長年刑務所みたいな場所から出たことがない人が、外界に恐怖を抱いてもおかしくはないもんね……
あーあ、結末を知っててよかったよ、彼女も一緒に脱出するもんなら、こっちもドキドキしちゃうところだったよ。
本当によかった~
じゃあその後は脱獄のプランを練る時間だよね?
その通り。
アンソニーが脱獄を決意したのは、おそらくカフカが収監されて一か月半経った時期から、その後、彼らは一か月以上の時間をかけて実行可能な脱獄計画をようやく練り上げた。
つまり、計画を練り上げた時って脱獄決行より一か月も空いてるってことだね。
四ヵ月の時間は短くはないけど、長いって言われてもそうでもないね。
でも、やっと、やっと私が一番楽しみにしてる場面が来た。
(ミュルジスが用紙を広げる)
……この図面は?
あ、わかった、刑務所の見取り図でしょ!
ピンポ~ン、ちょっと雑な造りだけで、必要なものは大方揃ってる。
んで私が一番気になってるのは、もちろん脱獄した方法だよ。
そりゃあチームメンバーそれぞれの物語もすごく興味あるよ、でも脱獄だよ脱獄、やっぱり脱獄の場面が一番盛り上がるところっしょ~
全過程を知りたいって言ったのって、本当にただ単に脱獄に興味があったから?
そう思ってくれても結構だよ?
……そうしておこう。
じゃあ話すんだったら、最初から話そう。
まず、この刑務所はある移動都市の設計を採用して、基盤部をベースとしていたけど直接その上に刑務所は建てなかった。
まずは山をリアルに人工再現して、その上に刑務所を完成させた設計となっている。
今では当たり前の技術だけど、でも当時からしたら、相当先進的で成功した建造方法だった。
それじゃあ、刑務所の外観はひとまず置いといて。
刑務所は計三フロアで構成されている、各フロアの構造も比較的似通っている。
各フロアの左下のブロックがA区、つまり非感染者収監区。
右上のブロックがB区、つまり感染者収監区。
左上と右下のブロックが警備室、中には休憩のスペースも備えられている、普段の看守はいつもそこで活動してる。
そして真ん中の黒い四角のスペースが重犯罪者を収監したC区塔。
図面中間にあるのが地下工場、つまり囚人たちが共同作業する場所。
ここが医務室、つまりドゥーマの部屋、その隣が安置所。
そしてここがアンソニーの提言で建てられた図書館。
構造は大体こんな感じかな。
ミーナがサーチしてくれたおかげで、彼らも大方刑務所の構造を把握した上で、脱獄方法を練り上げた。
うんうん。
この図面を見ればわかるけど、C区塔は実は地面に建てられていない。
真ん中に地下に通じているエレベーターがあるけど、塔自体にも下降構造が備え付けられているんだ。
え、ウソォ、そんな構造が備わっていたんだ。
うん、めったに見ない建築構造だよね。こう設計した理由はきっと緊急時に重犯罪者を地下に閉じ込め、騒ぎを起こさせないためだと思う。
うん、それに塔の下降をコントロールする装置は、二つの警備室にある作動装置を同時に作動させないと動かない仕様になっている。
あ、思い出した。
事件後に得た断片的な情報にも確かに塔が下降するとかなんとかって書いてあったなぁ、じゃあ彼らは警備室で装置を作動させたと?……ん、いや違うな。
彼らが地下に行っても、脱出できる出口なんてないんじゃないの?
……まず、彼らは警備室には行かなかった、それが一番手っ取り早い方法だったけどね。
でも、警備室の装置で塔を作動させても極めてゆっくりなスピードでしか下降できないんだ、彼らもそれを知っていた。
……アンソニーが図書館に置かれた資料でそのことを発見したんだ。
あの資料はきっと刑務所を建造するときに残された設計図だと思う、誰も気にしていなかったから、アンソニーの提言により図書館が建てられた後、適当にそこに置きっぱなしにしたんだろうね。
ププッ。
たぶんみんなこんなもの何の役に立つんだって思ってたんだろうね、それにこの刑務所も建てられてもう二十数年経ったはずだよね。
二十五年だよ。
とにかく、塔がゆっくり下降するのを待っては失敗する、すぐ看守たちに取り押さえられちゃうからね、だからこのプランは最終的になしになった。
え?だったらどうやって……
幸いにも彼らは資料からほかのものを見つけた、それはつまり――
真ん中にある塔の頂上部、見て、このフロアには独房じゃない部屋があったんだ。
実のところ、この部屋こそがこの塔の、いやこの刑務所の本当のメイン制御室だったんだよ。
メイン制御室……なるほど、ここだと塔を一気に下降させられる、だよね?
その通り。それに刑務所内の電気回路もコントロールできる、だから一時的だけど短い混乱状況を作り出すことができる。
でも普段のこのフロアは無人なんだ、ここに入りたければ、特殊なエレベーターのキーが必要になる、看守に配備された一般のキーではこのフロアには入れないからね。
大体わかってきた、彼らはメイン制御室で塔を一気に降下させて地下に潜り、電気を遮断して地上に混乱状況を作りだすって算段でしょ。
でもそれだと一つだけ問題が――
その後はどうするの?
まさか地下に逃げ道があったとか?
あった。
この逃げ道の情報はドゥーマが提供してくれた。
彼女の記憶によると、前任の納棺師が、この刑務所には参考できる設計がなかったから、実は山の下に廃棄された構造が残っていたと言っていたらしい。
その中には刑務所外の地表に通じる道があった。
そしてその内に一本は、安置所の間近にあったんだ。
まさか……掘ったの?
そう、掘った。
部屋の壁とかは鉄筋コンクリートで造られているけど、でもそこに穴を開ければ残りはただの土。
比較的薄い壁を見つけて穴を開ければ、さほど先進的な工具を使わなくても掘り進めることができる。
疑われないようにする前提があるから、彼らは順番に医務室の地下通路を掘り進めた。
え、じゃあ、安置所で掘ってるんだったら、直接穴を開けたあとに脱出すればいいんじゃないの?
忘れたの?都市に停泊していない時に、刑務所外の地表に行っても意味ないでしょ。
それに都市に停泊してる時に限って、看守たちも警戒を高める、それで囚人たちの自由時間も極端に減らされるんだよ。
たとえアンソニーだろうと例外なくね。
だから普段のように医務室に行くことが出来なくなるんだよ。
あ、そっか、えへっ、忘れちゃってた。
それとミーナについてだけど、彼女は都市が停泊してた時、彼らが脱獄するよりも前に工事集団と一緒に離脱したから、だから彼女は実際今回の脱獄には参加していない。
彼女は刑務所の外でカフカたちと合流したんだ。
とにかく、最後の一か月の間、彼らはまずパットン隊長から塔の頂上部フロアに行けるキーを盗むことにした。
そしてついに停泊する数日前に、通路を掘り終えた、地表に通じていることも確認済み。
準備はすべて整った。