それから、ロビンが……
ちょっとごめんなさい、メイヤーさん。
うん?
先にメイヤーさんに聞きたいことがあるんだ。
なに?私サイレンスより多くは知らないよ。
大丈夫、あなたも知ってることだと思うから。
メイヤーさんは「炎魔」事件についてどうお考えかな?
私が知るに、あなたもあのプロジェクトには関与していたんだよね?
詳しいことはあまり知らないけどね。
私たちエンジニア部門は普段設備の提供や設備建設の際に専門的な意見を提示するだけだからさ。実験自体に積極的に関わろうとはしないんだ。
私が知ってるのは事件の結果と、サイレンスがイフリータを連れてまだ協力関係を築いてまもないロドスに来たことだけ。
あとはサリアが事件の全部を引き連れて、直接ライン生命から出て行ったことぐらいかな。
私から事件の詳細を聞き出そうとするんだったら聞く人間違ってると思うよ。
いや、別に事件の詳細が知りたいわけじゃないんだ、それに、ああいう事件はライン生命内でも別段珍しくないからね。
ありゃ、じゃあ私から何を聞きたいの?
あなたから見た、サイレンスとサリアがどういう人なのかが、知りたいの。
うーん、サイレンスはすごく真面目な人だよ、ぶっちゃけると、研究者はみんな彼女を見習わないとね。
確かに、彼女はすごく聡明だね、観察眼も鋭い、それに過去にプロジェクトを何度も成功させた実績もある。
私が聞いた話によると、構造課の現主任は自分の席をいずれサイレンスに譲りたいって思ってるらしいよ。
ワオ、ということはサイレンスが構造課の次期主任になるってことだよね、すごーい!
そうなんだよ、だから私も彼女のご機嫌を取りに行きたくなっちゃったんだよね~
でもサリアについてなんだけど、実はそんなによく知らないんだよね。
なんせ警備課とその他部署はちょっと違うからね、ロドスでもあんまり見かけないんだし、お話なんて論外よ。
でも「炎魔」事件で最も印象に残ったのは彼女の保守的な側面かな。
当時プロジェクトの全過程の停止を命じたのは彼女だし、そのあともささっと辞職、制御不能になった実験なんてウチらの中じゃそんな珍しいものでもないのも関わらずにだよ。
私の同僚の間では「炎魔」事件には黒幕がいるって噂が囁かれているけど、私に関しちゃ事件の全貌はそんなに詳しくはないんだ。
今のイフリータがロドスで元気にしてるのを見れば、そんな大したことでもないんじゃないかな。
へぇ?あのイフリータっていう実験体は今はロドスで元気にしているんだ?
うんうん、ピンピンしてるよ。
そうなんだ、てっきりもう……どうやらそのロドスって言う企業は相当の実力があるようだね。
でも、サリアがライン生命を出て行った理由は当然「炎魔」事件だけじゃないよ、あれは一連の事件の中のほんの一部さ。
決定的な事件だったことは否めないけどね。
彼女が出て行った最たる原因は、所長との関係がべらぼうに悪くなったからだよ。
え?所長?
そそ、最初の頃の二人の関係は実はそんなに悪くはなかったんだよ?
でもさっき言ってくれた通りサリアは保守的だ、すべての科学研究は制御可能な範疇に収まるべきだってのが彼女の考え。
でも所長はそうじゃない、でないとライン生命なんて会社は存在しなかったからね。
なんて言えばいいんだろ、こう例えてみよっか。
仮として線を設けよう、この線はサリアが考えてる超えてはいけない線ね。
設立から今まで、ライン生命はこの線を越えずに色々やってきた、あったとしても線に触れる程度、だからサリアも声を出すことはなかった。
でも「炎魔」事件含めた一連の事件は何者かがその線を越えようと試みたことを現したものなの、もしくはすでに超えているかもしれない。
それでサリアの堪忍袋の緒が切れた。
でも所長は別段気にしていないってわけよ。
それはどうして?
メイヤーさん、あなたの気持ちを教えて、本当に私とサイレンスさんが話していたアントニーの裏話は気にしてないの?
うーん……彼の事情を聞いたあと、やっぱり彼を逃がしてやったほうがいいかなって、そんな気持ちかな。
どうやら、あなたは純朴で優しい心を持っているのね、でもあなたはそんなことより、自分の研究、とりわけミーボのほうを気にしていると見た。
私も認める、ミーボは確かに素晴らしい設計だ、ちょっと触ってもいいかな?
もちろん、ほら行っておいで。
――
おおよしよし、可愛いねぇ。
さっきからずっと隣で企画案を練っていたよね。
そうだよ、新しいアイデアが浮かんできたからね、ロドスに戻ったら実践してみたいんだ。
ふふ、実はね、所長もそういう人なんだよ。
彼女のほうがより高く、より遠くを見据えているけどね、頭上を覆う空すらも彼女の視線を遮られないんじゃないかって、思うぐらいに。
彼女の目線の先にある地は、きっとこの大地にいる誰にも想像できない領域なんだろうね、私ですらその片鱗を理解するだけで精一杯だよ。
へぇ、所長はスピーチの時でしか見たことがなかったからさ、所長もそういう人だったんだね。
そそ、だからほかのことなんて彼女からしてみたら些細なものなんだよ、彼女からしてみれば、自分の研究の邪魔さえしなければ、線はあってもなくてもいいってね。
それで彼女とサリアは袂を分かった。
でも、なんでそんなことを教えてくれるの?サイレンスに教えるべきなのでは?
私に教えてもこの情報の使い道なんて分からないよ。
知らないからこそ、教えてあげたいんだよ。
メイヤーさんって所長と馬が合いそうだから、所長がどんな人なのか知っててほしくね。
それに私個人もあなたと友だちになりたいんだ。あなたみたいな純粋な研究者は個人的に好きだよ。
あなたは確か自分からロドスに入ったんだっけ?
うん、ちょっと環境を変えたくてね。
どうしてか教えてくれないかな?
うーん……そんな大した理由でもないよ。
そっか、もしライン生命にまた戻ってくるんだったら、ウチの課に転入してもいいんだよ?
そうだね、検討してみるよ。
大丈夫、時間なんてたんまりあるんだしさ。
じゃあ、お話の続きといきましょうか。
……
……本当に……るの?
わかった、じゃあ試し……みるね。
んん……
起きた。
ここは……
ここは私の部屋よ、刑務所の医務室。
あなたは確か……
あなたのことなら私も知ってるわ……私はドゥーマよ。
私なんでここに……
そうだ、あいつらの戦いに巻き込まれて……
(アンソニーが歩いてくる足音)
そこで気を失ったんですよ、ロビンさん。
あなたは……アンソニー!?
どうして私の名前を知ってるの。
ドゥーマのところに囚人の名簿が置いてあったんで。
……
あなたも暗殺者の内の一人ですね、ロビンさん。
!?
ドゥーマがあなたが所持していた武器を見つけました、そしてあなたはここにいる、そう思わざるを得ません。
もちろん、違っていたのなら、違うと仰ってくれれば。
……
どちらにせよ、私の話に耳を傾けてくれませんか、それとあなたが暗殺者である前提でお話させてもらいますので、無粋なところがありましたら、どうかご容赦ください。
あなたを遣わした人物はすでに特定できました、ヤツはまさに我が一族を陥れた張本人です、私を六年もここに閉じ込めた元凶でもあります。
……!?
そして今、私はヤツを問いただすためにここから脱獄するつもりです。
あなたの腕前は確かなものです、もしよろしければ暗殺の依頼を諦めて私と協力して頂きたいのです。
話は以上です。
私は……
じっくり考えてからでも大丈夫ですよ。
こちらにも準備に時間を有しますので、あなたも時間ならたっぷりあるはず。
暗殺を続けるも、諦めるもあなたの自由です。
もし協力してくれる意向があるのでしたら、この医務室に来てドゥーマにそのことを伝えていただければ結構です。
……
(ノック音)
アンソニーさん、パットン隊長から怪我の具合を確かめに行けと言われまして。
……平気です、もう少しだけ待っててください、すぐ終わりますので。
はい、わかりました、ごゆっくり。
先にパットンから始めよう。
ではどうかじっくり考えてください、ロビンさん。
(アンソニーが去っていく足音)
ふふ、アンソニーって、前まで普通のただ心優しい人だと思っていたけど、そんな単純なもんじゃなかったね。
ん?それってどういうこと?
私たちは彼女は暗殺者ってことを知ってるけど、彼は証拠不十分の状況で彼女を自分側に招待したんだよ。
そうなの?私は無鉄砲だなーって思ったけど。
もしロビンが暗殺者じゃない上に、このことを看守に伝えたら?
ふふ、そこが彼が賞賛に値するポイントだよ。
考えてみて、自分はカリスマ性も何もないただの新入りで、相手はとっくの昔に刑務所内でカリスマ的存在となったアンソニー。
どっちの話のほうが信じられると思う?
一歩退いて見ると、仮にパットンと看守たちが彼女の話を信じたとしても、何ができるっていうの?
ただ横で指を咥えながら見るしかないんだよ。
そう言われると、確かにそうかも。
ふふ、あなたが思ってる無鉄砲な行動が「カリスマ」も、「影響力」もない前提の話だったら、確かにただのリスクでしかないね。
でも私が思う本当に面白いポイントは――「カリスマ」な人は、そんな手段は採らないところだよ。
へぇ、そりゃまたどうして?
あのセリフの中には脅しが隠されていたんだよ、「喋っても意味はないぞ」っていうね。
カリスマ性溢れる人が言うような言葉には聞こえないでしょ?
ホントだ、確かに脅しに聞こえる。
そういうこと。それに、アンソニーはどうやってあのパットン隊長に示しを付けるって言ってた?
ん?あ……自分から半月監禁室の処罰を受けるって言ってた。
みんな彼は問題を起こしてないって知ってるけど、自分から処罰を受けることでこの件をなかったことにしたとは……
あのパットン隊長の彼が処罰を受けたときの気持ち悪い笑顔が想像できるよ。
でも彼は耐え忍んだ。
チッチッ、ホント大した男だよ。
もしかしたら単純にロビンは言いふらさないって思っていた可能性もあるんじゃない?
うーん……そういう可能性も無きにしもあらずだね。
そういえば、サイレンスさんキッチンに行ってから結構経つね。
ホントだ、ちょっと様子を見に行ってくるね。
(メイヤーがキッチンへと歩いていく足音)