じゃあロビンは専門の殺し屋じゃなかったのね?
うん。
その点に関していえば私でも分かる、彼女からそんな雰囲気は感じられなかったから。
どうやら彼女の資料は正しかったってわけね、彼女は以前確かに警備の仕事をしていたから、腕前は信頼に置けたのかもね。
でもそれだと、まだなんかおかしいような……
なにが?
なぜ彼女が雇われたについてだね……でもそんな肝心な疑問でもなさそうだし、一旦省いちゃいましょ。
それより、どうやら大多数の殺し屋はロビンと同じように、単独で雇われていたようね。
自分たちに競争相手がいたことも、自分の雇い主も知らなかったわけだ。
……ハイドブラザーズは一体どれだけの殺し屋を雇ったの?
それが私にもわかんないんだよね。
でもさっきも言ったように、二人はアンソニーを排除するために結構心血を注いだのは間違いないね。
殺し屋はどうやって刑務所に潜入したの?
そっちが調査した前提で話すけど――マンスフィール刑務所は州のいくつかの都市政府が共同で建てた刑務所、大きな州にしては珍しい刑務所なんだよ。
なるほど。私が調べたところ、あの刑務所が建てられた最初の理由はあそこの州は開拓区で急速に発展していったけど犯罪率もずっと高いまま、犯罪者も絶えなかった。
それに当時の刑務所とは名ばかりで、どちらかというと荒廃しかけた作業プラットフォームだったらしい。
そしてレンデル、今の刑務所所長が立ち上がって、各都市の政府に刑務所を建設するよう提言し、一挙に作業プラットフォームの処置問題と囚人の収容問題を解決した。
どこか変な点があるの?
はっきりとそこに答えがあるじゃない?
つまり、あの刑務所は「厄介」な人たちを収容する専門の刑務所ってこと、それに各都市がそんなに管理したくない人たちのね。
でもその割にこっちから積極的にああいう場所に入り込もうとしても別段そんなに難しくはないんだ。
カフカさんから具体的にどうやって潜入したのかって聞かされてないんじゃないの?
……
もちろん、あの刑務所の警備はかなり厳重だよ、だから脱出も非常に困難。
さっきも言ってたけど、あそこは数か月おきの周辺都市での停泊以外は、ほとんど荒野を走ってる。
囚人がたとえ脱出できたとしても、目の前に広がるのは無限の荒野だけ。
でもほら、ロビンも言ってたように、正体不明な人が彼女に、脱出させられる方法はあるって言ってたじゃん。
だからもし馬鹿なことをして自分を死なすことをせずに、アンソニーの暗殺を成功させれたら、あとは自分たちをピックアップしてくれるのを待つだけでいいんだよ。
でもあんなにたくさん殺し屋を送ったけど、全員ピックアップしてあげたの?
そんなことするわけないでしょ。
だから殺し屋たちは競争相手がいるってことを知らされていないんだよ。
しかも一旦刑務所に入ってしまえば、たとえそのことを知ったとしても、脱出は不可能だから、アンソニーを殺してそこでおしまい。
簡単で効率的な手段だね。
……
それでも分からない、なぜそんなことをするの?
サイモンコーポレーションはもう倒産した、中心メンバーも全員刑務所で服役してる、なぜハイドブラザーズはその全員に手を出さず、アンソニー一人をターゲットに絞ったの?
……えっと、まさかそこから説明しなきゃならないのかな?
それはどういう意味?
分かったよ、サイレンスさん、あなた本当に過去というものにちっとも関心を持たないんだね。
でも、きっとあなたはそのことを把握していなかったからこそ、衝動的に脱出計画を実行し、成功させたんだろうね。
……
ごめんごめん、皮肉ってるわけじゃないよ、むしろ、褒めているんだからね。
じゃああなたの質問は一旦置いといて、まずは、こっちが先に逆質問してもらうね――
サイレンスさん、刑務所でアンソニーを排除する方法で、殺し屋を送る方法が一番効率悪いって、ご存じかな?
……存じ上げない。
それよりもっと効率的な手段があるからね、看守に買収するとか、所長に賄賂を贈るとか……
それに殺し屋が囚人に偽装して刑務所に入ってターゲットを暗殺するなんて、聞いてるだけでアホらしいとは思わない?
ハイドブラザーズは……買収も賄賂もできなかったから?
ご名答、できなかったからだよ。
やれやれ、さっきあの刑務所の歴史を話したときのサイレンスさんの反応を見るに、最初から説明してあげないといけないらしいね。
どういうこと?
カフカさんの記憶の中にあった刑務所隊長のパットンが話したことを憶えている?
我ら州立マンスフィールド刑務所は、国から特例が出た試験刑務所なんだぞ、いずれほかの州への模範となるべき刑務所なのだ。
それがどうしたの?
試験、特例、これらが何を意味するか分かる?
どういう意味?
ビジネスって意味だよ。
……!?
クルビアで、一番儲かる商売と言ったら、いつだって権力に癒着してるビジネスに限るからね、あの刑務所はその典型。
何を言って……
あの刑務所はレンデル刑務所所長個人の金稼ぎマシーンだってこと。
でもあれは刑務所なんだよ!
そうね、あそこは入ったら出られない刑務所、だから自分の嫌いな人をそこに送り込んで死んだも同然にしたり、自分の守りたい人をそこに送ってちゃんと保護することができる。
十分なお金さえあればね。
巨大なビジネスチャンスって言えるでしょ?
……
でもそれだと、ハイドブラザーズが刑務所所長に十分な金額を渡せば簡単に済む話じゃないの?
さっきまで事実を聞いて驚いて咽び入ったと思ったら、もう強制的に自分の思考回路を転換させ事実に適応させ思考を展開したとはね。
大したもんだよ、サイレンスさんは。
そればかりは褒めてるようには聞こえないんだけど。
その疑問は完璧で合理的だね、でもこの件に関してはこちらも明確な答えは持ち合わせていなくてね。
でも結果から逆算することはできるよ――まず結果から言うと、ハイドブラザーズは買収も賄賂もしなかった。
それに彼らがそれを試さなかったはずもない、であれば彼らは失敗したってのが答えだね。
個人的な理由として所長は彼らの依頼だけでビジネスを終わらせたくなかったんでしょうね。
アンソニーを虐げたいのであれば金さえあれば解決できるけど、そのアンソニーは刑務所内で多大な影響力を持っている、もし彼が死んだら、普通の囚人の死みたいに簡単に片づけられそうにない。
レンデルのポジションを窺っている人は多いからね、私が知るには、彼も極度な八方美人な人物だからね、だから彼がそんなリスクを背負うとは思えない。
それかハイドブラザーズの金だけ貰って仕事していない可能性のほうが大きいかもね。
アンソニーから聞いた話だと、彼はキャストアイアン市を脱出してから捕まったって……
もしかして彼の父親もあの事件に関与していたの?
うーん、それもありえるかもね。
昔のスミス・サイモンはトームペア市の市場で結構名声があったからね、息子を守るために息子を入獄させてもおかしくはない。
でもそれだと私への回答になっていない。
いいや、もう答えたさ、サイレンスさん、あなたは察しがいい、ただ納得したくないだけなんだよ。
……ちょっと意味が。
つまり、マンスフィールド刑務所では暗殺できなかったけど、トームペア刑務所でもできないとは限らないって意味。
……待って、じゃあまさか彼の親族は……
やっと理解できたね、サイレンスさん。
あなたはさっき、ハイドブラザーズはアンソニーの親族に手を出さなかったって言ってたけど、それは間違い。
ただ少なくとも死んではいない、死なせる必要はないからね。
もしくはあなたはまだ理解できていないのかも、クルビアにいる人々にとって、死というのはそれほど苦痛なものじゃないってことに。
それに、サイモンコーポレーション解決後、ハイドブラザーズにライバルはいなくなったけど、十中八九サイモン家に起死回生のチャンスを与えないようにしてるしね。
つまり彼らにとって、サイモン家は、もう脅威ではなくなった……
なのにアンソニーは彼らの影響が及ばない刑務所で服役してるから、アンソニーだけを脅威として認定したっていうの!?
そ。アンソニーが生きてる限り、彼らはいつ逆襲されるかわからないリスクに怯えているの。
ハイドブラザーズは現地の刑務所に影響を及ぼすことはできたけど、二つ隣の州の州立刑務所に影響を及ぼすことができないとはね。
いや、ちょっと待って、あそこはただの商社だよ、背後にエネルギー部が潜んでいるとはいえ、それでどうやって現地の刑務所を影響下に置けられるっていうの!?
あなたは、どうしてだと思う?
まさか、いや、そんなのありえない……
(メイヤーが戻ってくる足音)
ご飯できたよー、さあさ召し上がれ。
あれ、サイレンス顔色が悪いよ。
ちょっとね……メイヤー、申し訳ないけどミュルジス主任に刑務所で起こった出来事の続きを話してあげて。
ん?いいよ~
サイレンスは隣で食べながら聞く?
……いや、ちょっと安静にしたいから。
じゃあキッチンに行くといいよ、あそこ机と椅子があるから。
分かった、ありがとう。
(サイレンスが立ち去る足音)
というわけで、どこまで話したっけ。
ロビンの来歴と彼女の刑務所内での出来事までだよ。
あ、なるほどね、じゃあ続きは彼女が初めて暗殺に失敗したところからかな……
あ、カフカ視点からだと、初めて彼女とアンソニーが接触できたとも言えるね。
へぇ、じゃあ二人はすれ違ったってこと?
そうだよ。
そうねぇ、さっき語ったロビンの記憶はC区に入って掃除する方法について言ってたよね。
そのことでしょ?
ピンポーン、カフカもその方法を選んだんだ。
確かに、それがアンソニーと接触できる一番効率がいい方法に聞こえるもんね。
アハッ、なんだか面白くなってきた、こういうの大好き~
その間の出来事はそんな大した話じゃないけど、聞く?
うーん……全く興味がないって言ったらウソになっちゃうなぁ。たぶん面白そうな話があるかもしれないけど、一先ずは脱獄のメインストーリーに注目しましょ。
じゃあカフカ視点とロビン視点のどっちが聞きたい?
ロビンでお願い。
分かった。あれは、彼女がもう入獄して一か月経ったときの話かな。
それまでの間、彼女は一生懸命働いて、それでC区に入って掃除するチャンスを獲得できた。
それに色んな材料をかき集めて自分の一番得意な武器を製造して身に着けていたんだ。
今のところは用意周到って感じだね、それでアンソニーに見つかっちゃったのかな、それともカフカに阻止されたの?
ううん、予想外の事態が起こったんだよ。
全員揃ったか?
へい。
へい。
へ~い。
……
(ねぇねぇ、君って新入りだよね?この前工場で君を見かけたよ。)
……
よく聞け、貴様らの中に新入りが入ったからもう一度ルールを改めるぞ。
A区とB区はそれぞれ違う部屋を担当する、俺たち二人がそれぞれ貴様らをそこまで案内する。
だが最後は全員アンソニーさんの部屋に集合してそこで掃除を行う。
へへ、そりゃまたなんでです?
敬意というものだ、分からないのか?
……A区は私に、B区は彼についていけ。
とにかく、部屋に入ったあとは、触れちゃいけないものには触れるな、持ち出し禁止物なんてもってのほかだ。
しっかり働けよ、特にアンソニーさんの部屋はな、貴様らのおふくろの面倒を見るように心を込めて掃除しろ、分かったか?
へへ、おふくろの面倒なんざごめんだよ、へへ。
無駄口を叩くな、わざわざ貴様みたいな初仕事をするやつに聞かせているんだ、面倒ごとは起こさないでくれよ、いいな?
もちろんもちろん。
いい子にしていたら未使用のC区独房で遊ばせてやろう。
ヒュ~、そいつぁいいや、ならピカピカに掃除させてもらいますぜ、へへ。
よし、掃除用具とかはもう準備できているな、準備ができたら上に上がれ。
(ここがC区の独房……ついに入れた。)
(階ごとに部屋が四つ、部屋の間はエレベーターとしか繋がっていない。)
(でも、見た感じ私たちの独房と大差ない、プライベート空間も……まるでない。)
キョロキョロするな、しっかり働け。
こっちがアンソニー……さんの部屋だ。
片方はもう先に着いたようだな。
入ったらしっかり掃除だけしろ、ここでB区の連中とケンカなんて事はするなよ。
ちゃんと見張っているからな。
(この看守、ほかの看守と雰囲気が違う、すごい威圧感……)
(でも、ようやくアンソニーに会えた。)
(写真で見た通り、すごく強そう、正面対決しても、勝ち目はない。)
(でも、いくら強い人でも、弱点さえ見つかれば、チャンスはある……)
(掃除をしながらチャンスを窺おう、少しでも弱点さえ見つけられればそれで十分。)
(父さん、力を貸して。)
(殴打音)
ん?何事だ?
……!?
(看守とB区の囚人数人が倒れこんでいる。)
なにモンだ。なぜ俺の命を狙う?
あんたの命を欲しがってる人を知る必要はないぜ、アンソニーさんよ。
あんたはここで死ぬってことだけ知っていればいいんだ、へへ。
兄貴、A区の連中もやっと来ましたよ。
早かったじゃねぇか、へへ。
とりあえず、お前は、こいつらをやっておけ。
だが殺すなよ、俺たちもここから出ないといけねぇからな、へへ。
(あの二人もまさかアンソニーを暗殺しに……)
これでも食らえ!
(斬撃音)
クソガキが、邪魔だ!
(殴打音)
ぐあッ!
(あの女の子も一撃で気絶しちゃった……)
フッ。
(え?あの看守、さっき笑った……?)
……
(チッ、今はそんなことに気にしてる場合じゃない、この人が襲いかかってきた、まずはこいつをやっつけないと!)