ぶっ倒れろ!
(殴る音)
ぐはっ、チクショー……
(殴り合いの音)
うわぁ、なあ、何が起こってるんだ、いきなり殴り合いが始まったぞ。
カフカ、隠れてろって言っただろ、なんで出てきたんだ。
(殴り合いの音)
大丈夫、カフカは平気だから、それより早く説明してよ。
チェッ、見りゃあ分かるだろ、感染者と非感染者がお互い気に食わないのはごくごく当たり前のことだろ、だから二つのパーティに分かれて殴り合ってるんだよ。
ごくごく当たり前なことなのは間違いないけどさ、看守に見つかったらどうすんのさ!?
看守ならあっちを見てみな。
(殴り合いの音)
チッチッ、やっぱ囚人ども殴り合いほど面白いもんはねぇな。
今日の当番は儲けもんだぜ。
はは、違いねぇ。
こんなクソみたいな場所での仕事の唯一の楽しみがこれだもんな。
(殴り合いの音)
おいもっと気合い入れろ、A区の野郎ども、こっちはちゃんと見張ってるんだからな!
(殴り合いの音)
見たか、一番楽しんでるのはあいつらのほうだ。
それにどっちが勝ってもしばらくの間は美味い飯が食えるようになるんだ。
楽しみも何も全部あいつらが独占してるからだろ、これやめられないのか?
(殴り合いの音)
やめる?カフカ、俺がここに放り込まれた理由を教えてやろうか?
俺を気に食わねぇと思ってる連中に一発ぶちかましてやったからだよ!
(殴り合いの音)
へへ、カフカ、この刑務所はこの大地で唯一感染してないクズどもを殴っても何も起こらねぇいい場所なんだ。
撲殺してもしばらく監禁されるだけで済むしな。
それに死んだら死んだで構わねぇんだよ、ここに入った時点でみんなおしまいなんだからよ。
チッ、話が長引いちまった、俺は戻るぜ、お前はちゃんと隠れてるんだぞ!
(殴り合いの音)
チェッ、このカフカも甘く見られたもんだよ。
でも、こんなところにも感染者と非感染者のいざこざがあるんだね。
それにあるだけじゃなくて、かなりグニャグニャに捻られちゃってるし。
外だとこういういざこざは結構見かけるけど、こういう場面はカフカでも初めてだ……サイレンスが見たらきっと卒倒しちゃうだろうね。
でもカフカは全然へっちゃらだもんね、えへへ。
むしろもっとゴチャゴチャしててもいいんだけどね。
殴り合いは勝手にやってもらうとして、カフカは漁夫の利ができるかどうか見てこよーっと、この先のためにも準備しておきたいしね……
(カフカが走り回る足音)
あれっ、誰かが食い残したご飯をこっそりと持ち込んでいるな。
(カフカが走り回る足音)
靴下も落ちてる……
(カフカが走り回る足音)
さっすが刑務所ってだけはあるね、やるべきことは今のうちにちゃっちゃと終わらせよう、でも使えそうなものはなさそうだなぁ……
それにしても……
死ねや、クソ野郎が!
(鈍器を振り回す音)
死ぬのはてめぇのほうだ!
(鈍器を振り回す音)
わぉ、激しいなあ、それに、ここの囚人たちも素直じゃないね、まさかこっそり変な武器を作っていただなんて。
もっと全力で殴ってもいいんだよ、それで落ちたものはカフカが拾ってあげるから、にひひ。
キャッ!
独りぼっちちゃんはっけ~ん、へへへ……
わっ、あの女の子が危ない!
女の子だったら助けにいかないと……
……
ぐへへ……
(起爆音とB区囚人が倒れる音)
あれっ、あの子手に何か隠してる、いいものが見れそう……
何事だね!?
パットン隊長、囚人どもが殴り合いを始めました!
なら何を呑気に観賞してるんだ、早く止めたらどうだ?
あ、隊長、そろそろですか?
そろそろもクソもあるか、我々看守の責務は囚人共の管理だろうが!
はいはい分かりました。
おい、貴様ら、隊長の言った通りだ、とっとと止めろ!
※クルビアスラング※
※クルビアスラング※
まったく、いつも言ってるだろうが、ここは刑務所だ、貴様らのリング場じゃないんだぞ。
ここでしっかりと働いて、更生しないと、外にいる友人と家族たちも一日も早く貴様らに会いたがっているんだぞ、違うか?
どれこれも貴様らのために言ってやってるんだぞ……
チッ、また始まったよ。
わっ、傷だらけじゃん、大丈夫?
大丈夫大丈夫、こんなもんかすり傷よ、それより、A区のクズ野郎どもを何人かぶちのめしてやったぜ、へへ、これでしばらくはスッキリするな。
毎回こうやって終わるの?
パットンのことか?
まあそんなもんだ、あの野郎は看守たちの隊長で、毎回こういうときに止めに入るフリをして、綺麗ごとを喋りに来る。
しかも今は刑務所が都市に停泊している時期だからな、所長は都市に出向いている、その時に限ってあの野郎はここの主みたいに振舞ってるんだよ。
ようはただのクソ野郎だ。
でも毎回こうして終わるのかというと、そうでもねぇ。
何回かピークになっても収まらなかった時もあった……むしろ収まんないほうが普通だ、今日みたいに止めろと言われて止めるほうが珍しいんだ。
とりあえず収まんないときは、パットンが助っ人を寄越してくるんだ。
助っ人?
ほら、来やがったぜ。
……
アンソニーじゃん!?
本当にそいつを知ってるんだな。
スーツを着てるとこしか見たことないけどね……
貴様らもアンソニーさんに見習ったらどうだ。
囚人の身でありながら、理性を保ち、暴力も好んで振舞わない。普段から読書、書道、音楽鑑賞に明け暮れている、優雅とは思わんかね!
ぺッ。
アンソニーが気に食わないの?
いやいやそんなことない、間違えるんじゃねぇぞ、カフカ。
この刑務所で、アンソニーが気に食わないやつなんていねぇよ。
あいつはパットンが言った通り、人当たりはべらぼうにいい、俺たちは知ってるんだ、あいつこそがこの刑務所内の最強だってことをな。
噂によるとあいつが刑務所に入ったばっかだっていうのにC区の連中を全員ぶちのめしたとかなんとか。
そうだ、本人はC区に入れられているから、普段から俺たちとの接触も少ねぇ、でもあいつは本当に人当りがいいんだ、A区だろうがB区だろうが、あいつを気に食わないと思ってるヤツなんていねぇよ。
そそ、つまり俺がペッしたのはパットンのツラにだよ。
よく聞いてみろ、アンソニーを褒めたたえてるように聞こえるか?ありゃ侮蔑だよ。
あの野郎の唯一頭が上がらない相手がアンソニーだ、でもアンソニーに頼んないと俺たちを鎮めることができねぇんだ、だからああいう手段しかできねぇんだよ。
我ら州立マンスフィールド刑務所は、国から特例が出た試験刑務所なんだぞ、いずれほかの州への模範となるべき刑務所なのだ。
チッ、どいつもこいつも囚人っつうのに何が模範だよクソが……
とにかく、自分たちの身のためにも、私の身のために少しは考えてほしいものだね!
行きましょう、アンソニー、今日は読書時間を一時間設けましょう。
ああ。
普段はアンソニーに会えないの?
あいつら凶悪犯罪者のスケジュールは俺たちとは違うんだ、それにいつもC区の塔に引きこもっているからな。
なんだ、アンソニーに会いたいのか?
まあね。
ちょっと彼と相談したいことがあるんだ、もちろん、看守たちに知られちゃいけないこと。
安心しろ、分かってる。あいつとコソコソ話がしたいんであれば、チャンスがないわけでもねぇぜ……