アークナイツストーリー翻訳

【明日方舟】夕暮れの彷徨い人 ムリナール「あばら屋」 翻訳

昔、大波を打ち砕いた騎士の物語が未だ物語として語られていなかった時、樹海を過る風には戦火と弓弦の音が聞こえていた。
我々は暗闇に囚われていると人々は信じ、己の生死を以て大地に報いり、鮮血を以て生きる代償とその諫言としていた。
それが今では、晩秋の日暮れは野原を照らし、聞こえてくるのは次の雨風に備えて金槌が家屋を叩く葺き替えの音だけ。
山の麓にある墓地においても、人々はただ鉄器を振るい、一つ一つと土をどけていく。そこに聞こえてくるのは枯れた作物を土に埋めるすすり泣きの声だけであった。


11月27日 3:20p.m.
カジミエーシュ南部にある野原

老いた村人
老いた村人

……して、今は各所を彷徨っているということですかな?

老いた村人
老いた村人

従者も連れず、追随する者もなく、剣と甲冑すら携えず……とはいえ、貴方様に敵う者などおりますまい。

老いた村人
老いた村人

今でも憶えておりますとも。貴方様はこの国における名家たちと相対しているお方、面倒事は避けられぬと大勢の者たちが言っておりました。

ムリナール
ムリナール

それを言った者たちも、今ではその面倒事を持ち込んでくるやもしれない救援物資を頼っているではないか?

ムリナール
ムリナール

……

ムリナール
ムリナール

……今の私はすでに権力者たちが相争っている地を離れた。もはや向こうが私に気を割く必要もないだろう。

老いた村人
老いた村人

ええ、ごもっとも……さしずめ驚かれることもありますまい。

老いた村人
老いた村人

当時の儂がこの異郷の地へ逃れたとしても、あの暴君のアーツから永遠に逃れることはできないと思ってはおりましたが……

老いた村人
老いた村人

……ご覧の通り、今ではしがいない教師をやりながら、この雨風もまともに凌げそうにないあばら屋で、静かに二十数年もの歳月を過ごしてきました。

ムリナール
ムリナール

リターニアから逃げてきたと以前言っていたな……だが巫王の塔はもはや崩れた、なのになぜ未だここに残っている?

老いた村人
老いた村人

あまりにも長く潜んできたからございますよ。今じゃもはや余所へ向かう気概も起りますまい。

老いた村人
老いた村人

何分ここへ報せが届くにはかなりの時間を要しますからね。それに儂自身もすでに田畑を耕し、どうやって腹を膨れさせるかと考える日々に慣れてしまいましたゆえ。

老いた村人
老いた村人

それに身分を偽るために、ワシは自らの角を斬り落とし、クランタとして生きることにしたのです。たとえリターニアにまだ儂を知る者がいたとしても、儂と見抜いてくれはしないでしょう。

ムリナール
ムリナール

しかしお前はリターニア人ではないか。

老いた村人
老いた村人

儂はただ己の半生にしがらみを覚えているだけの人間に過ぎません。

老いた村人
老いた村人

情熱を持った者たちもとうに死に絶え、儂もこうしてコソコソと隠れながら生き長らえてきました、もはや面目もメンツもありますまいて。

老いた村人
老いた村人

して、かつて赴いた地をもう一度巡り歩くおつもりですかな?何もお出しできなくて申し訳ありませんが、代わりに熱い茶を一杯頂けるのでしたら至極光栄に存じます。

ムリナール
ムリナール

結構だ。

老いた村人
老いた村人

左様ですか……しかし、貴方様から受けたご恩は今でも忘れておりません、この歳になったとしても。

老いた村人
老いた村人

ほかの者たちがカジミエーシュの各方言で互いに声を掛け合っていた時、貴方様は儂の正体を見破りはしたが、そのまま流民の列に居座ることを許して頂けました。

ムリナール
ムリナール

……

老いた村人
老いた村人

……どうやらもう憶えてはおられないご様子。

老いた村人
老いた村人

儂に話かけたこともさして憶えてはおらず、また儂を思い出して頂けた時もさほど驚いてはおられなかった……きっとほかにも儂みたいな者たちを大勢救ってきたのでしょう

ムリナール
ムリナール

……それはもう過去の話だ。

ムリナール
ムリナール

それよりもお前、告知を書いているのか?

老いた村人
老いた村人

さっきの紙のことですかな?ええ、注意を促す告知を書いております。

老いた村人
老いた村人

昨日にとある騎士様が儂らの村へやってきて、近頃この一帯に強盗の輩が流れ着いたと、またツヴォネク市ではすでに襲撃事件が起こっていると伝えてくれました。

老いた村人
老いた村人

だが強盗が流れ着いた程度で、儂らのような移動都市から離れた辺鄙な村が被害に遭われたとしても誰も気には留めません。冴えてる人ならみなそう思いますよ。

老いた村人
老いた村人

とはいえ、征戦騎士様があれほど厳かにお伝えしてくださったものですから、今は少々不安に駆られております。

老いた村人
老いた村人

ですのでムリナール様、いくら襲われる心配はないにしても、せめて得物を一本携えていたほうがよろしいかと思います。

ムリナール
ムリナール

……征戦騎士が伝えに来たのか?

老いた村人
老いた村人

初耳だったのですか?

老いた村人
老いた村人

しかし、改めて思えば確かに変ですな。ここ数年來、征戦騎士が平民の生死に関心を寄せるところなど見たこともありません。

老いた村人
老いた村人

二年前に隣の集落から何世帯かの家族がここへ引っ越してきたのですが、彼らはその騎士様に天災から救われた一家でした……

ムリナール
ムリナール

……疑問に思ったのはそれではない。それに、ヤツにとっては当然のことをしたまでだ。

トーランド
トーランド

正直言ってヒヤヒヤしたぜ、チェスブロ。

トーランド
トーランド

もしお前さんがあの時兜を外してくれなかったら、ビビった村人に矢を撃たれていたかもしれないからな。

トーランド
トーランド

万が一敬愛なる征戦騎士様を傷つけてしまったものなら……俺ぁもうすでにそれなりの賞金をかけられているからな、もしかしたらもっと上乗せされてたかもしれないぜ。

チェスブロ
チェスブロ

“村人”とは、よく言ったものだな。ふふ……

チェスブロ
チェスブロ

そちらも私の顔を憶えていてくれて助かったよ。

チェスブロ
チェスブロ

……どのくらいは憶えていてくれているのかな?

トーランド
トーランド

もうお前さんを知ってる連中ならほとんどいないよ、みーんなおっ死んじまった。新入りは言わずもがな。

チェスブロ
チェスブロ

……

トーランド
トーランド

俺たちみたいな連中のために悲しむ必要はないぜ?んで何しに来たんだい?こんな荒野のちゃちな村まで来ちまったんだ、“暇だから”なんて言っても通用しないぜ?

トーランド
トーランド

俺もちょいと耳に届いたんだ、近頃ここ一帯はおっかないらしいな?征戦騎士も都市外部で治安維持に努めているとか……

トーランド
トーランド

――なんならウチら何人かの兄弟がお前の手下に捕らえられちまったぐらいなんだぜ?

チェスブロ
チェスブロ

……だからここに来たんだ、トーランド。

チェスブロ
チェスブロ

ここにいるバウンティハンターたちを率いているのがお前であれば話も丸くは収まるだろ。

チェスブロ
チェスブロ

知っての通り、こっちもまずは規則に従って仕事をしなければならないのでな。

トーランド
トーランド

ヘッ、“規則だからだ”って言われなくて助かったぜ。んじゃどっか場所を移そうか?

トーランド
トーランド

この前“鉱夫”と会ったんだが、お前に会いたがっていたぜ。当時はこっちも撤退でそっちは上への報告で忙しかったからな……まああいつ、二年目に病死しちまったんだけどよ。

チェスブロ
チェスブロ

ここから眺めると……ちょうど川の向こうにある工業地帯が見えるな。いいところに拠点を置いたじゃないか。

トーランド
トーランド

ああ、あれはどうやらデカい企業の持ち物のようだ。それがどうしたんだい?

チェスブロ
チェスブロ

本来あそこはパレニスカ家の荘園だった場所だ。

トーランド
トーランド

……恋しくなっちまったのかい?

チェスブロ
チェスブロ

少しはな。

チェスブロ
チェスブロ

……本題に戻ろう。ハンターらが私にどれだけの敵意を向けているかは知らないが、少なくとも君に迷惑はかけたくない。

トーランド
トーランド

それについてなら安心してくれ。もう俺たちを知ってる古株はほとんど残っちゃいないが……全身武装した騎士団長様に襲い掛かる命知らずのようなマネはしないさ。

チェスブロ
チェスブロ

いや、不意打ちなどを心配してるわけでは……ん?まだ私が昇進したことは伝えていなはずでは?

トーランド
トーランド

そう驚くなよ。征戦騎士の内部情報は比較的極秘の部類と言えるが、お前さんもう団長になって何年にもなるだろ?こっちもそれなりに情報を掴んでるって。

トーランド
トーランド

たとえばなんだ、やれ“星砕きの黒い槍”だ、やれ“災いに抗う先鋒騎士”だとか、色々知ってるぜ?

チェスブロ
チェスブロ

よしてくれ、君が得たその“情報”は担えきれんよ。それに裏切った自分の仲間を捕えることなど、気持ちのいいことでもない。

チェスブロ
チェスブロ

私の武芸もさしたるものではないのは君だって知っているだろ。人に言えた功績だって他愛ないものばかりさ。

トーランド
トーランド

ヘッ、お前さんならそう言うだろうよ。

チェスブロ
チェスブロ

まったく、君ってヤツは……

トーランド
トーランド

んで最近の襲撃事件だが、なんか嗅ぎつけたのかい?それともあれか、お上からそれらしいフリをしておけってお達しかい?

トーランド
トーランド

都市内の事件に外を守る征戦騎士を向かわせるなんて只事じゃねえぞ。

チェスブロ
チェスブロ

……その両方だ。

チェスブロ
チェスブロ

だがハンターたちは必ず無事に釈放すると約束しよう、トーランド。彼らを捕えたのは見回りをしていた征戦騎士だ、君と私の間柄であんなミスをするわけがない。

トーランド
トーランド

当然さ、お前さんだって清廉潔白な人をみだりにしょっ引いたりしないだろ。

トーランド
トーランド

自分が真っ当なことをしてるとは言えねえがこれだけは言えるぜ、最近起こった襲撃事件はマジで俺たちとはまったく関係ないんだ。

チェスブロ
チェスブロ

……しばらくは待っていてほしい。この調査期間を終えなければ、彼らを釈放することはできないのでな。

トーランド
トーランド

その“しばらく”が長くならないことを願うぜ。

トーランド
トーランド

……っていうかそんなことなら手紙を寄越せばよかったじゃないか。

トーランド
トーランド

わざわざ自分からお越しになるとは、何か直で伝えたいことでもあるのか?

チェスブロ
チェスブロ

……君のハンター、あの独眼のザラックから君たちがここに来た理由を教えてくれたよ。

トーランド
トーランド

へぇ、お前さんにウソを言ってねえといいんだが。

チェスブロ
チェスブロ

君たちがとある村人からの助けを求める手紙を受け取ったと聞いた。

トーランド
トーランド

普段は情報収集のために民間組織を名乗っちゃいるが、太っ腹な値段を出してくれるお客さんには喜んで手助けするもんでね。

トーランド
トーランド

本当だぜ?俺たちは助けにいったんだ。まあ使う手段はご立派と言えたもんじゃないがね。

チェスブロ
チェスブロ

……君らが正しいことをしたのは分かっている、だからこそ余計に後ろめたいんだ。

チェスブロ
チェスブロ

聞いてくれ、トーランド……今はしばらく行動を控えてもらいたい、今回の調査に巻き込まれないためにも。

チェスブロ
チェスブロ

それと今回ツヴォネク市の区画建設の仕事を受け持った企業にもなるべく近づかないほうがいい。

トーランド
トーランド

……なにやら大事みたいだな。誰かがお前さんらの手を借りて敵を排除しようとしているのかい?

チェスブロ
チェスブロ

……

トーランド
トーランド

フッ、まあ忠告どうも。

トーランド
トーランド

そこまで言うのなら従うさ。

トーランド
トーランド

あっ、だったらちょいと下の連中にも伝えたいんだが、いいか?じゃなきゃすぐしょっ引かれた可哀そうな連中を連れ戻そうと躍起になってるもんだからな。

トーランド
トーランド

……うし、こんなもんだろ。そんじゃ、お前さんが今腰にぶら下げてるそのサーベルについても説明してもらおうか?

トーランド
トーランド

あの騎士の旦那様ときたら取り換えもしないでずっとその得物を持っていたもんだからな、間違いねえ。

トーランド
トーランド

ムリナールに会ったのか?

老いた村人
老いた村人

……ここら一帯の騒動を聞き及んでいないのも無理はありません。ツヴォネク市に寄らず、そのまま荒野を歩き渡ってきたのでしょうな。

老いた村人
老いた村人

もし道中でトランスポーターと会うこともなく、新聞を買われることもなければ、近頃の事件を知ることも困難というもの……

(熱心な村人が駆け寄ってくる)

熱心な村人
熱心な村人

――ゾマー先生、ここにいましたか。

熱心な村人
熱心な村人

告知の張り紙はもう全部貼り終えましたよ。

老いた村人
老いた村人

おお、エヴァか、助かったよ。

熱心な村人
熱心な村人

いいんですこれぐらい、先生のお役に立てるのであれば!

熱心な村人
熱心な村人

――えっと、ついでお聞きしたいのですが、そちらにおられる方は……?

老いた村人
老いた村人

このお方は……騎士様だよ。

熱心な村人
熱心な村人

まあ、騎士様!ようこそお越しくださいました。土地を見にいらっしゃったのですか?結構ここで長らく立ち話をされていたものですから。

熱心な村人
熱心な村人

最近は休暇を過ごすために都市の外で土地を買われる騎士様方も少なくないと聞いております、新しいブームになっているとか。

熱心な村人
熱心な村人

ここは一度も天災が起こったことはありませんし、付近の村々にも感染者はいませんから、キレイな土地ですよ。

熱心な村人
熱心な村人

もしかして企業を代表されて来られたのですか?今朝新聞でゲール工業が新しく募集をかけてるのを見ましたよ、ツヴォネク市の区画建設でたくさん募集してるらしいですね。

熱心な村人
熱心な村人

働ける方であれば、感染者だって都市の中で暮らせるチャンスを得られるんです。

熱心な村人
熱心な村人

あれ……ゲール工業がスポンサーになってる騎士団ってありましたっけ?

ムリナール
ムリナール

……

老いた村人
老いた村人

……オホン、エヴァ。

老いた村人
老いた村人

村長に渡す手紙があるのを忘れていたよ、代わりに渡しておいてくれないか?

熱心な村人
熱心な村人

え?あっはい。

熱心な村人
熱心な村人

じゃあ渡しておきますね。

(熱心な村人が走り去る)

老いた村人
老いた村人

あはは、これは失礼しました……都市から来た方にとても興味を持っているものですから、ついはしゃいでしまって……

老いた村人
老いた村人

北のあの道からいらしたのでしたら、きっと川の向こう側に新しくできた工場も見えたはずでしょう。

老いた村人
老いた村人

以前徴税人から、都市の比較的近くにあるジルドゥウォ村とカミェン村が土地を売ったと聞いております。

老いた村人
老いた村人

そのためか今では自分らの村が企業の目に留まることを夢見ている人たちが大勢いるんですよ。土地を買ってもらえれば、都市に入れる頭金を得られますからね。

ムリナール
ムリナール

……馬鹿馬鹿しい。

老いた村人
老いた村人

ええ、馬鹿馬鹿しい夢です。

老いた村人
老いた村人

儂はもう年老いて、もはやこれ以上の贅沢は望みません。しかし彼女らのような若者が、幾らかの白昼夢を見ても差し支えはないでしょう。

老いた村人
老いた村人

……元々儂は、リターニアで塔の貴族たちに弁舌を振るっていた学者でした。ただ口は災いの元とも言います、そのせいで儂はここへ逃れたのです。

老いた村人
老いた村人

今じゃもう髪は白くなり、眼先にある日々の暮らしを考えるだけで精一杯となってしまいました。

老いた村人
老いた村人

しかし若者らは違う。虚ろな夢とて、彼らがひたむきに未来へ期待を抱くには十分でしょう。

ムリナール
ムリナール

……責めてるわけではない。

ムリナール
ムリナール

その若者らを責め立てられる者がいたとしても、ここに来ることはないだろうな。

老いた村人
老いた村人

此度の再訪、失望させていなければよいのですが。

ムリナール
ムリナール

……私はただ人を探しにここへ少し寄っただけだ。

ムリナール
ムリナール

その探している人なんだが、金髪の征戦騎士の二人を見かけなかったか?

老いた村人
老いた村人

金髪?ここ数年付近で見られる征戦騎士たちはみな銀の甲冑と銀の槍を携えておられる方ばかりですので……申し訳ございません、儂も記憶にはございません。

ムリナール
ムリナール

無理してまで記憶を掘り起こさなくても結構だ……見たら必ず印象に残る人たちだからな。

老いた村人
老いた村人

それを目的にただ辺りを彷徨っておられるのですか?もし何か手がかりがありましたら、こちらも幾ばかりか手を貸しましょう。道案内ぐらいはできるやもしれません。

ムリナール
ムリナール

ここ数年内、建設車両の集団が通ったことはあったか?

老いた村人
老いた村人

いえ……ございません。

ムリナール
ムリナール

なら道案内も結構だ。

ムリナール
ムリナール

……道なら憶えている。

(回想)

貴族の私兵
貴族の私兵

覚えておいたからな、二アールの……貴様が旦那様にかかせた今日の恥の借りは、必ず貴様が情けに匿ってる下賤な連中から返してもらうぞ!

国民院の代表
国民院の代表

世論を鎮火させるために、我々はこの法案を通す用意ができている。だが君も分かっているはずだ、法は遠い荒野にもその触手を伸ばすことだってできる。

国民院の代表
国民院の代表

君さえいなければ、あの者たちの声も大騎士領に届くことはない。

バウンティハンター
バウンティハンター

あの連中にはもう追いつけん、そこまでにしろ。

バウンティハンター
バウンティハンター

このままあんたと一緒に戦い続けてもな、俺らとあんたみたいな貴族のお偉いさんが対等に振舞われるような、あんたがずっと望んできた場所をカジミエーシュは永遠に与えてくれはしないさ。

感染した流民
感染した流民

た、助けてくれ……!騎士様、一度はお目にかかったことがあるでしょ?お願いだから助けてくれ……どうか……

感染した流民
感染した流民

こんな見ずぼらしいテントの中で死ぬわけにはいかねえんだ!うちのガキが明日の朝にはもう帰ってきちまう……だからこんなところで……

大騎士長
大騎士長

すまないけどムリナール、それについては答えられないわ。

(回想終了)

甲高いクラクションの音が鳴り響き、談話していた二人が道を開ける。

通り過ぎていくのは商業連合会の大型運搬車両だ。コンテナには大きく白のロゴマークが描かれており、人々の視線を誘っていく。
タイヤがデコボコとした未舗装の道を行き、土埃を舞い上がらせ、嘶くエンジンの音は風と共に晩秋の野原へと消えていく。
剣を持たない騎士は静かでいた。
彼は車列が見えなくなるまで、ずっとその鋼鉄で作られた巨大な人工物を見る。
そしてくるりと身を翻し、己が定めた道を進み始めた。
深々とえぐられた車両の轍の傍らに、その騎士の足跡が残ることはない。

老いた村人
老いた村人

ムリナール様……?

老いた村人
老いた村人

……はぁ。

老いた村人
老いた村人

……カジミエーシュの騎士様や……何故それほど失望なさるのか?

老いた村人
老いた村人

何故剣を残し……独り道を進められるのか?

老いた村人
老いた村人

……あれからも二十数年か。そろそろ儂もエヴァに約束したように、外に連れてってやるべきかな。

チェスブロ
チェスブロ

……あの工場の付近でばったり会った。

トーランド
トーランド

そりゃまあ……恋しがるのも無理はないさな。

トーランド
トーランド

なんであいつがあんな場所に?

チェスブロ
チェスブロ

どうせ道にでも迷ったんじゃないのか?なんせ数年ぶりにあそこを通るものだからな。

トーランド
トーランド

ハッ、それを本人の前で言ってみろ、どうなると思う?

チェスブロ
チェスブロ

フフッ、言えるはずもないな。

トーランド
トーランド

てっきりウルサスに向かったと思ってたぜ。なんせあの二人を探しに大騎士領を出たんだしな。

チェスブロ
チェスブロ

彼の兄が自伝で描いた北風と雪原の風景はただのでっち上げじゃなかったのか?あの頃の私たちはそう思っていただろ。

チェスブロ
チェスブロ

あの尊敬してやまない騎士の二人がどこに行方を晦ませたかについてだが、本来なら監察会の上層部しか知り得ない情報だ。

トーランド
トーランド

どうやらお前さんが征戦騎士に入ってからも手がかりは得られなかったようだな?

チェスブロ
チェスブロ

ああ、残念ながら。

チェスブロ
チェスブロ

見過ごせないと思っているのは彼だけではないさ……

チェスブロ
チェスブロ

辛うじてまだ憶えているよ、二日前の夜にも一緒に集まってはあの失踪した二人のニアールについて話し合った夢をな。

トーランド
トーランド

……まっ、あれは久しぶりに休みを取った有給旅行とでも思って貰えればいい。

トーランド
トーランド

もう何年も音沙汰ナシなんだ、ムリナールだってバカじゃないさ。

トーランド
トーランド

そうだ、近頃ここ一帯の治安が悪化してることはあいつにも伝えたか?もしかしたらちょっくら手伝ってくれるかもしれないぞ?

チェスブロ
チェスブロ

ああ、彼にも手を貸してもらいたい。だから彼の武器を騎士団の武器職人に調整しに預けてもらった。

トーランド
トーランド

まっ、お前みたいな武器に拘りがある人間からすれば、ありゃ見てられないもんな。

チェスブロ
チェスブロ

いくら仕事で剣を使うことがなくても、二アール家なら大騎士領に一人や二人ぐらい武器職人は抱えているはずなのでは?

トーランド
トーランド

いるっちゃいる。

トーランド
トーランド

たとえば、俺らがウルサスとの紛争に巻き込まれた時、俺がムリナールに言われて幾つかの騎士団との連絡係にさせられたことがあったろ?

トーランド
トーランド

そのうち何人かが俺らを“サルカズ騎士団”と呼ぶようになった連中がいるんだが、そいつらはみーんな二アール家のお抱え職人になった。

トーランド
トーランド

キリルにもスニッツにもついて行ったことがあったし、ムリナールのあの戦火を越えていく勇ましい姿も見たことがあるさ。

トーランド
トーランド

それともう一人いるんだ、あいつの可愛い姪っ子でな。向こう見ずなぐらいまだまだ若いもんだから、危うく騎士競技というドブ水の中にボドンしそうになったことがあったんだ。

トーランド
トーランド

そんなあいつらに、あんな性格をしたムリナールが武器を預けると思うか?

チェスブロ
チェスブロ

フフッ、なるほど。

チェスブロ
チェスブロ

いやしかし、その人たちに武器を預けることだってできたはずだろう。

チェスブロ
チェスブロ

……今の彼が未だに自分の剣を必要としていると思うか?

チェスブロ
チェスブロ

今の彼が、“厄介事”を見かけても解決してくれると思うだろうか?旧情からではなく、一人の騎士として。

トーランド
トーランド

……どうして急にそれを?

チェスブロ
チェスブロ

……少し、個人的な恨みがあるんだ。

チェスブロ
チェスブロ

私の先代騎士団長は出身も貴族からやっかみを買ったことも気にしない寛大なお方だった。私も十年來ずっと彼を師として仰いでいたよ。

チェスブロ
チェスブロ

だが私が彼の後を継ぎ、騎士団の文書整理に取り掛かった時……

チェスブロ
チェスブロ

私が今まで堅く信じていた騎士道の訓令の後ろに、びっしりと私腹を肥やすために交易された権益の数々までもが書かれていたとは思いもしなかった。

チェスブロ
チェスブロ

なにもカジミエーシュにいるすべての騎士を責めてるわけではない……ただ私はもう、あの高潔な騎士とは程遠い存在になってしまったと言いたかっただけだ。

トーランド
トーランド

それをただのバウンティハンターに言うのか?

チェスブロ
チェスブロ

友人だからこそ聞いてもらいたかったのさ。

チェスブロ
チェスブロ

知っての通り、私は堅物だ。

チェスブロ
チェスブロ

君からすれば騎士の掟は何の役にも立たないものかもしれないが、少なくとも人を取って食うようなマネはしない。

チェスブロ
チェスブロ

……セレナだって非業の死を遂げることもなかったはずだ。

トーランド
トーランド

……セレナが死んだだと?そりゃいつだ……?

チェスブロ
チェスブロ

もう何年も前の話さ。

チェスブロ
チェスブロ

すまない、気軽に伝えられるようなことでもないから伝えるのが遅れてしまった。

チェスブロ
チェスブロ

……だがムリナールは知っていた。当時セレナが大騎士領まで連れて行かれた際、わざわざ彼に助けを求める手紙を送ったんだ。

トーランド
トーランド

大騎士領に、か……そりゃ厄介極まりないことだったろうよ。

チェスブロ
チェスブロ

だから彼も手の打ちようがなかった。セレナが死んだのは彼のせいではない、分かっている……彼は何も悪くはない。

チェスブロ
チェスブロ

ただあの時送った手紙はあれからまったく返してはくれなかった。だから今日会った時、どうしても口走ってしまってな。

トーランド
トーランド

……

チェスブロ
チェスブロ

もしあの手紙がキリルへ弔問の手紙に紛れ込んでしまったのなら、それはこちらがただ単に不運だっただけだろう。

チェスブロ
チェスブロ

だが彼は私の手紙を受け取り、そして読んだと言った……なのに彼は一切の過去に口を閉ざし、私の恨みにすら見向きもしてくれなかったんだ。

チェスブロ
チェスブロ

彼はいつから――白黒はっきりつけず、ただ有耶無耶にするような人間になってしまったんだ?

トーランド
トーランド

……

トーランド
トーランド

ちょいと質問させてくれ。

トーランド
トーランド

バウンティハンターの手を借りるつもりはない、だがお前さんの個人的な復讐劇にあいつを巻き込もうとしている……

トーランド
トーランド

お前さん、あいつを味方につけたいのか、それともあいつに復讐したいのかのどっちなんだい?

チェスブロ
チェスブロ

……

チェスブロ
チェスブロ

誤解しないでくれ。

この記事を書いた人
おーちゃん

フロストノヴァ推し

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