チッ、おかしいなぁ、カードキーがないぞ……
まさかトイレに行った時に流されたとか?
(看守Aが駆け寄ってくる)
パットン隊長、どうかしたんですか?
黙って仕事に戻れ!
は、はいぃ!
(看守Aが走り去る)
チェッ、何を偉そうに……
おそらく……また誰かにイラついているのだろう。
ヘッ、なら十中八九アンソニーだろうな。
なんか知らねぇけど、あいつを殺そうと企んでる輩がいるらしいからな。
俺たちの刑務所がどれだけ素晴らしくてどれだけ完璧ってほざいていたパットンも、こりゃきっと居ても立っても居られねぇだろうな。
私たちだって看守だろう。
いや、何も誰かが殺されるのが好きとは言ってねぇ、ただあの野郎がムシャクシャしてるとこを見てるとせいせいするってだけだ。
それにぶっちゃけるけど、これまでの間にさんざん見てきただろ、レンデルとパットンが企んできた邪なことをよ?
俺に言わせると、レンデルは絶対あの殺し屋たちの来歴を知ってるはずだ、きっと金だけ貰ってあとは好き勝手ほったらかしにしてるだけだぜ。
……そうかもな。
(アンソニーが殴る音)
ぐっ……
(ロビンが倒れる)
動くな、ロビン。
でないと君まで殺さなければいけない。
……
チクショー、いやまさか、ロビンがスパイだったことをこのカフカでも見抜けなかったなんて。
君結構そういう才能あると思うよ。
待て、手に持ってるものはなんだ?
あれは爆薬のスイッチ!?
カフカ、早く塔を下降する装置を起動させろ!
(爆弾の起爆音)
うわああ!燃えだした!
はやく!
どれがそうだったのか分かんなくなってきちゃったよ!
しかももう使い物にならなさそうだし!
あ、見つけたッ、きっとこのスイッチがそうだ!
お願いッ、動いてくれ!
ポチッとな!
動かないぞ、まさか本当に壊れちゃったのか!?
ロビン、なぜ君がこんなことを?
私は……
(起動音)
動いた!
※クルビアスラング※
まあいい、前回上の層に行ったのも大分前の話だしな。
今度レンデルさんにまた予備をもらえればいいか。
クソッタレ。
(看守Aが駆け寄ってくる)
パットン隊長、その……
あぁん?
何をしに?
あのクズどもがしっかり掃除してるかどうかを見に行くんだ!
(警報音)
な……なんだぁ!?
なんだ、一体何事だ!?
そばにあるものに掴まれ、カフカ!
アンソニー、あそこッ、ロビンがエレベーターに巻き込まれちゃうよ!
……
掴まれッ、ロビン!
どうして……
今はそんなことどうでもいい!
歯を食いしばれ、舌を噛むなよ!
(爆発音)
アンソニー、それとロビンも無事かな。
俺は平気だ、ロビンもしっかり私に抱きついている。
どうやら刑務所中の電気システムが麻痺したようだ、あたりも真っ暗だ。
だが我々にとってはまたとないチャンスではあるな。
そうだね。
さっき塔が無理やり下のフロアをぶち抜いたようだね。
今のカフカたちは多分地下二階あたりにいるだろうね、でも医務室までちょっと距離があるなぁ。
ああ、看守たちが混乱してる間に、先に進もう。
ロビン、無事か?
……
私が……無事なんかでよかったの?
いいんだ。
それにそんなに気にすることもない。
前にも言ったはずだ、「君は私の暗殺を続けることもできる」とな。
それに君は自分のこの行いがある種の裏切りと思っているのであれば、私が言えるのは――
私たちの間に裏切られるほどの信頼関係なんてないということだ。
えッ、それカフカにもないの?
ない。
えぇぇッ、薄情するぎるよアンソニー。
知り合って数か月しか経ってない相手を完全に信頼しきるほうが問題だと思うがね。
もちろん、私も少しばかりは失望した、だがそれだけだ。
それよりも気になるのは、君が私たちと過ごした時間の中で見せた感情は演技ではなかった、私には分かる。
何が君にそのような選択をさせたんだ、ロビン?
……
私の父さんは、たくさん仕事が出来たし、私にもすごく優しかった、父さんは私の誇りだった。
でもある日、彼の会社は突然倒産した。
そして父さんは変わってしまった、酒に溺れ始め、短気になって、傍にあるすべてを憎むようになった。
母さんもそれのせいで家を出て行って、借金もたくさん背負った、そして、肝臓の病気と見たことも聞いたこともない合併症で入院した。
母さんからは自分と一緒に暮らそうとよく言われたよ。
でも父さんの過去の優しさが忘れられないんだ。
父さんのために何かしてあげたい、だから私は自分の趣味を諦めたし、色んな仕事も働いた、でも父さんの医療費を支払うにはあまりにも高かった。
そしてある日、ある人が私の元に来てこう言ったの、私に多額のお金をやるから、一人の男を殺しに行けって。
その殺す相手が私だったというわけか。
なるほど、私が君になんの報酬も与えてやれなかったから、君はそんな選択をしてしまったのか。
いや、その人は刑務所内で看守を装ってずっとあなたを観察していた、名前はジェストン。
あなたに誘われたあと、彼は私の元に来て、こう言った――
サイモン一族の最後の悪あがきで私の父さんの会社は潰されたんだと。
……そんなことがあったのか。
であれば、君を責めるどころか、君に謝罪をしなければならないな。
ううん、謝らないで、言いたいのはそれじゃないんだ。
そうじゃないんだよ、アンソニー。
私だってこんなの間違ってる、正しいことではないとは思ってるよ。
でも私は考えるのを諦めてしまったんだ。
ほかに方法を知らなかっただけだったんだ、何も知らなかった。
もう疲れた、母さんに選べと言われて、父さんにも選べと言われて、生活も私の選択次第、ジェストンにも、あなたにも選べって言われてきた。
もう何も選びたくない、もういちいち何が正しくて何が誤りかなんか判断したくない、いいのか悪いのかなんて、もうどうでもいいの。
もう疲れたの、どうして何もかも私に選ばせるの!
だとしても、自分の選択権を他人に譲り渡してはダメだ、ロビン。
自分で物事を考え、一つ一つ選択し、その選択に責任を負うべきだ。
でなければ、己の運命を背負えなくなってしまう。
これは私が刑務所に収監された日々から学んだ最も大切なことだ。
力も、知恵も大事だ、しかし最も大事なのは、勇気だ、自分の選択にケジメをつけるための勇気だ。
私とて自分の過ちに恐れることもある、だがだからといってそれを言い訳に逃げてはダメだ。
以前までは自分には頼れる存在なんて誰一人存在しないと思っていた、だがそうじゃなかった、そんな相手など最初からどこにもいない。
私たちは自分自身に頼るしかないんだ。
……
君の苦しみを見つけてあげられなくてもすまなかった、ロビン。
そしてもう一度強調もしておく、君がしてきたことは私の脱獄計画を水の泡にしてしまった、だから君を簡単に許してやるつもりはない。
だが君と同じ苦しみの立場にある者として言いたい、君にはしばらくその苦しみを忘れてほしい。
もう一度自分を見つめ直し、考え、自分は一体何がしたいのか考え直してほしい。
私の……やりたいこと……
ドゥーマの医務室はこの先にある、じっくり考えるといい。
……もう私の話を信用してくれないと思うけど、でも、ジェストンは私からあなたたちの計画のすべてを聞き出した、彼ならきっとどこかであなたたちを待ちわびているはずだよ。
感謝する。
いや、逃げも隠れもしませんよ、私ならここにいます。
!?
ドゥーマの部屋からだ!
まさか……!