それじゃあ、続けましょうか。
感染者と非感染者の地位が刑務所内で逆に平等になったなんて、皮肉なもんだね。
……あんなもの平等とは呼べない。
ふふ、確かに、人として扱われないと得られる平等なんて、そんなのないほうがマシだもんね。
話題を変えてもいい?
私もこの話題を続けようとは思ってないよ、お高くとまってこんな話題を話しても寝付きが悪くなっちゃうし。
それじゃあ、カフカが刑務所に入った時期って、確か今から四か月半前よね、脱獄したのが四か月前、マンスフィールド刑務所がちょうどセントソフィー市に停泊していた時期よね。
うん。
やっぱり、これ以上早かったら、一年以上も前に遡っちゃうからね。
なにせ移動刑務所として、数か月ごとの周辺都市での物資補給と囚人の接収以外、普段は基本的に荒野を走っているんだもんね。
四か月かけての脱獄、時間でいうと短くはないけど、すごく長いとも言えない。
ん?ちょっと待って、一つ疑問が出てきたんだけど
ルールはそっちが出したんでしょ、今度はこっちの質問の番だよ。
あはは、そうだった、じゃあ質問どうぞ。
……その前に、メイヤー、お腹が空いたから悪いけど何か作ってくれない?
あ、いいよー、でもここのキッチンって使えるのかな。
使えるよー、今回のお話は長くなるかもって予想してたから、いっぱい食材を用意しておいたよ。
メイヤーさんって料理作れるの?
作れるよ。なんせ一人ラボだからね、自炊できなかったらとっくに餓死してるよ。
ライン生命とロドスにも食堂はあるけど、そこまで行くのがメンドクサイ時ってあるからね。
じゃあ続けてて、私は何か作ってあげるから。
料理する前に食材とかチェックしたほうがいいよ?食材に何かしたなんて言われたくないからね。
はいはい~
(メイヤーが立ち去る足音)
随分と……友好的なんだね。
ふふーん、言ったでしょ、お話をするだけって。
でも逆に、どうしてメイヤーさんをわざわざこの場から引き離したの?
……まだメイヤーには話してないから、ハイドブラザーズのバックにエネルギー部がいたことをね。
……何ですって?
あの事件ってあなたたち二人で計画したものじゃないの?
ううん、本当は彼女には教えたくなかったんだ、彼女はただ私の機材購入に付き合ってもらっただけだから。
なるほどね、エネルギー部と技術開発部の距離は近しいから、彼女に良からぬことを考えさせたくないのね。
じゃあ、彼女は共犯者じゃないっていうのなら、教えたら相当なリスクを背負うんじゃないの?
……言われなくとも分かってる。
そんなことより、私が知りたいのは、あの事件の中で、エネルギー部は一体どっち側についていたの?
ハイドブラザーズのバックには確かにエネルギー部がいた、でもエネルギー部はあの事件には絡んでいなかったんだよ。
ハイドブラザーズがエネルギー部の物資を利用してあの暗殺を企てたんだ。
やっぱりそうだったんだ。
それじゃあ、今度はこっちの番ね――
私が知るに、アンソニー脱獄の協力者の中に、刑務所の納棺師のドゥーマさんのほかに、ロビンって女性がいたよね。
変なんだよね、私の情報だと、彼女はアンソニーを暗殺する殺し屋の一人のはずだったんだよね。
でもあなたのさっきの話を聞くに、協力者はカフカさんの一人だけ。
ロビンはそっちが手配した人じゃないの?
……本当に脱獄の過程を知らないんだね、ミュルジス主任。
だから最初からそう言ってたじゃん。
それと、一つ間違ってるよ、あの暗殺は私でも予想外の出来事だった。
え?
もしそういうことが起こると知っていたら、カフカ一人で刑務所に潜入させるわけがないでしょ。
それだとあまりにも危険すぎるからね、それにああいう状況下で、彼女一人で発揮できる力にも限度がある。
まさか、アンソニーがそこにいるって手掛かりしか掴めてなかったの!?
そう、アンソニーが彼の家族と同じ刑務所に入れられていないことを知ったのは半年前、それからカフカを刑務所に入るように手配した。
私の当時の考えとしては、彼に会えたら彼の脱獄に協力できれば万々歳、できなかったら、できなかったでいい。
……そして偶然あの暗殺に遭ったってことね?
なるほど、それだと色々とつじつまが合うね。
でも、こんなこと私に教えちゃっていいの?
あの暗殺を阻止するために行動したって印象を保ち続けていれば、あなたのことをすごい人って思い続けてたのになぁ。
……私そういうのは得意じゃないから、ミュルジス主任。
……なるほどね、最初あなたは私と同類と思ってたけど、今の話を聞くと、あなたはメイヤーさんと同じ人間って言ったほうが正しいわね。
でもあなたの最も好きな研究をよそに、自ら不得意なことに関心を寄せた原因は何なんだろうね。
……
んでその原因は私が考えるに「炎魔」と関係がある、そうでしょ?
……
あの事件と今回の事件に関連性はない、ミュルジス主任。
もしイフリータのことを聞くために来たのなら、話はここでおしまい。
ごめんごめん、言い過ぎちゃった、安心して、あの事件のことは噂程度でしか聞いてないから、何が起こったかなんてまったく知らないよ。
お詫びとして、聞きたいことがあれば今なら何でも答えてあげましょう。
……いらない。
はい?
お詫びなんていらない、ただあの事件のことをもう話さないでもらえればいいから。
分かった、じゃあさっきの話の続きをしましょうか。
……とにかく、私にとって、あの暗殺は完全に予想外だった、ハイドブラザーズがあんなことをするなんて思いもしなかったから。
ということは、あなたはエネルギー部のあの人のやり方をまだ完全には理解できていないんだね。
アンソニーはいわば目の上の瘤、あの人は少しの厄介事と自分ではコントロールできないことは決して見逃さない、彼らがあんなミスをしてしまったって彼に知られちゃったら……
貧乏くじを引いたのはハイドブラザーズのほうかもね。
だから彼らが数年かけてあの暗殺を企てたのは、アンソニーを確実に刑務所内で葬るためだったんだね。
……自分のした悪事を隠すために、さらに悪事を働かなくちゃならないなんて。
虫唾が走る。
でも世の中には引きかえれないことだってたくさんあるんだよ?
話を戻すとあの殺し屋、あのロビンって殺し屋のバックがあなたじゃないっていうのなら、可能性は一つしかないね。
ロビンは途中で手のひらを返した殺し屋だった、そうでしょ?
……その通りだよ。
それじゃあ、視点を変えてみようか?あの殺し屋さんの刑務所内での行動が気になっちゃってね。
彼女はアンソニーと共に逃げ出したんだから、彼女の身分や経歴は少なからずチェックしたんでしょ?
……ロビン、最初の彼女は確かにアンソニーを暗殺するために刑務所に派遣された殺し屋に一人だった。
カフカが見たあの双方の囚人の間に衝突が発生した頃、彼女も刑務所に入ったばかりだった。