。シー。)

(一日中訓練していたのか?)

(この黒い髪の子はボウガンの扱いがうまい。)

(ただもう少し大人になってからだな。)

(なら寝かせてあげよう。でも……)

(私は離れる。私の体温が冷たすぎる、でないと彼らが風邪を引いてしまうからな。)

(すまない。)

(いいさ。ただこの白い髪の子は……眠りが浅い。私が子守歌を唄ってやらんと悪い夢を見てしまう。だから彼が寝入るまで歌ってあげてるんだ。一体以前何があったんだろう。)

(時間が私たちの傷を癒してくれるさ。)

(君の父はまだ明日の戦略を練っているのか?先ほど彼と付近にあるウルサスの感染者輸送収集所を相談したんだが)

(彼には熟考する時間が必要なんだ、それで私たちの損害をなるべく軽減するようにしてくれている。それを毎回私に言ってくるんだ、お前も気を付けろって。)

(……もうこんなに夜遅くになっているのにまだ練っているぞ。)

(私も彼が寝てるところは見たことがない。一度もな。)

(いくら大英雄でも休憩は必要だ。ほかの戦士たちも大半は眠っているというのに。)

(彼を心配するより自分を心配したらどうなんだ。それにこの前連絡が取れた人たちがいると言っていただろ、名前はなんと言うんだ?どこの人だ?)

(リュドミラとアレックスだ。二人はどうやらチェルノボーグ付近で活動しているらしい、だからあの都市にも詳しいはずだ。)

(大都市だな。)

(ああ。それに多くの感染者たちもそこに潜んでいる、可能なら彼らも受け入れたい……戦略がうまくいけばの話だが。)

(リュドミラたちも芯のある人たちだ。きっと、彼らも私たちの頼れる戦友になれるはずだ、二人とも今は少々過激ではあるが。)

(毎月ウルサス軍とやり合ってる私たちより過激なヤツなんているか?)

(しかしチェルノボーグか。あそこは遠すぎる、しかもそこまで辿りつく障碍も多い。何年かかるんだ?三四年かけても辿りつけそうにないぞ。)

(私たちがあれと対抗もしくは停止させようとしなくても……あれは必ず私たちのもとにやってくるさ。都市感染者たちの力が加われば、自分たちの都市の建設も夢ではなくなるかもしれないぞ。)

(それに、三四年なんて……目が覚めればもう明日だ。明日はとても身近にあるものだぞ。)

(いい言葉じゃないか、私は好きだ。)

(お前も早く休むといい。)

(わかった、おやすみ。)

(……おやすみ、サーシャ、イーノ。)

(はやく戻りな。私はあとで子供たちを集落に送り返すから。)

(ああ。)

(戦友のみんな……)

おやすみ。

