

……
(斬撃音)

フンッ!
(殴打音)

!
(殴打音)

ぐはっ……!
(A区看守が倒れる音)

(この囚人、強い!ほかの囚人たちが全部彼一人にやられた。)

……死ね。
(鈍い音)

……

(あの看守もかなり強い、でも、見た感じ防御しかしていないけど……)

オラァ!

……くっ。
(看守Bが倒れる音)

(まずい、看守も倒された……)

(もう私しか残ってない、でもここで彼と戦ったとしても、あとでどう説明すれば……)

……あとはおめぇだけだ。

(どうする、本当にやるしかないのか。)

……

ふんっ。

……すばしっこい奴だ。

(アンソニーが、私を助けた?)

お前たちが誰だかはしらないが、こんなことはするべきではない、ましてや私の目の前でな。
(B区囚人Bが駆け寄る足音)

へへ、もうすぐ死ぬってのにまだ他人の心配事かよ、中々の紳士だね、アンソニーさんよ。

(いつの間にッ!?)

へへへ、お嬢ちゃん、悪く思わないでくれよ、恨むんならあんたの運の悪さを恨むんだな。

安心しろ、アンソニー以外は殺したくねぇ、しばらくここで寝てな。

(まずいッ!)
(殴打音)

あがっ……

(やられた……)

(意識、が……)
(ロビンが倒れる音)

……それじゃあ……もてなして……アンソニー……

……死……
(アーツと殴打音と重い殴打音)


まさかメイヤーさんの料理の腕前がこんなにすごかったとは思わなかったよ。

ふふーん、意外でしょ。

でも、ほかの殺し屋の暗殺に巻き込まれて気絶しちゃったとはね……

アンラッキーなこった。

そうだね、ツいてなかったね。

じゃあその現場はこの後どうやって収まったの?

アンソニーが勝ったのはまあ予測できるけど、でも仮にも刑務所内で起こった暗殺でしょ、はいおしまいで終わるはずないよね。

うん、でもそのときロビンはまだ気絶していたから、視点をカフカに切り替えるね。

えっ、カフカもあの囚人に気絶させられたんじゃないの?

あー、彼女が言うには気絶のフリをしていたらしいよ。

あぁ……なるほどね、彼女らしいっちゃ彼女らしいね。


言え、誰がお前たちを送り込んだ?

へ……へ……誰が喋るかよ……クソッタレ

……

気を失ったか。

この人たちはまさか……

……まあいい、今考えても意味はない、先にこの囚人らの状況を見てみよう。

……

……

どうやら殺さなかったのは本当らしいな。

……

それにこちらのお嬢さんも……

誰か知らないが、先ほど私を助けてくれた……

感謝する、名も知らぬお嬢さんよ。

カフカって呼んでいいよ。

ん?無事だったのか?

おっと、まだ動かないでね、身体を右へどいて、監視カメラを遮るようにね。

これでいいか?

オッケー、これで監視カメラはカフカを捕らえられないはずだ。

部屋掃除のときの観察が功を奏したよ。

君は誰だ?

さっき言ったじゃん、カフカだよ、君を助けにきたんだ。

でもツいてないなぁ、本来なら機会を窺って君にメモを残してやればことは済むはずなのに、まさかこいつらの仕込みに出くわすとはね。

どういうことだ?

ここじゃあ話せないから、話ができる場所知ってる?

……確かに、看守たちが騒ぎを聞きつけこちらに来ているな、医務室に行こう、あそこなら耳も少ない。
(パットンが走ってくる足音)

これは一体何事だ!アンソニー、貴様何をした!

それはこちらの質問です、パットン。

この囚人たちが刑務所に紛れ込んで私を殺そうとしました。

一体なんのつもりです?

なんだとォ!?

本当です、パットン隊長、この二人の囚人がアンソニーさんを囲んでいる場面を目撃しました。

なに?お前はこいつらの見張り役ではなかったのか!?

私もこの囚人二人に倒されましたので、この囚人たちは結構……いやかなり強かったです。

チッ、この役立たずが。

こんな事態、どう所長に説明してやればいいんだ!?

まずは現場を片付けましょう、パットン。

この二人は刺客です、そちらで処理してください。

オホン、しかしですね、アンソニーさん、私たちにも監督身分がありまして、君の一言で事態をどうこうするわけにも……

分かっています。

傷を受けたので、私はひとまず医務室に行きます、ほかの人たちも気絶させられたので、一緒に医務室に連れて診てもらったほうがいいでしょう。

もちろんもちろん。

お前たち何をボーっとしているんだ、この二つの死体をとっとと安置所に運ばんかね、ほかの人もここから運び出せ!


は、はい!

了解しました!


看守たちはもう行ったよ、アンソニー。

何が起こったの?みんな慌ただしかったわよ。

私も知りたいとこです。

よし、ここなら安全ですよ、カフカのお嬢さん。

ドゥーマは私の友人です、この刑務所内で信用できる人と言えば、彼女しかいません。

じゃあまず、お嬢さんって言うのやめてくれないかな、ちょーっと背が小さいだけだし。

これは申し訳ない、カフカさん。

……君、囚人のくせに、外にいる連中よりも礼儀正しいのね。

アンソニーはそういう人よ、誰に対しても礼儀正しいの。

なるほど、腕っぷしもいい上に、礼儀も正しいときた、どうりでほかの連中が君を敬っているわけだ。

恐縮です。

では、次はこちらの質問です。あなたは私を助けにきたと言いましたよね、つまり、私を暗殺しに来た連中の来歴もご存じと?

うーん……その前に、先に一つ質問させてほしいんだけど。

どうぞ。

自分の家族、それと君の父親が自分の苗字で命名したサイモンコーポレーションに何が起こったかは理解している?

知ってるんだったら、話が早いから助かるんだけど。

……父が十数件もの告発を受けたことは知っています、簡単に片づけられない問題が背後に潜んでいることも理解しています、ただ時間がなかったので具体的なことはあまりよく知りません。

知ってるのであれば、話がはやい、サイモンコーポレーションは非……非なんだっけ?

非合法、ですか?

あっそうそう!非合法密輸源石製品罪!とにかく会社は直接差し押さえられ、会社のコアメンバーも全員刑務所に入れられたんだ。

だから君の家族はみんなまだトームペア刑務所で服役してると思うよ。

……

アンソニー……

……大丈夫です。

私たちはとっくに覚悟を決めていましたので。

家族がまだ死んでいないのであれば、嬉しい限りです。

それで、やったのは誰です?

ハイドブラザーズだよ。

ハイドブラザーズ、やはりですか。

ちょっと待って、サイレンスはなんて言ってたかな……そうそう、君の家族、つまりサイモン家と彼らは元々とある業界でのライバル関係だった。

双方ともに業界内の50%のシェアを占めていたから、摩擦もしょっちゅう起こっていた、そして彼らは君たちのもう一方のシェアも独占したいと考えた。

んでそっちから手を出したってわけ、簡単でしょ。

……ハイドブラザーズ。

父からよくその名前を聞かされました、あちらの会社に取引先として赴いたこともあります。

ほんの少しの私利私欲のためにここまでするなんて……

私も似たような話はちらほら聞いたことがあります、しかしまさか本当に我が身に降りかかるとは思いもしませんでした。

アンソニー、大丈夫?アーツで精神安定させましょうか?

いいえ、ありがとうございます、ドゥーマ。

言ったはずです、覚悟は決めてあると、ただことが急過ぎましたからね。

あなたを信じましょう、カフカさん、こんなことでそちらが私を騙す理由などあるとは思えませんし。

であれば、あの刺客たちもハイドブラザーズが遣わした者たちなのでしょう、彼らはなぜ今更こんなことを?

それはカフカも知らないなぁ、でもカフカの経験に基づくと、あれだけで終わるとは思わないね。

きっともっとたくさん暗殺に寄越してきていると思うよ、つまり、これは始まったばっかりって思っておいたほうがいいかもね。

……

ではあなたはどうなのですか?刺客から私を守るためだけに来たのではないのでしょう?そちらの目的はなんですか、カフカさん?

カフカの?うーん……どっから説明すればいいかなぁ、とにかくカフカは君を脱獄させる依頼を受けてここに来たんだよ。

……

外に出て復讐したいとは思わない?

君の判決は終身刑、しかも仮釈放のないやつなんでしょ。

もしここを出たいのであれば、選択肢は一つだけ、それは――脱獄するしかない。

そしてカフカがその脱獄を助けに来たってわけ。

もちろん、ここを出たくない、ここで一生を過ごすのであれば、無理はしないよ。

脱獄って……ここから無事脱獄できた人っていないのよ。

まあまあ、そう言うけどさ、ものは試しって言うじゃん。

……あなたは刑務所に入ってしばらく経ちますよね、カフカさん。

ん?そうだけど。

なら私の噂も耳にしたことがあるでしょう。

うん、みんな君がこの刑務所内の最強で最も自由な囚人って言ってたよ、ほとんどの囚人は君のことすごいって。

んでカフカも改めてそう思う、こんなときでも冷静に保てられているんだもん。

……しかし実際そんなものではありません。

たとえ私がみなが言うような魅力的な人格を持っていたとしても、所詮は囚人です、ここの看守や所長を折服させるのは不可能です、私は今ある地位に座るべき人ではありません。

まあ、それは正しいんだけど、でももうそうなっちゃったことはしょうがないよ。

そして実際、私は看守たちからの優遇を受けられています。

私が知るのは、所長自ら看守たちに、「よくもてなすように」と言われたそうです。

ずっと思うところがありました、私はキャストアイアン市に着いて捕まってしまい、この刑務所に入れられた、もしかしたら父は最初からそういう狙いだったのでしょうか?

父は何かを予見し、事前に私をここに送り込んだと。

いつもそう思っているのです。

あー、サイレンスもそんなこと言ってたなぁ、でもそれはただの可能性の一つにすぎないって言ってたよ。

サイレンスとは、あなたのバックに潜んでいる人に名前ですか?

あ……まいっか、そうだよ。

あとでその方に感謝を述べさせてください。

とにかく、あなたの言う通り、今のところそれは可能性の一つに過ぎません、もし真実が知りたいのであれば、ここから出る必要がありますね、これは私にしかできないことでもありますから。

アンソニー、本当に彼女に教えちゃってもいいの?

問題ありません。今のところはあなたを信じます、カフカさん、なのでこちらも包み隠さず教えましょう。

あなたが来ていなかろうと、私がとっくにここでの生活に慣れていたとしても、いついかなる時でもここからの脱出を考えていました。

ここでは自分の欲しいものなら大半は手に入ります、しかしここから出られる方法は終始手に入らずじまいでした。

なのでお願いするべき立場はこちらのほうです、カフカさん。

どうか私の脱獄に協力して頂きたい。
