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【明日方舟】サイドストーリー「画中人 WR-2 墨魎」前半

講談師
講談師

なるほど、友人に代わってその友人の親族を探しに、遠路はるばるこの大炎にやってきたと、感服致しました。

講談師
講談師

しかし、灰斉山、勾呉城?この付近にそんな都市があるとは聞いたこともありませぬな……天岳はほど近いのですがね。おそらく私の見識にない小さな名の知れぬ山、という可能性もございましょう。

ウユウ
ウユウ

ん?天岳……?

クルース
クルース

これは面倒臭くなったね。

ラヴァ
ラヴァ

……聞きたいんですが、アタシらは今大炎のどこにいるんですか?

講談師
講談師

ここは婆山の地界、婆山鎮というところでございます。

ラヴァ
ラヴァ

……?

ウユウ
ウユウ

(ない、聞いたこともない!)

ラヴァ
ラヴァ

じゃ、じゃあ今年は何年ですか……?

講談師
講談師

今年は景祚七年、立春を過ぎ、除夕に差し掛かってる時期でございます。

ウユウ
ウユウ

……へ?

ラヴァ
ラヴァ

(小声)景祚っていつだ?

ウユウ
ウユウ

(小声)恩人様、はっきり言うと、私は歴史はあまり得意ではないが、この景祚というのは……ここ数百年来の年号ではないと思うし、見たこともない……

ラヴァ
ラヴァ

……

ウユウ
ウユウ

(小声)ど、どういうことなんだい恩人様?まさか門をくぐったと思ったら一千年も前にタイムスリップしてしまったのか?

クルース
クルース

(小声)一千年前にこんな園庭建築ってあったの?

ウユウ
ウユウ

(小声)そりゃないさ!まさかあちらの煮傘居士殿が嘘を吐いているのか?しかし見た感じは文化人だ、嘘をつく理由なんてないはずだが?

講談師
講談師

英雄のお三方、貴殿らは村を助けてくれた、であれば私のお客人だ、何か聞きたいことがあれば何なりとお聞きください、遠慮などいりませぬ。

ラヴァ
ラヴァ

……ではここの風土や生活形式や習慣を教えてくれないか?実を言うと、ここはどうやらアタシらの目的地ではなさそうなんだ、きっと道に迷ってここに来たんだろうが、まだはっきりと分かっていないんだ。

ラヴァ
ラヴァ

そうだな……この村のことについて教えてくれないか?

講談師
講談師

ふむ……婆山鎮の成り立ちには主な説がございます。七十年前、とある富豪商家が大火事を起こしてしまい、無数の皺寄せが及んでしまったのです。

講談師
講談師

富豪はたいそう気を落としてしまい、余生を静かに過ごせるような風光明媚な場所を探すために、そこを去りました。

講談師
講談師

そしてその後、村の人たちは燃え跡の中に、なにやら奇怪な絵画を見つけたのです。

ラヴァ
ラヴァ

……絵画?

講談師
講談師

ええ。家屋は綺麗さっぱり燃え落ちてしまいましたが、その絵画はなぜかつつがなく無事でいました、灰を払えば、まるで新品同然だったのです。

講談師
講談師

富豪はそのことを聞きつけ、火を避ける息災の縁起物として、大金をはたいてその絵画を買い戻しました。

講談師
講談師

富豪は新居でその絵を、画中の風水を眺めれば眺めるほど、ますます気に入ったのです。そして百人もの下人を遣わし、その絵に描かれた風光明媚な景色を探させたら――

講談師
講談師

――ここを見つけだし、この村に居を構え、この庭林を植えたのです。

ラヴァ
ラヴァ

……つまりあなたのご先祖?

講談師
講談師

違います違います、諸行無常とはまさにこのこと。その富豪の死後、彼には数人の息子がいましたが学も才もなかったため、一家の家財は尽き果ててしまったのです。

講談師
講談師

そこへ私の父に偶然機運が舞い降り、少々持て余した金があったため、この敷地を買い、ここに居を構えたというわけでございます。

講談師
講談師

その後、ここ付近は天災の被害も極めて少なく、山も川も美しいことから、多くの風流な方たちを吸い寄せてきたわけです、そしていつしか、婆山鎮は今日のような規模へと発展していったのです。

クルース
クルース

(なんだか奇妙な話。)

ラヴァ
ラヴァ

(聞いた感じだと変なところはなさそうだが……)

ラヴァ
ラヴァ

じゃあ、この空の色はどういう……?

講談師
講談師

空?

ラヴァ
ラヴァ

えーっと、つまり、昼と夜がごちゃ混ぜになったような……

講談師
講談師

私たちは元より日が出れば作を為し、日が落ちれば息を成してきましたよ、なにかおかしなことでもございましょうか?

ラヴァ
ラヴァ

あの鐘の音が鳴ってから、二時間……一時辰ほど経った。それなのに太陽の位置がまったく変化していないんだ、これは何が原因なんだ?

講談師
講談師

太陽?位置の変化?

講談師
講談師

日と月が空にかかり、日は東、月は西、千古不易、位置が変化されることなどありましょうか?

講談師
講談師

ん?皆さん表情が何やら変ですよ?何かおかしなことでも言いましたか?

ウユウ
ウユウ

その、恩人様、ちょっといいかな、お話の途中にすまない。

ウユウ
ウユウ

お尋ねしたいのだが煮傘殿は明日もこちらで講談されるのでしょうか?

講談師
講談師

もちろんですとも。

ウユウ
ウユウ

明日もそうであるのでしたら、さすれば昨日も張り扇と、拍子木を叩いておられたのでしょう?

講談師
講談師

職も就かず家に引きこもっているうえ、怪書を収集するという唯一の趣味しか持っておらぬため、こうして講談で時間を潰してるだけです。故に毎日の申の刻、たとえ雷に打たれようとここで講談を致しております。

ウユウ
ウユウ

えーっと、では月日も恒常にして落ちず、その「今日明日昨日」や、この「一日」というのは、どう定義されておるのでしょうか?

講談師
講談師

烏殿は面白きことをお聞きしますな、即ち十二時辰を以て一日となす、聞かずともおわかりでしょう?

ウユウ
ウユウ

えーっと……十二時辰、つまり二十四時間というのは、一昼夜を指す時間なのでは?

講談師
講談師

ふむ、これはおかしなことを聞きますね、お三方は一体どちらから来られたのでしょうか?十二時辰というのは、極東の日出る地から、極西の月出る山までに赴く時に必要な時間でございますよ?

講談師
講談師

もちろん、その道中で分断された各区画のことも指しますよ、婆山鎮の東から西は、即ち巳から亥ということになります。

講談師
講談師

山の外にはまた山があると聞きます、まさか鴻洞山外、東昇河の下流は、こことは違うのですか?

ウユウ
ウユウ

なんと言いましょうか……婆山鎮だけでもこれほど大きな地盤を有しています、仮にほかの場所にも村などがあれば、日を見れることは永遠にないのでは?

クルース
クルース

もしくは永遠にお昼とかだね、睡眠もままならないのは、イヤだなぁ。

講談師
講談師

それは……私でもわかりかねます。

ラヴァ
ラヴァ

この村から出たことはないのか?ほかに来客とかもいないのか?

講談師
講談師

一度も出たことはありません。ここに来客が来ることもめったにありませんいし、ここを出て行った若者たちも、ほとんどは戻ることはありません。

講談師
講談師

実を言いますと、私たちが知ってる所謂「大炎」は、富豪が残した蔵書から知りえただけにすぎないのです。

ラヴァ
ラヴァ

……天災に遭遇したことは?

講談師
講談師

それも極めて少ないです。書物で記載されているものを除いて、少なくとも私共三代に渡って、一度も見たことはありません。

講談師
講談師

そのため、私たちは軽々しく村を離れようと考えたことなどありません。見ての通り、ここに来られる来客などほぼいません、高官や信使などもってのほかです。

講談師
講談師

今日の婆山鎮は俗世と隔離されていると言われても、微塵も過言ではございません。しかし、世を知らぬからこそ、穏やかに過ごせると言えましょう。

ウユウ
ウユウ

……

ラヴァ
ラヴァ

じゃあのバケモノたちは?

講談師
講談師

はぁ……それがいつの間にか現れたのですよ、毎年除夕の前後、鵬洞山から妖怪共が時折村を襲いに来るのです、おおよそ三から五日ぐらいかかりますね、ここ数年、ずっとこうです。

講談師
講談師

そしてその年々の間、私は書物を漁りに漁りました、少数のまた少数の来客たちにも尋ねてみましたが、解決の方法は未だ見つかっておりません……

講談師
講談師

ただ太陽がある場所に避難すれば、あの妖怪共も近づいてこないことぐらいしか知りません。

講談師
講談師

あのような妖怪共と危険を冒してまで戦うより、何事もなく無事に経て、太陽の下に隠れていたほうがマシです、一夜だけ眠れぬだけで済みますしね……

講談師
講談師

そしていつしか、それはここの習慣となっていったんですよ。

ウユウ
ウユウ

なんと!ここはまさしく世外の桃源郷と思っておりましたが、まさかこのような厄介事を抱えていたとは……あのバケモノ共は、確かに恐ろしい、近づかないことは、まさに英断なりや!

ウユウ
ウユウ

(小声)恩人様、話があまりにもぶっ飛びすぎやしないか……

ラヴァ
ラヴァ

……講談師さん、最後に一つお願いがあるんだ。

ラヴァ
ラヴァ

アタシらがここに来た理由は、人を探していることは知ってるよな。ここに、そのぉ、縁の物があるんだけど、見たことあるか?

講談師
講談師

これは……?

講談師
講談師

むむ……

講談師
講談師

……なんと素晴らしい匠技かな。

講談師
講談師

しかし……申し訳ありません、このようの非凡な物品、目にしたことがあれば、きっと――

(村人がノックして入ってくる足音)

村人
村人

旦那様、宴会の席の準備が整いました。

講談師
講談師

うむ、ご苦労様、お三方は村で宿は取っておりますかな?

ラヴァ
ラヴァ

まだだけど……

講談師
講談師

来る者は客なり、でしたらここで数日泊まられては如何かな、除夕のあとに、道を行きても遅くはないでしょう!

ウユウ
ウユウ

(小声)恩人様、どうする?

ラヴァ
ラヴァ

(小声)どうせ行く宛てもないんだ……だったらこの村に残って情報を集めよう。

ラヴァ
ラヴァ

(小声)ここは明らかにアタシらの知ってる「大炎」と違う、それに、アタシらがどうやってここに来たかについても、まだ何もわかっちゃいないからな……

ウユウ
ウユウ

よし!

ウユウ
ウユウ

では、お言葉に甘えさせて頂きます。

クルース
クルース

結局手がかりはなしかぁ……それにしてもここのお茶すっごいいい香りがするね、大炎の緑茶かな?

ラヴァ
ラヴァ

……クルース!

クルース
クルース

大丈夫、分かってるよ。

クルース
クルース

――

クルース
クルース

飲めるね。

ラヴァ
ラヴァ

ここに置いてある果物は……

ウユウ
ウユウ

あのぉ、恩人様たちは毒見でもしているのかい?なら早く言っておくれよ、私めがよろこんで毒見役になろう!

ラヴァ
ラヴァ

おい……!

ウユウ
ウユウ

う~ん!

ウユウ
ウユウ

うむ、恩人様、とても瑞々しい果物だよ、それにすごく甘い。

ラヴァ
ラヴァ

味の感想じゃなくて……

ウユウ
ウユウ

大丈夫だって!俗に言う、防人の心無くすべからずや。

ラヴァ
ラヴァ

毒を盛ってるかどうかの心配じゃなくて……ただ逐一確認しないと気が済まないんだ……アタシらの周りにあるすべてを。

クルース
クルース

本当はイライラしてるんでしょ?大丈夫だって、私たちも同じだよ、何がなんだかさっぱりさ。

クルース
クルース

自分が本当にまだ生きてるのかどうかをまたもう一度確かめないと気が済まないみたいにね。

ラヴァ
ラヴァ

……もう一度確かめる、か。

ラヴァ
ラヴァ

二人はここで休憩しててくれ、アタシはやっぱり外を見てくる。

ウユウ
ウユウ

恩人様を一人で苦労させるわけにはいかないよ!私も同行しよう!

クルース
クルース

じゃあ手分けして行動しよう、今はこんな状況だからね、誰だってジッとしてられないよ。

ウユウ
ウユウ

よしきた、じゃあ……二時間後に集合かな?

ラヴァ
ラヴァ

わかった。

(ウユウが走り去る足音)

ラヴァ
ラヴァ

あいつ信用できると思うか?

クルース
クルース

……荒野で遭難者を見かけることはそんなに珍しいことじゃないけど、でも偶然というものは、一番信用に値しないものって思ってるかな。

ラヴァ
ラヴァ

同感だ、それに事実としてあいつはアタシらを騙しているに違いない。

ラヴァ
ラヴァ

巣を離れた鉗獣は極めて攻撃的になる。アタシらがあいつを見つけた時、あいつは木の上で惨めな様子をしていた……だが事故現場からその木までは八百メートルもの距離があった。

ラヴァ
ラヴァ

それにあいつの動きだ……

クルース
クルース

悪意がなくとも、お互い少しだけでも距離を置くべきだね。

クルース
クルース

……私もちょっとは気を張っておくよ。

(ウユウの歩く足音)

ウユウ
ウユウ

……はぁ。

ウユウ
ウユウ

(突然訳のわからない怪事件に巻き込まれてしまったが……禍によって福も得ると言うしなぁ……)

ウユウ
ウユウ

(しかし、これは――ふざけていい状況ではないな……もし帰れる方法が見つからなかったら、どうすればいいんだ……)

ウユウ
ウユウ

(うーん……しかしラヴァ嬢とクルース嬢に恩があるのも確かだ、ここは彼女たちに頼るわけにはいかない……まあいい!とにかく辺りを探ってみるか――)

ウユウ
ウユウ

ああ、すまないすまない、本当にすまない、考え事をしていてゆえ、前を見ていなかった――

サガ
サガ

……あ!

サガ
サガ

見慣れぬ顔でござるな、きっと外から来られた方であろう?拙僧も外から来られた来客を見るのは久しぶりだ!

サガ
サガ

拙僧は名をサガと申す、東国からやってきた客僧でございまする!おぬしは何処より来られたのだ?

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