(無線音)

アーミヤさん、信号を受信しました!

了解です。

術師オペレーターたちは、私と一緒にアーツシールドの維持に努めてください!

その他の皆さんは、全員街の外れまで逃げてください!
サルカズの術師たちが一斉にアーツロッドをアーミヤたちに突きつける。
凝固した血から生み出された大量のバケモノたちは地面から湧き出て、まるで街そのものが戦士たちを足元から呑み込まんと血の滴る大きな口を開いているようだ。

くっ!

数が多すぎる、これでは防ぎきれません!
アーミヤが放つ黒い線はいとも容易くバケモノたちを切り裂いていく。だが立て続けに、その倒された肉片からさらに多くのバケモノが生まれ、見るも無残にアーツで築いたバリアを噛み砕いていく。
戦士たちもただひたすらに逃げ惑うしか成す術はなく、捕食者のばっくりと開いた口から漂ってくる血生臭さは彼らのすぐ後ろに張り付いて消えようとしない。
だが彼らがほかの路地へ逃げ入った後、寒々しくも凛とした匂いが漂ってきた。
(時計の針が止まる音)

止まれ。
紅い血の波は、その発せられた声と共にピタリとその浸食を止めた。
まるで見えない壁に弾き返されたように、ウジムシの如き被造物たちは尽く粉々に肉片へと散っていき、地面に赤黒い血の筋を一本一本と残していく。
そうしてガランとした街中は、再び静けさを取り戻した。

負傷者の状況は?

いません!みんな逃げ足が速くて助かりましたね!

しかしあんな厄介なサルカズたちがいたら、アラデルさんとシージさんの援護に回れるかすら怪しくなってきましたよ……

皆さん、本当にありがとうございます。特に自救軍の方々、危険承知で私たちと一緒についてきてくれて。

いいってことよ、アーミヤ!クロヴィシア指揮官からも言われたからな、ロドスは我々の一番重要な盟友だって!

それに、そこにいるロドスのオペレーターが何度も助けてくれたおかげで、俺たちはこうしてあのブラッドブルードの魔の手から何度も逃げることができたじゃねえか。

礼には及ばぬ。

無意味な殺戮は、すでにロンディニウムで幾度となく目にしてきた。理性を失いしサルカズの魔の手を阻むのは、同胞たる我の務めである。

なんかすまねえな、ドクター……

・てっきりただ実家に戻るだけと思っていた。
・何やら歓迎されていないようだな?

……去年、婆ちゃんと喧嘩別れみたいな感じでこの工場から出て行ったんだ。
十数ものガタイのいい労働者たちがあなたたちを囲い込む。
みなどれも、警戒を顕にした目を向けている。
そこであなたは彼らが手に持っているドリルやらレンチやらに目を通した後、彼らの装いと似通っていても、独りでいるフェイストのほうに顔を向けた。

・喧嘩ってほど単純なことでもなさそうに思えるが。
・本当に敵扱いはされていないんだよな?

どうやら婆ちゃんはあれからずっとカンカンみたいでさ……

死んだも同然な人に向ける気概なんぞないさ。なんせあんたが現れるまで、あたしのたった一人の孫はすでに死んだと思い込んでいたからな。

すまねえ婆ちゃん、あれから工場には手紙とかを送るつもりだったんだが……ほら、サルカズってばハイバリー区に届く情報にはすべて目を通してるだろ?

婆ちゃんらが自救軍と関係を持ってることをサルカズたちに知られるわけにはいかなかったんだ、だから送り損ねちまったよ。

ということはあんた、あのふざけた連中に加わったんだね。

……ロンディニウム市内自救軍、な。

オレたちだってサルカズから新聞社やテレビ局を奪還してやったんだぜ?オレたちをそんなサルカズと同じように暴力団扱いしないでくれよ……

つまり、城壁に穴を開けたのもあんたらの仕業だってことか。

えっ、いや……それはドクターが……

・サルカズが自救軍を追っていた際に向こうが開けた穴だ。
・君のお孫さんはずっと立派に戦ってきたよ。

そうだぜ、あれは主にサルカズがやらかしたことだ。

フォロー感謝するぜ、ドクター。

ちょいとロープウェイであんたを運んでやっただけなのに、そこまで評価を乗せてくれたとはな。

じゃあなんだい、工場も吹っ飛ばすために戻って来たって言うのかい?

……いや、んなわけねえだろ!?

なら自救軍の連中にはなんて伝えたんだ?あたしらはサルカズたちのために武器を作り、その武器を自分らの人に向けているんだって言ったのかい?

違う!オレはな――

婆ちゃんはほかの人たちを守るために、そういう立場にいることを選んだって伝えたんだ。

……

なあ婆ちゃん、あんたから見ればオレはただの小賢しいガキんちょなのかもしれねえ。

でもよ、オレは工場にいるみんなを巻き込ませるためでも、あんたを説得しにここへ来たわけでもねえんだ。

そりゃオレにだってオレなりの目的はあるぜ?婆ちゃんが手を貸してくれるのならそれはそれで何よりだ。でもよ、そんなことよりも――

オレはただ、婆ちゃんが心配で戻ってきたんだよ。

……こっち来なさい、顔をよく見せておくれ。

婆ちゃん……

まったく、随分と背が伸びたもんだね。

へへ、ちょっとな。
(無線音)

ぐふふ、とうとう……アレを手に入れられたぞ。

蒸気騎士の鎧――誰もが喉から手が出るほど欲しがっていたモノがいよいよ私の手の元に!

はてさて、ああった骨董品をこよなく愛するリターニアの貴族たちに売るというのはどうかな?

いや、クルビアにある企業にも話をつけておこう。数百年の技術とて、彼らが興味を示さないはずがない。

フッ、運び出すのに苦労すると言えば簡単に鵜呑みしたとは!私がこのロンディニウムでどういう商売をしていると思っているのかね?

だが心配いらない、サルカズに賄賂が通用しなくとも、所詮はロンディニウムすらまともに統治できないイカレた連中だ。

運搬なら都市防衛軍に任せてやればいい、コネなら持っている。

ただ、例の甲冑は保存状態があまり良くないらしい――それで値引きされないかが心配だ。

そんなに値引きされるのが怖いなら、いっそのこと諦めてしまえばいい。

だ、誰だ!?
(シージが近寄ってくる)

たまたまここを通りかかった一般人だ、そう身構えることはない。

ボディガードは何をやっている!はやくこいつを追い払え!

おい待て……私のボディガードはどこに消えたんだ!?

少し路肩で休んでもらっている。こちらで話がついたら会わせてやるさ。

な、ななな……お前一人で、あいつら全員をやっつけたのか!?

独り?いいや、独りじゃないさ

後ろを見てみろ。
(インドラ、ダグザ、モーガンが商人の後ろに立つ)

貴様ら……ここはロンディニウムだぞ!私を傷つけようものなら、私の知り合いたちが容赦なく貴様らを――
(インドラがナイフをかき鳴らす)

へぇ、知り合い?どこにいるんだその知り合いは?ちょいとオレにも紹介してくれよ?

ヒィィ!待て、早まるな!!

テメェが大人しくしてくれりゃあな。安心しろ、オレは見かけたらすぐ手が出るタイプじゃねえんだ。

シージに従え、それだけでいい。分かったか?

さもないと、お前もこの壁みたいになるぞ。このアタシのかぎ爪で。
(ダグザが壁に傷を付ける)

わ、分かった!分かったから落ち着け!

……おいおい、それはちと脅し過ぎなんじゃないのか?

あんたが一番ノリノリじゃないか。

お前らがそう教えたんだろ。

まあいい、とにかくそいつを放してやれ。

ひ、ひぃん……

プティ殿、そう怖がって目を閉じることはない、腕も下ろしてくれ。貴様を傷つけたりはしないさ……少なくとも今は。

な、何が目的だ?

すでに言ったはずなんだが……カンバーランド家の蒸気鎧を諦めてほしい。

あ、諦めたら私を見逃してくれるのか?

ああ。

約束さえ守ってくれればな。

モーガン、地図をプティ殿に見せてやってくれ。

はいよ~。

地図?なっ、ここにマークされてるのは全部私が抱えている倉庫……なぜそれを知っている!?

今後外出する際は、しっかりと周りを警戒しておくんだな。

私を……尾けていたのか!?

プティ殿の言った通り、サルカズたちは買収如きで動いてくれはせん。もし貴様がそういったコネを利用して、ロンディニウムに違法の品々を密輸してるところがバレてしまったらどうなるか……

その時、貴様の言う知人は果たして貴様を助けてくれるのだろうか?その知人もどういう目に遭うかは、分かっているだろう?

……

サルカズにチクるような邪な考えはよしてもらおうか?

もしそんなことをすれば、どの道貴様も道連れだ。だが私たちに協力してくれれば、サルカズには内密にしてやる。

しかし……!いや、もう私に選択肢はないな……

貴様が不利益を被るのはこちらも理解している、だが貴様との取引は大事にしていきたい。協力してくれた際の報酬は必ず支払ってやる、約束だ。

……お待ちを。

マイレディ、君はあのアラデル・カンバーランドとどういう関係なんだね?そこの従者か?いや、カンバーランド家はすでにもぬけの殻、従者を雇える資金力もないはずだ。

おいテメェ、ヴィーナがカンバーランドの従者なわけねーだろうが!逆ならまだしも!

何を言う、彼女は大公爵の娘だぞ!それ以外に何が……はっ!?ま、まさか……

……勘違いだ、私は貴様が思ったような人間ではない。

あえて言うのであれば、彼女の仲間だ。そのほかにも、幾千万ものロンディニウム人が同じ思いを抱きながら、彼女の後についている。

貴様もその者たちと同じであることを切に願うぞ、プティ殿。
第四幕
――
第三場

我らは邪悪との決戦を目の前に控える、この地に忠誠を誓う戦士たちである……

そういう君たちは……ここに住まう子供たちか?

そんな街角の暗い影に隠れていないで、出てきてくれたまえ。まだ武器すらまとも持てないかもしれんが……

手に武器を持てるからこその戦士、というわけではない。君たちもどうか、目を見開き、耳を澄ませて、自分たちで判断して頂きたい。

君たちの是非、そして暮らしへの願いなら、すでに私の心へ届いたさ。

だから私は怯まず前へ進もう。その代わりに君たちには、それを見届けてもらいたい。

ブラボー!素晴らしい!ゴールディング先生、ラルフの演技すごいよかったですね……四年前はまだあんなやんちゃだったのに、こんな立派になられて!

ええ、子供たちの成長には私も感極まってしまいました。ハンカチはいります?

すみません、お借りします。お洋服を汚すわけにはいきませんものね、なにより子供たちの前で泣くわけには……あぁ、でも無理!ラルフたちがもうすぐここを出ていくとこを想像すると、私……

さあ皆さん、少し休憩にしましょうか。ジャスミン、私たちも休んでおきましょう。

そうですね、最後の一幕のためにも……クライマックスが一番面白いところですから。

拍手?

今日はまだ誰も招待していませんよね?本番を想定したリハーサルですから。

……
先生方の視線が教室の後ろへと向けられた。
軍服を着た男がドアから近い角に立ち、ゆっくりと、しかしはっきりと拍手を送っていたのだ。

実に見事な演劇であった。
(レイトン中佐が近寄ってくる)

……レイトン、中佐。

まさか都市防衛軍総司令であるあなたが、こんな狭い教室へお越しになられるとは思いませんでした。

御機嫌よう、淑女諸氏。