
ジョージ、志願者なら全員揃ったぞ。

トムはどうした?

トムならどっか行っちまった。

まあいいさ、志願だしな。

ジョージさん。

おぉフェイスト、どうやらキャサリンがお前に残してくれたものを見つけたみたいだな、それが欲しかったのか?

ああ。

ならいいんだ。

んじゃさっさとここから出ていったほうがいい。じゃないとお前まで巻き込まれちまう。

待ってくれ、なんかあったのか?

あのサルカズたちがキャサリンを連れ出したんだ、その意味が分かるか?

頭(かしら)は色々と知り過ぎたんだ、だから連中は頭みたいな作業員を片っ端から秘密裏に処分しようとしてんだよ。

さっきから妙に違和感を覚えていたもんだから、ダンに工場の上へ登ってもらって確認させたんだ。

なん……だって?

キャサリンは俺たちに隠してるつもりでいるらしいが、バレバレだよ。

まっ、俺たちもバカじゃねえからな。多少なりとも察していたさ。

……そんじゃああんたらはどうするつもりなんだ?

大したことはしねえよ。

……俺たちはさ、ずっとサルカズどもに我慢してきただろ。

んでみんな慣れちまったのさ、このぬるま湯に浸かってるような状態を。

もうちょい我慢すれば、サルカズどもが自分らを見逃してくれるって考える人も出てくるぐらいだ。

それが今じゃ、あいつらはキャサリンを殺そうときた。

みんな死んじまうぞ。

キャサリンが殺されるところをただ見てるだけよりかはマシだろ。

ここに集まってるのはそういう連中だ、みーんな後顧の憂いってもんを持ち合わせちゃいねえ。

オレは……

待った。

フェイスト、お前はもう自救軍の者だろ。

お前らがやってきたことなら俺たちの耳にも届いてる。それに喜んでるヤツらも、実は少なくないんだぜ?

お前にはもっと重要な役割があるはずだ。

キャサリンの犠牲も無駄にするなよ。

……違う。

なあドクター、オレたちは婆ちゃんから情報を手に入れたけどさ。

この軍需工場の責任者として、婆ちゃんはサルカズの生産ラインを一番理解してる人だろ。

だったら戦略上においても重要な人物のはずだ、違うか?

・間違いない。
・否定はしない。

……なら、ここでロドスに救援を要請したい。

・アスカロン、いるか?
・確か私の監視……じゃなくて、付き添ってくれてるはずだ。

ここにいる。

・この区域にいる敵軍の配置なら把握してるはずだろ。
・この区域にいる敵軍の位置を教えてくれ。

奴らは防御を固めているが、外周は色々と隙だらけではある。

いま外周を守っているのは、ほとんどが統制の取れていない傭兵のゴロツキだけだ。

・少し時間が必要だ。
・傭兵の注意を逸らし、斥候を排除してほしい。

……

問題ない。

感謝するぜ、ドクター、それにアスカロンさんも。
フェイストは深く一息ついた。
彼は自分の作業員証を胸元につけ、作業員たちの中へと混ざり込む。

バカな真似はよせ、フェイスト。

今のオレは自救軍の者としてここにいるわけじゃないぜ、みんな。

この工場で育ち、ここの責任者であるキャサリンの孫としてここにいるんだ。

オレも、ここの一員だぜ。

オレもあんたらと同じように、婆ちゃんを死なせたくはねえ。

婆ちゃんを死なせたりはしねえよ、無論あんたらもな。

サルカズに情報が行き届く心配なら必要ない、こちらにいるドクターの部下が妨害してくれる。

婆ちゃんやほかの工場責任者を救出してやれば、オレたちもハイバリー区から脱出するだけの時間は十分に確保できるはずだ。

その際は自救軍のところに連れてってやるよ。

心配するな、全員助かるさ。

……助けられて当然だ。
作業員たちは困惑しながらも互いに顔を見合わせている。
だが彼らはそんな互いの目に、メラメラとゆっくり燃え上がってくる希望の火を見つけ出した。
そして自発的に歩み出し、フェイストの後ろへついた。
彼らはフェイストを信じようとしたのだ。
(ロンディニウムの労働者が駆け寄ってくる)

お、俺も連れてってくれ、フェイスト!

トム……あんたも来てくれたのか。

だがやめておけ。

なんでだよ?

あんたの親父、身体の容態が悪いんだろ?だから迷ってたんだ、違うか?

でも――

それに、あんたには一つ頼みたいことがあるんだ。

何が起きようが30分後に、こういうことをしでかしたのはオレたち作業員の勝手だって、サルカズたちに報告してやれ。

でもそんなことしたら……

これも大事なことだ、ここに残った人たちまで巻き込むわけにはいかねえ。

……分かった。

そんじゃみんな、出発するぞ。

オレたちの頭を救い出そうぜ。

おおおおおう!
キャサリンは静かにタバコを吹いていた。
今はただ、サルカズたちが見知った顔を一人ずつ一時的に建てられた処刑台に引きずっていくところを見てやるだけ。
その面には怒りや諦め、あるいは憎悪といった感情が見て取れる。
だがそれも最後に、すべて静まりへと化していった。
もうすぐ自分の番だ、キャサリンはそれを分かっていた。
それにしては、とても落ち着きを取れている。
フェイストの言っていたことは正しかったのだ。
妥協や従属しても何も解決はできない。
だからこそ、彼女は己が打ち出した選択のツケを払わなければならないのだ。
だがその前に、彼女は少なくとも孫と再会でき、彼のためにモノを残してやれた。
それだけでもう十分だ。
(サルカズ傭兵の隊長がキャサリンに近寄ってくる)

次はお前だ、ババア。

連れて行け。

自分で歩けるよ。

おい、パプリカ。

まだグリムんとこで人を殺してもらっていなかったはずだな。

……そうだけど。

ならこりゃいい機会だ。

お前もそろそろ人の殺し方ってのを教わるべきだぜ。

……

サルカズってのはいつもそうやって子供を扱っているのかい?

お前らの会話は聞いたぜ。お前の言う通り、こいつはまだ戦争がなんなのかを分かっちゃいねえ。

できることならそんなもの、俺だって知りたくなかったさ。どのサルカズもな。

だがお前らは俺たちにそんな選択を与えてはくれなかった、お前ら全員がだ。だから今、そのツケとしてこいつにも知ってもらわなきゃならねえんだよ。

……

いいねその目つき、気に入ったぜ。

毎回死んでも死にきれねえ戦友を見た時も、みんなそういう目つきをしていたもんだよ。

俺ァ今までたくさんの人を殺してきた。

でもよ、こんな抗う力もない連中を一人一人処刑していく感じは、なんだか変に思えちまうぜ。

……やりたくなきゃ来た場所に戻りゃいい。

こいつらはな、過去にお前の同胞をぶっ殺した武器を作ってきたことがあるかもしれねえんだぞ。

俺たちはいま戦争の真っ最中だ、んな道徳心は平和のために取っておきな。俺たちにそんなものを真っ当に話し合える機会なんざねえんだよ。

お前に言われるまでもねえ、でも俺はただ……

ん、なんだ?ドローンが飛んでるぞ?
(ドローンがサルカズの戦士達を攻撃する)

今だ!
(労働者達がサルカズの戦士達を殴り飛ばす)

すでにドローンで外周は偵察済みだ、ここで間違いない!

突入するぞ!

なあ……本当にほかの人に任せちゃダメなんすか?

ダメだ。

グリムから教わってるはずだと思うが、隊長命令は傭兵らにとって絶対だ。

ここでこのババアを殺すか、それとも武器を下ろすかのどっちかを選べ。だがその際は俺がお前にケジメをつけさせてやる。

ウチは……

やれ。

……

でも……

やれつってんだッ!

ウチ……ウチにはできねえよ!

……やはりグリムはお前を甘やかし過ぎたな。

俺たちはな、ヴィクトリア人どもに俺たちの故郷を返すように説得しに来たわけじゃねえんだ。ここでこいつを殺らなきゃな、今後痛い目に――
(ドローンがサルカズ傭兵の隊長を攻撃する)

なっ――ドローン?

隊長、大勢の作業員がこっちに突っ込んできてるぞ!

なにぃ?

フェイスト、こっちにはドクターの指揮がある、俺たちがほかの傭兵を抑え付けとくから、お前はキャサリンのとこに行け!

分かった!

……テメェら、イカレてやがんのか!
(フェイストサルカズ傭兵の隊長が戦闘を始める)

イカレてなんかいねえさ。

ここにいたベテランたちの経験がどれだけ貴重なものだったのか、あんたらは分からねえのか?

とてつもねえ価値があったんだぞ。

フェイスト!それにあんたらまで――

フンッ……

せめて何も知らねえフリさえしとけば、テメェらも少しは長生きできただろうに。

生憎小さい頃から、オレは黙る時に黙れないタチだって婆ちゃんから叱られてきたもんなんでな。

そんなんで俺に勝てるとでも?

オレには無理だな、でも婆ちゃんだったらいけるさ。

なッ――

ぐはッ……!
(キャサリンがサルカズ傭兵の隊長を殴り、サルカズ傭兵の隊長が倒れる)

……チッ、なんて野郎だ、とんでもなく頑丈だね……

助かったよ、ジョージ。少なくともこれで清々した。

礼ならフェイストに言ってやんな。

んで……そっちのサルカズたちはやってこねえのか?

……

……お嬢ちゃん。

あんたらの隊長の言ってることは間違っちゃいないよ。こんな時に善悪なんざ語れないし、語るべきでもない。

だが今も自分がなんのために戦ってるのか分かっていないのなら……

……ないっす。

い、行かせないっす……

……

しゃあねえな。

いくぞ!

どういうことだ、ほかの連中はどこにいったんだ……

これ以上連絡を寄越してこなかったら、こっちから上に報告するしか――
(サルカズの戦士が斬られる)

がはッ……
(サルカズの戦士が倒れる)
突如、そのサルカズの戦士は自分の身体が軽くなるのを感じた。
制御が効かぬまま身体が前へと倒れ込む際、彼はおぼろげになりながらも視界に黒い人影を捉えた。
それは一人のサルカズであった。

な……ぜ……サルカズが……

これで最後だな。
独り言ではあったものの、アスカロンは確信を得たように武器を収めた。
彼女のいる位置からは、怒る作業員たちがサルカズたちを追い払ってる場面をはっきりと目で捉えることができる。
積年の恨みを前に、暴力とて無勢であれば、枯れ木のようにいとも容易く打ち砕かれていく。
力の関係が挿げ替えられる中、彼女はふととある往事を思い出した。
そこでさっと視線をとある方向へ向ける。
その方向にはロンディニウムのセントラルが位置していた。

……全員縛り上げろ。

こっちの負傷者の状況は?

……そう多くない。この子についてる傭兵たちも咄嗟に手が出せなくて、みんなまごついていたさ。

こいつらは戦うことすら決心できていなかったんだよ。

ウチらは――!

ウチらは……ウチらはただ……

……少なくともあんたらは抵抗を試みたが、小賢しいロンディニウム人の奇襲に遭って身動きが取れなかったんだろうね。

・アスカロンが外周の面倒を片付けてくれたおかげだな。
・だが時間はそう多く残されていない。

……本当なら、あたしらみたいなジジババ連中が死ぬだけで済んだはずなのに。

それが今じゃどうだい、みんなサルカズに追われる身だよ。

これはあんたのアイデアなのかい、賢ぶってるフェイスト?長年ずっと耐え忍んできたっていうのに、よくもそれを全部台無しにしてくれたね?

それは違うぜ。

もし今日、婆ちゃんたちが犠牲になるっていうのに目を瞑っていたら、明日にはまた別の犠牲者を生み出すことになる。

……みんな仲間の生死なんざどうでもよくなるまで、ずっとだ。

……

それに……婆ちゃん一人で、ずっと全員の決断を決めつけるわけにもいかねえだろ。

そうだね、でもそれはあんただって同じだよ、フェイスト。

いいや、今回はみんな婆ちゃんを救いたい一心で集まってくれたんだ。

サルカズがこの都市を奪って何年にもなるし……オレたちも苦しい生活を強いられてきたが、譲れねえところだってある。もし今日オレたちがここに現れなかったら、オレたちは――

みーんなサルカズにぶっ殺されちまってただろうよ。

ジョージ……あんたまでこいつのおふざけに付き合うつもりかい。

……いや、全員がここにいるわけじゃなさそうだね。賢い選択だ、全員が全員あたしが生きて帰ってくる事を望んでるわけじゃないってことだ。

……

……現実の残酷さはあんたの想像を遥かに超えているんだよ、フェイスト。そう簡単に他人の道徳観を決めつけるんじゃないよ。

だが、事が起こってしまったからには仕方がないね……はぁ。
キャサリンはしばらく沈黙し、そしてパプリカのほうへ向き直った。
だが結局、彼女は何も言えずにいた。

行こう。