場所は……ここで合ってるんだよね?
うん、住所はここで間違いないね。
うーん、でもさ、サイレンス、あの人本当にここを待ち合わせ場所にしたの?
ここって見た感じバーだし、廃棄されてるようにも見えないし……
なのに人っ子一人見当たらないよ。
確かに、お酒もきちんと整理されてる、お店の中も綺麗に保たれてるね。
これは変だよ、なんなら帰っちゃう?もうすぐ出発する時間なんでしょ?
いや、相手はアンソニーが脱獄したことを知ってるうえ、彼が私たちのところにいることも知ってる、それに……
それに?
夜には出発っと。
もう一回荷物でもチェックしよう。
(バイブ音)
ん?通信?
この都市に私の連絡先を持ってる人はいないはずなんだけど……
ちょっと待って、これって……内部チャンネル!?
……
サイレンスさんですね。
どちら様ですか?
私が誰だかは重要ではありません。重要なのは、アンソニーは今あなたのところにいることです、それにあなたは、彼が脱獄する際の協力者でもありましたよね。
……何のことでしょうか?
そう緊張ならさずに、こちらにはそれを証明できる証拠は持っていません、ただ悪意はございませんよ、でなければわざわざ内部通信であなたと連絡を取るような面倒なことはしませんからね。
要求はなに?
あなたとメイヤー技師にお越しいただいて少々お話をしたいだけです。
……
頷いてくれたとしましょう、では、住所は……
それに声を聞いた感じ性格が悪そうな人だった。
初っ端から性格が悪いって言われると悲しくなっちゃうよ。
誰?
ハァイ~
今日のバーは私が貸し切ったから、私たち三人しかいないよ。
私も普通のバーでお話したかったんだけど、他人に聞かれていい内容じゃないからね。
だからごめんね~
君は……
それじゃあ、お互い自己紹介でもしようか。
私は生態研究部の主任、ミュルジス。
あなたのことは知ってる。
あらっ、私を知ってるの?それは光栄だね。
先生が私に話してくれたから。
じゃあ、そちらの番だよ。
知ってるくせに。
もう、生活にも儀礼的なものだって必要でしょ。
……構造研究部、サイレンス。
技術開発部、ラボ・ルトラの、メイヤーだよ。
確か二人とも今はロドスって組織で働いているって聞いたんだけど。
なのにどうしてこの一件と関わったのかな?
……あなたとは関係ない。
まさか君はあの事件の黒幕……
ふふん、それはどうかな?
いや、違うと思う。
お?それはどうして?
私たちを見つけたということは、あなたはもう知ってるはず、アンソニーがすでにクルビア国内から脱出したことを。
もしあなたが黒幕だったとしたら、今私たちを呼んだところで意味なんてない。
うんうん、その通り。
もし私が黒幕だったら、今頃アンソニーの行方で頭を抱えているはずだからね。
でも彼らがそれだけで手を引くとも思えないけどね?そちらの護衛さんの実力もまだ分からないんだしさ?
……心配ご無用。
そっ、なら安心した。
え、でも、サイレンス、彼女が黒幕じゃなかったら、彼女は一体……
私にも何がなんだか。
でも、あなたもこの事件とは何かしらで関わっていて私たちからそれに関する何かを聞き出そうとしているのは確か。
さっすがは構造研究部のパルヴィス主任の門下生、賢いね、君のような人とのお話は好きよ。
話を逸らさないで、ミュルジス主任。
アンソニーはすでにクルビアを脱出した、彼の暗殺も失敗、今の私とメイヤーはたまたまクルビア辺境にやってきた一般人にすぎない。
一体私たちから何を聞き出そうとするつもり?
もう、そう緊張しないでよ。
私もただの一般科学研究員、そちらを脅すつもりなんてさらさらないよ~
ここのバーのドリンク結構美味しいよ、飲みながら話さない?
……
え、いいの、サイレンス?
まあこれぐらいなら、私も知りたいことがあるし。
分かった。じゃあそうだねぇ……私これが飲みたいな!
おっ、いいセンスしてるねぇ、このワイナリーが出したレースリング私も好きなんだ、度数は高くないけど、香りはすっごく芳醇なの。
そうなの?実はあんまりお酒飲めないんだよね……
それじゃあこそれとかどうかな、度数はすごく低いけど、味は美味しいよ。
ホント?じゃあ一口だけ。
はいよ、じゃあサイレンスさんは何飲む?
お水でいい。
もう、せっかくこういう場所に来たんだからもっと楽しいチャレンジとかしてみたら?
興味ない。
分かった分かった。
じゃあ、お二人さん、どうぞ。
どうも。
わっ、ホントに美味しい。
気に入ってもらえて嬉しいよ。
もう本題に入っていい?
もっちろん。
その前にこうしよう、多分、双方ともに疑問を持ってるはず、だったら一問一答方式で進めましょ。
もちろん、全部の質問に答えられるわけではないからね、つまらない言葉遊びはお互い気を利かせてスルーしちゃいましょ。
私に誠意があることの示しとして、一つだけ何でも質問してもいいよ、どうぞ~
どうやって私たちを見つけた?
最初の質問にしては……意外と軽いね、ホントにそれでいいの?もっと核心をつくようなことを聞いてくるのかと思ってたよ。
質問に答えて、ミュルジス主任。
はいはい。
信じるかどうかはそちらの勝手だけど、私とハイドブラザーズの追っ手とは無関係だよ。
ハイドブラザーズ……アンソニーに手を出した会社だよね。
そっ、彼らの来歴については、紹介しなくても分かるよね?
ハイドブラザーズ、過去にあった要塞都市建築の建材業界の巨頭、かつて別業界で台頭したサイモンコーポレーションと鎬を削ったという。
え、あそこって違う業界だったの?
うん、サイモンコーポレーションは元々物流業だったんだけど、ある理事会会議で建材業界にも進出するって決まったらしい。
企業名が名前からとったように、あの企業の上層部の大半はCEOスミス・サイモンの血縁者だった。
そして今回の事件の中心人物――アンソニー・サイモンは、あそこの一人息子ってこと。
とにかく、当時あの二つの企業は表でも裏でも激しい競争を繰り広げいてた、しかも噂では流血事件にも発展したとかなんとか。
そして結果から言うと、サイモンコーポレーションは競争に敗れた、それから、要塞都市及び周辺都市の建材業界の市場は事実上ハイドブラザーズによって独占された。
うんうん、その通り、予習はしっかりしてきたっぽいね。
それで、あなたたちはキャストアイアン市で合流したあとに追っ手を振り切ったわけね、さっすが、やるわね。
……でもあなたを振り切れなかった。
あはは、そうね。
彼らと以前一緒だったことは否定しないんだね。
うーん……とっくに気づいてるとは思うけど。
でもまあ教えてあげてもいいかな、確かに彼らの情報網を利用した。
でも仕方がなかったんだよ、そうしないと私が一番の負け組になっちゃうからね。
……
じゃあ、一問一答形式に入ろうか、そちらから質問してもいいよ。
いや、そちらからどうぞ、ミュルジス主任。
え、いいの?
何を企んでいるかが知りたいから。
分かった、私が今知りたいのは……
サイレンスさん、あなたの協力者がどうやってアンソニーに接触してアンソニーの脱獄を成功させたのか、その過程が知りたいの。
……?
事件はもう終わったんだよ、それなのにどうしてそれが知りたいの?
今回の脱獄の過程についてまだ分かっていない箇所があるからね。
私が知ってるのは、事件の発端――
――ハイドブラザーズがマンスフィールド刑務所で収容された、サイモン家唯一の生き残り――アンソニー・サイモンに長らく計画していた暗殺を実行したってこと。
それとその結果である――
――アンソニーを含む一味がマンスフィールド刑務所から脱出成功し、あなたたち二人と合流し、クルビアを脱出したことだけ。
その間に何が起こったのかについては、残念ながら、本来なら知るチャンスがあったんだけれども、もう無くなっちゃったからね。
だからあなたたちを通してその過程を知りたいってわけ。
そんなの不公平だよ。
安心して、たった一つの質問で全過程を交換するつもりはないから。
そちらが頃合いと思ったときに質問してもらっても大丈夫だから、私もできる限りその質問に答えるからさ。
もちろん、その際こちらにも追加の質問が出てくるかもしれないから。でもそんなに多くないと思うよ~
それに、この一問一答形式はまだお互いのことを理解していないからこそ提案した形式なの。
今後お互いの関係が良くなったら、話せる話題が無くなっちゃうでしょ~
……あなたと関係を築くつもりはない、それに築くにしても時間がかかりすぎる。
お二人とも今は「たまたまクルビア辺境にやってきた一般人」なんでしょ?時間ならたっぷりあると思うけどなぁ?
もちろん、このまま帰っちゃうのもよし、でも、一つ目、ここから出られる保証はできないよ。
二つ目、そっちがどれほど理解しているかは知らないけど、でもこれはあなたが唯一この私、この生態研究部主任のミュルジスから情報を得られるチャンスでもあるんだと思うなぁ、ホントにそんなチャンスを諦めていいのかな?
……私を脅してるのね。
あなたたちが最も傷つかないで済む誠意を示しただけだよ、サイレンス研究員。
……
分かった、本当にどうしても知りたいと言うんだったら話してあげる、こっちも時間はまだあるし。
あー、私はもう聞いたから、隣で設計案を作ってもいい?
いいよ。
カフカは……あなたの協力者の名前?
そうだよ。
あなたと関りがある職員名簿リストにその名前は載ってなかったんだけどなぁ。
彼女はライン生命のスタッフじゃないからね。
ライン生命は彼女を雇ってはない、それに彼女も科学研究に興味はないと思う。
へぇ、でもそれでどうやって知り合ったの?
きっかけがあったの。
でもそれはまた別の話、彼女は私の友人、今はそれだけ知っていればいい。
サイモン一族に関する情報はすべた彼女が収集してくれた。
へぇ?聞く限りじゃすごく有能ね。
それにあなたたちの友情にも忠誠なようだね。友人のために自ら犯罪者になって刑務所に入ってくれる人なんて普通いないでしょ?
それ相応の報酬を与えたからね。
それに刑務所に入ったのも彼女なりの目的もあった――
彼女なりの目的?
彼女が言うには、ずっと本物の刑務所生活を体験したかったんだとか。
……変人だね。
彼女から言わせれば、自分の生活体験のために私がお金を出してくれたようなものだから。
ミーナは、あなたたちのチームにいたリーベリだね?
そう。
今回の事件は彼女とは無関係だったようだけど、どうして彼女を巻き込んだの?
それについては私もよく分からない、カフカが言うにはミーナは以前アンソニーに助けられたことがあった、だからカフカと一緒に刑務所に入ってアンソニーを助けに行ったとのこと。
とにかく、彼女も私の要求を受け入れてくれた、そしてマンスフィールド刑務所に入った……
ロイヤルストレートフラッシュ!
アハッ、またカフカの勝ち!
チェッ、ツいてねぇ、おいカフカ、お前まさかイカサマしてんじゃねぇだろうな?
自分のプレイが下手クソだからって他人を責めるんじゃねぇよ、カフカの両手はがら空きだったんだ、イカサマなんてできっこないだろ。
そうだそうだ。
(小声)カードを持ってる姿勢が悪いのがいけないんだよーだ。
しかしまっさかなぁ。
ガキが新しく入ってきたと思えば、こんなにやり手だったとは。
しかもどこで俺のおふくろの話を拾ってきたんだ、お前のお友だちに、俺も加えてくれよな!
こらこらこら、何回言えば分かるの、カフカはもう成人だから!
はは、そうだぞ、レディって呼ばなくちゃな!
ヒューヒュー、レディカフカ!
おい、そこ、休憩時間は終了してる。
作業に戻れ!
でなければ今日は飯抜きにするぞ!
へいへい。
ったく、看守のくせに、偉そうにしやがって。
何か言ったか?もっと大声で言ってみろ。
トイレに行きたいだけです、看守殿!
なら我慢しろ!
ここの看守の態度ホント最悪だなぁ……
へへ、カフカよ、いい子ちゃんなお前に免じて、兄ちゃんが一つ忠告してやるよ。
お前がどこで何をしてたかは知らねぇが、マンスフィールでは、尻尾挟んで大人しくしといたほうがいいぜ。
それはなんで?
お前も知っての通り、ここは移動刑務所だ。
都市での補給と、囚人の収容以外、普段はいつも荒野を走っている、誰も管理しちゃいねぇのさ。
だからここでは、何を言おうが屁理屈だ、ここの看守たちが唯一の法律なんだよ。
言われてみれば確かに。
へへ、でも一つだけいいところもある。
それはだな、俺たちは外では人として扱われてねぇだろ。
だがここに入れば、誰だろうと人として扱われねぇ、A区にいる連中も俺たちと大差ない生活を送ってるんだよ。
それだけは嬉しくてな。
A区?
ああ、お前は来たばっかだから知らないんだろうが、感染者じゃない囚人はA区で収容され、俺たち感染者はB区で収容されてるんだ。
だから俺たちはA区B区と呼んで区別してんだよ。
へぇ――
へへ、それよりも、カフカ、お前はちょうどいい時期に入ってきたな。
なんで?
今日はビッグなお祭りがあるんだ、運が良かったな、間に合って。
ビッグなお祭り?
あとで分かるさ。
そうか。
そういえば、あっちにある部屋は何に使うの?
同じ工場に見えるけど、どうしてカフカたちと隔離されてるわけ?中に誰もいないしさ。
あっちのか?
ああ、あっちはC区専用の工場区域だよ。
C区?
真ん中の塔みたいなところにも囚人が収容されているんだ、俺たちはそこをC区と呼んでいる。
あそこは人は少ないが、全員何かしら重大な罪を犯した連中だ、基本的に一生あそこで暮らすことになってる。
あいつらも労働させられているが、俺たちと遭遇することはねぇよ。
全部あの中で済まされているからな。
へぇ……じゃああそこにアンソニーってヤツはいるのか?
アンソニー?なんだ、お前あいつを知ってるのか?
うーん、知ってるとは言わないかな、噂でここにいるって聞いただけだよ。
そりゃあそこにはいるけどよ……
おい、話はもういいだろ、準備はできたか?
始まんのか?待ちくたびれたぜ!
なんだなんだ?
(A区囚人とB区囚人が勢揃いする足音)
……
……
なあ、なんかみんな集まってきたぞ……
カフカ、お前は新入りだ、今日の参加はやめとけ、怪我しちまうからな。
手に持てるやつで自分を守っとけ。
そんじゃあ見せてやるよ、マンスフィールドで最もよく見かける集団イベント――集団喧嘩をな!