このクソッタレ!
(アンソニーがジェストンを殴る)
無駄ですよ、アンソニー。
ロビンさん、君も相当見事な腕前をお持ちだったとはね、ますます気に入りました。
どうですか、今こちら側について頂ければ、命を残してやらなくもないですよ。
必要ない!
(ロビンがジェストンを殴る)
あいつの手一体どうなってんだ、黒く変色したあとガッチガチに固くなったぞ!
では少しだけ紹介してあげましょう、これは私のアーツです、鉄の元素を操れるんですよ、そして私の身体も、少しだけ改造を施してましてね。
君の先ほどの攻撃、鉄板を殴った感じがしませんでしたか?
あれは私のアーツの能力だけではないんです。
私の皮膚の下層には、ライン生命の技術の結晶――小さな金属板が埋め込まれているんです。
まあ、私も正式名称は知りませんが、とにかくこいつは大幅に君の攻撃威力を弱めてくれるんですよ。
待って、お前ってライン生命の人なの!?
いいえ、残念ながら、違います。
まあしかし、枷に制限されてもなお、ここまで善戦してきたとは、驚きです。
では私も本気を出していきましょうか。
あいつの手が、剣状に変化した……
知っていますか、アンソニーさん。
私がこの刑務所に来て、初めて君を見た時、一種の不協調を感じたんです。
君は必死にご自分を抑えて、自分があたかも無害なように、礼儀正しいように振舞っていきた。
しかし君という存在は力の表れのようなもの。
私はあの時から、ずっとこの場面を期待していました。
君が優雅で温厚な化けの皮を剥がし、凶悪が露になった姿を――
ならてめぇを失望させてないだろうな。
そうです、だから私にもっと見せてください。
てめぇに俺の本性を決めつける資格なんざねぇ!!!オラァ!!!
私とてわざとではありません。ただ言いたいのは、今の君は、見てて実に心地いい。
(アンソニーとジェストンが殴り合う)
とうとう牙すらも使い始めましたか、やれやれ。
しかし残念ながら、君の牙では私の表皮を破くことはできませんよ。
……クソ、チクショォォォ!
はぁ、言わせておきますけど、アンソニー、ここから脱出しても何ができるというのです?
ご両親を助けられるとでも?君の家族を挽回できるとでも?
教えてあげましょう、ここから脱出しても、得られるものなど一つもありませんよ。
君はこの刑務所でいい暮らしをしているじゃないですか、所長だって君をよくよくもてなせと言ってくれている。
さっきは君に手をかけるのは容易だと言いましたが、実はそんな簡単なものでもなくてね、もし君が脱獄しようとしなかったら、君を処理するにも大きな代償を払わなければならないんですよ。
脱獄しなくてもいいじゃないですか、このままここで君の優雅な暮らしを過ごせばそれでいいじゃないですか?
……六年前の7月24日、俺は晩餐会に参加するつもりだった、だがボディーガードが突然俺に、家で何かが起こった、親父が俺に逃げろと教えた。
何が何だかさっぱり分からなかった、親父とおふくろに顔も見せずに、俺は逃亡の道に足を踏み込んだ。
キャストアイアン市に逃げ込んだが、それでも俺は逮捕された。
そん時俺はもうおしまいだと思った、だがここにぶち込まれてからしばらく経って、分かったんだ、そうではないと。
俺はここに来て囚人ではありえないような好待遇を受けた、そしてすぐに察した、俺の入獄は、おそらく親父が手配してくれたんだと。
奇遇ですね、私もそう思っていました。ではそう思うのであれば、なおさら君の父親の想いを無駄にするわけにはいきません、そうでしょ?
俺の親父の想いだと?
……てめぇは他人の考えと歩む道を上から偉そうに決めつけるのが好きなようだな、ジェストン。
てめぇ、人から器が小さいって言われたことないか?
……似たようなことなら以前言われたことがありますよ。
だが、私の器の大きさと、君が脱獄できるかどうかとは関係ないと思いますけどね。
俺はここで気持ちよく暮らすことができる、あるいはここを俺の王国に仕立て上げることもできるだろうな。
だがだからといってなんだ?そんなことしても自由ではあるが俺が囚人であることに変わりはない。
俺はここで六年も過ごしてきた、この六年間、俺はいつだって脱出することだけを考えてた。
脱出したいのは、俺がどれだけすごいかを証明するためじゃない、あの時一体何が起こったかをはっきりするためだ、俺の家族を破滅に追いやったあの連中に、俺はまだ終わってないって教えてやるためだ!!
正直に言うと、君のその激昂した喋り方を聞いていると君のことが嫌いになってしまいますよ、アンソニーさん。
まあいいでしょう、どうあがいても、君はここから出られないのですから。
君を倒せなかったとしても、十分時間は稼ぎました、ほかの警官も封鎖を解除してそろそろここに駆けつけてくるでしょうね。
素晴らしかったです、君のお仲間さんたちも素晴らしかった、君は何も間違っていませんでしたよ。
ただこの大地では人の意に介さないことがあまりにも多く起こってしまっているだけです。
残念ですが、君の脱獄もここでおしまいです。
(扉が開く)
ほら、死神がやってきましたよ。
ここまでなのか……
チッ、どうすれば……
残念だが、死神はしばらく来ない。
それと、アンソニー、声が大きすぎる、来る途中からすでに筒抜けだ。
君は……誰だ?
ん?あなたは……
お前たちの計画は私からしても予想外だった、と言わざるを得ない。
お前たちのためにほかの警官を阻止するのに少しだけ時間を食ってしまった。
あれっ、どっかで見たような……
ライン生命、警備課主任、サリア!
お前のことなら私も知っているぞ、ジェストン。
まさかあなたのような大物に憶えて頂いたとは、光栄です。
私の手元までに来れる履歴書はそう多くないのでな。
あなた自らに不合格を言い渡られたあの時のこともしっかりと憶えておりますよ。
]だがそれより、なぜです、なぜ警備課主任であるあなたがこんな刑務所に現れたのですか?
その点に関しては知らなくていい。
今お前が知るべきことは、お前には退場してもらうことだけだ。
……退場?
いやいやいや、何か勘違いされてるんじゃないですか、サリア主任、いや、サリア。
あなたの能力と私の能力は似通ったところがあると聞きました、しかしまだあなたと一手交わることもなく、私はあなたに門前払いされた。
それ以来、あなたは本当に私より強いのかと、ずっと小さな疑問を抱き続けてきました。
そして今、ようやくそれを確かめるチャンスが訪れたようですね。
ふん。
(アーツの発動音)
彼女の手の色も変わった!
白くて、きれい……
お前のアーツは確かに私のと似通ったところがある。
だが……
死体安置所の中で、重苦しい衝突音がした。
ジェストンの両手の凝縮した黒い凶刃の前では、サリアの手刀は無力に見えた。
しかし、事実はそうではなかった。
一歩。
二歩。
三歩。
衝突するたびに、ジェストンは数歩後退しなければならなかった。
セリアの手刀には、ひびさえ入っていなかった。
あの時教えたはずだ、ジェストン。
お前は変えようともせず現状に甘え過ぎている、私の部下にそんなヤツは必要ない。
……
お前の器は、小さすぎる。
サリアの横斬りによって、ジェストンの両刃にはひびが入った。
1回。
2回。
3回。
ジェストンは攻撃の余地さえなく、守るしかなかった。
この……
その地に根を張らない浮草のような心構えを変えない限り、何度私の元に来ても無駄だ。
そこをどけ。
サリアァァァ!!
(金属音と血の滴る音)
言ったはずだ、どけ。
サリアの最後の一撃は、ジェストンの刃を断ち切り、細長くも血肉が見える傷を負わせた。
サ……リ、ア……
(ジェストンが倒れる)
つ、強すぎ……
警備課主任はめっちゃ強いって昔聞いたことあるけど、にしても強すぎるでしょ……
彼女に睨まれなくてよかったぁ。
感謝します、サ……サリアさん。
礼なら後だ、動けるのであれば計画を続けろ。
しかしその前に、一つ聞きたいことがある、アンソニー・サイモン。
何なりと。
フェルディナント、という名前は聞いたことないか?
フェルディナント……親父から聞いたことがあります
やはりそうか、フェルディナント。