
各部位ノ動作ガ円滑ニナリマシタ、久シブリノ感覚。

あはは、待て待て、喜んでくれて嬉しいが、そうグルグル私の周りを回らないでくれ。

ズゥママ、メンテナンス、上手。

ソコデズゥママニ、一ツお願イガアリマス。

0428号、スデニ退役シタ仲間デスガ、連絡ガ途絶エテシマイマシタ、ドウカ手ヲ貸シテクダサイ。

当機体ト同時期ニ出荷サレ、共ニ町ヲ建設シタ仲間デス、シカシスデニ音沙汰ハナシ。

連絡が途絶えた?

まあ焦らないでくれ、とりあえずその仲間がいるところまで案内してくれないか?

コチラデス。

……

この構造とパーツ……ふむ、単純なメンテナンスだけでは一筋縄いかないな。

どういう原理で動いていたんだ?お姉様とまったく構造が違う……師匠からもこんなものは聞いたことがないぞ。

ここを繋げればいいのか?……いや、お前の友だちだと言うしな、慎重にいこう。

友ダチ?ズゥママ、何度モ友ダチデ関係ヲ定義ヅケテイマス、理解不能。

メンテナンスハ不可能、トイウ意味デスカ?

そんなところかな、お前たちに関する資料か何かがあればいいのだが……

資料?デシタラ、図書館ニ資料ガ、保管サレテイマス。

おお!ではそこまで案内してくれないか?

ハイ、喜ンデ。コチラデス。
(ユーネクテスと奇妙な機械0429が立ち去る)

あの二人、面白いわね……

今まで本には書いてなかった交流の仕方だわ。地上人……研究する価値は大いにありそうね。

なあエリジウム、どっちが先に速くスライダーから滑り落ちるか競争しようぜ!

いいね~!だったらこのロドスの水上のレジェンドと言わしめられたボクの実力を見せてあげるよ!これに関してはソーンズに負けたことはないからね!

……チッ、アンタとこうして一緒に歩いてるぐらいならアカフラの獣に食い殺されたほうがマシだ。

まあまあそう言うなよ、ボクはただキミの真意を聞きたいだけなんだ。

ここのみんながどう思っていようが、少なくともキミやキミの師匠は優秀な建築デザイナーだってボクは思っているよ。

この立派なドームは、ドゥリンのどんな建築学の書籍にも載っていない設計が施されているんだ、だからキミさえよければなんだが……

そんなことのためだけにオレを呼び出したのか?チッ、時間の無駄だ……

ボクの“大水溜まり”のデザインが気に入らないのは分かるよ。ここにあるスライダーにしろ噴水にしろ、キミからすればどれも美しくないものね。

でもね、ボクが本当にデザインしたいものが何なのか、キミは知ってるかい?キミと同じように、ボクもあのドームを……キミと切磋琢磨してきたあのドームをデザインしたいんだよ!

……ハッ、わざわざオレの目の前でそれを言うとはキモが据わってるな。マジで殴られたいのか?

キミが相手ならボクは本望さ。

ハッ、そうかい!そこまでオレに一目置いてくれているのなら、今ここでお互いに抱き合って涙を流しながら仲直りするか?そんなのゴメンだね!

ドームの一件……ボクは本気だよ、スティッチ。

ただキミに教えてほしんだ、なぜあの時キミはドームの改造を諦めてしまったんだい?

採決会からも、あれ以降キミは姿を消した。昔みたいに、みんなに自分の美学を納得させることもしなくなった……

キミは本当にそれでいいのか?マスター・ヴィンチは何も言わずボクたちの目の前から姿を消したんだぞ?それに彼はキミの……

もう黙ってろ!

……俺はただ……何もかもが面倒臭くなっただけだ!

自分の心血と野心を全部あのドームに注ぎ込むことに、ここにいる連中を全員説得してやることに疲れたんだよ!

アンタみたいな“夢見る建築デザイナー”と一緒にせっせとあちこち駆け回って、お互いのデザインの案を売りつけることにはもうウンザリなんだ!

いいかよく聞け!このドームから水が漏れようが崩れようが、アンタらが投票で取り外すことになろうが――

オレには知ったこっちゃない!もう勝手にしろ!

でも、このドームはキミの師匠の……

もう一度言うぞ、カチ!もう俺に関わるなッ!勝手にしろッ!

……わかった。

本当はもう一度、キミと一緒にドームを設計しようと思ってたんだけど、叶いそうにないね……きっと、今ならここにいるみんなも認めてくれるはずだったのに。

そこまで拒むのなら、ボクも無理は言わないよ。キミの意思を尊重する。

でも、これだけはお願いできないかな?ボクのドーム改造案に、少しだけキミのアドバイスを貰いたいんだ……ダメ、かな?

だからもうオレに――いや……聞くだけ聞いてやろう。

本当に?ありがとう!

まず、ドームには色彩に欠ける。もっと彩を付け加えたほうがいい。

そう……まるでステンドグラスのように!複雑な幾何学模様を描いてドームの美しさをさらに引き立てるんだ!

見上げる際に息を飲んでしまうほどの黄色と緑と赤の豪華絢爛なコントラスト!

そうすれば昼でも夜でも、生まれ変わったドームはいつまでもみんなの目を虜にしてしまうほどの……

輝かしい巨大な宝石に生まれ変わるはずだ!

どうだいスティッチ!この斬新でクリエイティブ精神に富んだ素晴らしいデザインを!ぜひともキミの意見も参考にしたい!ボクもキミの意見なら謙虚に受け止めて……

カチ。

なんだい、スティッチ?もしかしてあまりの素晴らしさに考えを改めてくれたのか?それはよかった!ならもう一度も昔みたいに……

ドームに指一本でも触れてみろ!全力でその指をへし折ってやる!

それはないだろ、勝手にしろって言ったのはそっちだぞ?

アンタらがこのドームを復活させようが葬ろうが、オレにはどうでもいい。

だが!そんな形でこのドームを穢すことは断じて許さないッ!!!

これでもキミを尊重して、キミなりのシンプルな美を取り入れてあげたんだよ?

――いいや許さない、今日という今日だけは絶対に!何がなんでも一発ぶん殴ってやる!

ココデス。第五十九プロファイル保管室ノオープンラックニ置カレテイマス。

ここにあるのか?

ハイ。

どれどれ……ふむ、これはドゥリンの文字か?まったく分からんな……

コチラハ『大冒険家の地上紀行』、コチラハ『美酒の72の醸造法』。

ソシテコチラハ『私たちの前代未聞のクレイジー大計画』ト『情報規制がどのように社会に影響をもたらすか』、トナッテオリマス。

……本当に資料はここに置いてあるのか?

ドゥリンタチが整理整頓ヲ行ウコトハ希少ナタメ、ココニ置イテアル確率は42.377%ニナリマス。

そ、そうか……ん、向こうに読める本が置いてあるな。

『ほらばなし』……こ、ここにある三つの本棚全部がそうなのか……どれも十数年前の発行物みたいだが、これはヴィクトリア語版か……ん?カジミエーシュの『ワイン』も置いてあるのか?

その本は私たちが地上を知る唯一の手掛かりなの、文化にしろ言語にしろ、地上の情報にしろ。

そうなのか、どうりで私たちとも言葉がほとんど通じるわけだ。

『爆走!クレイジー自走車!』、「本雑誌を購入すればもれなくプロトタイプ車が一台ついてくる」って……これはここの雑誌か?自走車とは、外で走り回っている車両のことだな?

クロッチって人がすごい自走車改装の商売を推し進めていてね、補充やらパーツやらはここじゃかなりの売れ上げを叩き上げてるの。

彼女が言うには「みんなカスタマイズ性が大好き」らしいんだけど、私にはよく分からないわね。

そうなのか。しかし、なぜサルゴン語で書かれているんだ?

『ほらばなし』の素晴らしい伝統を引き継ぐため、雑誌ではサルゴン語が使われているの、ここじゃ常識よ。

それよりも、この本を探してるんじゃない?ほらこれ、『3秒で作れるサポートロボット』。

どれどれ……うん、少しは役に立てそうだな。ありがとう。

デコルテ様!

うん?知り合いだったのか?

ごめんなさい、自己紹介がまだだったわね。私はデコルテ・シルバーコイン、ここゼルエルツァの工業代表よ。

サポートロボットたちの管理者でもあるわ。

管理者……

そっ、ゼルエルツァにあるロボットの製造、監視と管轄はすべて私の担当なの。

ところでR2-E3型サポートロボット0429号、ここで何をしているの?

現在、ズゥママニ0428号ノメンテナンスヲオ願イシテイマス。

0428号ならすでに退役済みよ、メンテナンスしたって意味はいないわ。あなたもすぐに持ち場へ戻りなさい。

……了解シマシタ。

ねえズゥママ、ずっとそのロボットと交流してる場面を遠くから見させてもらったのだけれど、あなたと関わってからこの子……なんだから変なのよね。

どこか不可解な箇所でもあったのか?

それが分からないのよ……関わり合い自体がおかしいのかしら?

お前はこのロボットとは交流したり、会話をしたりはしないのか?

ええ、そうね……だってこの子たち、所詮ロボットじゃない。

それは勿体ない、ぜひともロボットたちとの交流をオススメするぞ。私とお姉様みたいに、お姉様のひんやりとしたボディとしなやかなアーム、そして駆動音を堪能できるんだからな。

えっ、え~っと……

地上にはそんな変わった文化までもがあるの……?

えへへ、大収穫~!

身長に合う服はなかったけど、この装飾品だけでも大満足です!知らない鉱石、見たこともない金属の風鈴、それとかわいいペンダント……

何よりガヴィルさんに選んでもらえたなんて!

ふふ~ん、あぁ……ガヴィルさんも私とお揃いのネックレスを買ってくれればよかったのになぁ~!

……この子本当に大丈夫なんですの?

ああ、いつもこんな感じだから気にすんな。

こういったモノを貯め込んでしまう行為は“ザラック症”と呼ばれていると本で読んだことがありますわ、ストレスか別の原因で起こってしまうんだと……

いやいや、ストレスなんて全然感じてませんよ!この品々は、どれも私にとって大切な思い出そのものなんですから!

そ、そうですか……

んでさ、アヴドーチャ、その名前ウルサスのだよな?実家はウルサスにあるのか?

妾の名前はアヴドーチャ・ライティング。標準的なドゥリンの命名基準から名前を取っておりますの。

でもアヴドーチャだけウルサス語だぞ。

それを聞いてどうしたんですの?

そう身構えるなよ、お前と話がしたいだけなんだって。

……妾はそこからやってきただけです、もう故郷でもなんでもありません。

……お前ってさ、なんでそこまで地上をあんなに警戒してるんだ?

……

小さかった頃、妾には家族が招いてくれた文学の教師がいましたの、よく面白い話をしてくれるものですから、ずっと一緒にいたいぐらい先生のことは大好きでしたわ。

ウルサスには故郷を描いた文学作品が数多く存在しておりますの。妾たちはいつもそれらの中にある素晴らしい真意を探り当て、物書きの文法を学びながら日々を送っておりましたわ……

あの時の妾は、誰もが故郷を懐かしみ、いつかはその故郷に戻り、そこで永久の眠りにつきたがっているんだと、そう思っていました……

けど、そんなことはなかったのです。故郷に苦痛の思い出しか存在しないのであれば、誰だろうとそんなところに帰りたいと思える人はいないでしょ?

そう思ってしまった暁には……故郷とは、人生の旅を行く際の道すがらの宿場でしかなくなるのです。

ではアヴドーチャさんは、どうしてウルサスを離れたのですか?

……強いて言うのであれば……

一夜にして、身分と家族と友人を瞬く間に失ってしまったから、でしょうね。だから妾はそこから逃げ出したんです。

ウルサスからサルゴン、そしてこのドゥリンの地下都市までとなると……大変だったろ。

当初は目的地もなかったものですから、大変もなにも……

ただ思い返せば、妾は運がよかっただけだったのでしょうね。ここにゼルエルツァなる小さな都市があっただなんて。

ここにいるドゥリンたちは妾を受け入れてくれた、だから妾も最大限の恩義をもって彼らにお返しがしたいのです。

……ここは妾を受け入れてくれた、妾の拠り処ですから。

そういうこともあって、妾はどうしても地上から来た者たちのことが信用ならないのです。その者たちが善意をもっていようがいまいが。

ですので、この街と人々を傷つけるものなら、妾は絶対に許しませんわ。

……そうかい。

本当なら友好の印として一杯奢ってやろうと思ってたんだが……この感じだとやめておいたほうが――

いえ、その……

そう言うのでしたら、甘んじて奢られると致しますわ。

――ふぅ。

へへ、いい飲みっぷりじゃねえか。まさにウルサスって感じだな。

その言葉を口にしないでくださいまし、ドゥリンだって似たような飲みっぷりではありませんか。

メンタルの分野を扱ってる医者じゃないから、お前が心に抱えてる蟠りやトラウマについてはとやかく言えたものじゃねえが……

でもいくら自分を偽ったって、ドゥリンになることは不可能だぜ?

……デリカシーに欠けてますわよ、あなた。

さっき屋台との会話が耳に入ったんだが、どうやら雪原を題材にした話を書いてるようじゃないか。その、なんだ、あんまり人気は出ていないようだけど。

……そうですわね。ここには雪もなければ平原もない、人気が出ないのも当然ですわ。

けど言っておきますけれど、あれを書いてるのは別に懐かしがっているからではありませんからね。ただ……そこはネタが豊富だからってだけですわ。

確かにネタは尽きねえな、どういうもんを書いてるからドゥリンらしくなれねえんじゃねえのか?

どうしても種族として決められた特徴をなくすことができないのは、妾とて承知しておりますわ。

けど、少なくとも近づくことは可能でしょう。

そんなこと気にしなくったっていいのに。ドゥリンにならなくとも、ここにいる連中ならそのままのお前も迎え入れてくれるはずだろ?

ではそんな妾が悪人だった場合でも、迎え入れてくれるのですか?

……

ここのドゥリンたちが他者を喜んで迎え入れてくれるのは確かですわ、今回はそれが運よく妾とあなた方でしたけれど、次も同じような人たちが来るとは限りません。

自分は医者だと言うのであれば、他人の心中にある悪も必ず理解しているはずなのでは?己の利益のためなら、人はどんな愚行に走ってしまう……そういう生き物です。

何も特定の種族のことを言ってるわけではありませんわよ、あくまでも地上がそういう風に出来上がっているというだけです。暴力に訴え、金に貪欲で、野心に満ち溢れてるこんな大地なんて……

そんな妾とて、地上のこういった穢れに染まり切ってしましました、だから新しく生まれ変わりたいのです。

悪は必ず伝播するものですわ、地下のドゥリンたちはそんな悪に対して免疫力を持たないものですから、いつかは必ず……

あなたの言う通り、妾はドゥリンにはなれない。けど一ゼルエルツァの住民として、この穢れを知らない街を守るためなら……

――妾は喜んで我が身をこの街のために捧げて差し上げますわ。

でもよ、ここにいる連中も、自分のケツは自分で拭けるって言ってたじゃねえか。

いちいち細かいことを掘り返さないでくださいまし!





